おぶちゃ 小谷嘉一によるプロデュース公演 実在する昭和歌謡の作詞家と令和の女優、2つの時代で紡ぐ魂の旅

おぶちゃ 小谷嘉一によるプロデュース公演 実在する昭和歌謡の作詞家と令和の女優、2つの時代で紡ぐ魂の旅

 俳優・脚本家・演出家として活躍する大部恭平が率いるエンタメ集団“おぶちゃ”の2025年第1弾は、俳優・小谷嘉一プロデュースの、作・演出作品をお届けする。
 昭和時代にヒット曲を手掛けた作詞家・宮川哲夫に光を当てる本作。令和と昭和の時代を通してモノづくりの葛藤と魂の旅を描いていく。作品を代表して、主演の岩佐祐樹、安藤千伽奈、小谷嘉一の3人に今の想いを語ってもらった。


もう俺がやるしかない!

―――まずは今作で作・演出を務める小谷さんに伺います。2024年のおぶちゃとしては7周年の企画が多々ある中、2025年の準備も同時進行だったと推察します。振り返ってどんな年でしたか?

小谷「僕が(主宰の)大部さんに出逢ったのが2023年で、おぶちゃメンバーになったのは今年の1月でしたが、僕が大部さんの後ろにずっとついていたという感覚です。
4公演やらせていただいて、制作をしている大部さんや脚本家、演出家として、更に出演されてる大部さんの背中を見てきました。
僕は脚本とか演出をやらせていただいてた時期はあったんですけど、ずっと役者しかやってこなかったので、小道具を準備するとか、皆さんのスケジュール整えるとか支えていく側になったのがほぼ初めてに近いぐらいで、すごく勉強になった1年だったと同時に、大部恭平という人間のすごさを知る1年でした」

―――そして2025年のおぶちゃ、第一弾作品が小谷さんプロデュース公演となります。この1年の経験を形にする機会ですが、制作のきっかけをお聞かせください。

小谷「僕が来年の4月からアメリカに活動の拠点を移すことになりまして、それまでにもう1回だけ日本で何かできないかと。実はずっと1つやりたい企画がありまして、それが昭和の作詞家・宮川哲夫という僕の大叔父の物語です。
宮川さんは、昭和の時代に日本レコード大賞をとり、当時とても有名な作詞家でしたが、現在はあんまり世の中に知られていないのではと。それでしばらく日本に帰って来ない自分がもう1つチャレンジをするのであったら、宮川さん本人の物語を作りたいという思いがあって、誰が作るんだろうってなったら、もう俺がやるしかないじゃん!と。
それで大部さんに相談したところ『いいじゃないですか、コニーさん、ウチでやりましょうよ』と言ってくださって、その2日後にはもう企画書が上がってきました!いざやるとなったら、もう次の日から脚本を書き始めましたね」

―――その台本の初稿がお2人の手にあるということで。では台本を読んだ印象などをお聞かせください。

岩佐「まださらっと目通した程度ですけども、さっき小谷氏が言ってた通り、宮川哲夫さんは知らなくて、でも経歴を見ると偉大な方で。ただ本を読んだ時に、その方への愛と、今作に対する意気込みを感じました。リサーチを重ねて温めてきた、書き手の気持ちがすごく伝わってきたっていうのが率直な感想です。
僕が演じる宮川さんはクリエイターで、そのクリエイターの苦悩は僕らもやりたいことをやらせていただくお仕事をしているという意味では社会的な立場は関係なく、抱えてるものや葛藤っていうのはけっこう一緒なんだなっていうところで共感しましたし、舞台としてひとつ生み出したいなと思いました」

安藤「宮川さんのシーンから、すごく悩んでいることがとても伝わってきて、それを理解したいと思っても私は100パーセント理解できないだろうな、というのが正直な感想です。ただ小谷さんの熱量が込められたこの作品に関われることをすごく嬉しく思っています。1つひとつ大事に演じていきたいなっていう思いでいっぱいです」

―――安藤さんはおぶちゃ作品は初参加になりますね。

安藤「大部さん演出の別作品に出演しまして、そのご縁でおぶちゃ初参加となります。初めてのカンパニーでちょっと緊張しています!」

大部「その朗読劇で、安藤さんが前説と後説を影ナレする係だったんですけど、なぜかめちゃくちゃ緊張して、バインダーがブルブル震えてて(笑)芯から緊張できる素直さがとても面白く魅力的な方だなという印象がありました。舞台度胸もあって華もあるのに安藤さんだからこそ、この葛藤する希望役がピッタリだと思っています」

共感する部分が多いと感じました

―――役どころについてお尋ねします。岩佐さんは実在し、注目された人物を演じます。

岩佐「奥深いですよね。特に作詞家というリリック(歌詞)を世に出す人、物書きの人って、その生き様とか、時代背景とかも含めて言葉というものが生まれると思うんです。戦時中から戦後の日本にとって一番濃い時間に紡がれてきた言葉を生み出した人。これは追いつかねば! という気持ちですね。リサーチという意味では、たくさん資料いただいたり自分で調べたりしてリスペクトを持って取り組みたいなっていうのは第一に思っているところです」

―――そして安藤さんは悩みを抱えている女優・希望役を演じます。

安藤「台本を読んで共感する部分が多いなと感じています。好きだから演じるけど、だからこそ悩むという部分が、すごくわかるなって思いました。私はもともとアイドルをやっていて2年前に役者の道に進みましたが、元々はアイドルが好きだからやっていて、アイドルをやっていくうちに演技が好きだなって気付いたんです。『正解がわからない』という部分がすごく共感できる、それが希望の第一印象です」

―――好きを仕事にしている方には色々共感する部分がありそうです。今回は特に人数も多く、初めましてメンバーも多いようですが、おぶちゃカンパニーの魅力とは?

岩佐「おぶちゃさんとは、僕は昨年の舞台『シックスコードの響く先で』でご縁があって、そこからのお付き合いです。
そこからずっとおぶちゃさんの作品を見ていますが、おぶちゃさんのカンパニーの色をすごく感じていて。1人ひとりの人物に対してすごく丁寧で、本の段階からも温かさを感じるところが魅力ですね」

小谷「おぶちゃは、基本的に大部さん本人を見ていただければ! 明るくて楽しくて、やるときはやるみたいな、オンオフがしっかりしている現場です。集まってこられる方もすごくモチベーションが高く、積極的にコミュニケーションをとるし、この作品をみんなで作ろうっていう熱気からうねりが出て、1つの目標にみんなで向かう、そういう熱気あふれる現場のイメージがありますし、そこが魅力です。
ところが今回、僕が作・演出でして。
今作は戦争があったり葛藤を抱えていたりウエットな作品になりそうですけど、でも書いているのは明るくて元気がとりえの僕なので!
そんな僕が書いた台本だから、たまにウエットなものが入ってるからこそ人間味が見えるのかなとか、そういう部分を描けていたらいいなと思います。
なので、ただただ明るく楽しく、締める所は締める現場に出来たらと。この作品を観た方が、みんなにすすめたくなるような、そんな作品作りを目指しています」

岩佐「おぶちゃさんってすごいんですよ。前作の『ポエム同好会』の時にアフタートークだけのゲストで伺って、もうカンパニーができあがっている所に外からポンって入るわけじゃないですか。なのにウェルカムがすごくて。すぐにあったかい空間とみんなの輪ができるんです。演出が小谷さんでも同じ空間になると思うので、みんなで手を繋いでいけたら」

安藤「そうですね、安心して飛び込んでいきたいと思います」

あの役は自分を投影して書きました

―――小谷さんからのお2人の印象は?

小谷「岩佐さんは何度か一緒に作品を作ったり観に来てくださってて。ほんとに正義感が強くてまっすぐでガッツがあって、現場を引っ張っていく力はもちろん魅力的なんですけど、深くお芝居の話ができる方だなって印象があります。あと僕のことをちゃんと指摘してくれそうな人だなっていうイメージがあったので、一緒にまっすぐ前を向いて作品作りができそうですごく頼りにしています。
安藤さんはお会いしたことはなかったんですけど、大部さんから様々なエピソードを聞いたり、また過去に大きなグループで活動されて様々な経験を重ねていらっしゃいますよね。実は安藤さんの出演が決まってから、あの役を書いたんです」

安藤「ええ!?」

小谷「あの役は僕自身を投影している部分がありまして、その部分も含めて安藤さんだったらこの役を理解していただけるのではないかと、そう思いながら書きました」

安藤「わ~、そんなことになっていたとは! そう言っていただけたからには、もう全力で私ができることを精一杯頑張りたいです」

―――お話を伺っていると、おぶちゃは小谷さんにとって挑戦できるとても貴重な場所ですね。

小谷「初めてお会いした時から大部さんは大きな存在で、ここにいることで自分自身も成長できるし、新しいものも発見できる。大部さんという大きな船に乗る、そういう場所です。今作では本当にお世話になっています。僕の想いが詰まったこの作品を一緒にやれて本当に良かったなっていう思いです」

―――今作では昭和と令和、2つの時代が交差しそれぞれの時代を精一杯生きる姿が描かれますが、深めていきたい部分や観て欲しい部分についてお聞かせください。

岩佐「それぞれの時代がこの物語ではとても大事な場所になっていると思います。いかにその時代に生きられるか。昭和と比べて令和はたくさんものが溢れていますが、昭和は1個の流行が全国の流行になる、クリエイターの1人ひとりの熱量みたいなものは、きっと今の人たちも高いとは思うんですけど、当時の高さはまた違う熱量だったと思うので、そういうところも時代に没頭するっていう意味では、その熱量をもってその時代に自分の身も浸っていけたら。稽古から本番まで、そういう時間にしたい気持ちです」

小谷「舞台にも登場しますが、宮川哲夫さんの三女の方とお会いしまして、CDや貴重な書物をいっぱいお借りすることができました。さらに大部さんと一緒に宮川さんの生誕地である伊豆大島へも行きまして、お墓参りをしたり詳しい方にお話を聞いたりしました。
実は町田に資料が保管されているらしくて、まだまだ深めていけたらと思っています」

安藤「私が演じる役は令和を生きる女性ですけど、令和は物が溢れていて、お仕事の選択肢も昭和と比べたらすごく広がっている社会ですよね。この役を演じることによって、何か人の心を動かすことができたらいいなって思っています。そして悩んでいるけど口に出せない人も世の中にたくさんいると思うので、そういう人の心の支えにもなれたらいいなって思っています」

いまの想いを詰め込んで

―――先ほどから昭和と令和の違いのお話が出てきますが、音楽を取り巻く環境だけでも大きな違いがあります。音楽はどのように聞いていましたか?

岩佐「平成世代はまずMDですね。好きな曲を集めて録音して持ち歩く」

安藤「録音はしたことないです(笑)」

小谷・岩佐「おお~こっちがブルブルしちゃう(笑)」

安藤「私はCDですね。CDを買ってきてPCに取り込んで姉のウォークマンに入れて聞いていました」

岩佐「今はサブスクが主流になって、音楽の環境の変化は大きいですよね」

―――作詞作曲者もすぐ表示される時代ですが、この宮川さん時代の音楽を取り巻く環境はラジオよりもさらにアナログだったようで。

小谷「そうなんです。作中に看板を身体に付けたサンドイッチマンが出て来ますが、その方々が口ずさんでいた曲がそのまま街に浸透して流行歌になっていくことがあったみたいで。その頃の方々の情報収集能力ってすごいですよね」

岩佐「まさに口コミですね」

小谷「あの時代には宣伝としてサンドイッチマンが大事な存在だったと思います。テレビが無かったから、このお店は今これが美味しいですよとか、口頭で言ってもらうことが1番の宣伝だったと聞きました。この作品でも少しだけ登場するので、当時の時代感に触れていただければと思います」

―――では最後にメッセージをお願いします。

安藤「初めてのカンパニーで、ストレートのお芝居はあまりやったことがないので、まだ緊張もあります。ですが、私のことを調べて作ってくださった登場人物ということで、役に寄り添ってちゃんと答えを出したいと思いましたし、私が演じることでこの子いいなって思っていただけるようにできたらと思います。手は震えないように、できることを精一杯頑張ります!」

岩佐「手は震えないように、でも心は震わせられるように(照笑)この作品は、まず書き手の気持ちがすごく詰まっている本で、それを実現させるための大部さんの心意気も詰まっていると思います。それに僕たちが命を吹き込むような気持ちです。
そしてもちろん、この公演を楽しみにしてくださっているお客さまの気持ちもあると思います。このたくさんの気持ちをしっかりと形にしてお届けして、最後はみんな楽しかったなっていう気持ちになるように取り組むだけだと思っています。頑張ります!」

小谷「今回書いていて、本当の人の心はわからないんだなっていうことをすごく感じました。笑っていても悲しい心、悲しい想いだったりとか、それが今回のタイトルになっています。アメリカに行くと決めた時に、いろんな人に『すごいね』って言われたんですよ。何がすごいんだろうって思って。例えば日本のキャリアを捨てて行くんでしょとか、言葉は?ご飯は合うの?向こうで仕事できるの? とか、なるほど、みんな僕に不安なんじゃないかってことを伝えてるんだなって思ったんです。
でもそれって日本にいてもアメリカにいても、昭和にいても令和にいても一緒だと思っていて。みんなどこか心の中に不安を抱えていて、それはいつの時代もどこにいても一緒ではないのかと。それを乗り越えていくとか、そこに対して向かっていくことに美しさとか素敵な輝きだったりとか、そういうものが見えてくるんじゃないかなと思って今回台本を書きました。今の僕の想いを詰め込んだ作品です。観に来ていただいたお客様にそういった部分を見てもらえたら嬉しいなと思っています」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

岩佐祐樹(いわさ・ゆうき)
1992年4月19日生まれ、千葉県出身。モデルや俳優、舞台を中心に活躍中。代表作に2.5次元ダンスライブ「ALIVESTAGE 」シリーズ、舞台『Wizards Storia』シリーズ、歌絵巻『ヒカルの碁』序の一手などがある。2月26日~T-gene Stage『正義の味方~ジャスティス・タクティス~』が控えている。

安藤千伽奈(あんどう・ちかな)
2001年1月13日生まれ、長野県出身。NGT48のメンバーを経て卒業後は舞台などで活躍中。近作に、舞台『けものフレンズ』JAPARI STAGE!~きみのあしおとがまたきこえた〜、舞台『アサルトリリィ・新章』シリーズなど。1月8日~舞台『夢のかけらを歌に乗せたら』、4月2日〜舞台『イリス・ノワール -魔鏡のクリス-』が控えている。

小谷嘉一(こたに・よしかず)
1982年3月25日生まれ、東京都出身。第12回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで、最終選考まで残りその後本格的に芸能活動を開始後は、ドラマや映画、舞台に出演する傍ら、演出家、アーティストなど幅広く活躍中。近作に、おぶちゃJourney 1st「LALL HOSTEL」、舞台『遙かなる時空の中で3 十六夜記』、オフブロードウェイ・ミュージカル『bare -ベア-』などがある。

公演情報

小谷嘉一プロデュース公演
『悲しみに戯けたピエロ -マボロシの作詞家-

日:2025年2月5日(水)~9日(日)
場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
料:SS席[A・B列]9,900円
  S席[C ~ E列]8,800円
  A席[F列以降]7,700円(全席指定・税込)
HP:https://ofcha.biz/konypierrot
問:おぶちゃ mail:staff@ofcha.biz

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