人間の愚かさと愛おしさ 師・井上ひさしの教えを糧に、長田育恵が描くフロイス 「台本の圧倒的エネルギーを更に大きくして伝えたい」

人間の愚かさと愛おしさ 師・井上ひさしの教えを糧に、長田育恵が描くフロイス 「台本の圧倒的エネルギーを更に大きくして伝えたい」

 戦国時代、キリスト教を布教するために日本へ訪れた宣教師 ルイス・フロイス。日本と日本語に精通し、当時の日本の政治や文化をヨーロッパ人の視点で記した『日本史』を執筆したことでも知られている。本人もキリスト教に縁のあった井上ひさしは、小説『わが友フロイス』の中で、フロイスと彼を取り巻く人々との間に交わされた書簡をもとに、フロイスの生涯、苦悩や宗教観、生きた時代を描いた。
 こまつ座の第153回公演『フロイス –その死、書き残さず–』は、井上ひさしにとって最後の個人研修生であった脚本家・長田育恵が、同じフロイスを題材に描く完全新作。NHK連続テレビ小説『らんまん』の脚本家としても知られる長田が、本作の脚本を手がけるに至ったのは、これまでも多くの井上作品を手がけてきた演出の栗山民也たっての願いであったとのこと。人間のささやかな心の機微、スケールの大きな物語を描き出す手腕の根幹には、「劇に人間のどうしようもない愚かさや愛しさを書き込むこと」という井上ひさしの教えがあるという。
 長田の描き出したフロイスという人間、そして物語について、今回こまつ座へ初参加となる風間俊介はどう感じ、表現しようと考えているのか。台本を前にした想いを聞いた。


―――台本を読まれた感想を教えてください。

 「正直にお話しさせて頂きますと、台本を読んで、物語の深み、熱量、歴史、感情……魅力があふれすぎていて、僕1人では手に負えませんでした。早く稽古で栗山さんと、そして他の出演者の皆さんと話がしたいです」

―――フロイスは風間さんから見て、どんな人物でしょうか。彼の考え方や生き方に共感できる部分はありますか?

 「来日した当時、フロイスが対峙した日本人への理解に苦しんだように、僕も今はまだフロイスを理解することは難しいですね。使命を持って海を渡り、異国の地でキリスト教の布教に務め、人間の業に触れ、壮絶な最期を迎える。そんな彼の生涯を、これからどう自分の身体に通していくか、少し怖さもあり、同時に楽しみでもあります」

―――風間さんから見た本作の魅力を教えてください。

 「台本から伝わる圧倒的なエネルギーです。この台本から貰ったものを更に大きくして、皆様にお伝えできればと思います」

―――共演者の方々の顔ぶれをご覧になって、いかがでしょうか。また、演出の栗山民也さんとは、舞台『恭しき娼婦』でもご一緒されていますよね。

 「知っている人が多くてよかったです(笑)。栗山さんは作品の向き合い方、俳優の導き方、全部が愛にあふれている方です。真っ暗な海の向こうに光る灯台のように、子どもの手を引く父のように、作品を正しい方向へ導いてくれる。みんなで話し合い、悩み、戦っていけたらと思います」

―――風間さんにとって、舞台はどんな場所でしょうか。

 「多くのものがデジタル化している今、その場に集まり、同じ時間を過ごすことが贅沢になっている気がします。舞台は、お客様の目で芝居を観てもらうという、最もシンプルで、今や贅沢な時間。そんな場所であり時間を、愛おしく想っています」

―――本作に臨む意気込みをお聞かせください。

 「今回、井上ひさしさんが立ちあげたこまつ座で、長田育恵さんの脚本で、そして栗山さんに演出してもらえる。俳優として、こんなに幸せなことはありません。その幸せな時間を、観に来て下さる皆様の喜びに変えられるよう、しっかり努めてまいります」

―――最後に、このインタビューをご覧の方にメッセージをお願いいたします。

 「多角的に観ること、感じることが出来る作品だと思うので一概に言えないのですが、歴史の教科書でしか知らなかったことが、目の前で俳優が動き、言葉を発することによって、“心で感じる出来事”に変わる瞬間があるのではないかと思っています。
 今、これを読んでいる貴方は、演劇や芸術にアンテナを張っていらっしゃる方と存じます。そんな貴方に、是非、観て頂きたい作品です」

(取材・文:前田有貴)

プロフィール

風間俊介(かざま・しゅんすけ)
1983年6月17日生まれ、東京都出身。1999年、ドラマ『3年B組金八先生』で優等生の仮面をかぶった問題児役を演じ、注目を浴びる。2006年、ドラマ『アキハバラ@DEEP』で連ドラ初主演。2011年にはドラマ『それでも、生きてゆく』で、日本放送映画芸術大賞 助演男優賞、第70回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 助演男優賞を受賞。以降、NHK連続テレビ小説『純と愛』、ドラマ『監察医 朝顔』、映画『先生の白い嘘』をはじめ、多数のドラマ・映画に出演。主役・準主役としてはもちろん、バイプレーヤーとしても高い評価を得る。アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』シリーズでは、主人公・武藤遊戯の声優を務め、連続ドキュメンタリー『RIDE ON TIME』ではナビゲーターを担当するなど、多方面において活躍。近年の出演舞台に、『モンスター』、地球ゴージャス三十周年記念公演『儚き光のラプソディ』、『隠し砦の三悪人』など。

公演情報

こまつ座 第153回公演
『フロイス -その死、書き残さず-』

日:2025年3月8日(土)~30日(日)
  ※他、地方公演あり
場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料:9,800円 U-30[30歳以下]6,800円
  高校生以下3,000円 ※こまつ座のみ取扱
  (全席指定・税込)
HP:https://www.komatsuza.co.jp
問:こまつ座 tel.03-3862-5941

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