
花街(かがい)と言われてもイメージしづらいかもしれないが、料亭で芸者衆を呼んで宴を楽しめる場所のこと。東京では新橋・赤坂・浅草・神楽坂・向島・芳町の6ヶ所が東京六花街として知られ、隅々まで心を配り、季節の室礼を整えた料亭で、芸者衆の洗練された踊りや唄を楽しみ、器、盛り付けにも拘った日本料理を堪能する。まさに日本の“おもてなし文化”の最高位といってもいいだろう。とはいえ、宴席を体験するのは簡単ではなく、料亭との信頼関係がないと入れない“一見さんお断り”の世界。その扉が年に一度だけ開くのが、新橋芸者衆による『東をどり』だ。一体どんな催しなのか、現在40名ほどが籍を置く新橋芸者の中で、中堅として活躍する芸者・小花に話を聞いた。
「私達にとって東をどりは、年に一度の晴れ舞台です。普段はお座敷の中でする芸事を、新橋演舞場の広い舞台で、沢山のお客様の前で披露する訳ですから」
芸者衆は舞踊をはじめとする様々な芸事を学ぶが、舞踊は全て家元直弟子となるため、各々が西川・花柳・尾上の三流派のいずれかに振り分けられるという。小花は尾上流だ。
「子供の頃に藤間流の日本舞踊を習っていました。京都にも憧れましたが、20歳の頃に見た新橋花街を取り上げた番組に触発されて、自分から連絡して応募しました。藤間をやっていたならと、尾上流に決まりました」
さらに今回は、大正14年に東をどりの為に創建された新橋演舞場が100周年、東をどりも100回目の節目となる。そこで「新ばしに集う 日本の綺麗」をテーマに、京都五花街をはじめ、全国十九花街からも日替わりで芸者衆が集まり、各地の踊りを披露するという。
「全国から沢山のお姐さん方においでいただき、華を添えていただきます。とっても刺激になりますし、恥ずかしいものは出せないので気合いも入ります。街が違うと雰囲気が違います。例えば、京都の皆さんは実に華やか。一方で、新橋はあまり華美であってはならないと昔から言われていて、街の色も感じていただけると思っています」
さらに、幕間には料亭の美食と共に、日本酒、シャンパン、ビールなどの旨酒、芸者衆の千社札を貼る東をどり団扇を選ぶなど、芸に料理なども楽しめて、新橋演舞場が大料亭に替わるようだ。
「料亭さんのお料理は凄く美味しく、場内の室礼も素敵です。お楽しみにしてください」
(取材・文:渡部晋也 撮影:間野真由美)


「“伊達締め” 伊達締め(だてじめ)とは、着物を着たときに、衿(えり)が浮いたり、おはしょり(着物の裾をたくし上げた部分)がくずれたりしないように押さえるための帯のような紐です。最近では、しっかりした芯が入った伊達締めを作る職人さんが減っていて、貴重なものになっています。新しく揃えたものを使うときは気持ちも新たにまた頑張ろうと思えます」
プロフィール

新橋花柳界(しんばしかりゅうかい)
東京都中央区築地から銀座エリアの料亭、茶屋、芸者置屋で構成される新橋花柳界。成立は幕末期とされ、明治維新前後で活躍し、その後の政府中枢となった薩摩・長州・土佐・肥前出身の政治家が贔屓することにより繁盛し、明治期に日本一の社交場と称されるほどの発展を遂げる。「芸の新橋」と称されるように、芸の一流を街の目標に稽古を重ねる芸処として知られる。大正14年に新橋芸者の晴れ舞台として新橋演舞場が建設され、こけら落としとして新橋芸者の公演「東をどり」をおこなった。戦災で被害を被るものの、昭和23年春に再開。川端康成・吉川英治・谷崎潤一郎など、文豪が書き下ろした脚本や、横山大観・竹内栖鳳・前田青邨など、一流画家が手掛けた舞台美術による舞踊劇で人気を集める。現在、踊りを担う立方、演奏と唄を担う地方、あわせて40名ほどが在籍。日々の稽古とお座敷で活躍している。
公演情報

百回記念公演『第100回東をどり』
日:2025年5月21日(水)~27日(火)
場:新橋演舞場
料:桟敷席12,000円
雪席10,000円
月席6,000円
花席[自由席]2,000円(税込)
HP:https://azuma-odori.net
問:東京新橋組合
tel.03-3571-0012(平日10:00~17:00)