ワンシチェーションコメディのジャンルを盛り上げたい 同じ劇場&同じセットで3団体が佐野瑞樹脚本の名作3作品を連続上演

ワンシチェーションコメディのジャンルを盛り上げたい 同じ劇場&同じセットで3団体が佐野瑞樹脚本の名作3作品を連続上演

 「イルカ団!!」「sitcomLab」「collaboLab」の3団体によるトリプルコラボ公演「夏のシットコム祭り」が7月2日より開幕する。同じ劇場、同じセットを使用し、それぞれのプロデュースで佐野瑞樹脚本の人気シチュエーションコメディ3作品『天爛のパティシエ』『恋するアンチヒーロー』『となりのホールスター』を約1ヶ月間ほぼノンストップで上演するお祭り企画。「イルカ団!!」代表の渡辺隼斗、「sitcomLab」代表の佐野瑞樹、「collaboLab」代表の柳川由起子にコラボ企画決定の経緯や見どころなどを聞いた。


―――まず3団体によるコラボ公演が決まるまでの経緯を教えていただけますか。

佐野「通常の公演だと1~2週間で終わるので勿体ないという気持ちがもともとあって、他の団体さんと協力して、もっと長い期間で上演出来たらというのがきっかけで、コラボ公演を上演することによってお客さんも楽しいだろうし、それぞれの団体の知名度も広めてより多くの人に知ってもらおうと考えていた時に、この3団体が1ヶ月という期間で、しかも同じセットでお祭りみたいに出来たらいいなと思って提案させていただきました」

柳川「昨年、イルカ団!!とsitcomLabが『リバースヒストリカ』という作品を同じセットで上演していたのを普通にお客で観に行っていて、せっかく同じセットでやるなら違う演目でやってみたら面白いんじゃないですかと話をしたんです。私も一昨年舞台を上演したので、一緒に混ざって3団体でやりますみたいな感じで」

渡辺「企画段階では、3団体が同じ作品で上演する話もあったんですけど、佐野さんの作品はカフェを舞台にしたワンシチュエーション作品が多くて、同じセットで別作品っていうのも全然できるなと思いましたし、『恋するアンチヒーロー』はsitcomLabさんとcollaboLabさんが上演するし、collaboLabさんは『となりのホールスター』も上演するので、僕が別の作品を選べば3団体が別の作品でやれると思って、『天爛のパティシエ』を選ばせていただきました」

―――それぞれこの作品で上演しようと決めた理由はありますか。

佐野「僕は元々年間スケジュールとして『恋するアンチヒーロー』を上演することが決まっていました」

渡辺「以前『恋するアンチヒーロー』をやらせてもらったことがあって、そういう意味では新しい作品をやりたいなと思っていたのと、同じセットで『恋するアンチヒーロー』と『天爛のパティシエ』をやっているのを観たことがあって、いずれは『天爛のパティシエ』をやってみたいという気持ちがあったからですね」

柳川「私は『となりのホールスター』と『恋するアンチヒーロー』の2本を上演するんですけど、『となりのホールスター』はレストランが設定なので、これならいけるなとは思っていたのと、山本裕典くんが復帰した作品でもあって、その時は有り難いことにチケットは完売して、追加公演もDVD化も出来ず、公演を観られなかった方が多かったので、いずれは再演したいというのはありました。『恋するアンチヒーロー』は、コラボ企画が4週あって、もう1週どうしようかという話になった時に、『じゃあ私がやります』となって。今回、石渡真修さんがキャスティング出来た時点で、絶対に『恋するアンチヒーロー』をやろうと決めていたので、2本やることとなりました」

渡辺「公演スケジュールの配分は最初全く決まってなくて。1ヶ月をちょうど3等分にするのか、4作品を3団体でやるのか、いろいろ試行錯誤する中『柳川さん、2作やっちゃいますか』という流れになったんですよね」

柳川「2本上演といっても、例えば期間の前半は『恋するアンチヒーロー』、後半は『となりのホールスター』という形ではなく、昼に『恋するアンチヒーロー』、夜に『となりのホールスター』といった感じで、1日で2作品観劇できるスケジュールにしています。ちょうど夏休みに入る時期ですし、2本観て帰れるようにしてあげたいなと思ってこういうスケジュールになりました。なので役者さんは1日1公演しかやらないんです」

佐野「柳川さんだから出来るんですよ。僕らだったら絶対『嫌だ!』と言われます」

一同「(笑)」

佐野「僕自身はこういうスケジュールは好きですけど、役者からしてみれば、入れ替わりがあったり、荷物を整理しなきゃいけないとかあって、とても面倒なんです」

―――今回のスケジュールを見ると、7月2日から7月27日までの期間中、休演日はわずか2日で、イルカ団!!とsitcomLabの公演が終わった翌々日に次の団体公演の初日を迎えます。これも同じ劇場&同じセットだから成し得るスケジュールですね。

佐野「本来3作品上演するとしたら、セットの仕込みとバラシが計6回発生するんですけど、今回は計2回で済むんです」

渡辺「コスト面においても有り難いですし、1週間でいいものを作って、終了したらすぐ取り壊しちゃうのが儚すぎて……」

佐野「本当に演劇ってエコじゃないよね」

渡辺「その点、今回のセットをリサイクルというか共有できることは、いい取り組みだと思います」

―――約1ヶ月の長丁場で、同じ劇場&同じセットで3団体4作品観劇できるのはなかなかないですし、同じセットでどう違いを見せられるかという点では、4作品全て観劇していただきたいですよね。

佐野「そうですね。4作品全て観たら面白いと思います。それに全公演において、一番安いチケットが2,000円なんですよ」

―――物価高と言われている昨今、公演のinformationを見てビックリしました。

佐野「敢えてですよ。この物価高だから、ある意味“逆張り”です。だから4作品観劇しても8,000円です。1万円でお釣りが来ます」

渡辺「8,000円で1ヶ月楽しめます!」

―――配信チケットでももっと金額がかかりますからね。

柳川「会場はどの席でも見やすくて、前列のフラットなところも椅子の高さが絶妙に違う作りになっているんです」

佐野「例えば推しの団体はちょっとお金を出して前列で観劇して、それ以外は後列の安いチケットにするというのもいいですし、全部安いチケットで観劇するのもいいですし、それぞれの予算で1ヶ月楽しんでもらいたいです」

―――各公演の見どころを教えていただけますか。

渡辺「元々佐野さん作品の大ファンで、これまで『恋するアンチヒーロー』と『リバースヒストリカ』の2作品をお借りしましたが、本家にはどうしても敵わなくて。それでも自負しているのは、佐野さんの作品を一番愛していて、実は佐野さんよりも理解度はあるんじゃないかと個人的には思っていて、その中で自分なりの解釈をすることによって、佐野さんのオリジナルを観た人に、僕らとの違いを観ていただきたいというのはあります。イルカ団!!は賑やかにやりたい作風が好きなので、そういった意味ではよりお祭り感と賑やかさをイルカ団!!の持ち味として出していけたらなと思っています」

佐野「『恋するアンチヒーロー」は、僕の作品の中でも一番人気で、これまで十数回も再演されています。これまではゲストキャストとsitcomLabメンバーでメインを分け合っていたんですけど、今回初めてメインキャスト全てにsitcomLabメンバーを据えているところが今回の見どころです。この一番人気の作品を、一番信頼しているメンバーを中心に作って、sitcomLabの“限界点”を見せようかなと思っています」

柳川「渡辺さんが佐野さん作品の一番の理解者と言うならば、私は佐野さん作品のアレンジ力は一番あると思っています。collaboLabの『恋するアンチヒーロー』はより恋愛が強めに作ろうかなと思っているんですけど、ほぼ初めての人と仕事をするので、どういう風に変化していくかという点に注目して欲しいのと、芍薬アカデミーさんという女性のお笑い芸人さんに入ってもらっていて、彼女がどう面白く引っ掛き回してくれるか楽しみです。また『となりのホールスター』は2019年以来になりますが、続投メンバーが半分と知っているメンバーが半分という構成で、よりパワーアップした公演に作れたらと思っていますし、10年前に初めて舞台をキャスティングした『恋するアンチヒーロー』で主演を務めた桑野晃輔さんが今回『となりのホールスター』に出演していて、ちょっと“エモさ”も混ぜてみたいな気持ちもあって、すごく楽しみです」

―――せっかく3団体の代表が揃っています。お互いに褒め合っていただくということで、「他の2団体のここがスゴい!」挙げていただけますか。

佐野「渡辺くんは「思い切りの良さ」と「ちょっとバカなところ」ですね。主宰ってちょっとバカじゃないと出来ないんですよ。主宰をやるとリスクがたくさんあるわけで、それを乗り越えられるバイタリティが渡辺くんにはあって、突き進む力はすごいなと思うのと、人に愛される力もあって、すごくいいなと思っています。柳川さんはズバリ「圧力」。ちょっと言い返せない“何か”があるんです(笑)」

柳川「2人とも演者なので、きっと演者の気持ちがわかってしまうから、なかなか言えないところがあると思うんですけど、私は演者ではないこともあって、客として観たいものをやってくれという感じでどんどん要望を出しますね」

佐野「統制力というか、逆らえない感じは羨ましいです」

渡辺「佐野さんは僕にとって勝手に師匠だと思っている存在で、とにかくお手本にさせてもらってることが多いです。企画面に関しても、今回の公演は2,000円という安い席を作ったり、以前は『客席半分無料開放公演』というのもやられていて、僕自身衝撃を受けました。イルカ団!!にとってsitcomLabは目標の団体です。柳川さんは作品とキャストに対する愛情がスゴいというところと、キャスティング力がめちゃめちゃ羨ましいです。柳川さんにしか出せないキャスティングは『こういうものを観たい』という愛があるから出来ることなのかなと。僕も愛はあるんですけど、キャストに思い入れる力は全然僕には足りないですね」

柳川「佐野さんは元々脚本も書かれているのもありますけど、やっぱりコメディセンスに関しては群を抜いていて、私には太刀打ち出来ないです。なので佐野さんの作品をお借りする時は、あまりコメディを頑張らないと決めていますね。あと2年前の前回公演『スペーストラベロイド』の時に佐野さんといろいろなアイデアを出し合ったんですけど、思いついたことへの瞬発力がとても早くて、普通だと躊躇したり確認してからという風になるのを、そういうのも全部取っ払って突進していく力はすごいなと思います。渡辺さんは圧倒的に勢いが凄くて、イルカ団!!とは今回初めてのコラボさせていただくんですけど『次も何かやりましょうよ!』とガツガツしている感じがあって、そこに私も乗っかりたいなという気持ちにさせてくれるのはスゴいと思っています」

佐野「先日、渡辺くんが『将来は自分の劇場を作りたい‼』って言うんですよ。稽古場を持つならまだしも、自分専用の劇場を持つと公言する人はなかなかいないです。しかも居抜き物件ではなく新築だって」

一同「(笑)」

柳川「渡辺さんはいい意味でバカですけど、想像以上に芝居に対して真摯に考えているところがあるんです。キャスティングした公演に出てもらった時にも、お芝居について凄く考えた上ではっきりと『僕はこう思います』みたいな意見をくれたりして、そういうところのギャップが可愛らしくて、一緒にやりたいなと思わせてくれるキャラだなっていう気がしますね」

―――では最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。

渡辺「『中野に来れば7月はいつでもワンシチュエーションコメディをやっているよ!』みたいなお祭り感を担う一団体として盛り上げていきたいなと思っておりますので、ぜひぜひ皆さん観に来て、ワンシチュエーションコメディを盛り上げていただけたらと思います」

佐野「ワンシチュエーションコメディというジャンルが、とにかく広がって欲しくて、この面白さ、ワンシチュエーションコメディでしか出せない魅力というのがすごいあるんです。今でこそマイナーではありますが、そこを僕は打開したいと思っています。お安いチケットもありますので、どれとは言わず、好きな作品を好きな時に観に来てほしいと思っています」

柳川「だいぶ時が経ったとはいえ、コロナ禍でお客さまが劇場に来ることが減ってしまったので、いち舞台好きの人間として、観劇者側としても、ちょっとでも気軽に舞台を観に来る機会が作れるように、2,000円というチケットをご用意してお待ちしています。仕事が今日早く終わったからという感じで来てくれたらと思っていますし、それこそ日にち限らず、中野に来れば必ずワンシチュエーションコメディをやっています。またcollaboLabは1番最後の公演なので、前の2団体と見比べてもらえたら嬉しいなと思っています」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

渡辺隼斗(わたなべ・はやと)
福島県出身。演劇ユニット・イルカ団!!主宰。主な出演に、RATATATTAT!×モーリス・ルブランARSENE LUPIN『et Sonia!』主演・ルパン役、『ハムレット』ルシエーナス役、『蒼天の宴』近藤勇役、『最終兵器ピノキオ~蜃気楼の向こう側~』サニー役など。

佐野瑞樹(さの・みずき)
静岡県出身。sitcomLab主宰。1993年にミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で初舞台。その後、 数々の話題の舞台・ミュージカル・ドラマに出演し、高い評価を得る。2011年、弟の大樹 と兄弟プロデュースユニット「WBB」を結成。2013年、 舞台『川崎ガリバー』で初演出。その後も、多くの公演で執筆や演出を手掛ける。sitcomLabでは脚本・演出・出演・主宰を務める。

柳川由起子(やながわ・ゆきこ)
東京都出身。collaboLab代表。共同テレビプロデューサーとして「ブラック/クロウズ」「ポルノグラファー 」「全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの」「トラックガール」などを手掛ける。2015年から舞台制作に関わり、2017年『バリスタと恋の黒魔術』で初演出。

公演情報

イルカ団!!×sitcomLab×collaboLab
夏のシットコム祭り

日:2025年7月2日(水)~27日(日) 
場:中野 テアトルBONBON
料:各団体により異なります
HP:https://lit.link/sitcomfes2025
問:企画総合窓口 
  mail:info.stageticket@gmail.com


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