未曾有の事態互いへの無理解から人間が起こす災いを描く 「平和への種がここで芽吹いて、起こすべきではない争いによる悲劇のない世界に」

未曾有の事態互いへの無理解から人間が起こす災いを描く 「平和への種がここで芽吹いて、起こすべきではない争いによる悲劇のない世界に」

 teamキーチェーン第20回本公演『オリーブのたね』が4月19日から上演される。災害という状況の中での「言葉」の存在、人間関係のあり方を、東日本大震災で自身も被災した経験を持つAzukiが描く。本作に出演する末原拓馬、輝山立、田中愛実、そして作・演出のAzukiに公演への想いを聞いた。


―――Azukiさんがこの作品を書くに至った経緯や思いを教えてください。

Azuki「2年ほど前に言語聴覚士(ST)という、吃音や発話に対しての障害のある方のアシストをするお仕事をされている方と『言葉ってなんだろうね』というお話をしたことがありました。言葉が話せないというだけで能力がないと判断されたり、本来の能力よりも低く見られてしまうことがある。それって、すごく嫌な世界だねという話をしていました。私自身も脚本を書いて皆さんに演じてもらうという言葉を扱う仕事をしているので、そうした会話の中で改めて言葉を追及するようになったというのが始まりです。
 言葉は実態のないものですが、それが国を分けたり、人を差別したり、区別したりもします。そうした言葉に対しての思いを演劇として作ろうと考え、それを表現するために震災を扱うことにしました。私自身も被災体験がありますが、震災のときには普段は抑えられている感情が出てしまったり、攻撃性が強くなったりすることが多くあります。今回は、被災したときの避難所を舞台に描いていこうと思っています」

―――末原さん、輝山さん、田中さんは出演が決まり、脚本をお読みになってどんなことを感じましたか?

末原「少し前にオファーをいただいていたのですが、その段階では吃音の方の本を書くというお話だけをいただいていました。以前、うちの劇団員がteamキーチェーンさんの作品に出演させていただいていましたが、そのときにもやはり病気を扱っていて、(Azukiは)そうしたテーマを絶対に雑に扱わない人だということは分かっていたので、お話をいただいてぜひと思いました。実際に脚本を読ませていただき、震災やディスコミュニケーションのお話を、すごく現実的に描きながらも、ある意味では寓話的で、一俳優として演じるのがすごく楽しみです。ただ同時に、しっかりと役を作らないわけにはいかないですし、自分の身体から出てくる感情によって変わってしまう作品でもあると思います。それは僕にとって怖い挑戦でもあります。言葉を話すことが難しいけれども、頭の中には言葉が溢れている人物なので、どう感情を載せればいいのか。自分自身の内側を充実させて、誠実に役に向き合っていきたいと思います」

輝山「僕は昨年、朗読劇でAzukiさんと初めてご一緒したのですが、そのときはマルチキャストでたくさんの出演者がいて、稽古もそれほど回数がないという現場でした。ただ、teamキーチェーンの方々も作品を支えてくださる立ち位置にたくさん入ってくださっていたということもあり、すごく演劇らしさを感じました。すごいところに来てしまったという感覚と、現場の楽しさと皆さんの作品への愛を感じて、なんていいチームなんだろうと。それから劇団の公演を拝見させていただいたりしていましたが、今回、こうして出演させていただけることがすごく嬉しいです。ですが、脚本を読ませていただいたら、めちゃくちゃ大きな地図を見せられているような気持ちになって(笑)。登場人物もさまざまな思いを抱えていて、作品の軸もいろいろな要素がある。まだ紐解けるほど読み込めていないので、稽古を重ねてさらに深くこの作品について考え、道筋を作ることができたら、素晴らしいものをお届けできるのではないかと今、ワクワクしています」

田中「私はこれまでにもteamキーチェーンさんの作品に何度か出演させていただいてきましたが、最近の作品では家族のお話を描いているという印象が強く残っています。家族には家族にしか分からない共通言語がありますよね。なので、毎回、暖かい気持ちで読ませていただいていましたが、今回の脚本はいつもよりも傷つきました。環境や国が違う人たちがコミュニティの中で関わると、摩擦が生じてくるのだなと感じました。この物語を20人のキャストでどう作っていくのか、どのようにお伝えできるのか、今はドキドキもあり、楽しみでもあります」

―――それぞれが演じる役柄については、今はどのような印象を持っていますか? 末原さんは、吃音のある男性・榎本司役です。

末原「言語がうまく扱えないことのもどかしさみたいなものが全編に書かれています。書かれているものにどうやって血肉を与えるかが自分の勝負だと思います。今はまだ優しいとか強いとか、一言で彼を表現することはできませんが、脚本を読んですごく好きになれる役だと感じました。なので、この役のために身体を受け渡し、自分と混ぜたときに、彼なりの汚い部分や嫌になるような部分がどんどん見つかってきてようやく完成するのかなと思います。Azukiは普段は人間のきれいなところにあえて目を向けるタイプの人だと思いますが、今回は実際に自身が経験した、人間の怖い部分も描かれているので、きっとかなり自分を吐露して書いたのだろうと思います。借り物の痛みではなく、自分の知っている痛みを提出してきたんだなと思ったので、ファンタジーにせず、きちんとこの役としてその世界に入りたいと思います」

―――輝山さんは、ある過去を持つ森田直人役を演じます。

輝山「根本的な性格や気持ちの流れには共感できる部分はありますが、抱えているものが重すぎて。今は完全に俯瞰で見てしまっています(苦笑)。実際に自分がこれを経験したと考えたら、重い問題です。稽古が始まって、そこに身を置かないとどう演じていいのか分からない。それくらい抱えているものが大きい印象です。他の登場人物たちもいろいろなものを抱えているので、それぞれの登場人物とのコミュニケーションから作っていこうと思いますし、逆にいえばやりがいしかない役だと思います」

―――田中さんは金書延役です。

田中「私も非常に難しい役だなと感じています。改めて今回、脚本を読んだことで、私はあまりマイノリティになったことがないんだなと新たな気づきもありました。『自分は人と違う』という思いを持った状態でコミュニティに入るのはすごく苦労が大きいと思います。そして、私は話すのがすごく遅いのですが、今回ははっきりとものを言う人物です。何事もはっきりと言いますが、演じる上では、そうした表に出ている言葉やその内容より、心の方が大切なのではないかという気がしています」

―――Azukiさんは皆さんにどのような期待をされていますか?

Azuki「まず拓馬は、嫉妬するほどの表現力を持っている人だと思います。プライベートで話をすると弱い部分があったり、いろいろなことを必死に考えていたりと、とても人間味のある人ですが、舞台に立つことや戯曲を書くことで、彼の思いは表現を通して爆発的なエネルギーを持つ。そんな人だからこそ、吃音という役どころをお願いしたいと思いオファーしました。多くの言葉を話せないし、うまくできないことも多い人物ですが、そうしたことを『言葉』1つひとつに集約して演じることが拓馬はできるのではないかと思います。ただ、表面的に病気を扱ってしまうと、実際の罹患されている方々にとても失礼になってしまうので、共に真摯に、追及していきたいと思います。パーソナルな部分で言語を扱ってほしいと思いお願いしました。
 立は、(昨年、一緒だった)朗読劇のときにキラキラしていて、すごく楽しいと言ってくれていたので、その気持ちをいただいた上で、ワクワクする現場にしようと思っていました。それならばこれまでにあまり演じたことがないものをお願いして、悩みに悩んでもらおうと(笑)。精神的にきつい役でもあるので丁寧に一緒に生みあげようと思っていますが、さっきの話を聞いてやりがいを感じてもらえるようなので、安心してます。信用した上での配役ですし、苦しみを一緒に共有して作っていけたらと思います。
 愛実は先ほど『マイノリティに入ったことがあまりない』と話していましたが、私から見るとだいぶ特殊だと思います(笑)。ただ、そんな彼女が演じると、キャラクターが想像の枠を外れて変化して、役を積み上げてくれるんですよ。いわゆるヒロインではないものに仕上げてくれる印象があります。そうした彼女の俳優としての個性、人間として持っている個性を思い切り出していってもらいたいと思います。この作品は、ワンシチュエーションで登場人物が常に舞台上に出ている構成になっていますが、その中で彼女が物語を引っ張っていってくれるのではないかと思っています」

―――改めて読者にメッセージをお願いします。

末原「これから我々は稽古に入り、全力でこの物語を作る準備をして、自分たちなりにいろいろなものを見つけていくと思いますが、劇場に皆さまがいらっしゃって、そこで一緒に体験することで完成を見るというのは、演劇ながらではのものだと思います。言語は、所詮道具で、人と共有するために使うものですが、それが毒にもなるし、その言葉で生きていけるというほど魂を持つこともある。僕たちが作るこの作品も、所詮はみなさまとコミュニケーションを取るためのツールとしてご用意するつもりです。そこでどのような時間を過ごせるのか、それを楽しみにきていただけたらと思います」

輝山「お芝居や演劇にはいろいろなジャンルがありますが、この作品はすごく生活に寄り添っていて、意義のあるものになると思います。ここにしかない、ここでしか持って帰れないものがあると思います。気軽に観にきてくださいというのは難しいですが、きっとすごく貴重な体験ができる時間になると思います。劇場で体験していただきたいと思います」

田中「みんなで誠実に、演劇の良さを忘れずに創作してまいりますので、よかったら劇場にお越しください」

Azuki「teamキーチェーンでは、これまで再演をせずに、新作しか作ってきませんでしたが、近年は再演を望む声も届いています。今回の作品は普遍的な物語なので、再演の可能性が大いにある作品だと思いますが、私は再演をしたくないと思っています。これで終わらせたいという願いを込めて、『オリーブのたね』というタイトルをつけました。平和への種がここで芽吹いて、起こすべきではない争いによる悲劇のない世界になれば。この作品を通して皆さんにそうした想いをお届けできればと思います」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

末原拓馬(すえはら・たくま)
東京都出身。俳優・脚本家・演出家。2006年の旗揚げ以来、劇団おぼんろの作・演出・出演を担当。外部作品への出演や脚本・演出も意欲的に手掛けている。主な外部作品に、Identity V STAGE Episode1『What to draw』(脚本)、『純情ロマンチカ』(演出)、Stray Cityシリーズ(脚本・演出)、剣劇『三國志演技~孫呉』(脚本・演出)など。

輝山 立(きやま・りゅう)
1992年9月11日生まれ、東京都出身。近年の主な出演に、ミュージカル『忍たま乱太郎』シリーズ 小松田秀作役、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズ 星海光来役、『SK∞エスケーエイト The Stage』MIYA役など。

田中愛実(たなか・あみ)
1990年7月13日生まれ、東京都出身、イッツフォーリーズ所属。近年の主な出演に、ミュージカル『聲の形』、ミュージカル『おれたちは天使じゃない』、teamキーチェーン『ゆらりゆられ』、なかないで、毒きのこちゃん『シャーク・アタック・トルネード・アフタートゥモロー』、朗読劇『杳たる月』など、ジャンルを問わず幅広く活動中。

Azuki(あずき)
1982年2月12日生まれ、大阪府出身。teamキーチェーン代表。脚本・演出、監督、舞台監督、制作、演出助手、演出部と小劇場から大劇場まで国内外問わずジャンル問わず多数の公演に関わっている。

公演情報

teamキーチェーン 第20回本公演
『オリーブのたね』

日:2025年4月19日(土)~29日(火・祝)
場:吉祥寺シアター
料:前売4,900円 当日5,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.teamkey-chain.net
問:teamキーチェーン
  mail:teamkeychain1221@gmail.com

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