数々の人気公演を手掛ける演出家・野坂実が、世界で最も有名な名探偵の物語を音楽朗読劇として舞台化。シャーロック・ホームズ役の山寺宏一、相棒 ジョン・H・ワトスン役の水島裕というレジェンド声優とともに、音楽と効果音を生演奏で彩った本作は多くのファンに支持され、今年5回目を迎える。細谷佳正・松岡禎丞(Wキャスト)、高木渉、大塚明夫といった豪華ゲストを迎えた今回は、どのような魅力を放つのか。山寺と水島に意気込みを聞いた。
―――2021年よりスタートした画期的な試みが5回目を迎えます。初演から出演されるおふたりが感じることとは?
山寺「『シャーロック・ホームズ』という推理小説の原点ともいえる名作に手をつけるのは非常に勇気がいることだと思いながら、なんとか5回目まで来られたことを嬉しく思います。回が進むごとに演奏楽器を増やしたり、効果音を生でやったりと演出家の野坂さんがとてもチャレンジャーな方ですし、毎回豪華なキャストの方にも加わっていただけるので、我々2人もよりよい作品をお届けできるように頑張っております」
水島「台詞と共に生演奏&生効果音を味わえる空間はとても気持ちがいいものです。何か波動というか、周波数が合うと言いましょうか。お客様と一緒に創り上げる空間はとても素敵な時間なのです。
そして、生効果音1つとっても、馬車の音をスタッフが手作りで装置を創り出すなど、シャーロックは毎回進化を続けています。ノサカラボのシャーロックは、いつも3話のオムニバスで、山ちゃんと僕は1人の役ですが、大塚明夫さんはじめ、ゲストの方は1人で3役を演じるんです。ある公演では、忙しすぎて1回しかリハーサルに来られない人もいました。それでも本番になった時のセリフの交わし合いは、なかなか見どころ? 聞きどころがあったと思います。毎回、なるほど! こうくるか!と素晴らしい刺激を受けています。今回のゲストは男性3名ですが、女性ゲストがいらした時は、それは見事なドレス姿を3話分着替えてくださって、とても贅沢な作品だと感じました」
―――レジェンド声優としておふたりの関係性も含め、これまで経験してきたことが本作に生かされるものはありますか?
山寺「僕と裕さん、そして本作と同じ演出家の野坂さんの3人でイギリスのコメディを演じる『ラフィングライブ』というユニットをずっと組んでいて、シャーロックとワトスンとの関係性とは勿論異なりますが、そこで培われたバディ感みたいなものが、おのずと本作にも出ているのかなと感じています。そういう意味で相棒を裕さんに演じてもらうことはとても安心感があります。
声優として大先輩ですし、アイドル声優の走り。どうぞ皆さん、一度昔の裕さんの写真をチェックしてみてください(笑)」
水島「やめなさいって!(笑) 僕も全く同感ですね。ラフィンライブでは1か月間ほぼ毎日一緒に稽古していましたし、山ちゃんとは何でも言い合える感覚があります。なので、ワトスンがこうでなきゃとは思っていなくて、山ちゃんが表現するホームズについていくワトスンという感覚です。
僕がすごいなと感じたことの1つは、山ちゃんのホームズの行動に対する解析力です。ある場面でホームズが語る『南へ何歩、東へ何歩』という台詞に対して、稽古の時に山ちゃんが『これは絶対あり得ない! この通り進むと数字的に合わない』と言い出したんですよ。確かにそうなんです! そこまで解析をする。僕だったら台本を読んで『ああそうなのね』で終わりますが(笑)、山ちゃんはそこまで探っていくんですよ、凄くないですか!?」
山寺「普通しますよね!?」
水島「しないよ。普通、疑問を持たないでしょう。だって原作者がそう書いてあるんだから(笑)」
山寺「映像ならばその場面を見せられるけど、声だけで全てを伝えないといけないじゃないですか。観ている方の頭の中にどれだけそのシーンを想像してもらえるかが勝負になるので、お客さんにもあれ? 矛盾してる?と思われるかなと思って。僕、心配性なんですよ(笑)。
効果音や音楽もありますが、状況説明は台詞が全てになってきますし、物語の謎解きを楽しみにしている方も多いと思うので、情報が間違っていたり、分かりにくかったりすると、その楽しみが半減してしまう。だからその部分はこだわりたいです」
―――水島さんが考えるワトスン博士像とは?
水島「ワトスンは医者でもありますが、ホームズが天才なので、より普通の人の目線を大切にしたいと思っています。リードする山ちゃんに対して僕がついていくという構図ではラフィングライブと同じかもしれませんね。だからあの公演をやっていなければ本作もなかったんじゃないかな。長年の2人のキャッチボールがあってこその舞台だと思っています」
―――吹き替え作品と違い、舞台に立つ朗読劇ならではの要素はありますか?
山寺「動きが伴う舞台作品は大変ですが、朗読劇は基本ずっと舞台上にいるので、別の意味での緊張感はありますね」
水島「それはあるよね。セリフが終わって椅子に座った後でも、お客様の『大塚さんの水の飲み方がカッコよかった』というSNSへの書き込みがあったりして、全部見られているんだなと思うよ」
山寺「そうなんです。そういう意味ではスポットが当たっていない時もその役を生きていると言えるので、その分の集中力が求められる舞台だと思います」
水島「もちろんこの作品は“朗読劇”というカテゴリでくくられますが、実はちょっとニュアンスが違っていると思っていて、その理由の1つが生演奏と生効果音です。まるでその場で事件が進行しているような迫力と空気感は、僕は他では観たことがないですし、自信を持ってお勧めできます。
僕らの登場に先駆けて、演奏メンバーがオープニングテーマを奏でた瞬間に、『シャーロック・ホームズ』が始まるんだというスイッチが入るんです。あのワクワク感をお客様も一緒に味わって欲しいですね。」
山寺「裕さんが“空気感”とおっしゃってくれましたけど、シャーロック・ホームズが130年に渡って愛される理由の1つに、その時代の雰囲気が読み取れるからだと思います。霧に煙る濡れた石畳とガス燈や馬車の蹄や教会の鐘の音など、その時代背景が文章からも漂ってくるじゃないですか。朗読劇では、その空気を音楽が生み出してくれるんです。もちろん、楽曲の良さはありますが、生演奏であることも非常に大きな要素だと思っています」
―――最後に、読者へメッセージをお願いします。
水島「3役を演じるゲスト陣を含めた5人の役者が、見えない意地を張りながら丁々発止と言葉を交わし、それを生演奏と生効果音が彩る。心から楽しめる作品です。是非、僕たちと同じ空間でシャーロックの世界を楽しんでください」
山寺「5回目の公演でより魅力的なホームズを演じる為に、今回公演前に初めてロンドンを訪れる予定です。ホームズ所縁の地を訪ねて、現地の空気をまとい、より進化したホームズをお見せできる思います。どうぞご期待ください」
(取材・文:小笠原大介 撮影:立川賢一)
山寺宏一さん
「むかしとは名前が変わってしまっているものもありますよね。今選ぶとしたら、酢漬けイカ・さくら大根・なつかしカレー味。昔から好きでつまみにもなるから」
水島 裕さん
「梅ジャムせんべい・あんずアイス・ココアシガレット。駄菓子屋というよりお祭りで買っていました。あの頃に戻れるような味が好きなんです。ココアシガレットが好きなのは、たばこを吸う大人へのあこがれがあったからですね」
※インタビュー実施時期の関係で、2025年7月号のお題に答えていただきました。
プロフィール
山寺宏一(やまでら・こういち)
6月17日生まれ、宮城県出身。1985年、OVA『メガゾーン23』中川真二役で声優デビュー。多彩な役を演じ分ける表現力から、「七色の声を持つ男」の異名を持つ。主な出演作に、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』加持リョウジ役、『攻殻機動隊』シリーズ トグサ役など。映画吹替では、ジム・キャリー、ウィル・スミス、エディー・マーフィーなどの声を担当。バラエティー番組・ドラマ・映画にも出演するなど、幅広い分野で活躍中。
水島 裕(みずしま・ゆう)
1月18日生まれ、東京都出身。1967年、ディズニー映画『くまのプーさん』クリストファー・ロビン役で声優デビュー。1968年、ミュージカル『王様と私』で初舞台。主な出演作に、『魔法の天使クリィミーマミ』大伴俊夫役、『六神合体ゴッドマーズ』明神タケル/マーズ役など。映画吹替では、『スター・ウォーズ』マーク・ハミル、『プロジェクトA』『スパルタンX』サモ・ハン・キンポーを担当。テレビ・舞台にも出演するなど、幅広い分野で活躍中。
公演情報
『TASTE OF SOUND WAVE “Readings with Live music; Sherlock Holmes #5”』
日:2025年7月18日(金)~20日(日)
場:大手町三井ホール
料:9,000円(全席指定・税込)
HP:https://nosakalabo.jp/sherlock-05/
問:サンライズインフォメーション
tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)