映画『ベニスに死す』で表現された象徴的な美を、再構築する舞台 バレエとピアノのコラボレーションで綴る、未完成の美の魅力

映画『ベニスに死す』で表現された象徴的な美を、再構築する舞台 バレエとピアノのコラボレーションで綴る、未完成の美の魅力

 2018年に西島数博が世界的ピアニスト 吉川隆弘と企画し、井脇幸江をゲストに迎えて好評を博した舞台作品『べニスに死す』。今回は新たに水島渓、風間自然、シンガーソングライターの山梨鐐平を出演者に迎え、新演出版を上演する。

西島「初演は少年と初老の男性、少年の母を登場人物に物語が進みました。実は真矢(ミキ)さんも大好きな映画だとのことで、『台本を書きたい』と熱望して。演劇経験豊富な彼女が構成台本を書くことで、より分かりやすいお話になると思います」

吉川「初演は、映画では前面に出てこない女性に焦点を当てた仕上がりが印象的でした。今回は真矢さんが台本を、幸江さんが“母”役をやられるので、より女性の目から見た男の話になるのかなと想像しています」

井脇「ミキさんから、今回の“母”役は少年と初老の男性の母であり、映画で流れる『アダージェット』の作曲者 マーラーの母でもあると伺いました。“母”をどう表現するか、リハーサルを通じて探っていきたいです」

水島「先輩方と一緒の舞台で、自分より若い年代の少年役を演じるという、経験のない新鮮な世界に挑むのが楽しみです」

 リハーサルでは、演出・振付を手掛ける西島をはじめ、各々の模索が始まっている。

西島「それぞれのシーンが映画を彷彿させるものになればと意識しています。吉川さんはピアノ演奏だけでなく、芝居もしていただく予定です」

吉川「西島さんとのコラボレーションは、本当に“一緒に創る”感覚です。刺激を受けて、自分のコンサートでも暗転板付きという、バレエでやるような演出を取り入れました。弾きながら演者さんと息を合わせることで、見えてくる世界がある。今回もそれが楽しみです」

井脇「西島君の現場での、作品の作り方や人のまとめ方など、自分とは違うアプローチを見られてとても勉強になります。西島さんとミキさんの世界観に身を委ねて“母”役を演じる中で、自分の内から出てくるものを信じて進みたいと思います」

西島「井脇さんとは、共に練り上げられる楽しみを味わっています。今回の役は、まさに井脇さんの当たり役だと思います」

水島「大先輩方から学びたい気持ちと同時に、この作品では、“今しかできない”ことを出したいという気持ちも強いです。佇まいでも見せるという課題にしっかり取り組みたいと思います」

西島「水島君に初めて会ったのは15~16歳頃で、初々しい印象でした。彼からは未完成の魅力が感じられてワクワクします。少年役はとても難しい役柄ですが、いいキャリアになるはず」

 オマージュを通じ、新たな角度から名作の魅力を引き出す。

西島「僕自身、未完成なものに美を感じるタイプ。各登場人物の美しさの中に潜む、満たされていない部分。その魅力を表現し、お客様にも伝えられたら」

(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美)

2025年にチャレンジしたい! 初◯◯はなんですか?

西島数博さん
「子供の頃からやりたかったことなのですが、“初スキューバダイビング”です! 宇宙規模の未知なる美しさと浮遊力を感じたいと思います!」

吉川隆弘さん
「2025年に“作曲”にチャレンジしたいと思っております。私はピアニストとして、作曲家の書いた曲を弾くことを仕事としております。勉強する過程で作曲も日本でもイタリアでも勉強はしてきましたが、人に聴いていただく曲を書いたことはありません。
 よく考えてみると、音楽家として、最高の表現はやはり作曲ではないか、とこのところ考えており、2025年には、何らかの形で聴いていただく曲を作りたい、と思っています。ピアノの曲ではないかもしれないし、クラシック音楽でもないかもしれません。クリエイティブな挑戦に今からわくわくしています」

井脇幸江さん
「公演が無事に終わると、小さな旅に出かけるのですが、2025年は“寝台列車”での旅をしてみたいと思っています。子供の頃から車窓を眺めているのが好きで,移動は基本的に陸路。黄昏から夜明けまでの時の流れを、ボーッと眺めながら、読書をしたり家族と語り合ったり、のんびり過ごしてみたいです。きっとまた素敵な閃きがあり、その先を生きるエネルギーに満たされる事でしょう」

水島 渓さん
「この世にまだまだ数多くある未体験に体当たりで“初”体験をしていきたいと考えています。食べたことのないものを食べる。通ったことのない道を歩いてみる。いつも着ないようなものを身につける。具体的には、なんらかの初アクティビティに挑戦したいです! パラグライダーとか、バンジージャンプとか、スカイダイビングとか。日本でできるのかな(笑)。
 いち表現者として、自分一人では辿り着けないアイデアや刺激に出会うべく、初体験を大切に1年間過ごしていきたいと思います」

プロフィール

西島数博(にしじま・かずひろ)
3歳よりクラシックバレエを始め、1990 年に渡仏。1994~2005年、スターダンサーズバレエ団にて各公演の重要な役柄を踊る。ダンサーとして活躍するほか、多様な作品の演出や振付を手掛ける。

吉川隆弘(よしかわ・たかひろ)
1996年、東京藝術大学卒業。1999年、同大学院修士課程修了。同年、渡伊。国際ピアノコンクールにて優勝多数。現在はミラノを拠点に、ヨーロッパや日本でソロ、室内楽で活躍。

井脇幸江(いわき・ゆきえ)
元東京バレエ団プリンシパル。退団後、2012年にIBC(Iwaki Ballet Company)を創立。芸術監督として後進の指導にあたり、創作活動を行いながら、現役ダンサーとしても活躍を続ける。

水島 渓(みずしま・けい)
3歳よりジャズダンスを始め、国内外のジャズダンス大会で優勝、入賞。バレエやタップダンスなど多ジャンルを学び、ダンサーとしてさまざまな作品に出演中。

公演情報

『ベニスに死す』新演出版 ~Morte a Venezia~

日:2025年2月11日(火・祝)15:00/18:00開演
  ※開場は開演の30分前
場:イタリア文化会館 ホール
料:S席13,500円 A席12,000円(全席指定・税込)
HP:https://ibc.yukie.net
問:Iwaki Ballet Company tel.03-6274-8477

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