年齢問わず誰でも楽しめる 初めてのKERA作品としてもオススメ 祝祭感は保ちつつ、キャストの個性も入れて磨き上げたい

年齢問わず誰でも楽しめる 初めてのKERA作品としてもオススメ 祝祭感は保ちつつ、キャストの個性も入れて磨き上げたい

 劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)と、俳優の緒川たまきが2020年に始動した演劇ユニット「ケムリ研究室」。5~6月に催される第4回公演では、第1回で上演した『ベイジルタウンの女神』を再演する。2人と、新キャストとしてベイジルタウンの“王様”を演じる古田新太に話を聞いた。

 再演を決めた意図について、KERAは「再演や人の脚本を上演する時は『なぜ今これをやるのか』と聞かれるけれど、明確な意図はない」と笑う。

KERA「ただ、初演は20年のコロナ禍でした。僕がその年企画していた4本の中で、唯一上演できたのがこの作品。客席を半分しか使えず、見逃してしまった人も多いだろうというのが再演する1つの理由です。当時はコロナ対策に追われてバタバタしていたこともあり、もう一度じっくり取り組みたいと思いました」

緒川「ケムリ研究室の旗揚げは華やかにしたいと考え、まさかコロナ元年になるとは思わずに作品のテイストを組み立てていました。結果的にコロナ禍での制作になってしまったけど、皆さんに明るい気持ちを提供するにはぴったりなものになりました。でも、あくせくしながら作ったので、もう一度落ち着いてこの作品に取り組みたいと思っています。また、立ち上げから追いかけて下さっていた方々に、客席数制限などで観ていただけなかったことへの申し訳ない気持ちがあり、再演したらぜひ観に来て下さいという願いを込めた企画でもあります」

KERA「やる側も観る側も格段に楽しい芝居だし、またやりたいなって」

 KERAとは共同プロデュース企画も手掛け、“旧友”と言える古田へのオファーは、意外にも心配を伴うものだったようだ。

 古田「KERAっちとたまきちゃんが2人でいきなり来て、“ベイジル”やるけど出ない?と言って。スケジュールが空いてたらいいよと答えたら、KERAっちが、古ちんの苦手な“いい話”なんだけど……って(笑)」

緒川「古田さんはいいお話が嫌いだから、断られるかもしれないと話していて(笑)。なんとかお受けいただきたいと祈っていたので本当に嬉しかったです」

古田「出演が決まったので初演を観直したら、結構ひどいヤツがいっぱい出てくる。最後がハートウォーミングだから騙されていたけど、前半はひどいヤツだらけ(笑)」

緒川「そうなんです。みんな生きるためにはひどいこともする世界観なので」

古田「面白いよね。前回は王様役が仲村トオルくんだったから、(前回に引き続き出演する)山内圭哉にもキャスティングをすごく驚かれた(笑)」

 5年の時を経て作品に与えられた変化の余地に、期待せずにはいられない。特にじっくり作り直したいところや、取り組み直したいところを聞くと。

KERA「緒川さんと1人で、装置をどうするかなどの打ち合わせをしました。見直すと反省点は沢山ある。初演時は稽古と同時に台本を書いているので、どんな肌触りの芝居にするか絞りきれていない部分がありました。作品をよりくっきりさせられるんじゃないかという思いがあります。また、今回は王様を古ちんが演じるので、(初演の仲村とは)イメージが違う。妹のハム(演:水野美紀)とのやりとりのバランスも変わった方が面白いかなと思っています。今まで(古田と)ナンセンスな作品を3本一緒にやって、2020年の『ベイジル〜』初演の前にやるはずだった『欲望のみ』(※緊急事態宣言により公演中止)は陰惨な芝居になる予定だったから、その反動で温かい芝居がやりたくなるだろうという計算だったんです(笑)。再演ではナンセンスとは別の顔の古田新太を観ていただけると思います」

緒川「ケムリでは、キャストとスタッフを繋ぐ役割、衣裳やヘアメイクのサポートもおこなっています。初演は手探りすぎて満足にできなかった思いがあります。役者として皆さんと築く部分と、ケムリにお招きしている側としての立場、両方をいい形にもっていきたいと目論んでいます。私が演じるマーガレットは、人の善意に縋って生きているような人で、引っ張っていくタイプとは違いますが、役の持ち味も大事にしながら、カンパニーのサポートを精一杯努めたいです」

KERA「それ、役の話と自分の話がごっちゃになってない?(笑)」

緒川「そうなんですけど(笑)。役に入りながらも、主宰側としての目も持つことができる楽しい現場なんです。自分のことに集中していても、周りの声に耳を澄ましてしまう。そこは他の現場にはない楽しみの1つです」

 初演から第3弾までの公演を通して、KERAと緒川が考えるケムリ研究室の魅力、また、ユニット公演に初めて参加する古田が楽しみにしていることは何だろうか。

KERA「ケムリの公演は、緒川さんがキャストであると同時にプロデューサー的な立ち位置でもあることが一番大きいです。例えば、2021年に第2弾として上演した『砂の女』は、僕1人だったら決してやろうとは考えなかった作品。緒川さんに背中を押してもらったことで初めて上演が実現できた芝居です。衣裳も僕より彼女の方が把握しています。公演ごとにカラーが違うので、ケムリの作品はこう、というものはありませんが」

緒川「KERAさんがこれまでやってこなかったこと、意識的に避けてきたことを見つけ出して、見つめ直すように促すのが、ケムリの良さだと思います。私は全力で背中を押しますし、そのことで新しいものが生まれると嬉しいです。今作は再演ですが、やろうとしていることがブレていかないようにお互いにチェックしあっています」

古田「KERAっちとは何本もやっているし、(KERAが主宰する劇団)ナイロン100℃の作品にも出たことがあります。ただ、ケムリはちょっと香りが違うので、そこに参加できるのは楽しみです。KERAっちとやる時は大体ふざけちゃう(笑)。これまでは半分役に入っていればいいみたいな作品だったんです。今回はたまきさんもいるし、乗っかって楽しもうかなと。ファンタジーな世界だから、ゲスなことをする必要もないし(笑)」

 続投のキャストと新キャストが入り混じったキャスト陣の印象、ケムリ研究室からの期待についても聞いた。

KERA「前回は菅原永二と初めましてで、おかしくて仕方なかった。永二を見ながら大笑いする俺を見て、圭哉が嬉しそうな顔をしていたのも嬉しかった(笑)」

緒川「永二さんに限らず、キャストの皆さんの持ち味に動かされる時間がすごく楽しかったです。KERAさんが書いてきたものが変わってもいいというか」

KERA「犬山イヌコと温ちゃん(温水洋一)のペアも、水野も尾方宣久も植本純米くんも、みんな素晴らしかった。初演は高田聖子ちゃんとも初めてだったね」

緒川「聖子さんも彼女の持ち味で役が変化していきました。今回も、王様を古田さんが演じることでどう変化するか。いろいろなキャッチボールをしながら稽古できると思うので、とにかく楽しみです」

古田「キャストの個性が反映されることもあるわけでしょ?」

KERA「聖子ちゃんは緒川さん演じる女社長のライバル役だから、当初は完全なる悪役で設定していたの。でも、稽古をしているうちにそれは勿体ないなと感じた。絵に描いたような悪役を演ってもらうよりも、根はとても優しい善人を演じてもらった方が確実に面白くなると思って、その思いが話の展開を作り、後半のベンチのシーンに繋がりました。今回は坂東(龍汰)くんと藤間(爽子)さんが初めまして。どんな方かまだ分かっていないので、稽古に入る前に一度ゆっくり話をしたいです」

 最後に、楽しみにしている方、気になっている方に向けてのメッセージを聞くと、KERAが「観に来て下さい。躊躇なく」と言い切り、緒川も「躊躇する必要はないと思います」と笑顔を見せた。

KERA「今はチケット代が高くなって、月3本観ていた方も1本しか観られなくなるなど大変だと思うけど、ぜひこの作品を観に来てもらいたいと思っています」

古田「(KERA作品が)初めての人にもお勧めできるからね」

KERA「よく、私の芝居は教育上よくないんじゃないかと悩まれる親御さんがいますが、これはお子さんも大丈夫です」

緒川「もちろん、お父さんお母さんもね。観たことで仲違いする心配もないのでご安心ください」

(取材・文:吉田沙奈 撮影:立川賢一)

プロフィール

ケラリーノ・サンドロヴィッチ
劇作家・演出家・映画監督・音楽家。劇団ナイロン100℃の主宰、KERA・MAPやケムリ研究室といった演劇ユニットも手掛ける。近年の主な作・演出作品に、『世界は笑う』、『しびれ雲』、『眠くなっちゃった』、『骨と軽蔑』、『桜の園』など。

緒川たまき(おがわ・たまき)
映画『PU プ』で女優デビュー。1997年に第35回ゴールデンアロー賞 演劇新人賞、1998年に第13回高崎映画祭 最優秀助演女優賞を受賞。2020年にケラリーノ・サンドロヴィッチとケムリ研究室を旗揚げ。no.2『砂の女』にて第56回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第29回読売演劇大賞 最優秀女優賞を受賞。近年の主な出演作品に、東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』、『桜の園』、映画『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』、『クモとサルの家族』など。

古田新太(ふるた・あらた)
劇団☆新感線の看板俳優。舞台以外にもドラマや映画に出演するほか、アニメや吹き替えでの声優活動なども幅広く行っている。近年の出演作に、『バサラオ』、『天號星』、ドラマ『モンスター』、『不適切にもほどがある!』など。今年の秋冬は劇団公演が控えているほか、映画の公開も控えている。

公演情報

ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』

日:2025年5月6日(火・振休)~18日(日)
  ※他、地方公演あり
場:世田谷パブリックシアター
料:土日休 S席[1・2階席]13,800円
      A席[3階席]9,800円
  平日 S席[1・2階席]12,300円
     A席[3階席]8,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/kemuri-no4
問:キューブ
  tel.03-5485-2252(平日12:00〜17:00)

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