
2013年に刊行された東野圭吾の長編推理小説『祈りの幕が下りる時』が舞台化! “東野圭吾シアター”の第1弾となる本作の脚本・演出を手掛けるのは成井豊。W主演を務めるのが小西詠斗と多田直人だ。本作を読んで以来、ずっと舞台化を探り続けてきた成井が、ようやく辿り着いたこのタイミング。主演の2人と共に、舞台に寄せる熱い思いを存分に語り尽くした。
―――成井さんが『祈りの幕が下りる時』を舞台化したいと思ったいきさつは?
成井「2009年の『容疑者Xの献身』で、東野圭吾さんの作品をキャラメルボックスで初上演し、そこで非常に強い手応えを感じたんです。それ以来、東野さんの新作を手にする度に『今度は舞台化できる作品じゃないか?』と思いながら読むようになりました。『祈りの幕が下りる時』は読んでいる最中から『来た来たっ!』と思い、読み終わってすぐに『舞台でやりたい』とプロデューサーにも伝えていたのですが、なかなかいいタイミングが掴めず……。ようやく時が来たという感じです」
―――作品のどのような点に魅了されたのでしょう?
成井「まずは、“謎”の魅力です。“12の橋”が何を意味するのかという謎が、非常に魅力的でした。そしてその謎に対し、クライマックスで涙なしでは読めない解答が出てきて、非常に感動しました」
―――小西さんと多田さんは、原作を読んでどのような印象を受けましたか?
小西「とても考えさせられるお話だなと感じました。とくに前半はたくさんの人物が出てきて場面もコロコロ変わるので、あれこれ考えながら読んでいくのがとても楽しかったです。終盤に近付くにつれ、絡まった紐が解けていくように真実が見えてくるのも面白く、ラストはものすごい衝撃を受けました。物語に一気に引き込まれ、あっという間に読み終わりました」
多田「シビアなお話だなというのが僕の第一印象です。一生懸命けなげに生きていても、どうしようもできないようなことに出くわしてしまう、抗えない運命を背負う人たちの哀しみを感じましたし、犯人の犯行の裏にある状況にも胸が苦しくなりました。かつ、その裏には愛のようなものも感じられ、感情を大きく揺さぶられました。
序盤にたくさん情報が出てくるのですが、それは刑事たちが足で稼ぐなど地道な作業で情報を集めているから。『現実の刑事さんたちも、こういう作業をもとに真実を摑もうとするのかな』と思いましたし、本を読みながら自分も一緒に捜査している感覚があってとても面白かったです」
―――松宮修平役に小西さん、加賀恭一郎役に多田さんというキャスティングについて、成井さんが期待していることを聞かせてください。
成井「小西さんのことはあまり存じ上げなかったのですが、プロデューサーからの強い推薦でお願いすることにしました。松宮という男は、この作品における“光”だと僕は思っています。本作はつらい人生を必死で生きてきた人たちの物語。その物語の中で、松宮は明るさを表現していると思うんです。だから松宮は、舞台で明るさ、光を体現できる人がやらないとまずい。小西くんならば、できそうだなと思いました!
多田に関しては20代前半の頃から知っていますが、成長と同時に変貌してきているのをと感じます。昨年、『無伴奏ソナターThe Musical-』で彼がウォッチャー役をやり、出会った頃は20代だった多田がウォッチャー役をやるようになったかと、ものすごい驚きだったんです。若い頃の多田には、よく『へなちょこ』と言っていたのですが(笑)、今は風格を出せるようになってきていて、すごいなと思いました。そこで、ですね。『祈りの幕が下りる時』をできるかもしれないと思ったのは。昨年の多田のウォッチャー役が、決定打でした。
本作の主人公の2人は静と動、クールとホットという見事な対照性で、映画版ではこれを阿部寛さんと溝端淳平さんが見事に体現されていました。映画と演劇は全く違うものですから比較するものではないですが、やっぱり映画に負けたくない! ですから小西くんと多田には、2人のコンビネーションの対照性を舞台上でぜひ表現してほしいなと思っています」
小西「改めていろいろお話をお聞きして、嬉しいな、ありがたいなと思っています。同時に、ちょっとプレッシャーも感じています(笑)。今まではかわいらしい役柄を演じることが多く、こういった大人の男性役を演じる機会をいただけたのはとても嬉しいです。物語の“光”になれるよう頑張ります!
また成井さんがおっしゃっていたように、僕も原作を読んだときに加賀と松宮のコンビ感がいいなと思っていました。捜査のときは相棒感が見えたり、普段のちょっとした会話では従弟の雰囲気が垣間見えたり、そういう関係性を舞台上で出していけたらと思います」

―――小西さんは、以前から「刑事役をやりたい」と口にしていたとか。
小西「はい。地元の知人のお父さんが警察官で、すごくカッコいいなと昔から思っていて。刑事という職業にちょっとした憧れがあり、役で演じてみたいなと思っていました」
―――多田さんは、今回のキャスティングを聞いたときはどのような気持ちでしたか?
多田「41歳になり、『今後は“風格”的なものを出していかなければ』と思っていた時期であり、でも一体どうやったら出せるものなのかを考えるようにもなっていて。加賀恭一郎役を演じるにあたっては、やはりある種の風格が必要だと思うので、自分にとっては挑戦になるなと思っています。先に映画があり、映画をご覧になった方には阿部さんの印象がとても強いと思うので、そこをどうするか。既にあるイメージとうまく付き合いながら、役を作っていきたいです」
―――小西さんは、松宮というキャラクターをどのように受け止めていますか?
小西「松宮は、序盤は黙々と捜査を続けます。とくに前半は松宮が物語を引っ張っているように感じたので、僕には観客の皆さんを物語に引き込む役割があるのではないかなと思っています。その意識やテンポを大切に、お芝居をしていけたら。
また、成井さんが『松宮は光』と仰っていましたが、“光”は僕の強い武器だと思っています。これまで、“陽”のキャラクターをいろいろやらせていただいて、経験はまだまだ浅いですが、明るさやエネルギーを表現する引き出しは少しずつ増えているかなと。松宮が加賀の背中を追ってきたように、僕自身も成井さんや多田さんの背中を追ってついていき、たくさん学ばせていただきながら、ステキな松宮をやれたらいいなと思っています」
―――多田さんは、加賀という男をどのようなキャラクターと考えていますか?
多田「信念があり、あまり多くは語らずというところで、武士のような男だなと感じています。加賀恭一郎シリーズを読み始め、今『卒業』を読んでいるのですが、加賀は大学生の頃からこんな感じだったんだなと発見でした(笑)。そんな彼の中にもいろいろな悩みや揺らぎは絶対にあるので、クールな人柄であっても、そこをきちんと舞台上で表現したいと思っています。舞台上でクールを演じようとすると、ただただテンションの低いキャラクターになってしまう恐れがあるので、その落とし穴にはまらないよう、心の中には熱いものをもったキャラクターとしてやりたいなと考えています」
―――成井さん、その他のキャスティングに関してはどのようなことを意識しましたか?
成井「この作品の登場人物は年代がバラバラです。岡田さつきや石橋徹郎さんなどベテランにも出てもらっていますが、全体的には役柄の年齢よりも若い俳優さんに集まってもらいました。というのも、つらく哀しい物語を舞台、とくにサンシャイン劇場のような大きな劇場でやる場合は、演じる側にエネルギーがなければ、とてもお客さんには伝わらないんです。松宮も、キャラクターの想定年齢は小西くんの実年齢である25歳よりも上のはず。25歳では、捜査一課には行くのは難しいでしょうから。でも舞台では、松宮を25歳の小西くんがやることに意味があると、僕は思っています」
―――小西さん、多田さんが稽古や公演に向け、楽しみにしていることを聞かせてください。
小西「僕が楽しみにしているのは、やっぱり加賀恭一郎との関係性。クスッと笑える場面もあれば、お互いのリスペクトを強く感じられる場面もあり、多田さんと2人でのお芝居にわくわくが高まっています。
役者仲間たちも、『今回の主演はきっとすごく勉強になるし、いい経験になるよ』と言っていただくので、たくさんのことを学ぶ気満々! 僕は今までいわゆる2.5次元ミュージカルなどへの出演が多く、こういったストレートプレイの作品はほぼ初めて。乗り越えなければいけない壁もたくさんあると思いますが、稽古開始がとても待ち遠しいです」
多田「個人的に楽しみにしていることというと、共演者の石橋徹郎さんが『無伴奏ソナタ』で初代ウォッチャーをやっていた方で、石橋さんのウォッチャーがあったからこそ、去年の僕のウォッチャーもあったと思っています。“心の師匠”のような存在とまた共演できるのがとても楽しみですね。
もう1人、共演者の筒井俊作さんは劇団の先輩なのですが、こ1一年でめちゃくちゃ痩せたんです。そんな筒井さんが今、どんな芝居をするのかすごく興味があって。外見がガラッと変わったことで、精神性にも変化があったのではなないかと……。もともと非常に面白い役者さんですが、今、どういう変化を遂げているのだろうと気になっています。
さっき小西くんは『勉強させてもらう』と言ってくれましたが、これも僕の課題ですが、けっこう人見知りで……(笑)。でももう大人ですから、きちんとコミュニケーションをとり、2人でしっかり話し合い、僕も小西君に食らいつき、2人で一緒に作っていきたいなと思っています。よろしくお願いします!」

小西「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
―――年齢を重ねていわゆる“中堅”となると、後輩を支えたり、助言をしたりという役回りが出てきますね。
多田「劇団公演でいうと、僕の周りの先輩や同期はいい人ばかりで、後輩が困っていたらみんな積極的に声をかけにいくんです。そこで僕は出足が遅れて、『あの人が声をかけているから、自分が行かなくてもいいかな』となりがち(笑)。
また、僕が若い頃に先輩からいただいたアドバイスは、直接的に言われるというより、稽古をしている姿や本番で舞台上に立つ姿など何気ないところからいろいろ勉強させてもらったなという感覚もあるんです。ですから、『俺の背中を見ろ!』とは言いませんが(笑)、自分の普段の言動から、後輩に何かが伝わっていけばいいのかなと思っています」
小西「加賀も背中で語るタイプなので、多田さんと似ているんじゃないかなと、今のお話を聞きながら思いました(笑)。僕自身も人見知りなところはありますが、今回は若手という立場を武器に、分からないことや気になったことは皆さんにどんどん質問していけたらと思っています」
―――今回の舞台化にあたり、ご自分の中で挑戦していきたいことは?
小西「映画版もある、とても人気の高い作品に挑みます。映画版に引っ張られすぎず、自分が舞台上で何を感じるかをいちばん大切に、自分なりの“舞台版・松宮”を作っていけたらと思っています。
この物語は、松宮の言葉を借りると本当に『大きな湖の中の、小さな石ころを探すような』複雑で大変な物語なので、どんな演出になるのかすごく楽しみ! いろいろな人の“祈りの幕が下りる時”を、ぜひ劇場で目にしていただけたらと思います」
多田「バディとして小西くんがいてくれることが、僕にとっても勉強になるだろうなと思っています。40歳を過ぎ、今、自分が面白いと思うことや魅力的だなと思うことが、20代の人たちにとってはどうなのか。価値観の擦り合わせなどを稽古場で積み重ねていけるのを、とても楽しみにしています。
成井さん演出の東野さん作品は4作目。成井さんと東野さん、双方を知っているお客様にとっても初めは意外な組み合わせだったと思いますが、だからこそお客様もわくわくして劇場に来てくれるんじゃないかな。今回の舞台を『東野圭吾シアター』と銘打っているからには、きっと今後もこのシリーズは続いていくんだろうなと僕は勝手に思っているので(笑)。気は早いですが、このシリーズが続くための懸け橋となるような作品に仕上げたいなと思っています」
成井「私は劇作家としてオリジナル作品をずっと書いていて、並行してほかの小説家の方が書いた作品を舞台化するという、二本立てのようなかたちを採っています。様々な小説家の作品をやらせてもらってきましたが、私という劇作家からいちばん遠い、最も違う世界の人が東野圭吾さんだと思っています。
私はタイムトラベルやアンドロイドというハートウォーミングなSFファンタジーをやる劇作家なので、僕が東野さんの作品を舞台化すること、それ自体がもう挑戦なんです」
―――そんな成井さんが“東野圭吾シアター”を立ち上げたのは、大きなことですね。
成井「劇作家の僕から見ると、東野さんはいちばん遠いのですが、いち読者としては大好きで大ファン! ファンだからこそ、“東野圭吾シアター”をやりたいという想いからスタートしています。
東野さんの作品の舞台化は非常に大変で、過去3作も困難を究めましたが、やりがいも大きい。私は梶尾真治さんの“クロノスシリーズ”もやっていて、梶尾さんは最も自分に近いと思っています。梶尾さんの小説を読むと、作者が自分じゃないのが信じられないというぐらい。もちろん、私の才能では梶尾さんのような小説は書けません。でも、描きたいものが非常に近くてフィットする。一方、東野さんは、自分とは全く違うからこそ憧れるのだと思います。
東野さんの作品を舞台化するにあたり、いつも意識しているのは『絶対にユーモアを入れよう』ということ。東野さんの作品は、ほとんどユーモアがありません。でもその舞台化を僕が手掛けるからには、作品のどこかにユーモアを入れ、エンタメ性を高めたい。今回、多田や小西くんにもそういう部分をぜひ作ってほしいと思っています」
―――今作が“東野圭吾シアター”第一作目というからには、今後も続けていく心づもりですか?
成井「続けたいですよね! 舞台化したい作品が、いくつもあります。ですから、今回失敗するわけにはいけないんです。大成功に終わらせて、“東野圭吾シアター2”、“3”、“4”とやっていきたい。頑張りますよ!」
(取材・文:木下千寿)

小西詠斗さん
「ドライヤー。5年以上使っていたドライヤーを、最近新調しました。ヘアメイクさんが使っているのをみて、すごくいいなと思って買いました。ちょっと良いものを買ったので、すぐに髪が乾くし快適です!」
多田直人さん
「スマホのバッテリーを新しくしました! 5年以上使い続けている今のスマホ。バッテリーが劣化していて、電池は1日保つのがやっとくらい。そこで、バッテリーの交換に出すことに。やった! これで電池残量を気にすることもない! ……あれ。あんまり、電池の減りが変わっていないような。もしかして私、スマホの見過ぎ……!? ゲームのやり過ぎ……!? 改善すべきは自分の生活なのかもしれません」
成井 豊さん
「ジョギングシューズ。5年前からジョギングを始めました。4~7日に1回、約6キロ走っています。走り始めて、嫌いになったものがあります。風です。向かい風を受けて走るのは2倍疲れる。冬の寒さには耐えられますが、家を出て向かいの家の木が風で揺れているのを見ると、げんなりします。が、それでも走ります。体力の維持とカロリー消費が目的なので、風が強い日の方がより効果がある。そう思って走ります。辛いけど。新しいジョギングシューズはその辛さを少しだけ減らしてくれる気がします」
プロフィール

小西詠斗(こにし・えいと)
2000年1月21日生まれ、広島県出身。2019年、俳優デビュー。同年には人気の舞台『刀剣乱舞』シリーズに出演し、注目を集める。以降、ドラマや舞台作品を中心に活躍し、研鑽を積む。2025年1月には2nd写真集「水鏡」を発売した。

多田直人(ただ・なおと)
1983年12月17日生まれ、北海道出身。桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻を経て、2004年に演劇集団キャラメルボックスに入団。同年、『スキップ』で劇団員として初舞台を踏む。劇団公演に数多く出演するほか、外部公演にも精力的に参加、多様な活動を続けている。

成井 豊(なるい・ゆたか)
1961年10月8日生まれ、埼玉県出身。早稲田大学卒業後、高校教師を経て1985年に演劇集団キャラメルボックスを設立。劇団公演の脚本・演出を担当。これまでに東野圭吾原作『容疑者X の献身』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『仮面山荘殺人事件』の舞台化を手掛けている。
公演情報
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東野圭吾シアター 舞台『祈りの幕が下りる時』
【東京公演】
日:2025年5月17日(土)〜25日(日)
場:サンシャイン劇場
料:土日9,000円 平日8,000円(全席指定・税込)
【大阪公演】
日:2025年5月31日(土)・6月1日(日)
場:サンケイホールブリーゼ
料:S席9,000円 A席7,500円(全席指定・税込)
HP:https://napposunited.com/higashinokeigo-theater2025/
問:ナッポス・ユナイテッド
mail:support@napposunited.com