
舞台女優として活躍する植野祐美が主催するDaisy times produceは、コロナ禍で演劇界が受けたダメージを回復すべく活動を展開し、才能溢れる脚本家、演出家、そして俳優陣を集めて良質な作品を発表している団体だ。その最新作は劇団Patchの1期生であり、俳優としてだけで無く、殺陣や小道具製作にまで幅広い才能を見せる星璃が初めて手がける脚本・演出作品。星璃の他に、主演の星守紗凪と物語の中心になる林鼓子、久下恭平の4人に話を聞いた。
―――この作品は星璃さんの初脚本・演出作品だそうですが。
星璃「はい。Daisy times produce主宰の植野祐美さんから依頼された時、自分にはネームヴァリューがないので当初お断りしていたんです。それでも何度かお願いしてくださったので受けることにしました。そこで自分ならなにを書くかを考えたのですが、出身が京都で子どもの頃から八坂神社によくお参りしていた、そんな自分のルーツに関わる内容であり、和モノでと考えました。植野さんからはエンタメ作品をという要望だったので、陰陽師、この作品内では霊導師が出てくるバディーものにしようと思ったんです。霊導師がいるということは式神もいるわけで、そのバディーを中心に膨らませていきました」

―――物語は現代に生きる霊導士の家系、神楽家の娘・ウタと失踪した兄アキを中心に展開するようですが、それぞれの役柄や抱負について教えてください。
星守「私は主人公の神楽ウタを演じます。アキ兄と呼んでいるお兄さんがいなくなったところからストーリーが始まるのですが、兄を失ったことで人としても霊導師としても行き詰まり、心を閉ざしている状態なんですね、そんなウタが相方である猫ちゃんや大切な友人の存在を得て、兄を奪還するために行動し、彼女自身が成長していく物語です。だから私自身も一緒に成長していきたいですね。ただウタと私のキャラクターは結構違うので、そのあたりは気をつけて創りたいです」
久下「その兄、アキ役です。台本を拝見して感じたのは「愛」。物語には兄弟愛はもちろん、いろいろな「愛」が交錯します。役作りは普段から自分だけで役作りをするのではなく、共演の皆さんと創っていくタイプです。その上で周りの俳優さんの一番いい表情や芝居を引き出せるように頑張りたいし、今回はウタと一緒だから出来るアキを創りたいですね。でも紗凪ちゃんとは以前少しだけ一緒させていただいたことがあるのですが、凄くしっかりしているので、もう身を委ねたいと思います(笑)」
星璃「久下さんとは初対面なのですが、お目にかかってすぐにアキにピッタリだと思いました」
林「私はウタの相方となる猫です。名前はまだ明かせないのですが。最初はウタちゃんに祓われそうになるのを免れて、ウタちゃんの式神になるんですね。だから最初はおどろおどろしく登場しますが、式神になってからは達観しつつ子供っぽい所もあるという不思議なキャラクターです。一人称が『ワシ』ですからね。これまで人外の役はあまり無かったので、楽しみです」

―――星璃さんはキャストでもありますね。
星璃「僕の役は白という自称神様です。ウタとも関わりがありますが、味方なのか敵なのかよくわからない存在です。どう関わるかがお楽しみですね。ちょっと心苦しいのは、スタッフの頑張りでビジュアル的に僕が一番派手になったことです。神様ですから(笑)。まあそれに負けずに神々しい振る舞いが出来たら良いなと思います。もともと出演はしないと言っていたんです。だって初の脚本演出に加えて殺陣もつけて、さらに小道具製作までですからね」
久下「でもキーマンですよね。脚本演出で神様役というのは、まさに神様ですよ(笑)」
星璃「いやいや(笑)、まあいい形で象徴になれればと思います」
―――殺陣も沢山出てきそうですね。
星璃「プロデューサーから、殺陣一杯にと言われてますから」
久下「これには参りました。これまでエンタメ要素の強い作品が少なかったので、ちょっと心配になりました」

―――タイトルの『カミシバイ-開-』についても伺います。
星璃「タイトルは解り易い短いものにしたいと思いました。この物語を書くにあたっては、自分が気になることを書きたいと思っていたのですが、今は例えば電車の中で何かトラブルがあればすぐにSNSで拡散されるのに、ご近所付き合いは減っている時代。自分の周囲への関心がものすごく減ってますよね。僕はそれを凄く寂しいことだと思っていて、逆に人を視るということが凄く大事だと思うんです。人を評価するとしても噂話で判断するのでは無く、ちゃんと自分で視て判断したい、そんな性格なんですね。そこで人を遠くから俯瞰出来るのは、それは神様ではないかと思ったんです。「カミシバイ」は今時だいぶ廃れた紙媒体のメディアで、実際に観に行かないと体験できないものということでつながります」
―――それでは皆さんそれぞれのメッセージをお願いします。
林「共演の星守さんは、私が高校生で初舞台を迎えたときご一緒して、お世話になっています。その星守さんのバディーが出来るのが楽しみです。人間以外の役は初めてですが、ビジュアルもすっごく可愛いので、ファンの皆さんにも楽しんでいただけるかなと思ってます。素敵な皆さんと一緒に精一杯頑張ります」
星守「(取材中に)星璃さんや久下さんのお話を聞いていて、素敵な作品にしたいという想いがますます高まっています。霊導師だから人には見えないものが視えるウタちゃんは、だからこそ「人をきちんと視て判断する」という主題を体現できる存在だと思いますし、それを伝えたいと思います。また、久下さんと共演したときに、凄く愛の溢れる俳優さんだと思いました。だからこの作品でのアキ兄を想像すると最後の方はもうヤバイと思ってます。鼓子ちゃんは小さい頃から知ってますが、最初から凄くしっかりしてました。今作でもきっと頼りがいのあるバディーになるでしょうね。あと衣装さんも大好きな方で、凄く素敵でキャラクターが想像できるような衣装ですからそれも楽しみにしていてください」

久下「えー、意気込んでます(笑)、とっても。こんなに熱くてまっすぐな座長・星守さんが意気込んでいる作品に間違いは無いですから、おんぶに抱っこでやっていきたいですね。役者をやっていて思うんですが、僕等俳優は脚本があってこそ、演出をつけてもらってこそです。そのどちらにも踏み込んでいる星璃さんの初脚本演出作品。そこに立ち会えるのは嬉しいし光栄ですね。この作品を演って良かったと、他ならぬ星璃さんに思ってもらいたい。そのためにも頑張りたいと思います。それと僕は会話劇が多かったので、僕の芝居を見続けた皆さんにとっても新鮮だと思います」
星璃「今回の大きなテーマに「視る」ということがあります。霊や人を視えるのに視ない人。視えないけど視ようとする人が出てきます。演劇もまた観てもらわないと始まりません。昨今は色々なメディアが出てきたお陰でサラッと飛ばし観してしまうことも多いですが、是非皆さんには自らの目で観て、心で感じて力にしてくれたり、発信してくれたら嬉しいと思います。僕自身も自分の伝えたいことを込めて(脚本を)書きだしたら、素晴らしいキャストが集まってくれました。まだまだ脚本演出家としては未熟ですが、それに甘えること無く、死ぬ気で作品を創ろうと思います。キャスト、スタッフの皆さんが楽しんでもらえないとお客さんも楽しめませんから、稽古場で練り上げて楽しんでもらえる作品に仕上げて、みんなが良かったと思える演劇にしたいと思います」
(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

星守紗凪(ほしもり・さな)
秋田県出身。声優・女優・歌手として幅広い分野で活躍。主な出演に、アニメ『アサルトリリィ bouquet』、ゲーム『ゴシックは魔法乙女』、舞台『アサルトリリィ』シリーズ、『プロジェクト東京ドールズ』、ラブライブ!ミュージカル『スクールアイドルミュージカル』、舞台『トワツガイ』シリーズ、舞台『スパイ教室』など。

林 鼓子(はやし・ここ)
静岡県出身。2017年、「avex×81produce Wake Up, Girls! AUDITION 第3回アニソン・ヴォーカルオーディション」に挑み、2,000名の中から合格し声優デビュー。以後、数々のアニメ作品、舞台作品に出演。主な代表作に、アニメ『キラッとプリ☆チャン』主演・桃山みらい役、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』優木せつ菜役、『BanGDream! It’s MyGO!!!!!』椎名立希役、ミュージカル『Neo Doll』スズラン役、舞台『アサルトリリィ・新章』第2弾 長坂稀星役など。

久下恭平(くげ・きょうへい)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。舞台を中心に活動中。近年の出演作に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ、東京印 vol.25『蒼い薔薇のシグナル 2024』、東京印『THEATER~君に会いたい~』など。

星璃(しょうり)
1994年3月24日生まれ、京都府出身。2012年、劇団Patchの1期生として入団。武器・小道具制作の腕前に秀でており、劇団公演のほぼ全ての公演で制作を担当する。近年の出演舞台に、@emotion『イキザマ』真田幸村 役ほか、『鬼滅の刃』『刀剣乱舞』など。
公演情報

Daisy times produce 『カミシバイ -開-』
日:2025年6月25日(水)〜29日(日)
場:六行会ホール
料:SS席[センターブロック4列・特典付]10,000円 S席8,500円 A席・車椅子席7,500円 B席6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.kami-shibai.com
問:Daisy times produce
mail:daisy.times.p@gmail.com