
1980年代を牽引するバラエティー番組を始め、多くのテレビ番組や舞台の企画・制作・演出を手掛けてきた髙平哲郎が、2023年からプロデュースしている「笑いの実践集団」。その第5回公演は、2022年に上演した不条理朗読劇会の第2弾を上演する。本作に出演する日向野祥・谷佳樹・鷲尾修斗の3人に、公演への意気込みや共演での楽しみを聞いた。
―――まずは、本作のお話を聞いたときのお気持ちを聞かせてください。
谷「4月に上演した『赤塚不二夫スクラップブック』に出演させていただき、初めて不条理な世界観に出会い、これは癖になるなと感じました。お客さんは2.5次元舞台をたくさん観ている方が多かったと思うので、これがどう受け入れられるのかという怖さもありましたが、楽しんでいただけたのではないかと思います。今回も不条理をメインとしたお話ですが、それを朗読というスタイルで上演するとどうなるのか。興味と楽しみでいっぱいです。気の知れたキャストたちが集まるということも嬉しいです」
鷲尾「お話をいただいて、まさか自分が海賊になるとは思ってもいなかったので……」
谷「え? 何の話をしているの?(笑) 驚いたわ」
鷲尾「あれ? これは舞台『パイレーツ・オブ・カリビアン』ではないんですか?」
日向野「違います(笑)」
鷲尾「あはは(笑)。今回、共演経験のあるキャストさんがたくさんいるので、一緒にまたおもしろい作品ができればと思っております。谷やんとは舞台での共演は久しぶりなので、楽しく過ごせるのではないかとワクワクしています」

日向野「僕も谷くんと同じで、『赤塚不二夫スクラップブック』で髙平先生とご一緒させていただいて。最初に台本を読んだ時は不条理ってなんだろうと、とにかく難しい作品だと感じました。ですが、稽古をしていく中で、おもちゃ箱をひっくり返したような色々な要素が詰め込まれた作品だと感じ、谷くんが言うように癖になると思いました。
今回は不条理な世界があった上での朗読劇なので、きっと前回とは全く違った表現になると思います。純粋に楽しみですし、同時に言葉だけで表現する難しさも感じています」
―――谷さんと日向野さんは『赤塚不二夫スクラップブック』で不条理劇に挑戦しましたが、不条理劇のおもしろさをどのようなところに感じましたか?
日向野「理不尽で、自分勝手だなというのが最初に感じたことです。急に暴れ出したり、怒ったり……不条理な展開が多いですが、稽古の中で、読めば読むほど、やればやるほど深くなるという経験をさせていただきました」
谷「普段、台本を読む時は、その本を理解しようと思いながら読みますが、不条理劇ではそれをすることは間違っているのだと思います。台本が不条理で理不尽なのだから、分からないまま読んだ方が自然と不条理になるのかなと感じました。本当に説明できない物語なんです」
―――鷲尾さんは不条理劇に挑むにあたって、今、どのように感じていますか?
鷲尾「今、谷やんが分からなくていいと言ってくれたので、初日まで台本を読まないでおこうかなと思います(笑)。不条理という言葉は日常生活ではあまり聞かない言葉ですが、生きていれば不条理なことはたくさんあるので、普通のことなのかもしれないと感じました。各々が思う不条理を感じていただければいいのかなと思います」
―――鷲尾さんは髙平さんとは初めてということですが、髙平さんとのクリエイトで楽しみにされていることは?
鷲尾「新しい出会いなので、純粋に楽しみです。演出の意図を汲み取り、おもしろい作品を作れるよう頑張ります。それから“先輩方(日向野・谷たち)”がいますので、先輩方の背中を追っていきたいと思います」
―――日向野さん・谷さんは、前作で髙平さんの演出を受けていかがでしたか?
谷「スパルタでした(笑)。僕は前回、“1000本ノック”を経験しましたが、そのおかげで言葉が馴染み、アプローチを変えることができたのでありがたかったです。今回は、朗読劇ですし、センターステージだと聞いているので、どうなるのかなと。2人は朗読劇の場合、どれくらい読み込んでいく?」
日向野「僕はそこまで読まないです。読みすぎると覚えてしまい、相手の目を見て話し始めてしまって、立ち稽古になってしまうので(笑)」
鷲尾「僕も読まない。朗読劇に関わらず、普通の舞台でもがっつり読んでいくタイプではないけれど、それはその場の空気を生かした方が良いと思ってあえて読まないようにしています」
谷「そうだよね。髙平さんがどういう演出されるのかまだ分からないので、その時々の演出を汲み取りながら僕たちが持っているものを提示していくしかないと思っています」

日向野「髙平さんは、昭和のコメディやバラエティで時代を作ったと言っても過言ではない方なので、前回出演した時は“どんな演出をされる方なんだろう”と身構えていたのですが、思っていた以上に僕たちの自由に演じさせてくださいました。もちろん、こだわるところは本当にこだわっていらっしゃいますが」
谷「今、思い出しましたが、『ここは遊んで』と言われたので、目一杯遊んだら、『そんなに遊ばないで。本からズレてしまうから』と言われたことがあって、理不尽だなと思いました(笑)。稽古場から不条理(笑)」
―――世界観に没頭でき、舞台上の細やかな動きや演出のリアリズムをダイレクトに伝えるため、小劇場で上演するということも本作の特徴の1つだと思いますが、それについてはどのように感じていますか?
鷲尾「中野 テアトルBONBONは喫煙所が1ヶ所しかないんですよ。裏の稽古場のところまで行かないといけないから、そこがちょっと気になるところですね(笑)」
日向野「劇場のキャパは僕たち演者にとってはあまり関係ないですね」
谷「そうだね。我々にはあまり大きさにこだわりというのはないんです。なので、キャパによって何かが変わるというのはありません」
鷲尾「100人だろうが1,000人だろうがやることは変わらない。ただ、観ているお客さんにとっては近い距離で観ることで臨場感や声の圧を感じていただけると思います」
日向野「近いからこそ、目の動きやちょっとした仕草まで伝わります。ただ、今回は朗読劇。髙平さんがどのように作り上げるのか楽しみです」
―――今回はステージセンターステージだそうですね。
日向野「小劇場でセンターステージはおもしろいですよね」
鷲尾「余計に観客との距離が近いと思います」
谷「ちょっと緊張するね」
鷲尾「一番怖いのは、台本の漢字にふりがなを振り過ぎていたら、それをお客さんに見られてしまうこと」
谷「それは怖い(笑)」
―――すでによく知っている間柄かとは思いますが、お互いの印象や今回の共演での楽しみを教えてください。
鷲尾「印象かぁ……。祥くんとは昨日まで稽古が一緒だったんですよ(笑)。意外にも舞台ではこれが初共演で」
日向野「昔から知っているので、初共演というのは不思議ですよね」
谷「どれくらい前から知っているの?」
日向野「10年くらいかな」
谷「そんなに昔から? それで初共演なんて不思議だね」
鷲尾「初めて稽古を一緒にしてみて、イメージ通りだなと思いました。声が低い」
谷「痩せたよね?」
日向野「痩せました」
谷「少し前に、久しぶりに稽古で会った時は大き過て本当にびっくりしたんですよ」
日向野「あの時は役作りで体を大きくしていた時期だったので」
鷲尾「でも元から大きい。それから天然。今はツッコミの役を演じているけれど、ツッコミなのにボケになる。カチッとしているイメージがあるから、より天然な気がする」
谷「確かに」
日向野「でも、谷くんに同じ匂いを感じているよ? 天然ですよね?」

鷲尾「そう、天然だよ。でも、認めないの」
谷「最近、受け入れてきたよ(笑)。自分というものがどういう人間なのか、やっと分かるようになってきた」
鷲尾「よかった(笑)」
―――では、鷲尾さんの印象は?
日向野「出会った時の印象は、めちゃくちゃ明るい人。でも、知れば知るほど新しい面が見えてくるなと。この間、ある番組で話した時、人見知りなんだということを初めて知って」
鷲尾「そうそう。元々は凄い人見知りです」
日向野「全くそんなイメージがなかったから驚きました」
谷「でも人見知りの人が、いきなり最初に『パイレーツ・オブ・カリビアン』の話はしないよね?」
日向野・鷲尾「あははは」
鷲尾「でも、もう人見知りではないよ。さすがに30代になってまで『人見知りです』とは言えないよ」
谷「確かに(笑)。僕が修斗と出会ったのもかなり前だよね?」
鷲尾「10年以上前?」
谷「覚えてない(笑)。なので、最初の印象は覚えていないけれど、徐々に鷲尾修斗という人間はこういう人間なんだと分かってきました。今は、修斗がいるとその場をまとめてくれるから凄く安心です」
―――改めて公演に向けての意気込みと読者にメッセージをお願いします。
谷「普段、あまり触れる機会がない作風だと思います。不条理劇は、観終わった後に『スカッとする』とか『良かったね』と感じる芝居ではなく『え? なんだったの、結局』と思って帰っていただけるのが正解なのかなと思うので、そうした魅力をお伝えできるように頑張ります」
鷲尾「ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。ステージを客席が囲んでいるという特殊な空間での上演ですが、僕たちは変わらずに全力でお届けします。きっと1公演も同じ公演はないと思いますので、ぜひ、観比べて楽しんでいただけたらと思います。劇場でお待ちしております」
日向野「不条理な世界を朗読でどうやって届けるのだろうと、きっと皆さんも不思議に思っていると思います。何より今回、センターステージというあまりない形での上演なので、僕たちもまだまだ疑問がたくさんあります。髙平先生の演出を受け、僕たち読み手の感情の変化をしっかりと作り上げていきたいと思います。劇場で観るからこそ伝わることがたくさんあると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただければなと思います」
(取材・文:嶋田真己 撮影:間野真由美)

プロフィール

日向野 祥(ひがの・しょう)
1991年1月19日生まれ、神奈川県出身。舞台を中心に、映画・ドラマなど幅広く活躍。主な出演に、『刃牙 THE GRAPPLER STAGE ―地下闘技場編―』、舞台『歌舞伎町シャーロック』、2.5 次元ダンスライブ『SQ(スケア)』ステージシリーズなど。

谷 佳樹(たに・よしき)
1987年6月8日生まれ、大阪府出身。2016年から2018年にかけて、2.5次元ダンスライブ『ツキウタ。』ステージで長月夜役を好演し、注目を集めた。主な出演に、舞台『信長の野望・大志』シリーズ 明智光秀役、『文豪とアルケミスト』シリーズ 志賀直哉役など。

鷲尾修斗(わしお・しゅうと)
1987年12月27日生まれ、東京都出身。2013年、ミュージカル『忍たま乱太郎』中在家長次役の好演で注目を集める。原作物からオリジナル作品まで、ジャンルの枠を超え幅広い役どころを演じている。主な出演に、2.5 次元ダンスライブ『ツキウタ。』ステージ、舞台『47男子』、音楽劇『Zip&Candy』など。
公演情報
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笑いの実践集団vol.5 不条理朗読会Ⅱ
『THE ABSURD ―不条理な人々―』
日:2025年8月5日(火)~11日(月・祝)
場:中野 テアトルBONBON
料:プレミアム席[特典付]12,000円
舞台上SS席[特典付]9,900円
SS席[特典付]9,900円
S席6,600円
A席4,400円(全席指定・税込)
HP:https://tsuku2.jp/islands
問:株式会社アイランズ
mail:islandsco2014@gmail.com