劇作家・川村毅と振付家・中村蓉が初顔合わせで創り上げる超不思議エンターテインメント『不思議の国のマーヤ』 18人の個性溢れるパフォーマーたちが歌って踊ってナンデモアリな古代インド神々ワールド

 ティーファクトリー主催『不思議の国のマーヤ』が2025年2月15日(土)~2月24日(月・祝)に吉祥寺シアターで上演される。日本の現代演劇を代表する演劇人のひとり 川村毅と、新進気鋭の振付家・中村蓉がタッグを組んだ本作は古代インドの神々をモチーフとした歌あり踊りありの不思議世界。
 吉祥寺シアターが引き合わせた2人のコラボレーションに、総勢18人の出演者には多彩なダンサーや役者たちが集結。プレ稽古が始まったばかりのタイミングで、川村毅と中村蓉に創作についてうかがった。

___前作の『ノート』(2019年)や『カミの森』(2023年)に続いて日本人と宗教や神について書かれた作品とのことですが、どのような思いがあったのでしょうか。

川村「日本人のほとんどが自然宗教で、お葬式の際に自分の家の宗教を認識する程度で、強い一神教の文化圏とは明らかに違います。インドの宗教もキリスト教と違って色々な神々が出てきます。インドのヒンズー教の元になるヴェーダという宗教理念を題材にできないかという話があって、そのヴェーダ聖典を読んでみたらこれが面白かった。インドの宗教の元の元になる、紀元前1000年位から口頭伝承されているものです。
 今まで宗教や神のことを考えてきた人間にとって無縁ではなかった。でもヴェーダということを深めれば深めるほど難しくなる。それを難しくやっても日本のお客さんには面白くないだろうから、色々なデコレーションをして歌があったり、踊りがある芝居で日本人と宗教についてヴェーダを通して考えてみようと。その踊りの部分を中村さんにお願いしたいと思いました」

___中村さんの踊りを見てどう感じましたか。

川村「これまで色々な女性ダンサーの踊りを見てきましたが、全然違うタイプの人でこれはいいな! と思いました。ダンサーは内省的というか求道者タイプの人が多いという実感があります。『それを極める』みたいな。外界の音をシャットアウトして自分の世界を構築するという。それはそれで素晴らしいわけですが、中村さんはそういう人とは立ち居振る舞いが違う。外界に対して開いてる。その時に中村さんとやってみませんかと言われて、あっ! この人ならできるなと思ったんです」

___こういったことは初めての試みなのでしょうか。

川村「これだけ振付家の方としっかり組むのは初めてです。出演者もダンサーとか俳優とかの区切りで募集していないんです。身体表現とセリフに興味がある人という感じで、ダンサーでもセリフに興味のある人、俳優でも身体表現に興味がある人、というパフォーマーが揃いました。そういう部分では新しい試みだと思います」

___中村さんは今回、初めて川村さんの舞台に関わることになってどう感じましたか。出演はされないんですよね。

中村「昨年の私自身の公演を観ていただいて、その時は『出るかも?』という話もあったんですが、結局人数が多くなって、そうすると私は出てられないなと。振り付けをつけてみなさんのポジションを確認する作業に専念することにしました。でも出演者の中には素晴らしい役者さんやダンサーさん、大駱駝艦の鉾久奈緒美さんもいるので、とても頼もしいです。川村さんは鉾久さんの『阿修羅』を観て感銘をうけたとか」

川村「はい。この企画をやろうと思って、最初に思い浮かんだ出演者が鉾久さんでした」

___戯曲を読んだ時の感想を教えてください。

中村「最初に読んだ時は『何なんだこれは!?』という感じで、どこに連れていかれるんだ、と思ったんですけど、それはまさに『不思議の国のアリス』の穴に落っこちたアリスと同じ気持ちで『なんでこういうキャラが出てくるんだ、神様の話じゃなかったっけ?』と思ったりしたんですけど、自分が知っている人間世界とすごくうまい具合に溶け込んでるので、もちろん神様は出てくるんですけど、それにとても共感したり、人間味がある愛せるキャラだなぁと思いました。インドの難しい話だなという距離も、全然感じずに自分ごととして楽しめる話だと思いました」

___今(12月7日)は、どの段階まで稽古は進んでいるのですか。

中村「今は本稽古に向けての『プレ稽古』としての1週間です。4日間で、特に踊りの部分でとても濃い時間を過ごしました。1日目は本の読み顔合わせで、次の日から3日間は結構ぎっちりダンスに向き合う時間をいただきました。みんな『こんなに踊るとは思わなかった!』と。でも初めから、そういう心構えを持っていただけたので良かったですし、こうやってダンサーと役者さんが混じって作るんだと、この4日間で感触が得られたと思います。私もみなさんの身体を見てるうちに思い浮かぶことが出てきたので、こんなに進むとは思わなかったです。
 音楽もある程度いただいていたので、振り付けもやってみました。もちろんお芝居に合わせたり、台本を読み込むと、もっとこうしようとか、あんなこともしてみようとか踊りの中でも出てくると思うので、それに合わせて本稽古はもっとブラッシュアップしていこうと思っています」

___音楽もオリジナルなんですね。

中村「そうです。それが絶妙にインド風なんですよ。歌詞もめちゃくちゃ面白くて。今、練習で使っている音源は川村さんが歌ってるんですけど、最初は川村さんが歌っているとは思わなくて。後から井の頭公園で歌っていると聞いて『ええっ!』と驚きました。歌詞もお話も飛躍しているところがあって、ダイナミックですよね。川村さんの飛躍は」

川村「このテーマだと飛躍ができるのです。飛躍とは、ある意味バカバカしさを受け入れる器の大きさです。ある種のバカバカしさは今回至るところに見られます」

中村「こっちはちゃんとしなくちゃと思ってたんですけど。そう言われればバカバカしいとこがあって。歌詞もそんなところが多くて、振り付ける時に歌詞を元にするんですけど『ああ~ここ思い浮かばない! どういうニュアンスで作ったらいいんだろう』と思うところもあったんですよ。そんな時に『川村さん、ここ、いい動きありませんかね?』と聞いたら、なんの躊躇もなくスッと立ち上がって『あっ、こうじゃない?』とやってくださって。『エゴサーチをやめて』という歌詞を」

___「エゴサーチ」という単語が出てくるんですね。インドの神様の話に。

中村「そうなんですよ。あっ、これ言っちゃったらかなりヒントになるかな。でも、そういうところです。もう絶妙な動きでいいんですよ」

川村(笑)

中村「バカバカしいこととかバカバカしい動きが好きなんだな、と。見ていて楽しいです。川村さん、すごく踊りが上手なんですよ。何回か稽古期間中踊ってくださって、猫の踊りとかめちゃくちゃ面白くて。振付家としては、ちょっと焦るというか。踊りが好きなんだと思いました」

川村「好きだねぇ。見るのも好きだし」

中村「誰よりも上手いかも知れない。確かに今回、インド神話というテーマで作品を作ることになって振り付けはどうしようと思った時に、インド舞踊とか古来から脈々とあるものを、ちゃんとリスペクトして勉強しなきゃと思って身構えていたんですよ。でも、この脚本と川村さんの歌声を聞いて『あっ! 大丈夫だ』と、ナンデモアリなんだと。そこから楽しくブワーッと振り付けていけたかなと」

川村「『マハーバーラタ』とか『ラーマーヤナ』とか難しいインド古典じゃなくて、最近のインド映画『RRR』とか『バーフバリ』とかそっちの感じです」

___そうなんですね。それは子どもも楽しめそうですね。

川村「そう、子どもも楽しめます」

___身体表現のワークショップも開催されるそうですが、どんなワークショップになりますか。(※12月26日・27日終了)

中村「神様のユニークな個性からヒントを得て進めていこうと思っています。でもヴェーダ時代の神様は意匠が残っていないくらい古くて。今回の作品の神様はそういう神様なんです。だから、このワークショップを経てわかりやすく絵で表されていない神々を想像する力を逞しくしていただけたら公演を観る時もきっと楽しめるんじゃないかと」

___中村さんは、インド神話の本も読んでいるとXにポストされていました。

中村「これも今のヒンズー教の神様の話が中心の本で、古典のヴェーダとは違うんですけど、変化していくというインドのしなやかさとか面白さがあって、とにかくダイナミックです。神様も個性的で夫のシヴァ神を下に敷いてるカーリーという女神とか、頭を象に付け替えたり、え? これが神なのか? と。神も善と悪との境界線がないんですよ」

川村「私がヴェーダの神々は非常に人間的であると読んだからですね」

___確かに日本の鬼子母神の元になったインドの女神もかなり凶暴ですよね。破天荒というか。

川村「はい。インド映画の『RRR』とか『バーフバリ』とか、興味がある人も観て欲しいし、インドのことを知らなくてもいい。元々知らなかった人間が作ってるわけですから。それを通して色々楽しんでもらおうと。作家的なことを言うとそれを通して宗教の事も考えてもらおうと思ってます。でも基本的には高級エンタメを作ってる気でいます」

(取材・文・撮影/新井鏡子)

プロフィール

川村毅(かわむら・たけし)
劇作家・演出家。1959東京生まれ。1980年に劇団「第三エロチカ」を旗揚げ、2010年30周年を機に解散。昨年度の吉祥寺シアターとの協同作業では、ヘルマン・ヘッセをテーマとした、麿赤兒、大空ゆうひ、横井翔二郎ら出演によるティーファクトリー公演『ヘルマン』を構成・演出。

中村蓉(なかむら・よう)
振付家・ダンサー。1988年東京出身。早稲田大学在学中にコンテンポラリーダンスを始める。国際芸術祭あいち2022、シビウ国際演劇祭など国内外でダンス作品を上演。近年では東京二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『セルセ』『デイダミーア』の演出・振付を担当。吉祥寺シアターでは2023年に『fマクベス』を上演。横浜ダンスコレクションEX2013審査員賞、第5回エルスール財団新人賞などを受賞。

公演情報

不思議の国のマーヤ』

日:2025年2月15日(土)~24日(月・振休)
場:吉祥寺シアター
  (吉祥寺ダンスLAB. vol.8)
料:5,000円 ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:http://www.tfactory.jp
問:ティーファクトリー mail:info@tfactory.jp

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