
ファミリー劇場ミュージカルなど、年代を問わず楽しめる作品を多数手掛けている劇団東少のオリジナルミュージカル『PINO』。人間の魂を手に入れたあやつり人形の物語『ピノキオ』をベースに、不老不死のロボットが多くの人間と出会い、成長していく物語だ。本作の主演・ピノ役の深澤悠斗、劇団東少作品への参加も多い安達星来にインタビューを行った。
―――まずは今回のお話をいただいた時の思いを教えてください。
深澤「ミュージカルでの単独主演が初めてなので、プレッシャーはありました。でも、2025年に25歳になり、人生における1つの節目を迎えて、そこで単独主演を務められることがとても楽しみです」
安達「東少さんへの出演は4作目で、お付き合いも8年目くらいです。今までは誰もが知るシンデレラなどを演じていましたが、今回はカルメンというオリジナルキャラクター。やったことのない役柄なので不安もあったんですが、今はすごくワクワクしています。深澤くんのような若い方のパワーをいただき、私自身も勉強しながら、感動できる作品をお届けできたらいいなと思います」
―――オリジナルミュージカルということですが、物語の印象はいかがでしたか?
深澤「ディズニーなどが好きで、『ピノキオ』も見ていました。最初は無機質だった心が人と関わることで変わっていく作品は、王道だからこそ多くの人に『やっぱりいいよね』と思ってもらえる印象があります。まだお稽古前ですが、愛される作品になりそうだと思いました」

安達「主人公のピノ自身も周囲のキャラクターたちも大きく成長していく物語です。いろいろな愛の形、家族の物語が描かれていると感じました。この作品に限らず、すごくあたたかい作品が多いのが東少さんの魅力。愛情たっぷりで、お稽古をしていても泣けてくることがあります」
―――物語の見どころ、演じる役についての印象も伺いたいです。
演出・源紀「死なないロボットであるピノが人を愛する・愛されることを知っていくのが大きなテーマです。生きている時間がとても大切だということを、ピノが体験しながら見せてくれるお芝居。永遠の命があるピノならではの苦しみ、命との対比が見せ場で、そこに向かっていろいろな人たちと出会っていくお話です」
深澤「ロボットを演じたことはないので、人の優しさや命に触れて変化していく過程をどう表現できるか想像を膨らませているところです。ロボットって、一歩間違うと動きがコミカルになってしまうという不安があって。人間である僕がロボットを演じるので、ピノと逆の道を辿らなきゃいけない。プロセスは逆でも、成長の過程は一緒だと思うので、役と僕自身をリンクさせられたら深みが出るかなと思います」
安達「私が演じるカルメンは正木慎也さん演じるステファノの妹。ピノを利用して大儲けをしようとする、ずる賢い兄妹です。台本上には書かれていませんが、おそらくいい暮らしはしておらず、暮らしのために多少ずるいこともしてきた兄妹だと思います。そんな2人がピノと関わる中で成長する。最初は悪者のようだけど、人間らしいあたたかい心を取り戻していく役です」
―――お2人とも演じたことのない役柄ということですが、役作りに関して考えていることはありますか?
深澤「甥っこと姪っこがいるんですが、冒頭のピノの無邪気さは子供と似ているのではと感じるところがあります。人の優しさも怖さも知らないところとか、いろいろなものが気になる好奇心とか。心の底から「生きること」を楽しんでいるのを見て、人間の子供とどんどん学習していくロボットは近いのかなと感じました。子供を観察してみようと思います」
安達「『シンデレラ』など、みんなの共通イメージがあるものは1度見てみますが、役作りにおいてなぞることはしていません。何かを参考にするというよりも自分に寄せていくというか、『もし自分がこの役と同じことをするなら』と考えて作っていくような印象です。源紀さんは稽古の中でチャレンジをすることを受け入れてくださる演出家さんなので、今回もいろいろ試していこうと思っています」
―――これまでも参加したことがある安達さんが感じる東少作品の魅力はどこでしょう。
安達「幼いお子さんからご高齢の方まで、どの世代の方が見ても楽しめるのが一番の魅力です。それぞれの感じ方で楽しんでいただけるので、できるならご家族で見にきていただけたらいいなと思います。親子や三世代で一緒に見られる作品は意外と少ないので、そこが東少さんの特色であり魅力だと思いますね。物語もすごくあたたかいので、必ず何か持って帰っていただけると思います」

―――深澤さんは初めての参加ですが、楽しみにしていることはあるでしょうか。
深澤「子供たちの前に立ったことがないので、普段来てくださっているお客様との反応の違いがとても楽しみです。ギャグにしてもシリアスなシーンにしても、大人と子供の感受性の違いは楽しみでもあり怖くもある。ただ、僕は子供が大好きですし、自分自身もヒーローショーや着ぐるみショーなどを見るのが好きでした。自分が演じる側に立つ上で、ショーのMCの方がどうやって子供たちの心を掴んでいるのかなどを研究してみようと思います。普段できないチャレンジができるのですごく楽しみです」
―――深澤さんから安達さんに聞いてみたいことはありますか?
深澤「どこの現場に行く時もそうですけど、稽古場がどんな感じか聞きたいです。僕はすごくお喋りですが人見知りなので、和気あいあいとしててほしい(笑)」
安達「全然問題ないです! 東少さんの稽古場は素敵な方ばかりで、みなさん気さくに迎えてくださるので、気楽にリラックスして臨んでいいと思います。初めてだと緊張しますが、出演者・スタッフさんでファミリー感があるのですぐに仲良くなれるとお思います」
深澤「普段は年代が近い人ばかりだし、ほとんどが男性で男子校みたいなノリなんです。今回は子役の皆さんもいらっしゃって、キャストさんの年代も幅広い。その稽古場にどう参加したらいいか不安でしたが、このままでいいと言っていただけたので安心しました」
安達「子役の皆さんは主役のピノさんを憧れの目で見るでしょうし、きっと深澤さんのカラーになっていくと思うので、みんなついていきます!」
―――改めて、お互いの第一印象を教えてください。
深澤「僕は以前、東少さんの『シンデレラ』を観劇したことがあり、今回はビジュアル撮影の時、カルメンのヘアメイクができている状態で初めてご挨拶しました。シンデレラと印象が真逆で、すごく賑やかに笑う人なんだと思いました(笑)。第一印象がシンデレラだった分、ギャップがありましたね」
安達「(笑)。チラシの撮影で初めましてだったんですが、ピノの独特なメイクがすごくお似合いで。爽やかでクリーンなイメージで、少年のような印象を受けました。『こんな方が主役をやってくださるんだ!』とワクワクしましたし、とても気さくな方で、お稽古が楽しみになりました」
―――ピノが旅の中でさまざまな出会いを経験していく物語ですが、印象深い旅の思い出はありますか?
深澤「小学生の時などは、山小屋に泊まって登頂を目指す旅行を父としていました。今思うと、僕は軽い荷物を持って登って、山小屋に着いたら父が持ち歩き用のガスコンロと鍋でラーメンを作ってくれたりして。その時に使うお水とかを何本も背負って山に登っていたと、大人になってから気づきました。それも今まで気づいていなかった優しさ。その時に感じた気持ちはピノの役に活かせるんじゃないかと思います」
安達「節目の年齢で新しいことがしたくなり、アメリカのバークリー音楽大学に短期で留学したんです。本当に1人で行って、せっかくなのでホームステイをすることにしました。希望を聞かれ、歌を専門にしているのでタバコを吸わない家、アレルギーが出たら怖いので動物がいない家とお願いしたのに、現地に着いてみたら犬を3匹くらい飼っているヘビースモーカーのおばあさんの家でした(笑)。コメディのようにおかしなことばかりで、本当に大変でした。でも、違う土地に行って空気を吸うことで、普段とは違う経験ができる。その場でいろいろな人に出会って学んでいく貴重な経験ができるのが旅の魅力で、作品にも通じることかなと思っています」
―――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
深澤「まずは個人的なことになりますが、今まで応援してくださっている方々に、初主演を務める僕を見てほしいです。いろいろな世代が集まって、『最後は愛だよね』と思えるあたたかい作品を作りたいです。観劇した帰り道に『ちょっと親に電話してみようかな』と思っていただけるような作品を目指していくので、楽しみにしていただきたいし、観ようか迷っている方も足を運んでいただけたら嬉しいです」
安達「作品のテーマの1つである「生きる」。私自身も、家族や自分の環境を含めてすごく考えさせられることが多いです。世界でいろいろなことが起きている中、決して強く生きていく必要はないと思いますが、せっかく生きているなら、少しでも楽しく幸せに生きていける人が増えたらと思っています。私自身、関わる作品から勇気をもらったり、背中を押されたりすることが多いです。お1人でもカップルでも友人同士でも家族でも、幅広い年代の方にいろいろな気持ちを味わっていただき、背中を押せる作品を作りたいと思っています」
(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

深澤悠斗(ふかざわ・ゆうと)
千葉県出身。舞台を中心に、映画やドラマ、ナレーションでも活動している。主な出演作に『アマネ†ギムナジウム オン・ステージ』、『志立彩色学園アイドル科』、『リーマンズクラブ』、『アイ★チュウ 』シリーズ、ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズンなど。2025年には東宝ミュージカル『四月は君の嘘』への出演も控えている。

安達星来(あだち・せいら)
東京都出身。洗足学園音楽大学ミュージカルコース卒業。米バークリー音楽大学にてアン・ペッカム教授に師事。『カラミティ・ジェーン』ジェニー役、音楽劇『赤毛のアン』アン役、近代音楽集より『葵上・卒塔婆小町』(美輪明宏主演)、ザ・ローリングストーンズ日本公演などに出演。NHK「どーもくんバンド」うたのおねえさんを務めた。劇団東少作品では『シンデレラ』、『人魚姫』、『孫悟空』に出演。
公演情報

2025年 劇団東少オリジナル・ミュージカル『PINO』
日:2025年5月14日(水)~18日(日)
場:六行会ホール
料:プレミア席[特典付]8,500円 一般席6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.tohshou.jp
問:劇団東少 tel.03-6265-7070(10:00~17:00/土日祝休)