2018年より「音楽(ミュージック)」と「朗読(リーディング)」を掛け合わせた独自の朗読劇「リーディックシアター」を手掛けてきた二宮愛による最新シリーズが上演決定。どの作品でも個性豊かなキャストを起用し、人気を博しているが、最新作となる『無黒ノ宴』ではベテラン声優である関俊彦、山口勝平を迎え、2月に朗読劇、3月には舞台劇を強力な布陣で臨む。
―――まずは出演が決まってどんなことを思いましたか?
山口「『無黒ノ宴』は今年15周年を迎える『停電少女と羽蟲のオーケストラ』という作品の世界観で描かれているんですけど、僕は3巻のゲストキャラクターで出させてもらって。すごく独特な世界観だったので、また違った形で参加出来ることが嬉しいです」
関「勝平くんもゲストだったの?」
山口「そうなんですよ」
関「私は2巻のゲストキャラクターだったんですけど……さすがに覚えていなくて、どうしようかと思いました(笑)」
山口「15年前ですから」
関「でも頂いた企画書に朗読劇版と舞台版があって、静と動で構成されていて、ほぼ同時期に公演を行うって書いてあって。物語をどうリンクさせていくんだろうという部分に興味が沸きました」
―――演じるキャラクターのことを教えてください。
山口「アセビは……いい加減な感じのする子ですよね(笑)」
関「(笑)」
山口「どちらの初稿も読ませてもらったんですけど、同じキャラクターだけどやっぱりちょっと違うなって」
―――既に演じられる方を想定して書かれているんでしょうかね。
山口「それはあるのかもしれませんね。あとは『立ち回り多いな』って」
関「さすがだな~元気だな~若いな~」
山口「(笑)。アセビがね、若いんですよ」
関「絶対大変だよね」
山口「絶対大変です。今はまだ準備期間なので、やれることを模索している感じです」
関「私が演じるムクロは、アセビとスズランのお父さんです。侍なんですけど、今は侍はやめている」
山口「旅をしているんですよね、朗読劇版のムクロ達」
関「そうそう。なんで旅をしているかっていうと蛍への復讐を果たす為。本来、蛍は人間の瞳に光を与えてくれる貴重な存在なんですけど、ムクロは『蛍は一匹残らず皆殺し』を目標に掲げています。でもね、この息子達も蛍なんですよ。これ言っていいのかな」
―――大丈夫です。
関「人間であるシグレ、つまりムクロの奥さんから蛍が生まれてきて……アセビは大丈夫だったんですよ。でも2番目の子供であるスズランがシグレの腹を破いて誕生してしまい、それによってシグレの命が蛍に直接的に奪われてしまうというね。これ言っていいのかな」
―――(笑)。大丈夫です。
山口「何処からネタバレなのか僕らには判断出来ないですからね」
関「そもそもどうして蛍が生まれてきたのか、この家族は一体なんなのか、何処へ向かおうとしているのか。これ以降は演出サイドとしてはバラしたくないところだと思うのでここら辺にしておきます(笑)。
キャラクターとしてはですね、蛍なんてモンがいるから悪い、この世の蛍すべてが憎い、じゃあもう皆殺しだってなったムクロは、復讐の手駒としてアセビとスズランを使います。蛍だけど息子だからね、もう好き勝手するんです。ひっどい男です!」
山口「(笑)」
関「物語の前半は『ひどいなぁ』って思いながら読んでいたんですけど、後半は思いもよらない衝撃的な事実が皆さんを待っています。それはね、ステージ上でぜひ確かめて欲しいなと思います」
山口「素晴らしい!」
関「いろいろ調べました」
―――ストーリー解説まで入れて頂きまして、ありがとうございます。今回、同じ物語を朗読劇と舞台で作り分けるという試みに、出演者として思うことはありますか?
山口「まず出演者の人数から違いますしね。物語の軸は同じなんですけど、見せ方や持って行き方がぜんぜん違うし、少し踏み込んで話すとムクロがいる朗読劇版と、シグレがいる舞台版の違いってすごく大きいんですよ。アセビとスズランの想いの在り方が変わってくるので」
関「それぞれでも楽しめるけど、やっぱり2つで1つだよね」
山口「でも今は『これ演出するの大変なんだろうなぁ』って感想です(笑)」
―――山口さんは『停電少女と羽蟲のオーケストラ』から始まり、二宮愛作品に何度も出演されています。二宮さんのつくる作品・世界観にどんな印象を抱いていますか?
山口「どの作品にも二宮先生らしい独特な雰囲気があって、『分からないな』って手を離しちゃうと本当に分からなくなっちゃうというか。
毎回作品のテイストも違うので、とにかく世界観やキャラクターのイメージを自分の中で固めて組み立てていくんですけど、いろんなことを考えているうちにふっと深いところに手が届く感覚もあって。だったらこの台詞はあえて緩急をつけてみよう、逆にここはもっと違う風にしよう、みたいな感じで……」
―――いろんな表現が出来るんですね。
山口「読み手の捉え方でいくらでも変わっていくと思います。どう転んでも成立するのが二宮愛ワールドなのかもしれません。
それこそ最初の頃は、表面上の理解だった部分も多くあったんじゃないかな。何作品か関わらせてもらうようになって、自分なりの正解を見つけるのが楽しいって思えるようになってきました。
あと朗読劇なのに小道具を持たされる(笑)」
―――(笑)。『無黒ノ宴』では山口さんから『だったら舞台にしよう』と提案もあったとか。
山口「提案というか次回は刀を持つキャラクターが出てくる話にすると聞いて『本か小道具どちらか離そう』って(笑)。そしたら舞台もやるし朗読劇もやりますってことだったんで、それは面白いアイディアだなぁと」
―――二宮さん初めての舞台作品ということで……
山口「はい。なので舞台の方に参加したいなって」
―――二宮さんは山口さんに対して「似たようなキャラクターをお願いしない」というルールを自分に課しているそうなんです。
山口「あ、そうなんだ(笑)」
―――役作りは毎回どうされていますか?
山口「それこそ『停電少女と羽蟲のオーケストラ』の橙馬くんの台詞が、演劇的に感じたんですよね。詩的な表現が多くて。アニメの役作りというよりは舞台の役作りが合うのかなって思ってやってみました。
朗読劇でもキャラクターデザインとか、毎回しっかりとキャラクターの絵はあるんですけど、そこに引っ張られ過ぎないようにしようって」
―――自然体で演じられるように考えられているんですね。
山口「自分が楽な方を選択するというよりは、楽しみ方を見つけられるようにしています。毎回とても楽しんでいます」
―――関さんは二宮愛さんのつくる作品・世界観にはどんな印象を抱いていますか。
関「最初は異世界ファンタジーなのかなと思っていたんですけど、途中からはもう謎解きのような感覚で台本を読んでいました。一度さらっと読んだだけだと『あれ、ムクロどうした?』ってなるところも、実は最初の方の台詞から繋がっているんだと気付く……気付けるまでは、もう頭の上にクエスチョンマークが10個ぐらい浮かんでいました(笑)。
まだまだ気付いていない部分が多いんだろうなって。稽古場で教えてもらおうと思います(笑)」
―――先程のストーリーの捉え方、本当に素晴らしかったです。
関「いえいえいえ、まだまだです。それよりも勝平くんは今までどんな小道具を持たせられたの?」
山口「えーと、お花が飛び出す手品の銃とか……傘もありました。二宮作品は持たされますよ」
関「へえ~二宮先生のはそうなんだ~」
山口「しょっちゅう持たされます。『台本めくれない!』って何度も言ってるのに」
関「私の時はぜひ持たせないで欲しいです」
山口「でも朗読劇の台本、僕もちょっと見たんですけどこれどうやって表現するんだろうってところありますよね」
関「ね、ト書きにはいろいろ書いてあるね」
山口「だからもうムクロも舞台の方に来ちゃえばいいんですよ」
関「いやダメだって朗読劇の方のムクロがまだクエスチョンマークだらけなんだから!」
山口「(笑)でも謎解きっていい表現ですね。さすがです。僕ずっと『知ったかぶってやってる』って言ってました」
関「(笑)」
―――様々な印象を持ってくださってありがとうございます。作品から少し離れますが、声優としてのお互いの印象を教えてください。
山口「最初は『ダッシュ!四駆郎』とか……それこそ『らんま1/2』ですかね。初共演って」
関「そうかもしれないね」
山口「僕は『THE八犬伝』で関さんがやられていた犬塚信乃が大好きで」
関「なつかしい!」
山口「泥臭い恰好良さがあるんですよ。スマートじゃない、足掻いている男らしさというか。生き様が恰好良いお芝居をされるって印象があります」
関「すごい、嬉しいです。ここはお互い褒め合うところだからね、どんどん言っていこうね」
山口「関さんって印象に残るように台詞を仰るんですよね。何気ないものでも、ずんっと響くものが多くて、魅力が増して聞こえてくるというか。そういうところも好きです」
関「もう大丈夫、そろそろ大丈夫になってきた(笑)」
―――関さんもぜひ褒めてください。
関「もうとにかく山口勝平という男は達者な役者でしてね、最初っからうまかったもん。なんでも出来るんです」
山口「いえいえ」
関「あとなんといっても勝平くんの魅力は人に愛される人間力ですね。これは誰も勝てない。そしていつまで経っても『立ち回りをやる』とか言い出す」
山口「(笑)」
関「こっちはもう無理ですからね」
山口「ムクロで、ぜひ。待ってますんで」
関「行かないってば!」
―――ぜひお待ちしています。アニメや映画などに声をあてる仕事と舞台の仕事では、意識するポイントに違いはありますか。
関「アフレコは演技をする際に理にかなっていないんですよね。マイクから外れてはいけない、台詞の間尺は決められている。どうしても不自由になってしまう。声優って特殊なんです」
―――舞台でのお芝居とはかなり違いますよね。
関「そうですね。舞台は動きと言葉がリンクしている。己の肉体でもって全てを表現することが出来る。その自由がまた難しいところでもあるんですけど。
アフレコはある程度、出来上がっている素材にあとから声を当てるので、なぞっているだけだと素材を超えられないんですよ。素材を超える芝居、命を吹き込む芝居をする為に、技術が必要なんですよね」
―――それらを全て声だけで表現していくのが素晴らしいです。
山口「舞台は生身をさらしているので」
関「嘘なんかす~ぐバレるからね(笑)」
山口「アフレコは瞬発力が必要なんです。陸上競技でいうところの短距離走。舞台は持続力が必要なので長距離走……本番に一番いい所を持っていかなきゃいけない。両方違って両方楽しいですよ」
―――お稽古の期間も長いですからね。
関「今でこそアフレコって前もって資料届くけど、昔は現場で台本渡されてそこでっていうのもあったもんね」
山口「オーディションとかもそんな感じですよね。紙に書いてある台詞その場ではいっみたいな」
関「すごいことをやっていますよね声優は(笑)」
山口「(笑)。本当に!」
―――今回の舞台『無黒ノ宴』で楽しみにしていることをあらためて教えてください。
山口「全部が楽しみです!」
関「元気だなぁ。この気持ちが大事だよね」
山口「写真撮影から楽しくって。衣装も凝っているし、刀も持てるし。肉体的にはもちろんキツいところもあるかと思うんですけど、充実した時間を過ごせるんじゃないかなって、ワクワクしています。
幕が開くと同時に、終わりに向けてのカウントダウンが始まるので、寂しくなっちゃうんですよ。だから今こうやって本もらって、ああしようどうしようって考えている時間を一番楽しんでいる自分がいます」
関「舞台版は『動』なので、立体感を楽しめると思いますね。私は山口勝平さんのすごい量の立ち回りを今から楽しみにしています」
山口「(笑)。ハードル上げないでください」
関「私は『静』を司る朗読劇版で頑張りますが、でもこの作品に関しては朗読劇版も難しいよね?」
山口「はい」
関「そうだよね(笑)。私は、もう演出家についていきます。そしてこの特別な世界観をより魅力的にお届けする為に一生懸命キャラクターに命を込めます。音や光、そこで生まれる全てのものを同時に楽しめるのは朗読劇も舞台も同じですからね」
山口「はい。演出のハードルは上げておきましょう!」
―――公演を楽しみにしているお客様へメッセージをお願いします。
山口「両方見るべき、というより両方見たあと何を思うんだろうって、その化学変化のようなものが楽しめる作品になるんじゃないかと思っています。僕も朗読劇版は観に行きたいですし、一緒に『無黒ノ宴』の世界にどっぷり浸って頂けたら嬉しいです。劇場でお待ちしています!」
関「これからもっと理解を深めていくという意味では『無黒ノ宴』はお客様と一緒に、出来上がる過程をも楽しめる作品になると思います。なので、本番までの時間も楽しんで、公演が始まるのを待っていてください。よろしくお願いします」
(取材・文:石井寛人 撮影:圓岡 淳)
プロフィール
関 俊彦(せき・としひこ)
6月11日生まれ、宮城県出身。主な出演作に、アニメ『鬼滅の刃』、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』など。
山口勝平(やまぐち・かっぺい)
5月23日生まれ、福岡県出身。主な出演作に、アニメ『らんま1/2』、『名探偵コナン』、『ONE PIECE』など。
公演情報
リーディックシアター『無黒ノ宴』
朗読劇版『音之刻』
日:2025年2月8日(土)・9日(日)
場:Theater Mixa
料:S席[特典付]16,500円 A席9,900円
(全席指定・税込)
舞台版『葉之刻』
日:2025年3月29日(土)・30日(日)
場:シアターX
料:砂かぶり席8,500円 通常席6,600円
(全席指定・税込)
HP:http://re-no.co.jp/696/
問:リーディックシアターHP内よりお問合せください