アメリカン・コミックの漫画家になりたいという夢を持ちながら、トラウマによって一歩を踏み出すことができない青年 ヒーロー・バトウスキー。憧れの“ヒーロー”たちのようなパワーはなくても、自分の中にこそスーパーヒーローがいることに、家族や仲間たちとの別れや交流を通して気づいていく……。そんな珠玉の人間ドラマを描いたミュージカル『ヒーロー』が、シアタークリエで日本初演の幕を開ける。主人公 ヒーロー・バトウスキーを演じる有澤樟太郎が作品や役柄、さらに自身が思うヒーロー像を語ってくれた。
「出演が決まってから、『ヒーローもの? 戦うんだね??』とよく言われるんですが(笑)。全くそういう話ではなくて、アメコミの漫画家になりたいと思っている青年と、個性豊かな登場人物たちが織りなす人間ドラマです。ドキドキしながら台本を読んだのですが、いつの間にか自分のことは忘れて読みふけっていて……。鳥肌が立つくらい心を打たれる素晴らしい作品です」
タイトルがスーパー“ヒーロー”と主人公の名前のWミーニングになっている本作。自身が演じる主人公 ヒーロー・バトウスキーの役柄について尋ねると。
「ヒーローが28歳で、僕が今29歳なので等身大の役どころです。舞台は2008年のアメリカ・ウィスコンシン州のミルウォーキーで、父親が経営するコミックショップを手伝いながら、生活のために深夜のバーで掛け持ちのバイトもしている。“アメコミの漫画家になりたい”という夢を人には言わず、日々起きたことを黙々と漫画に描きながら過ごしています。彼は自分をあくまでも“傍観者”だと思っているので、漫画の中に自分は登場させないんです。そういう性格になったのは10年前のある事件がきっかけで、その時に別れた彼女と再び出会うことによって物語が動き出します。
作品についてあまり簡単にまとめたくはないですが……とても身近な話だと思います。ヒーローは実はすごく想像力も才能もあるのに、自分では全くダメだと思っている。そこを自然と応援したくなる、そんな人物像です」
上田一豪演出の作品に、何作も出演している有澤。念願の主演だと笑顔で話す。
「僕、一豪さんの演出作品で主演というのは1つの目標だったので、すごく嬉しいです。以前ご一緒した『GREASE』は1950年代のアメリカを舞台にした物語で、2020年代を生きている僕にとって馴染みのない文化なのに、一豪さんは稽古場で僕をすんなり1950年代に連れていってくださいました。雰囲気づくりがとても上手な方で、『のだめカンタービレ』の時も僕には未知の世界である音楽大学の話でしたが、いつの間にか自然に音大生になれていたんです。今回も一豪さんと一緒に自然につくっていけるよう頑張ります」
主演といえば、昨年のミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』でジョナサン・ジョースターを務めた記憶が新しい。初めて帝国劇場のゼロ番に立ち、得られたものについて聞いてみた。
「一豪さんにはずっと主演をやりたいと言っていましたけど(笑)。ゼロ番に立ちたい、主役がやりたいという目標の中で、ただやっぱり主演を経験してみると、責任感というか、自然と身についたものはあったのかなと思います。また、コンサートのゲストに呼んでもらったり、こうしてインタビューをしていただく機会で“ジョジョ”が話題に出ることがとても多くて。ある意味作品を背負っているんだなと感じます」
人気作の初舞台化や本作のような日本初演といった、初演作品に取り組む楽しさ、あるいは難しさはあるのだろうか。
「僕は初演や新作に携わるのがとても好きで。自分が1から役をつくれることや、自分のイメージで積み上げていけることに魅力を感じます。今回でいえば、僕も子供の頃はすごく引っ込み思案だったので、内向的なヒーローと共通点がありますし、家族に対する思いなど共感できることも多いので、丁寧に役と向き合っていきたいです」
今夏に再演が決まっている、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』も有澤の代表作といえる東宝作品だ。頭の回転が速く理性的なボブ・ゴーディオを見事に演じた彼なら、内面に様々なことを抱えている難しい役どころのヒーローは間違いないだろう。
「ボブ・ゴーディオは、難しい役だっただけにすごくやりがいを感じた、印象深い役です。ミュージカルって役の内面や感情を歌で表現できる強みがあるので、今回演じるヒーローの葛藤や内面もわかりやすくお届けできると思います。元カノ ジェーン役の山下リオさんと青山なぎささん、従兄弟で親友 カーク役の寺西拓人さんと小野塚勇人さんがWキャストで、掛け合いの曲も多いですから、それぞれの歌声で違う魅力を感じてもらえたらいいですね」
他のキャラクターに見守られながら、どこか自信のない眼差しで輝くタイトルに手を伸ばすヒーローの姿が印象的なビジュアル。どのような意識を持って臨んだのだろうか。
「ヒーローは漫画家になりたい夢はあるのに、自分には無理だと思っていますし、何より家族のことを含めて現実に追われている。だから目に光があるというよりは、掴みたいものはあるけれど、何から手をつけていいかわからない、という感じで撮影しました。ただ、やっぱり彼は周りに支えられているし、逆に彼に支えられている人もいる。キャッチコピーの通り“奇跡はすぐそこにある”んだなと」
有澤に、憧れていた“ヒーロー像”を尋ねると。
「子供の頃からテレビっ子で、困った時には必ず助けにきてくれる特撮のスーパーヒーローに憧れていました。ベルト1つで変身できちゃうなんてすごいな、格好いいなと。自分がこの仕事をはじめてからは、おこがましいようですが、そんな僕が誰かにとってのヒーローなんだと感じるというか、実際にそう言っていただくことが多くなって。『舞台での活躍に惹かれました』とか、『会社で上司から叱責されて凄く落ち込んでいましたが、有澤さんの演技を観たら救われました』などのお声をいただけるんです。そういう言葉をもらうと、この仕事に改めてやりがいを感じますし、特撮ヒーローのように変身できるわけじゃなくても、誰かにとってのヒーローって、きっと世の中にはいっぱいいるんだと思います。
特に演劇やエンターテインメントには、そういう意味でのヒーローの力がすごくあると思います。だからこそ生半可な知識や気持ちで届けてはいけない責任があると思っていますし、演劇をやるときは生身の人間が演じる良さを伝えられるかをすごく考えます。やっぱり生身の人間が届けるエンターテインメントには大きなパワーがあって、きっと誰かの背中を押せる力があると信じているので、舞台作品に触れたことがない方には、ぜひ一度触れていただきたいと願っています」
最後に、本作を楽しみにしている読者に向けてメッセージをもらった。
「2025年一発目の作品で、自分の代表作にしたいと思う大好きな作品です。カンパニー一丸となって作品の完成度を精一杯高めて、絶対に観てよかったと思っていただける作品に仕上げていきますので、ぜひ楽しみにシアタークリエにいらしてください!」
(取材・文:橘 涼香 撮影:立川賢一)
プロフィール
有澤樟太郎(ありさわ・しょうたろう)
兵庫県出身。2015年より俳優としての活動を開始。ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』で本格デビュー。以後、舞台を中心に活躍を続け、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズでは和泉守兼定を演じ、刀剣男子として2018年NHK紅白歌合戦に出場。近年の主な出演に、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』、『のだめカンタービレ』、『ジャージー・ボーイズ』、『GREASE』、TOHO MUSICAL LAB.『わたしを、褒めて』、舞台『セトウツミ』、『キングダム』、二人芝居『息子の証明』、ドラマ『オクラ~迷宮入り事件捜査~』などがある。
公演情報
ミュージカル『ヒーロー』
日:2025年2月6日(木)~3月2日(日)
場:シアタークリエ
料:13,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.tohostage.com/hero/
問:東宝テレザーブ tel.03-3201-7777