東野圭吾の『手紙』を原作としたミュージカルが、今春再び上演される。高校生の弟・直貴の進学費用を捻出するため強盗殺人を犯した兄・剛志。加害者家族となってしまった直貴のもとに、服役中の剛志から手紙が届くようになる。2022年に引き続き、直貴役を演じる村井良大、そして剛志役を演じるspiに、前回出演にまつわる思い出や再演への想い、お互いについてなど、ざっくばらんに語ってもらった。
―――おふたりは2022年に同作へ出演されていますが、当時の思い出を教えていただけますか。
村井「コロナ禍の影響が残る中での稽古と本番でしたが、(演出の)藤田(俊太郎)さんとキャスト全員でしっかり話し、作品を通して伝えるべきテーマや空気感、そして勉強すべきことなどいろいろな事柄を共有したので、稽古はわりとスムーズに進んだんじゃないかな。稽古中はずっとマスクをしていましたが、みんなが作品の輪郭をしっかり捉えられていたから、マスク云々はあまり気にならなかった気がします」
spi「思い出したわ~。ずっとマスクして稽古をやっていて、通し(稽古)で初めてマスクを取ったら、みんながめちゃめちゃ芝居し出したっていう記憶が(笑)。そこから受け取るものが俄然多くて、やっぱり目だけじゃわからないことは多いなと思いました」
村井「それはそうだね。今回は稽古の段階から、さらにこと細かくいろいろなことをすり合わせていけるかなと思います」
―――テーマが重く、演じるうえでは苦しさもある作品だと思います。本作のオファーを再び受けて、どのような想いがありますか?
村井「差別というとても重い問題を取り上げた作品で、観るたび、演じるたび、胸に響くものがあります。時代や世代を超えて、人の心に刺さる作品。だからこそ、2025年版としてできることを、またしっかりやっていきたいです」
spi「僕はオファーが来たとき、『本当に勘弁してほしい』と思いました」
村井「演じる役が、つらい状況だからね。ずっと1人だし」
spi「お引き受けしたのは、藤田さんと村井くんへの友情ですね」
村井「ありがとう! 友情出演なんだね(笑)」
spi「ほかに剛志役をやれる人がいるかと客観的に考えると、いないなと思って。それに前回、やり切れていない部分があるので、今回でそれを消化してバシッと終わらせたいなと」
村井「おぉ、そうなんだ。やり切れていなかったことって?」
spi「直貴と剛志のある場面で、自分の思い描いていた演出意図が藤田さんにきちんと伝わっていなかったんだよね。舞台を観てくださった知人の方から、そのシーンに関してダメ出しをいただいて、『伝わっていなかったんだ』と気づかされて。だから今回の出演が決まったとき、藤田さんに連絡して『あそこは、もっとわかりやすくしましょう』と話したんだ。だから村井くんにも、後々相談させてもらいたいんだけど……」
村井「いいよ、もちろん! 僕も制服姿が厳しくなってきたので、この役をやるのはそろそろ限界かなと思っているよ(笑)」
―――藤田俊太郎さんの演出には、どのような魅力がありますか?
村井「まず、藤田さんなりに練った場を提供してくれます」
spi「フィールドとルールをくれるんだよね」
村井「そう。僕らはその中で遊んでみる。その結果を受けて、藤田さんがさらに新しいルールや灯火をくれる……という感じ。藤田さんのフィールドの中で自由に動けるという楽しみがあります」
spi「僕も村井くんも、藤田さんの演出が肌に合うタイプ。僕らが演技プランを持って行き、藤田さんがそれにGOかNOを出すのですが、GOの可能性がとても大きい。だから、とてもやりがいがあります」
村井「役者を信じてくれているのを感じられて、嬉しいよね」
―――お互い、役者として刺激を受ける部分を聞かせてください。
村井「何と言っても自由なところ。しかもその自由がぶっきらぼうじゃないのが、すごくいいんですよね。自分に正直でありながら、軌道修正する冷静さもある。それから自分の感情をベースに、1の感情を100ぐらいに膨らませることがすごく上手だなと思う。ハートか、声か、それとも脳なのか分からないけど、『spiが積んでいるエンジンは、自分とは違うんだろうな』と感じます。だから一緒にやっていて、毎回楽しい。
それに、いつも本心でいてくれる感じがするんですよね。彼自身に嘘がないのが、すごく大事だと思います。演劇には段取りやセリフがあり、言ってみれば“嘘”なんですけど、そこに真実味を持たせるのが役者のいちばん大事な作業。それをきちんと踏まえつつ、本人が楽しんで芝居をしている姿が、観ていて爽快です」
spi「ありがとうございます! 村井くんは、芝居の質感のチョイスが自分と近いなと思います。芝居の引き出しから選ぶものが、俺は外国っぽい感じの自由さで、村井くんは和の自由の使い手だなって思う。
彼は歌舞伎など日本の伝統芸能から現代劇まで、幅広い領域の芝居を好きで観ていて、よく勉強しているんですよ。それに舞台もたくさん踏んでいるから、彼が引き出しを開けて取り出してきたものを見ると、『だよね!』と腑に落ちることが多い。こういう役者って、あまりいないなと思う。僕は完全に信頼しきっている俳優って本当に少ないんですけど、村井くんに関しては本当にストレスゼロという感じです」
―――今回の出演に向けて、楽しみにしていることというと?
村井「今回の台本には、1つ大きな変更点があります。作品にとってとてつもなく重要な要素で、加害者家族への差別の深刻さをより感じられるはずです。
今回、夫婦役をやる優河さんとは、2023年にリーディング『鳥ト踊る』でご一緒させていただきました。一緒に良い夫婦像を作っていけたらと思っています。また、今回のキャストは“再出演組”と“初出演組”がいるので、双方をうまく繋げてコミュニケーションを取っていきたいですね」
spi「僕の楽しみは……稽古オフかな(笑)。前回、千穐楽を迎えたときに『出所!』って思ったもん」
村井「稽古も本番も、心境的には牢屋にいる感じだもんね」
spi「前回よりは、役を自分から乖離させることができるような気はしますが、うまく切り替えてやっていきたいです」
―――おふたりは、プライベートも演じている役の影響を受ける方ですか?
spi「僕は結構、影響を受ける方ですね」
村井「僕もそうだな。前回は劇中で日々泣いていたからか、公演期間は睡眠が3時間しか取れなくて」
spi「自律神経が乱れたんだろうね」
村井「連日、3時間睡眠で『大丈夫かな?』と心配していたんですけど、最後まで声も枯れず、『意外と大丈夫なんだな』と思いました(笑)。でもやっぱり体に負担がかかるので、今回はなるだけ寝たいです」
―――役から気持ちを切り替えるためにやることというと?
spi「僕はジムで体を動かすこと。感情と身体って繋がっていて、たとえば胸が苦しくなると横隔膜やあばら、腹筋が閉まって『胸が痛い』、『悲しい』といった感情になるんです。だから体のポジションをニュートラルに戻すと、感情もリセットされる」
村井「あぁー、なるほどね!」
spi「そういうことをやらないと、役に気持ちをどんどん持っていかれてしまうので」
村井「健康的ではなくなるよね。僕は家でゆっくりすることが、気持ちの切り替えになっているかな。公園に行って、自然に触れるのもリラックスできて好きです」
―――最後に、ミュージカル『手紙』2025にかける想いをお聞かせください。
spi「この役は最後という覚悟で演じますので、ラストチャンスです!」
村井「今回で、ミュージカル版『手紙』の完成形を見せられるのではないかと思っています。ぜひ劇場にいらしてください」
(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美)
プロフィール
村井良大(むらい・りょうた)
1988年6月29日生まれ、東京都出身。2007年、ドラマ『風魔の小次郎』で主演デビュー。ミュージカル『RENT』、『デスノート THE MUSICAL』、ドラマ『教場』など、さまざまな作品で俳優としてのキャリアを重ねる。昨年は、ミュージカル『この世界の片隅に』、舞台『白衛軍 The White Guard』に出演。
spi(すぴ)
1987年10月30日生まれ。神奈川県出身。幼少期より横須賀米海軍基地内の劇団で子役としてミュージカルに出演。2010年、ミュージカル『RENT』にアンサンブルとして出演。2.5次元ミュージカルやブロードウェイ・ミュージカルなど、多岐にわたる作品で重要な役どころを演じている。
公演情報
ミュージカル『手紙』2025
【東京公演】
日:2025年3月7日(金)~23日(日)
場:東京建物 Brillia HALL
【大阪公演】
日:2025年3月29日(土)~31日(月)
場:SkyシアターMBS
料:S席12,500円 A席9,000円(全席指定・税込)
HP:https://musical-tegami.srptokyo.com
問:サンライズインフォメーション
tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)