なるせゆうせいによる完全オリジナル新作舞台 “ふるさと納税”の制度に迫る、ブラックコメディ

なるせゆうせいによる完全オリジナル新作舞台 “ふるさと納税”の制度に迫る、ブラックコメディ

 ミュージカル『ヘタリア』シリーズや、舞台『文豪とアルケミスト』シリーズなどを初め、多数の脚本・演出を手掛け、昨今では“社会問題×エンタメ”をテーマにした映画の監督も務めるなど、マルチに活躍するなるせゆうせい。彼が手掛けるオリジナル新作舞台『のうぜい合戦』が、10月30日から上演される。本作は、過疎化で破綻寸前の地方自治体を舞台に“ふるさと納税制度”の功罪を風刺するブラックコメディだ。脚本・演出のなるせと、本作に兄妹役で出演する小坂涼太郎、古畑奈和に公演への意気込みを聞いた。

―――本作は“ふるさと納税”をテーマにしていますが、どういった経緯からこの物語が生まれたのでしょうか?

なるせ「最近、オリジナル作品では社会課題をテーマにしたものをやりたいと思っているのですが、観る人に少しでも考えるきっかけを与えられるものを、コミカルにやりたいと考えたとき、ふるさと納税が浮かびました。CMなどもやっていますが、それはいいところだけしかピックアップしていませんよね。それってどうなのかなと。制度全体を見た上でどう判断するのかはそれぞれだと思うので、まずは全体像を見るべきではないかと思い、こうした形になりました」

―――台本を読まれてどのようなことを感じましたか?

小坂「ふるさと納税は、CMでやっているという程度の印象しかなく、詳しくは知りませんでした。まずは調べてみようと、調べはじめたところです。この作品がいいきっかけになったと思います」

古畑「私の周りでは、ふるさと納税をやっている方もいらっしゃいますが、どういうシステムか分からず、私も手をつけられていなかったんですよ。美味しいものを貰えるくらいの認識だったのですが、周りの方からも勧められるので、この舞台期間に色々と調べて習得したいと思います」

―――お二人が演じる役柄についても教えてください。

なるせ「今回、お二人は兄妹役です。かつて、ふるさと納税で地方再生を成し遂げた“再生のプロ”といわれる主人公が、ふるさと納税を使って、彼らが住む市を盛り上げようとしましたが、あるとき問題が起きてしまいました。返礼品を提供する側として携わっていた二人は、その問題によって被害を受けてしまいました。その主人公が、別の市でふるさと納税を使って町おこしをしようとしているのを見て、それを阻止しようと、主人公のもとにやってきてドタバタするという展開です。妹は主人公に恋心を抱いたこともあり、密な関係を築いていたのですが、そちらもまた色々とあって」

―――お兄さんの登場シーンもインパクトがありますね。

なるせ「にぎやかしですね(笑)。クラッシャーな役なので、主人公も振り回されます。それによって、さらに振り回されるのが妹。お兄ちゃんと主人公の間にいる存在なので、どっちにも振り回されるという大変な存在ですね」

―――小坂さんは脚本を読んで自身の役柄にどんな印象を持ちましたか?

小坂「正直にいうと、稽古が始まってみないと分からないです。なるせさんのオリジナル作品に出演するのは今回が初めてなんですよ。原作モノには以前、出演させていただいたことがあるのですが、完全なオリジナルは初めてなので、めちゃくちゃ楽しみにしています。なので、しっかり作っていきたいと思うのですが、それはこれからかなと。僕はダブルキャストですが、その相手役を務める古畑さんはシングルキャストなので、僕よりも大変ではないかと今は思っています」

古畑「頑張ります」

―――ふるさと納税について調べているというお話がありましたが、役作りをするときはは、演じる役の背景なども調べて作っていくタイプですか?

小坂「1回調べて、自分の中で落とし込んで。そのうえで、もし自分がこの立場だったらと考えて作ります。その役に完全になり切るというよりは、稽古を重ねながら段々と役になっていくという感じです。そうは言っても、実はそれほど考えていないです(笑)。感覚で演じています」

なるせ「(小坂が出演している)舞台『文豪とアルケミスト』では、坂口安吾を演じているけれども、あの作品も調べているの?」

小坂「調べています」

なるせ「そうなんだ。とはいえ生身の人間がやるわけだから、こだわり過ぎても難しいよね。だからこそ、調べて消化したうえで、プラスαを加えて作り上げていくんだね。僕は彼にローテンションなイメージがあるので、今回はテンションが高い、コミカルな役を演じているのを見てみたい。どんな感じになるのか僕も楽しみです」

―――古畑さんはご自身の役についていかがですか?

古畑「ことあるごとに泣いているなというイメージです(笑)。きっと感情の起伏が激しい女性なんだろうなと思っています。まだ途中までの台本しか読んでいないので、分からないですが、明るいときと、暗い方へ引っ張られてしまっているときの差をお見せして、起伏の波をうまく乗りこなしていけたらいいなと思っています」

なるせ「普段、泣くことはある?」

古畑「あまり泣かないですね」

なるせ「強そうなイメージがあるよね。やっぱり第一線でこうして活躍されているわけだから、自分の中に強さを持っていないとやっていけないところがあると僕は思います。もちろん、強いだけじゃなく、弱い部分も持っていると思いますが。ただ、今回のようにお芝居で女の人が泣いているシーンはすごく難しいですよね。そんなところで泣くなよと思われても嫌だし。泣いていることに共感を抱いてもらうのはすごく難しい。コミカルで見た目が面白かったり、テンションが違ったり、泣いている理由が分かったりということがあれば、共感してもらえると思いますので、稽古で一緒にそうしたところも探っていきたいです」

―――なるせさんから見た古畑さんのイメージもお聞かせいただきたいのですが……強そうな女性というイメージですか?

なるせ「実は今日、初めてお会いしました。これまではネット上の情報でしか知らなかったのですが、きちんとした方という印象です。なので、いい意味で、どこまで崩せるのか見てみたいです。きちんとしているからこそ踏み外せるものがあると思うので」

古畑「ありがとうございます。今回、村瀬文宣さん以外は皆さん初めましてなので、すごく楽しみです」

―――小坂さんは共演経験ある方はいらっしゃいますか?

小坂「僕は田淵累生くんくらいです。彼は穏やかでぽわんとした方で、今回もこうして共演できるのが嬉しいです。ただ僕も今回、初めましての方が多いので、皆さんがどういうお芝居をされるのか今から楽しみにしています」

―――主人公の猪狩智也は小出恵介さんが演じられます。

なるせ「昔から知っているのですが、活動ができない時期があって。久しぶりに会ったら、事務所も変わって改めてスタートすると聞いたので、それならやってみようと。人生は長いですから、1回のことでというのは嫌だなと思って、違う形でやってみようとお誘いしました」

―――当て書きなのですか?

なるせ「当て書きではないです。ただ、本人もコメディが好きですし、嫌なことがあっても笑い飛ばせたらという思いがあって書いたものでもあります」

―――小坂さんはこれまでにも、なるせさんとご一緒されていますが、なるせさんの演出の印象はいかがですか?

小坂「舞台『文豪とアルケミスト』のときは脚本だけでしたので、演出では『レジスタンスイレブン〜未知なる敵からの卒業〜』という作品でご一緒しました。自由にやらせていただける方だと思います。役者を信じてくれているのを感じます。それに分からないところがあれば丁寧に教えてくれます。なるせさんの現場は精神的な余裕があるなという印象です」

なるせ「それは今も変わらないですね。最初から演出家が答えを持っていて『これしかやらないでください』というやり方ではなく、それぞれの役者さんたちに考えてきてもらって、それを見たうえで、形を整えていくという方が僕には合っていると思います。1から10までこのタイミングでというのは意外と苦手で。なるべく感情で動けるといいなと思います」

―――古畑さんは今回、なるせさんとも初めてですが、今、楽しみにしていることは?

なるせ「ビクビクしていると思いますよ。なんだ、こいつはって(笑)」

古畑「いやいや! とても楽しみです!」

なるせ「グループで活動していたときは、俳優を目指していたの? それともバラエティなども含めてトータルでやりたいという方向性だったの?」

古畑「私はずっと演技をやりたいと思っていました。なので、グループにいた当時もスケジュールが取れる限り、舞台には出演させていただいていました。これまでコメディに挑戦した経験があまりなかったので、今回こうして楽しい作品に出会えたことが嬉しいです。なるせさんは、今日いらっしゃったときから“ただならぬ者”と感じる方で、初めてお会いするタイプだったのですごく楽しみです。なるせさんを信じてついていきます」

―――初めてのコメディなんですね。

古畑「公式で“ブラックコメディ”と謳われている作品は初めてです。ふざけ倒していい役柄なのか、まだ分かりませんが、もし、そうしたシーンがあるようでしたら挑戦してみたいです。コメディの一員になりたいですね」

なるせ「コメディというのは、笑わせようとするのではなく、真剣にやればやるほどすれ違いが生まれて、一生懸命やっているのにズレたことを言っているから面白くなるのだと僕は思います」

古畑「ありがとうございます。一生懸命頑張ります」

―――最後に公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。

古畑「ふるさと納税と聞くと、まだ難しくとらえてしまう方もたくさんいらっしゃると思いますが、この作品ではそれを分かりやすく、そしてコメディとしてお届けしたいと思います。あまり力を入れずに来ていただけたらうれしいです」

小坂「今回、チクタクくんというマスコットキャラクターがいるんですよ。このキャラクターが流行って、大人気になったらいいなと思います」

なるせ「2人に言ってもらったことがほとんどなので、僕は言うことはないのですが(笑)。舞台の面白さは、物事を俯瞰で観ることができるところにもあると思います。今回、色々な立場の登場人物が出てきます。その人たちが様々な感情を持って、それぞれの立場で言い合いをすることで浮き彫りになるものがある。それが面白いと思うので、怖いもの見たさに来ていただけるといいなと思っています」

(取材・文:嶋田真己 撮影:敷地沙織(平賀スクエア))

プロフィール

小坂涼太郎(こさか・りょうたろう)
埼玉県出身。2015年、「Asia Model Festival・Asia Model Awards」に日本代表として出場。同年、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』月島蛍役で舞台デビュー。シリーズ7 作品・合計256公演に出演。主な出演に、舞台『刀剣乱舞』シリーズ、『文豪とアルケミスト』シリーズなど。

古畑奈和(ふるはた・なお)
2011年からSKE48のメンバーとして活動し、2022年にグループを卒業。その後は女優として様々な舞台や映画、ドラマに出演。主な出演作に、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024)、舞台『歌舞伎町シャーロック』(2024)、舞台『理系が恋に落ちたので証明してみた。』(2024)などがある。

なるせゆうせい
岐阜県出身。脚本家・演出家。舞台・映画・広告・マンガ原作など幅広いジャンルで活動。手掛けた主な作品に、舞台『弱虫ペダル』シリーズ(脚本)、『ハンサム落語』シリーズ(脚色・演出)、舞台『コジコジ』(脚本・演出)など多数。

公演情報

舞台『のうぜい合戦』

【東京公演】
日:2024年10月30日(水)~11月4日(月・振休)
場:CBGKシブゲキ!!

【大阪公演】
日:2024年11月8日(金)~10(日)
場:扇町ミュージアムキューブ CUBE01

料:SS席[前方3列・特典付]13,500円
  S席[特典付]9,800円 
  A席7,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.nouzei-stage.com
問:オフィス・インベーダー 
  mail:info@inveider.com

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