
関西から始動したプロジェクトチーム「The Smoke Shelter」のプロデュース公演で2023年に上演した『BELOVED』が大幅にリブートして兵庫と東京で再演する。平成の神戸を舞台に、2人の少年の出会いから青年期までを描いた青春群像劇。キャストも一新され、2.5次元作品を中心に活躍する若手俳優が揃った。本作でW主演を務める織部典成(鵜飼宗太役)と植田慎一郎(古川健二役)、さらに「The Smoke Shelter」の代表で作・演出の李晏珠に意気込みを聞いた。
―――まず、約2年ぶりに『BELOVED』を上演することになった経緯を教えてください。
李「これまでは非現実的な設定の作品が多くて、『BELOVED』が唯一リアルな人間関係を中心に描いた作品でした。振り返ってみると、1番しっくりしたというのが率直な思いで、またやってみたいなと思っていたところに、伊丹のAI・HALLが今年度で閉館するということで、ちょうどいいタイミングかなと思って、上演を決めました」
―――再演ではなく、「リブート」という形での上演となります。
李「単純に劇場の規模が違うというのもありますし、同じ台本で再演する発想が自分の中にあまりなくて、前の形式を守る必要はないと思って変えてみたものの、気づいたらもう再演でなくなってしまったので、リブートという形になりました」
―――あらすじからビジュアルまで、かなり世界観が変わったように感じました。
李「初演の時は、正直人間関係がうまくいかなかった時期で、ビジュアルコンセプトも当時の心理状態が反映された形になっていました。『BELOVED』は自分の思春期を投影して作られた作品ですけど、今の年齢で見返した時に、初演と同じ形で人前に出すのはちょっと違うなと直感的に思って、今回はよりキャラクターの日常をリアルに書こうと考えました。初演の時の概念的な部分や抽象的な要素がどんどん消えていくうちに、高校生の日常に目が向くようになって、最終的に爽やかなビジュアルになりました」

―――W主演を務める織部さんと植田さんですが、まずご出演が決まったときの感想を教えて下さい。
織部「もちろんお話をいただいた時は嬉しい気持ちでしたが、実感というのが正直まだありませんでした。ただ、こうやって、ビジュアル撮影や今回の取材で少しずつ実感が出始めて。これから稽古、場当たり、ゲネプロを経て、本番初日で100%の実感になるんだなと思います。有り難いことに今年に入って3作で主演させていただくんですけど、一番最初に発表されたのが『BELOVED』で、ファンの方も喜んでくれましたし、一番反応があったのがこの作品でした」
植田「僕は兵庫県出身で、兵庫で公演が行われるのも、登場人物のほぼ全員が関西人という作品も人生で初めてで、自分が生まれ育った場所でお芝居が出来ることも嬉しかったですし、台本を見て関西ならではの空気感やセリフがちゃんとあって、本当に役者を続けて良かったです」
―――植田さんは尼崎市出身ということで、兵庫公演の会場の伊丹とはお隣同士ですよね。
植田「はい。学生時代の友だちや先生にも来て欲しいです」
―――織部さんと植田さんは本作が初共演ということで、ビジュアル撮影が初対面だったそうですが、その時の印象はいかがでしたか。
織部「すごい気さくな方という印象でした。ビジュアル撮影の時、植田さんは金髪だったので、『あっ、ヤンキーだ』と思っていましたが、実際はスタッフさんや僕に対して気さくに話しかけてくれて。しかもすごく話しやすくて、素敵な方だなという印象でした」
植田「僕の第一印象は、男性でこんな透明感のある雰囲気を持っている人がいるんだなと。こういうタイプの人はなかなか出会ったことないですし、作って出せるもんじゃないだろうなというのが感想でした」
―――植田さんは、織部さんを含めて出演者全員が初共演になるんですよね。
植田「全員が初共演というのは、いつぶりだろうというぐらいですね。人見知りなんで、どうしようかな」
織部「嘘でしょ‼」
一同「(笑)」
―――織部さんは「劇団番町ボーイズ☆」時代の先輩でもある田中理来さんと共演されます。
織部「約7年ぶりの共演で、キャスト一覧を見た時すごく嬉しかったです。昔はサウナやご飯に連れて行ってもらったりしていた先輩で、時を超えて共演できるのは勝手にエモさを感じて楽しみですね。『あの時の織部じゃないんだぞ』というところをアピールしたいです」

―――ビジュアル撮影では高校生の制服を着られましたが、どのような感想を持たれましたか。
織部「制服を着ると聞いた時は、年齢的に正直ちょっときついなと思って。スタッフさんが『まだいけるよ!』と言ってはくれたんですけど、大丈夫かなと思いながら撮影していました」
植田「でも僕らが出演する舞台では、年上の人たちが高校生の役を演じることがまだまだ多いので、僕らもまだまだいけると思います。それと高校当時のことを思い出して、中にTシャツを着たり、冬はニット着たりとか、自分なりの着方があったなという懐かしさを感じました」
―――ちなみに李さんは、お2人の制服姿をご覧になっていかがでしたか。
李「舞台設定が1998年の話で、その当時高校生だったヘアメイクさんが植田さんの制服姿を見て『こんなのいたわ!』と言っていたのが印象的でした」
―――ネタバレにならない程度で、本作の見どころを教えたいただけますか。
李「『BELOVED』は、自分の心情が反映されているのもあって、あまり綺麗な話ではありません。主人公の2人は、自分のダメな部分や痛い部分が出ているキャラクターですが、彼らの思春期のなんとも言えない感情は感じ取ってもらえると思います。初演をご覧になられた方は、全然違う話になっているということで戸惑うかもしれませんが、根底にあるものは変わっていないと思うので、初演に引き続きぜひ観に来ていただけたら嬉しいです」
―――織部さんと植田さんは、取材(4月)の時点で、プロットや台本の一部を戴いたそうですが、どのような感想を持ちましたか。
織部「登場人物たちの会話がすごいリアルで、静かな中にも強い感情があるという印象を受けました。これから残りの台本をいただくんですけど、このキャラクターがまだ見せていない部分があると思うし、今後どう繰り広げられていくのかワクワクしています」
植田「1998年の話ということで、当時と現代と比べて行動の手段や感情表現の仕方が少し違うのかなと思いましたし、きっと心情面では当時も今もさほど変わらないんだというのをプロットや台本を見てそのような印象を受けました。今の学生さんがこの舞台を観た時にどう受け取るのか、どんな風に映るんだろうなというのが楽しみです」

―――本作では山涼高校で織部さん演じる「優等生」タイプの鵜飼宗太が、植田さん演じる「不良」タイプの古川健二と出会うところから物語が展開しますが、みなさんは実際どのような高校生活を過ごされていましたか。
織部「優等生まではいかないですけど、程よくヤンチャもしていましたし、色んな人と分け隔てなく仲が良かったので、友達はすごい多かったです。先生からの評価も良くて、技術のテストでイマイチの点数だったにも関わらず、通知表の評価は5段階中の5でした。今振り返ると高校生活は上手いこといっていたと思います」
植田「本当にごく普通の高校生活でした。ヤンチャっぽく見えるかもしれませんが、髪を染めたのは20歳でプライベートではなく仕事として染めましたし、学校の成績も「中の中」でしたけど、遅刻は一度もしませんでした。強いてあげれば、部活がサッカー部に所属していたこともあって、結構モテたぐらいかな」
一同「(笑)」
織部「“モテた”の部分は太字にして下さい‼」
李「学生時代は“ガリ勉”でした。周りに優秀な人が多かったのもあって、社会は残酷だなと思春期ながらに思っていました。エリートの世界から外れたい思いで、芸術大学に進学するんですけど、行ったら行ったでコミュニティに溶け込めなくて、常に孤独でした。だから織部さんのような器用な高校生活を過ごしていた人はどちらかというと苦手でした」
一同「(笑)」
織部「突然僕のセリフが全部カットされたり、稽古で僕だけ厳しくダメ出しされそう」
李「そんなことしないです(笑)」
―――では最後に本作を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
李「皆さんの青春時代と重なる部分もあるような作品になっていますので、是非観に来ていただけたら嬉しいです」
植田「今回リブートいうこともあって、初演をご覧になった方は、リブートだからこそ逆に初演と今回で通ずるものを観て感じて欲しいですし、ぜひ感想を僕たちに伝えて欲しいです。それと関西の方は聞き慣れた言葉や空気を感じて欲しいと思いますし、他の地域の方には物語は別として『これが本当の兵庫県だぞ!』いう空気感を楽しんでもらいたいです」
織部「今作は何かが起きるというよりか、何かが起きる前の空白を描いている作品だなと思っています。過去や家族の居場所を巡って揺れ動く高校生たちの生き様がリアルに描かれるので、そういうところに注目していただいて、劇場で楽しんでいただけたらなと思ってます」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

織部典成(おりべ・よしなり)
大阪府出身。主な出演作にハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』山口忠役、舞台『ブルーロック』國神錬介役、『HUNTER×HUNTER THE STAGE 3』シャルナーク役、映画『僕が君の耳になる』(主演)など。

植田慎一郎(うえだ・しんいちろう)
兵庫県出身。2013年にデビュー。主な出演に、TVアニメ『惡の華』春日高男役、ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』油女シノ役、舞台『弱虫ペダル』段竹竜包役、2.5次元ダンスライブ『ALIVESTAGE』宗像廉役など。

李晏珠(り・あんじゅ)
1998年生まれ。The Smoke Shelter代表。劇作家。大学在学中の2019年に「The Smoke Shelter」の前身「煙小屋」を立ち上げる。2021年から2025年3月まで劇団鹿殺し文芸部に在籍。舞台の脚本・演出のほか、映像制作・写真・劇伴音楽の作曲等を行う。
公演情報

The Smoke Shelter プロデュース#4『BELOVED』
日:2025年7月5日(土)~13日(日)
※他、兵庫公演あり
場:恵比寿・エコー劇場
料:S席[前列1・2列目]9,000円
A席[前列3・4列目]7,800円
一般 土日6,500円 平日5,800円 学生4,000円
※枚数限定/要学生証提示(全席指定・税込)
HP:https://smokeshelter.jp
問:The Smoke Shelter
mai:smokers.tss@gmail.com