2011年に田中正彦が旗揚げしたT-PROJECT。2025年に上演する第16弾公演では、第1弾として上演し、2013年に再演した『ディファイルド~毛の短い犬の便宜性~』に再び挑む。今回は田中自身が演出を務め、2023年のT-PROJECT公演『人間狩り』に参加した佐々木望とともに作り上げていく。2人に話を聞いた。
―――T-PROJECT第1回目の作品を改めて上演するということで、意気込みや再々演に対する思いを教えてください。
田中「本多一夫さんから『自分でプロデュースしてみたら』と言われ、その翌日に(翻訳の)小田島さんとばったりお会いして『ぴったりな作品がある』と勧めていただいたのがこの作品でした。やってみると楽しくて、続けてきました。佐々木くんにこの作品を相談し、やってみたいと言われて。普遍的なものがある作品なので、やり残しがないように努めたいです」
―――佐々木さんは今回のお話をいただいてどう思われましたか?
佐々木「以前、T-PROJECTの舞台を拝見した際に、田中さんと楽屋でお話しし、英米作品が好きという話をして。それをきっかけに飲みに行ったら、いきなりこの作品の台本を渡されてすごくびっくりしました(笑)。
私は声の表現がメインなので舞台経験がほとんどありません。昨年T-PROJECT作品に出演しましたが、『ディファイルド』の台本はその前にいただいていたんです。お声掛けいただいたのは嬉しいけど、2人舞台なんてできるのかという不安もありました。田中さんに『これ、(自分に)できますかね?』と伺ったら、『わかんない』と言われて(笑)。それで逆にやってみようと思いました。それが2017年の話です」
田中「コロナなどもあって、実現に時間がかかってしまいました。その間に筒井康隆さんの短編で一緒に舞台をやって、良い準備運動になりました(笑)」
―――今お話に出たように、2023年に筒井康隆さんの『人間狩り』でご一緒されています。田中さんからみた俳優としての佐々木さん、佐々木さんからみた演出・俳優としての田中さんはいかがでしたか?
田中「最初は体と言葉がなかなか馴染まなかったね。僕も彼も声の仕事をしていますが、声のお芝居は言葉をちゃんと伝えることができれば、お客さんが感情を読み取ってくれる。でも舞台では体を使って表現しなきゃいけない。
でも、本番が始まってからは自分の感情で動けるようになっていました。今回は2人きりだけど、爆弾を仕掛けて閉じこもっている人と交渉人のセリフ劇なので大丈夫だと思います」
佐々木「『人間狩り』は出演者4名の芝居。自分以外は皆さん大ベテランの先輩がただったので胸を借りるつもりで、無心で演じました」
田中「巻き込まれる側の役だったっていうのもあるよね。今回は2人の対話で距離が変わっていく」
佐々木「舞台でも映画でも、対話劇がすごく好きなんです。閉じた空間での少人数の会話劇が一番好き。本作もまさにそういう作品なので楽しみです」
―――本作の魅力や面白さをどこに感じるでしょうか。
田中「登場人物はとてもアナログな2人。文明が進んでテクノロジーに依存することへの警鐘や批判も描かれています。作中のセリフに、『イタリアの小さなバーがスターバックスになる前に行きな』というものもあって。
便利になったらなったで不便なことがありますよね。例えばカラオケなんかでも、昔は分厚い歌本があって、ペラペラめくっている途中に偶然見つける曲があった。今では検索機能が充実して、ピンポイントで探す。この芝居ではそういうものがいろいろと描かれていて、時代に取り残されているかもしれないけどすごく人間らしい2人が描かれています」
佐々木「物理的な距離感は保たれていて、お互い警戒している。でも、心理的な距離は寄ったり離れたり、作中で変化するのが面白いんですよね。ハリーは饒舌で頑固で、でも純粋でかわいい面もあって、ちょっと自分に似ているところもあるので、これから稽古を重ねてどんなハリーを作っていけるか楽しみです」
―――現時点では、役作りについてはどう考えていますか?
田中「3回目ですが、ハリーの配役が違うので、こちらの動きも当然変わってきます。今の段階では過去の公演をなぞっている部分もあるけど、稽古が進んだら佐々木くん演じるハリーをどうにかしようとするブライアンに変わっていくと思う。今回どんなブライアンになるか、自分でも楽しみですね」
佐々木「最初に役作りを考えるよりは、むしろ稽古のなかで掴んでいきたいと思っています。稽古で田中さんのブライアンにぶつかっていく中で、自分のハリーも自然に出来ていくといいなぁと思っています」
田中「僕も『前がこうだったからこう動こう』と言うつもりはなくて。今回は僕が出演に加えて演出もするので、感じたことをもとに2人で動いていけばいいと思っています」
佐々木「声優のお仕事と同じように、台本のセリフに丁寧に向き合いたいと思っています。テクストも行間も、余白すらも読み込んで、ハリーに近づいていきたいです」
―――演出についても、こだわろうと思っている部分があれば教えてください。
田中「初演・再演の時より人間ドラマの比重を増やそうと思っています。前はコメディタッチでデフォルメする部分もあったけど、会話劇として見せたいですね。図書館に閉じこもったハリーが何をしたかったかを最大限に引き出したい。
コメディタッチにするというよりは自然な会話の中で距離感の変化や面白みを出せたら。戯曲に素直に作ってみようと思っています」
―――便利なテクノロジーによって失われていくものがキーになっている本作。おふたりにとって“変わらずにあってほしいもの“は何かあるでしょうか。
田中「最近は駅ビルの中身がみんな一緒で、街ごとの色がなくなってきていると感じます。地方に行っても地元の店よりチェーンが多い。人間の個性もそうだけど、色が失われている気がしますね」
佐々木「作中でも言われていますが、紙の本です。電子書籍も読みますけど、本好きの1人としては、紙の本ならではの読書の快感があると思うんです。今後どうなっていくんでしょうね。デジタル化がどんどん進んだら、本屋や図書館に行く楽しみもなくなっていくのかな」
田中「本屋とか図書館でずらっと並ぶ本を見る楽しさがね」
佐々木「目的の本にたどり着くまでの寄り道がなくなってしまいますよね。『こんな本あるんだ』という発見がなくなると寂しいです」
―――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
田中「12年ぶりに、満を持してこの作品に取り組みます。とっても素敵な作品なのでぜひ見ていただきたいです。
テーマをいろいろ言いましたが、若い人に見てほしい。活字や本の魅力に気づけるだろうし。今、若い人にもレトロな喫茶店が流行っているでしょう。人間味があって居心地が良くて、自分の感性を磨ける場所を知ってほしいし、そのきっかけになる芝居にできたらいいなと思います」
佐々木「2人がガッツリ組んだ丁々発止の対話劇、自分でもすごく楽しみにしているんです。ブライアンとハリーにぜひ会いにいらしてください! アフタートークをする回もあります。稽古でのエピソードなどもいろいろお話ししたいです」
田中「裏話もお話ししますので、ぜひ足を運んでください」
(取材・文&撮影:吉田沙奈)
プロフィール
田中正彦(たなか・まさひこ)
10月1日生まれ、大阪府出身。舞台を中心にアニメ・ゲーム・洋画の吹き替えで声優としても活躍する。元劇団昴出身。2011年からは自身がプロデュースを手掛けるT-Projectを設立。主な出演作に、舞台 劇団昴『コリオレイナス』・『セールスマンの死』、『他人の目』、『バッファローの月』、アニメ『はじめの一歩』、『進撃の巨人』、『蒼穹のファフナー』シリーズなど。
佐々木 望(ささき・のぞむ)
1月25日生まれ、広島県出身。声優・歌手として幅広いアニメや吹き替えでメインキャラクターを務める。朗読劇の企画・演出・出演にも意欲的に取り組んでいる。主な出演作に、アニメ『幽☆遊☆白書』、『AKIRA』、『銀河英雄伝説』、『テニスの王子様』、朗読ライブ『きのう何食べた?』、朗読劇『ファイナルファンタジーXI 異聞のウタイビト』など。近著に「声優、東大に行く 仕事をしながら独学で合格した2年間の勉強術」(KADOKAWA)がある。
公演情報
T-PROJECT VOL.16『ディファイルド ―毛の短い犬の便宜性―』
日:2025年2月1日(土)~9日(日)
場:下北沢 「劇」小劇場
料:一般 5,500円 アフタートーク付[2/3・5・9]6,500円
※世田谷区民割引は各1,000円引/要身分証明書提示
学生[2階桟敷席・数量限定]3,500円(全席指定・税込)
HP:https://x.com/PIXIS2011
問:T-PROJECT tel.090-6525-6574(11:00~17:00)