ウィリアム・シェイクスピアの『夏の夜の夢』を下敷きに、2001年に髙平哲郎が書いた『夏と夜と夢』が、キャストを一新してリーディングアクトとして上演される。
本作は、“不条理劇とシュールリアリズムはナンセンスなコントに通じる”というコンセプトのもと、髙平が立ち上げた「笑いの実戦集団」の第3弾となる公演だ。「笑いの実戦集団」の旗揚げ公演となった『筒井康隆笑劇場』の小堺一機と花木さち子に加え、温水洋一が加わり、ナンセンスな笑いを繰り広げる。さらに、この3人の胸を借りる形で、注目の若手俳優たちが集結。若手俳優たちは2チームに分かれて新宿を舞台にした人間と妖精の大狂宴を展開する。
今回は、髙平哲郎と小堺一機、伊崎龍次郎、岡本聖哉(BUDDiiS)に公演への想いを聞いた。
―――2001年に髙平さんが書かれた際は、どのような経緯、どのような思いで執筆が始まった作品なのでしょうか?
髙平「プロデューサーから男を多く使った作品を書いて欲しいと言われたからです(笑)。
そもそも『夏の夜の夢』は古典喜劇ですが、僕からするとどこが面白いんだろうとずっと思っていました。ただ、前回はあまりそうしたことは考えずに、割と原作に忠実に書いた作品でした。とはいえ、原作では妖精だった役をホームレスにするなど、設定は変えていて。今どき、ホームレスさんもいなくなってしまったので、今回はそうした設定も含めて、全面的に変えなくてはいけないと思いました」
―――そうすると、今回は「令和版」として新しくなるところも多いのでしょうか?
髙平「大きな変化をいえば、劇中劇です。これがあまりにも面白くない(笑)。どこが面白いんだか分からないくらい面白くないので、それは変えたいと思っています。
この劇中劇は『最後の伝令』という古い喜劇があって、その台本をなぜか持っていたので、それを持ってきてしまおうと思って、入れ込んだものです」
小堺「『最後の伝令』というのは古典のバイブルのようなコントなんですよ。ドタバタで」
髙平「その頃は、“アチャラカ”と呼ばれていましたね。“あちらからきたもの”という意味で。
その『最後の伝令』は日本人が南北戦争の頃のアメリカの話を描いている作品なので、全体がシェイクスピアで、劇中劇では南北戦争の話というのは、めちゃくちゃでいいんじゃないかと思っています(笑)」
―――そうすると、今回、改めてしっかりと作り上げるということになりそうですね。
髙平「そうです。全く新しく考えようと思っています」
―――小堺さん・伊崎さん・岡本さんは、この作品の脚本を最初に読んでどんなところに魅力を感じましたか?
小堺「元となったシェイクスピアの作品を知らなくても、最後まで楽しめるように作られているというのが面白さだと感じました。もちろん、知っていたら余計に面白いと思いますが、知らなくても楽しい。
この作品を観てシェイクスピアの原作を読むのもいいと思いますし、(原作について)調べてからこの作品を観に来るのも面白いと思います。これをそのまま普通に演じたら自然に面白くなる作品だなと思いました」
岡本「リーディングアクトなので、自分の感情をよりお客さんに伝えやすいのかなと思いました。
ただ、僕はリーディングアクトが初めてなので、すごく緊張しています(笑)」
伊崎「シェイクスピアの『夏の夜の夢』から新宿の街並みに舞台を変えているので、皆さんが行ったことがある場所や、聞き馴染みのある名前が出てくるので、より親近感があって楽しめる物語だなと思いました。笑いのハードルがぐっと下がって、みんなが笑いやすい作品だと思います。
僕は、以前に『夏の夜の夢』で妖精・パックを演じたことがあるので、そういった面でも別の楽しみ方ができるのかなと思います。台本を読んで、何度も声を出して笑ってしまったのですごくワクワクしています」
―――ところで、髙平さんと小堺さんは長いお付き合いですよね。
小堺「もう40年になります。28歳のときからお世話になっているので」
―――髙平さんも絶大な信頼を寄せられているのですね。
小堺「いや、心配してると思いますよ(笑)」
―――今回は、小堺さんにどんな期待がありますか?
髙平「今回は、全く違う2役を演じてもらうのですが、2つ目の役は劇中劇で“演出家”という役なので、どんな新しい小堺くんが観られるのか楽しみにしています」
小堺「ずっとテレビでご一緒させていただいていたので、いわゆる舞台となると今回が3回目なんです。今回はこれまでともまた違うので、今から楽しみです」
―――テレビでご一緒するのと舞台では違うものですか?
小堺「そんなに変わらないですよね? テレビの収録でも、大事な台本の打ち合わせはしますが、それ以外は雑談ばかりしてました(笑)。『あの映画、観た?』、『面白かったです』というような」
髙平「一緒にやっていたのは『(ライオンの)ごきげんよう』だから、細かい台本があるものではないからね。時々は現場にも行かないといけないなって行っては映画の話をしてましたね(笑)」
小堺「舞台やニューヨークのブロードウェイの話もしました。そのときは、僕はまだ不勉強だったので、髙平さんが『これは読んだか?』と言われたものは、次にお会いするときまでに全部読んでいこうと思っていました。
今、すごくそれが役立っているんですよ。もうだんだん忘れてきちゃっていますが(笑)。また上書きしていかないといけないなと思っているところです」
―――今回は、伊崎さん・岡本さんを始めとして若手の方々もたくさんご出演されますね。そうした皆さんについてはいかがですか?
髙平「それはもう楽しみですよ。今回は、2つのグループがあるので、それぞれ違った『夏と夜と夢』ができると思うので、とても楽しみにしています。ただ、稽古はごちゃ混ぜにしてやろうと思っています」
伊崎「ミックスで稽古できるってことですよね。楽しみが増えました」
―――小堺さんは、若手の方との共演はいかがですか?
小堺「楽しみですね。僕の経験では、台本を読んでイメージしていても、立ち稽古になって、実際にリアクションしている姿を見ると、『そうやって演じるんだ』と驚くことがすごく多いんですよ。だから、そのリアクションに応じて、こちらも変えていく。そうやるなら、こちらはこうできますよって、やりとりするのがすごく楽しいんです。
『(ライオンの)いただきます』で生放送をしていたとき、“反応できることが大事なのであって、前の日に作り込むことではない”ということを皆さんから教わりました。バスケでいったら、常に(すぐに動けるように)つま先だけで立っているような状態です。今回も、きっとそうした(若手俳優たちの)姿が見られると思うので、半分、見学者のような気分です」
伊崎「いやいや、一番(小堺が)セリフ多いです(笑)」
小堺「でも、困っても今回はリーディングなので」
髙平「劇中劇は台本なしでやろうと温水(洋一)と決めていたんですが、小堺くんの“演出家”(役)は台本を持っている役だからね」
伊崎「小堺さんは劇中劇も台本を持てるけど、それ以外の役者は持てないということですか? それは緊張しますね、僕たちは(笑)」
岡本「確かに(苦笑)」
―――おふたりは、小堺さんを始めとした先輩方との共演でどんなことを楽しみにされていますか?
伊崎「普段、僕は同世代の役者たちと芝居をする作品が多いのですが、素敵な先輩方に会うたびに、演劇の基礎や幹の太さが全く違うと感じます。
僕たちはいわゆる叩き上げの世代ではありません。厳しい時代を生きてはいない、ある種、温かい時代を生きていると思います。だからこそ、どんなトラブルがあっても対応できる、という幹の太さを持っている先輩方に安心感を感じますし、そうした基盤となるものや軸はどこから生まれているものなのだろうとすごく勉強させていただいています。胸をお借りする気持ちで、全力で戦っていきたいと思っています」
岡本「僕も緊張しかないです。稽古まではひたすら読み込んで、自分ができる最大限の努力をして、皆さんと一緒に空気を掴んでいけたらと思っています。
きっと分からないことも出てくると思いますので、そういうときにはご意見をいただいたり、相談させていただいたりしながら作っていけたらと思います。ステージに立ったらきっと楽しいんだろうと今から感じているので、稽古が始まるのが本当に楽しみです」
―――先ほど、劇中劇では台本を離すというお話もありましたが、リーディングアクトとはいえ、ただ座って読むだけではないのでしょうか?
髙平「劇中劇を台本を持って演じてしまうと、笑えないんですよ。間違えて話していることに面白さがあるのに、台本をそのまま読んでいるのではないかと思われてしまうと、何もおかしくなくなってしまう。それなら台本を外してしまえばいいと思っています。その他の部分はシェイクスピアの原作のイメージをだいぶ残しているので、むしろ台本を持っていてもいいかなと。
“リーディングアクト”は普通のお芝居よりお客さんの耳にスッと入るんですよ。(観客の)理解度が高くなる。これまで2回、リーディングアクトをやってみてそれを一番感じました。普通の芝居ではセリフが抜けていってしまうけれども、きちんと本を読んでいるとその言葉が入っていくんです。耳に意識を集中させて聞いているから。さっき、(岡本が)そういう話をしていたから、よく理解しているんだなと思いました」
小堺「逆に僕が劇中劇で演じる演出家は本を持っていなくてはいけないという責任もあります。『何を言っているんだ』、『違うじゃないか』というのを言わないといけない」
髙平「つまり、劇中劇のお芝居は、演出家がプロンプをつける芝居なんです。演出家がト書きを言っているのに、役者が台詞だと思って繰り返すのがおかしいんで、それを(役者が)台本を読みながら言っていたら笑えないよね」
小堺「だから、僕が(台本を外している場面での)面白いところの責任は持たなくちゃいけないんです」
―――それは難しい芝居になりそうですね。
小堺「みんなとやればできるものですよ。1人で読んでいると難しいな、となるけれども、みんなでやればできる。超能力ではないですが、みんなで指先だけで重いものを持ち上げるみたいなパフォーマンスがあるじゃないですか。あれと同じで、人数が多ければそういった奇跡が舞台ではたくさん起きるんです。だから楽しいんですよね」
―――改めて公演に向けて意気込みとメッセージをお願いいたします。
小堺「この仕事の一番素晴らしいところは、どの仕事も生まれて初めて体験することだということだと思います。初めてのことがこれほどたくさんできる仕事はないと思います。だからいつでも新鮮です。
この新鮮さを皆さまに還元していくと皆さまも新鮮に感じていただけると思いますし、それを見て僕たちも若くいられる。準備をしすぎず、伸び代を残して、若い方にリフレインできるように体調を整えて頑張りたいと思います」
岡本「役になりきることが大事だと思うので、どれだけ自分が役に入りきれるか、努力していきたいと思います。お客さんを楽しませられるように頑張りたいと思います」
伊崎「僕にとって今回の作品はとても貴重な現場になると思っています。お芝居はもちろんですが、人として尊敬できる方々から盗めるところは盗んで、今後の糧にしたいと思います。
お芝居ももちろん、全ての面でこのリーディングアクトを存分に楽しみたいと思います」
髙平「自分が楽しめばお客さんは自然に楽しんでくれるので、まずは自分が楽しんでもらいたいと思います。自分が楽しんでいない芝居なんて、やっぱり面白くないよね。
僕は台本を書くときも、お芝居を作るときも、出演している人が一番楽しんでもらえるような芝居を作りたいと思っています。なので、それを今回、出てくれる若い出演者たちに教えながら演出していきたいと思います。初日が待ち遠しくなるような気持ちになってくれればいいなと思います」
(取材・文&撮影:嶋田真己)
プロフィール
髙平哲郎(たかひら・てつお)
1947年1月3日生まれ、東京都出身。一橋大学社会学部卒。「今夜は最高!」、「笑っていいとも!」、「ライオンのごきげんよう」などのテレビ番組の構成や、『プロデューサーズ』、『ジキル&ハイド』などミュージカルの翻訳・訳詞、舞台『DOWNTOWN FOLLIES』、『パリ祭』、『市村座』などの脚本・演出を手掛ける。著書に、「スタンダップ・コメディの勉強」、「今夜は最高な日々」、「大弔辞」、「髙平哲郎選集(全8巻)」など著書多数。
小堺一機(こさかい・かずき)
1956年1月3日生まれ、千葉県出身。「欽ちゃんのどこまでやるの!?」、「ライオンのごきげんよう」をはじめ、数々のバラエティ番組に出演し、高い人気を得る。近年の主な出演に、ミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』、『プリンス・オブ・マーメイド~海と人がともに生きる~』、映画『おいしい給食 Road toイカメシ』など。
伊崎龍次郎(いざき・りゅうじろう)
1994年1月17日生まれ、大阪府出身。近年の主な出演に、舞台『刀剣乱舞』シリーズ 獅子王役、MANKAI S TAGE『A3!』シリーズ 飛鳥晴翔役、舞台『Collar×Malice』シリーズ 笹塚尊役など。
岡本聖哉(おかもと・せいや)
2000年12月20日生まれ、東京都出身。ダンスボーカルグループ・BUDDiiSとしても活動。主な出演作に、映画『バトルキング!! -We’ll rise again-』、舞台『リライト』、朗読劇『星の王子さま』、朗読劇『ROOM』など。
公演情報
笑いの実践集団 第3回公演
リーディングアクト『夏と夜と夢』
日:2025年1月14日(火)〜19日(日)
場:シアター・アルファ東京
料:SS席[特典付]8,800円 S席7,700円
A席5,500円(全席指定・税込)
HP:https://x.com/natsuyoru2025
問:アイランズ mail:islandsco2014@gmail.com