もうすぐ40歳の誕生パーティを迎える木村加寿美。 山口森広演じる“ 加寿美”は、これで見納め?

 柔らかく心に染み入る作品が人気の劇団ONEOR8が、コロナ騒動直前に初演した『誕生の日』を再演する。主人公は40歳の誕生日を迎えようとしている独身で恋愛経験無しの女性、木村加寿美。この役を劇団メンバーの山口森広(男性)が演じる事でも話題になった作品だが、脚本演出の田村孝裕によれば、これが最後の再演になるという。
 この2人に加えて物語でもう1人のキーパーソンを演じる座長、恩田隆一を加えた3人に話を聞く。


―――初演は2020年の1月。まさに緊急事態宣言直前でしたよね。その再演という事ですが、これが最後の再演になるとか?

田村「僕自身、非常に好きな作品でして、コロナの直前に滑り込みで上演しました。LGBTなど色々な社会問題を含みますが、その後に更に時代は進化して、マイノリティの立ち位置が当時よりも明確になりました。そんな現在にこの作品を示したらどうなるか、そこに興味があって再演となりました。物語は主人公である木村加寿美が40歳の誕生日を迎えるという設定です。その役の山口自身がもう43歳なので、さすがに今回が最後になるだろうなと。シチュエーションが決まっていますから、このメンバーでやるのは最後でしょう」

―――――山口さんが女性役というのには意表を突かれました。でもチラシのビジュアルを拝見して、失礼乍ら「こういうオバサン、いるいる」って思って。そのくらいピッタリの配役ですね。

田村「間違いなく山口ありきで書きましたし、彼が女性を演じたらどうなるだろうという興味もありました。実は気恥ずかしくて恋愛モノは避けていたのですが、彼が女性役をやるのであれば、のびのびと書けそうな気がしたんです、だから僕にとって初めての恋愛モノでもあります」

―――主人公の性別アイデンティティがぼやけてくるというか。あえて凄く浅薄な言い方をすると「ジェンダー問題に斬り込んだ作品」ということですか。

田村「ジェンダー問題を全面的に採り上げたかった訳ではないのですが、友人関係の中にある無自覚な意識……仲が良さそうに見える友人関係の中に無自覚的な隔たりがありませんか?と問いたかったんです。加寿美自身が持ち続けるコンプレックス。それに気づいているのかどうかわからないけれど、触れずに付き合ってきた友人たち。マイノリティとの向き合い方や友人関係の違和感を小宮山が明らかにするという」

恩田「僕は誕生会が開かれるバーに、依頼されて撮影に入る業者なんです」

田村「この2人は物語の主役とも言える存在ですね」

―――この作品は主人公を男性が演じるところがミソなんじゃないですか?

田村「僕はそう思って書きました。お客さんからの感想には女性が演じた方がいいんじゃないかという意見もありましたが、女性だと痛々しくなりすぎてエンタメにならない気がして。現在は更にジェンダーレスになってきていますから、女性を男性が演じる事も初演時よりは普通になっていると思います」

―――お2人。初演の反応はいかがでした?

山口「コロナ直前だったせいかお客さんも多かったので、よかったですね」

恩田「反応が良くて、お客さんからも沢山褒められたのですが、役に向き合うのが精一杯でその内容をよく憶えていないんですよ。だから今回は皆さんの感想を憶えておきたいなと」

―――それぞれどんな感じで配役を告げられましたか。

山口「田村さんから電話が来て作品について説明をもらって、いいんじゃないですかとかえしたら、それ(主人公)をお前がやるんだよと。思わず「え?女性の役ですよ」といいながら想像したら面白そうだと思ったんです」

恩田「僕としては小宮山は苦手なタイプの役なんです」

田村「稽古が始まる前から恩田が苦手な役だとはわかっていました。だから「今回苦手な役だけど、やる?」って事前確認をしたくらいです」

恩田「なんでしょうね。でも田村がいうとおりちゃんと苦手な役でした」

山口「恩田さんって情に厚く人間味のある人なんですが、役柄はそれが全くなくて空気が読めないタイプのキャラクターで」

恩田「理屈っぽくて頭を使って話の先を行くタイプ。心を遣う芝居じゃないんですね 感情を乗せずにしゃべるのが苦手なので。だからなかなかしんどかったです。でも今回は大丈夫だ、と信じたい(笑)」

―――他のキャストですが、入れ替わりは?

田村「スケジュールの都合で数名ありますが、ほぼ初演時のメンバーですね。みんなそれぞれ個性的ですし、僕もみんなに当てて(脚本を)書いていますから。全員好きです。新たに入ったのは矢部太郎さんと鶴町憲さん」

―――矢部さんは劇団員ですよね。

田村「ええまあ、片足突っ込んでる感じで(笑)だから勝手知ったる仲ですね」

山口「いたり居なかったり(笑)。鶴町さんはONEOR8自体初めてなんです」

―――じゃあ注目すべきキャストを挙げるとすると?

田村「山口です(笑)」

―――劇場は初演時から変わってスズナリになりましたね。

田村「日暮里d-倉庫がなくなってしまったものですから。この作品は演劇の面白味が詰まった作品だと思っているんです、テレビや映画ではちょっと扱えないようなことをやっている作品であり、とても演劇的な作品だと。だからスズナリでやりたいと思いました。再演を決めたときからそういっていたと思います」

―――最後にそれぞれから抱負を聞かせてください。

恩田「苦しみながらも楽しんでやっていきたいです」

山口「前回の評判がとても良くてプレッシャーもありますが、過去を変に追わず、でも変に変えることなく、加寿美さんと向き合い繊細に演じていきたいです」

田村「時代の変化でこの作品がどう捉えられるかですね。僕自身は普遍性があると思っていて、これからの友人関係はより複雑になるんじゃないかなと。なにより山口と恩田がこの作品の要ですし、主役というべき二人です。きっと劇団を背負ってくれると思いますし、そこを観て欲しいなという僕自身の意思もあります。是非ご覧ください」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

田村孝裕(たむらたかひろ)
東京都出身。劇作家、演出家。1998年に舞台芸術学院47期生の仲閒と共に劇団ONEOR 8を旗揚げ。以来、座付き作家、演出家として劇団の全作品を手がける。その他小劇場からコメディ作品、野外劇、『サザエさん』のような商業公演まで様々なジャンルに脚本を書いている。本作を含めて『絶滅のトリ』『世界は嘘で出来ている』の3作品が岸田國士戯曲賞にノミネートされ、『世界は嘘で出来ている』は鶴屋南北戯曲賞候補。また今年5月に行われた「かれこれ、これから」は上半期の読売演劇大賞作品賞選ばれるなど、現在注目されている劇作家である。

恩田隆一(おんだりゅういち)
東京都出身。舞台芸術学院で同期だった田村孝裕ほかの同期生と劇団ONEOR 8を旗揚げ。2007年より劇団の座長となる。下町気質で人情味に溢れる役を演じることが多いが、劇団公演以外でもモダンスイマーズ(蓬莱竜太作演出)、タカハ劇団(高羽彩作演出)、椿組、小松台東(松本哲也作演出)など、多数の客演を経験している。

山口森広(やまぐちしげひろ)
神奈川県出身。11歳から子役として活動を始める。数多くのテレビドラマや映画の他、様々なジャンルで活躍。2012年に劇団ONEOR8に加入し劇団公演に出演するほか、客演も数多い。2019年にて福井駅前短編映画祭、最優秀主演男優賞。第2回SAITAMAなんとか映画祭にて俳優賞を受賞する。さらに2020年短編映画『捨てといて捨てないで』では自身初の脚本・監督に挑戦し、知多半島映画祭でグランプリ、山形国際ムービーフェイスティバルで準グランプリを受賞するなど、活動の場を広げている。BS松竹東急にて、1月15日水曜23時から放送されるドラマ「うちの会社の小さい先輩の話」のレギュラー出演も決まっている。

公演情報

ONEOR8『誕生の日』

日:2025年1月23日(木)~2月2日(日)
場:下北沢 ザ・スズナリ
料:一般5,000円
  前半割[1/23・24・27]4,500円
  ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://wp.oneor8.net
問:ONEOR8 tel.080-6577-1399

インタビューカテゴリの最新記事