
おぶちゃ4月公演は、主宰・大部恭平の転機となった作品『Bittersweet Flowers』を再演する。“何者にもなれなかった”をテーマに、女たちの過去と成長を甘くほろ苦く描く群像劇。作品を代表して主演の稲村梓、おぶちゃメンバーとして初出演の瀬口美乃、脚本・演出・出演の大部恭平に語ってもらった。
―――2021年初演からの再演となります。今の作風のきっかけになった大事な作品と伺いました。
大部「初演からあっという間でしたね。おぶちゃとして2020年から劇場で公演を実施する方向に変えてった時に、初めて書いた新作がこの作品だったんです。シチュエーションを活かした会話劇が多かった中で、『Bittersweet Flowers』(ビスフラ)は書き方を変えた作品で、書くにあたっての取材の仕方もかなり変えたきっかけになった作品です。
具体的にひとつあげると、実在する人のお話をエッセンスとして入れていきました。それがあることによって、自分自身も演出する時の実感があり、演者に対してもディスカッションしやすいというか、今まではどうしても、こうしてほしいっていう絵が強すぎて、そうするべきという脅迫観念がちょっとあったんですけど、この作品を始めたぐらいから、劇場空間だからできるリアルだけどフィクションみたいな、僕の中でひとつ変化を感じられた作品です。それ以降もいろんな作品をやっていく中で、やっぱりビスフラをもう1回やりたい気持ちがずっとあって。4年前に作ったものを今やったらまた感じ方は違うはずという思いでチャレンジします」
―――初演映像を拝見しましたが、女性の生きづらさなど歳を重ねれば重ねるほど染みる作品で、大部さんは女子会を覗いてたんですか?と思ってしまうほどリアルでとても響きました。取材の仕方を変えたとは具体的にどのように?
大部「ひとりを取材したというよりも、学生時代のクラスメイトだった友達とか仲いい人とかと何人かでご飯へ行く時とかに、ボイスメモを回させてもらって。もちろん最初に理由を話して。それを歩きながらもずっと聞いて、メモもしないでずっと聞いて」
稲村「面白い!」
大部「へ~って思うところって、リアルで喋っている時も、後々聞いても同じポイントで。これって自分の中にない感情だったり動機なんだなって、気づきが多かったんですよ。それをどんどんノートに殴り書いて、だけど自分が書きたい筋があって。それを1人ひとりに落とし込んでいくとどうなるんだろうなって」
稲村「そんな努力が! 独特なワードチョイスに納得しました」
大部「僕としては書くアプローチの角度を変えてみたい想いがすごく強かったので、それをやってみて良かったと思っています」
―――主演・秋原亜珠沙(舞台女優)役の稲村さんは、大部さんがオファーしたその日のうちに快諾のお返事をされたそうですが、初演をご覧になっていたのですか?
稲村「いま取材の方法を聞いて、なるほどと思いました。私は最初に台本を読んで、人間の血潮というか脈拍が伝わってくる感じがして、全部のシーンにそう感じてすごい本だなと。そして私でいいのかなとか思いましたけど、これは私がやるぞと、すぐ電話してましたね。またこの役名が“アズサ”で同じ名前で、性格や発言とか思考回路もちょっと私と似ていて(笑)。私を客観的に見たらこんな感じなんじゃないか?みたいな、運命かもって思いました」
大部「すごい熱量で電話くれて(笑)。知らない番号からかかってきて戸惑いながら出たら『見ました!すごい面白かったです!』と、いたずら電話かと」
稲村「(笑)。しかもメールが届いてから3時間後くらい。ちらっと読んで面白い!と」
大部「え?もう読んだの?って。僕は何度か稲村さんを舞台で観ていて、主演舞台の稲村さんが汗水垂らして演じている姿を見た時に、なんだこの人は⁉と。お芝居はもちろん上手いんですけど、人間として面白いって思ったんです」
稲村「嬉しいです」
大部「ずっと気になってて。いつかなんかやりたいなって時にこれが決まって、稲村さんがはまると思いましたし、やってくれたら絶対面白いんだけどなって」
―――自分に似ているとのことですが、役について今考えてることをお聞かせください。
稲村「不思議とこうやりたいなとかがそんなになくて、この人の思考回路がよくわかるんですよ(笑)。彼女も演者で、お芝居が好きっていう熱量がすごく似ていて、私もずっと頑なにやってきた人みたいなところがあるので。何も準備しない方がもしかしたらいいのかなと。色々アドバイスをもらって膨らませていって、その場その場で生まれるものを大切にという感じですね」

大部「去年『Joie!』という作品で主演の橋本真一君が言っていたのが、『こんなに何もしない感覚で板に立つことってほんとにない』と。演じようとしないというか、僕はほんとに何もしてないんだっていうのをずっと言ってて。もしかしたら、今回もそうなりそうな予感がしますし、それを求めているかもしれません。よく演劇で“むき出し”って言いますが、むき出しという鎧をかぶっていると思っていて。稲村さんの四人芝居を観た時も4人がそこにいてとても素敵で面白かったんです」
稲村「確かにあの四人芝居は何もしてない感じありましたね。それを感じ取ってくれてて嬉しい」
大部「でも何もしないっていうところに緊張感はめちゃくちゃあると思ってて。よく演技で嘘つくって言うけど、嘘つかないという嘘をついてるみたいな変なパラドックスがあって。それを4人が守っていて、ちょっとでも自分勝手な自意識が出たら崩れちゃう」
稲村「そうなんです。実はすごい調和が生まれないとできない」
大部「それって共演者を信じてるし、作品も信じてるなって思ったんです。今回もその何もしない女優たちっていうのをちゃんと届けられたら」
―――そしてこの度、おぶちゃメンバーとなって初のおぶちゃ公演出演となる瀬口さんです。やはり台本から入ったのですか?
瀬口「実はおぶちゃに誘っていただいた日に、この作品のお話をしてくださって。そのまま初演の映像を初めて見て、大部さんが描く女子の会話がナチュラルすぎて、どうしてこんなに女子の会話がうまいんですか?と。その時にレコーダーで録っていたという話を聞いて、大部さんの作品への向き合い方にすごくリスペクトを感じて、その時からずっと本番の4月が楽しみです。
でも実は初めて大部さんにお会いしたのは12年前で、私が16歳の高校生の時に一緒に舞台をやったことがありました。大勢大人がいる中で、なんかわからないけど、この人は絶対にすごい!みたいな感覚がありましたね。演出家の方にいただいたアドバイスとかを持って行って、どうしたらいいか訪ねたり、とてもお世話になっていたので、今回ご一緒させていただくことになり楽しみ99%。ただ緊張とプレッシャーが日に日に増してきまして、あの時からちゃんと成長できているところを見せられるか、ちょっと不安があります(笑)」
大部「お互いその間にいろんな経験をしているよね。SNSがあったから繋がってたけど、当然連絡先も知らなくて。彼女は“琴乃美”というお祝い花を作るバルーンの会社を経営していて、ちょうどお祝いを入れたいイベントがあったんで、そうだ相談しようってDM送ったのが去年1月。そこから舞台に来てもらったり、話してるうちに気づいたら誘ってました」
瀬口「はい。そのまま私もお願いしますみたいな感じで去年の10月に入れていただきました」
稲村「うわ~素敵! すごい決断!」
瀬口「普段だったら必ず1回持ち帰ってちょっと悩むはずなんですけど背中をすっと押されたような感じで何の迷いもなく。それからはもういろんな出会いをくださって」
―――美乃さん演じる土岐桔穂(とききほ)役は元音楽家で副業もやっている、昨今よく話題になるような闇を感じます。演じる側もとてもピリッとくるように思いました。
瀬口「いつもならポンポンポンと、どうやっていこうみたいな事が頭の中でイメージがあるんですけど、今回は役に自分を近づけていくっていうよりは、自分と似てる部分もあり、自分が経験してきたこととも少し似てる部分があるので、ちゃんと寄り添いながら、一緒に隣を走りながら考えて稽古していきたい気持ちがありますね」

―――このチームはパズルがバッチとあったような、チーム力を感じます。大部さんが思う瀬口さんの魅力とは?
大部「美乃は女優さんなんですけど、同時に経営もやっている背景もあり、人としてのパワーがあります。そこは教えるとか、伝えることのできない能力だと思っていて。さっきの稲村さんの話と同じことですが、根っことしては僕が人として魅力を感じています。2人とも演出では伝えられない何かをもう備えているんです。僕も巻き込む仕事で美乃も巻き込める人。この人が一緒にやってくれたら渦となって、おぶちゃとしては全然違うことになるんじゃないかと思って。入って3か月ぐらいですが、もう色々と変化を感じています。もう1人、柳下大も加わり、面白いメンバーになってきまして、どんどん渦が広がっていってるので、この公演もそのうちの大事なひとつとしてすごく楽しみです」
―――再演ですが、意識しようと思っていることは?
大部「再演は僕の中に絵があり、観てくれた人の中にも絵があって。僕自身が脚本演出しながら、出ながらプロデュースもやってるので、良くも悪くも僕の調整が効きやすいんです。だけど、女優さんがこれだけ出てくださる公演はなかなかないので、僕自身も稽古で作っていくものを大事にしたいと思っています。理想でいうと、もう早く台本を書き換えたいんですよ。でも急がないようにしたいなっていう自分もいて、すごいせめぎ合っています。早く読み合わせして、読み合わせした時にひらめいた何かがあるんだったら、そのままやればいいし、ただ僕がこうしますって決めたら、僕の色にみんなが寄り添ってくれるわけで」
稲村「それでも素敵にはなりますけどね」
大部「でもそれはやってきたので、あえてその渦に巻き込まれる、予想がつかないようにしていきたくて、その根っこの面白いものは絶対伝わると思っています。むき出しと言っても、別にみんな勝手にむき出すし。その場にいる人から何かを受け取って、劇場公演というものをすごく大事にしたいです。あの空間で集中力のある時間を、お客様も一緒に気持ちよく過ごしたいと強く思っています」

―――今回のチラシもインパクトがありますが、ヒガンバナにメッセージを感じてしまいました。
大部「ナイス考察です。別名の饅珠沙華(まんじゅしゃげ)から珠沙をとってアズサにしていますし、色んな意味を持っている花で。元々この題材の仮タイトルが“徒花”で、偽物の物語、何者にもなれなかった話を書きたいとか、初演の時に色んな想いを込めた記憶があります」
―――稲村さん、瀬口さんが思う見どころポイントとは?
瀬口「女性が学生時代から成長していくまでの過程を覗き見てる感覚になるところがポイントです。初演を拝見したのが10月で、今朝もう1回観てきたんですけど、観る時の自分の気持ちによって感じ方が全然違うんです。さらっと見てた部分も今朝は『うわっ』と思ったり、注目する部分が変わってくるので、いろんな方に観ていただきたいと思います」
稲村「女性って弱い人はいないと思うんです。みんなそれぞれ強くて、したたかで、可愛くてなんか寂しくて、いろんな側面を持ったたくさんのフラワーズたちの生き様がポイントです。個々を引き立たせつつ、ひとつの花みたいな感じになるのではと、そうなればいいなと思いますね」
―――そして前回主演だったtamico.さんが出演されるのも見どころですね。
大部「そうですね。やっぱり前回作れたのはタミちゃんのおかげだと思ってるので、今回も一緒に作りたいと伝えたら快諾してくれて、全然違う役をやるので、タミちゃんにも楽しく関わってもらえたら」
稲村「心強いです!」
大部「初演を観た人も満足してもらえるキャストが揃いましたし、主演・稲村梓にしかできないアズサができると強く信じています」
稲村「人間の本質って、あ~これだよねって思ってもらえるような作品に絶対なります。このおふたりがいれば大丈夫だなってとても安心しました。お客様も安心して楽しむつもりで来ていただければと思います」
―――タイトルにちなんで、ちょっとビターな出来事のあと、自分を甘やかす癒し、スイートなものを教えてください。
稲村「今日も食べてきたんですけど、ねっとりした焼き芋ですね。大好きで最近オーブンでも作れることが判明して自宅でも焼いています(笑)。紅はるかという品種にこだわって、日々のパワーにしています。美容にもいいし腹持ちもいい。たぶん稽古場でも食べてると思うので気にしないでください」
一同(爆笑)
瀬口「いつも風船屋さんの会社の仕事が1日の中で大半を占めているので時間がほんとになくて。ずっとパソコン作業をやって台本を覚えて、みたいな感じが多いので、寝られる日があったらとにかく寝ることですね。睡眠が癒しですね」
大部「ビターなことで言うと、初演から4年たって明らかに違うのは恰幅が良くなったなと、見た目太ったんですよ。この間ビジュアル撮影をやった時に自分の写真全部NGにしたかったくらいで。で、今月から痩せなきゃと小麦と揚げ物、麺類とポテチなどのお菓子類を禁止で今継続しています。でもスイートで言うと、今日もさっきギフトチケットの有効期限が切れそうだったので、これはもうチートデーだと(スタバを)買ったんですけど、めっちゃうまいね(笑)」
稲村「今度焼き芋を持っていきますよ! 美容とダイエットにオススメです」
大部「ほんとに? 一緒に食べるわ、ありがとう!」
(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

稲村梓(いなむら・あずさ)
1990年12月1日生まれ、東京都出身。舞台を中心に活躍中。主な出演作に、舞台『けものフレンズ』JAPARI STAGE!シリーズ、舞台『フラガール』シリーズ(主演)、舞台『ウマ娘 プリティーダービー』ほか、プロデュース公演も開催している。東京FM 毎週日曜夕方5時~『NISSANあ、安部礼司』出演中。

瀬口美乃(せぐち・よしの)
1996年5月11日生まれ、東京都出身。12歳から芸能活動を始め、女優として活動している傍ら、バルーンショップ『琴乃美』を立ち上げ、実業家としてメディア出演するなど活動の場を広げている。Amazonプライム・ビデオ『バチェラー・ジャパン シーズン2』に最年少で参加、TBS日曜劇場『半沢直樹』、Netflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』、『全裸監督2』など多くの話題作に出演し注目を集めている。

大部恭平(おおぶ・きょうへい)
8月17日生まれ、神奈川県出身。おぶちゃ主宰。脚本家/演出家/プロデューサー/俳優として舞台やドラマに出演するほか、脚本・演出として多くの作品を手掛けている。“リズムの良い会話劇”を得意とし、人間味、温かみのある雰囲気・空間づくりの演出には定評がある。近作に、『ポエム同好会』『LALL HOSTEL』『Joie!』など。毎週日曜日21時~「おぶちゃチャンネル」YouTube配信中。10月には横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールにて、脚本:キングコング西野亮廣、演出:時速246億 川本成、主演:大部恭平の作品「魔法使いのパレード(仮)」が控えている。
公演情報

おぶちゃpresents『Bittersweet Flowers』
日:2025年4月2日(水)~6日(日)
場:シアター風姿花伝
料:最前特典席9,900円 特典席8,800円
通常席6,600円 平日割[4/3・4]5,900円
(全席自由・整理番号付・税込)
HP:https://ofcha.biz/bsf2025
問:おぶちゃ mail:staff@ofcha.biz