開催6年目“つながる”演劇祭から“ひろがる”演劇祭へ 選りすぐりの劇団によるライブでしか味わえない感動

開催6年目“つながる”演劇祭から“ひろがる”演劇祭へ 選りすぐりの劇団によるライブでしか味わえない感動

 2019年9月に“つなぐ”をテーマにスタートした『関西演劇祭』。6年目となる2024年は、“ひろがる”演劇祭をテーマに、劇団や俳優、そして若いクリエイターたちが夢に向かって進んでいける演劇祭を目指す。2019年から変わらずフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路と、今年度「つぼみ大革命」の脚本・演出を手がける「3時のヒロイン」の福田麻貴に、話を聞いた。


―――板尾さんは、2019年からこの演劇祭にフェスティバル・ディレクターとして携わっていらっしゃいますが、改めてこの演劇祭への想いをお聞かせください。

板尾「もともと、関西の劇団や役者さんが集まることで『こういう劇団もいる』、『こういう役者もいる』ということがより皆さんに伝わればという気持ちで参加させてもらったのですが、その気持ちは今も変わっていません」

―――この演劇祭に関わるようになってから、より演劇への想いや演劇との関わりも深くなってきているのでは?

板尾「この5年くらいは、本当にたくさんの作品を観させていただいているなと思います。東京に来てからは関西の演劇人と関わることがなかったので、『関西の劇団は、ちょっと元気がないのかな』と心配があったんですよ。でも、こうして皆さんの活動を見ることができて安心もしました。
 演劇祭のようなお祭りが年に1回あると、それを目指して活動される人もいるでしょうし、5年も続けて開催していると、東京の演劇関係者やドラマや映画の関係者など、人もつながっていき、それがお仕事にもつながっていく。この演劇祭は“つながる”をテーマにスタートしましたが、“つながる”ことでより活性化されたのだと思います」

―――福田さんは、こうした演劇祭が行われているということに、どのような思いがありますか?

福田「芸人には賞レースがあるじゃないですか。そこで一夜にして人生が変わる人がいたり、一気に認知されて仕事が舞い込んできたりする人がいますが、音楽やお芝居にはそうした賞レースがあまりないイメージでした。
 今回、つぼみ大革命というアイドルグループの脚本を担当しますが、ずっとやってきたことをみんなに観てもらえるチャンスや、そこから仕事に繋がるチャンスがあるというのはとてもありがたいことだなと思います。演劇をやっている方にとって、関西演劇祭は大きなチャンスになるのかなと思います」

―――板尾さんはこれまで本演劇祭で数々の劇団の作品をご覧になっていると思いますが、特に印象に残っている作品や団体はありましたか?

板尾「ありすぎて前半の記憶がなくなってきていますが(笑)。もともと評価されているベテランの劇団の方にも出ていただいていますので、そうした方々のステージは当然ながら素晴らしく、さすがだなと思います。
 それから、(2022年に参加した)『RE:MAKE』という劇団は、アイドルのように歌って踊るミュージカル風な作品で、若いエネルギーをすごく感じました。なんてことのないお芝居ですが、一生懸命に演出に応えて、自分の役を一生懸命演じて、踊って、歌って。VTRを観ただけでは伝わらない、ライブ感があったんですよ。最後にみんなで踊って歌う、そのエネルギーだけで感動してしまう。胸が打たれるものがありました」

―――お笑いももちろん、演劇や舞台作品も生だからこそというところも大きいですよね。

板尾「そうですね。しかも関西演劇祭は、各団体が3回ずつ公演を行うんですよ。若いということもあり、1回目は緊張していたり力が入りすぎたりしていても、いろいろな人からアドバイスを受けたり、演出からダメ出しがあったり、自分で感じたことを修正したりしながら、どんどん良いものになっていくので、やっぱり若い人ってすごいなと思います。どの劇団もそうですが、3回目のステージは本当に素晴らしいんですよ」

―――この関西演劇祭ならではの面白さ、魅力は?

板尾「45分でパフォーマンスするということと、45分の舞台が終わったらティーチインがあり、その後に別の劇団が45分のパフォーマンスを行うというのはこの演劇祭ならではかなと思います。上演する劇団の組み合わせが毎回変わるので、順番や時間帯、お客さんの層によっても(芝居が)違ってくる。それは、普段演劇を観にいくのとは全く違うものなんですよ。
 ティーチインでは、審査員の人とのやりとりがあったり、お客さんからの質問に答える時間もあるので、全体を通して観ていただくと、普段お芝居を観に行くのとはまた違う面白さがあると思います。ただ、これを言葉で説明してもなかなか伝わらないので、ぜひ参加していただいて、それを体感していただければと思います」

―――それぞれの劇団のステージを単発で観るというだけでなく、2回・3回と観て変化を楽しむという見方もあるのですね。

板尾「それもあります。これまでにないと思いますよ。関西演劇祭は、賞レースではありますが、そこだけを重視しているわけではないんですよ。あくまでも、最後にそういう形で締め括るというだけの話ですから」

―――福田さんが脚本を手がけるつぼみ大革命は、今回、どのような作品を上演する予定でしょうか? 現時点でお話いただける範囲で教えてください。

福田「つぼみ大革命は、最初はアイドルユニットとして活動をスタートし、歌とダンスとコントをやるというグループでした。私もそこに所属していたのですが、卒業してからはライブの中でやるコントだけを提供するという形で関わってきました。
 元々は、アイドルというくらいなので、歌やダンスをして、コントは10~20分だったのですが、コント(の時間)がどんどん伸びていって。いつの間にか、ライブ90分まるごとストーリーのあるコントをやって、途中で歌い出すというミュージカルのような形式になってきたんですよ。その形になってからもう10年くらいになりますが、その形式のまま続いています。最初はコントだからと面白いこと、笑わせることをやっていたのですが、次第に後半は泣けるストーリーになってきて、それがお客さんもミュージカルを観ているようだと言ってくれて定着してきて、今に至るという感じです。
 グループがスタートして14年経ちますが、メンバーそれぞれの熱い想いとストーリーがリンクするような展開にしているので、自分の思いが溢れて泣きながらセリフを言うということもあり、演劇要素の入ったステージという形が定着したのかなと思います。私たちがやっていることを演劇と言うのはおこがましいですが、観にきてくださった方から参加を勧めていただき、こうしたチャレンジをさせていただけるのはすごく光栄です。エンタメ要素を残しつつ、演劇の土台を通ってきてないメンバーたちだからこそ出せる、自分たちの等身大の魂をぶつける作品にできたらと思っています」

―――今回は書き下ろしの作品を上演するのですか?

福田「新たに書きます。今、鋭意構成中です。自分たちがやってきたことをそのまま出すと通用しないかもしれないという不安もあるし、逆に自分たちのやってきたことを見せたいという気持ちもあるので、どういう方向で落ち着けようか迷っているところです」

―――板尾さんは、事務所の後輩でもある福田さんが演劇祭に参加されることに対してどんな楽しみがありますか?

板尾「僕はつぼみ大革命をあまり知らなかったので、具体的なことは言えないですが、期待感は持っていますよ。どの劇団もそうですが、演劇祭前にはあまり前情報がないんですよ。前情報を入れても仕方ないとも思うので。でも、彼女のように自分たちでは劇団という意識がない団体が参加することが周りにもいい刺激になると思いますし、どうなるのか楽しみです。期待しています」

―――では、お二人にとって、演劇や舞台はどういった存在ですか?

板尾「僕はよしもとでコメディをずっとやってきたのですが、商業演劇をやりだして驚いたのが、こんなにも稽古をするんだということでした。みんなストイックで真面目。大してお金にもならないようなことに多くの時間とエネルギーを費やしているというのは、単純にすごいという感覚が最初はありました。
 何作品か参加させてもらうようになって、エンターテインメントをやっている人間にしたら、お金のことや時間のことは関係なくしてもすごくやりがいがあるものだと気づいて。分かりやすくて楽しいし、舞台に立っている時間はすごく幸せだし、やってよかったなって毎回、思います。もちろん大変なこともありますけどね。
 でも、お客さんが実際にいる前でやるというのは映像とは全く違う満足感があるんですよ。お客さんに喜んでいただいているのを直接感じることができるのがすごく嬉しいんです。舞台に立ちたいという人間からしたら、演劇というのは自然なことなんでしょうね。
 やっぱりテレビとか映画といった映像では、どうして制作サイドの意図が入りますから。僕たちがいくら演出された通りにやっても、それがどう見えるのかは分からないところがあって、見え方を自分たちであまり操作できないところがあるんですよ。
 でも、舞台は自分たちの思い100%。もちろんダメな時もありますが、良かった時、満足していただいた時の満足度はすごく高い。だから1番好きな仕事の1つです。ライブがやっぱり楽しい。演劇だけでなく、舞台に立つということ自体が僕は好きです」

福田「私も生の舞台のエネルギーは、全く違うものだなと思っています。つぼみ大革命のライブは配信もしていますが、生で観るとメンバーの感情の伝播具合が全く違うので、絶対に生で観て欲しい。生だとその空間のエネルギーが伝わって、見えない何かが蓄積していくような感覚があるんです。
 芸人としてネタをやる時は5分、長くても10分くらいですが、演劇では1~2時間ステージに立っています。その間に蓄積したものの爆発力や、その空間に充満してるエネルギーは確実にそこにあります。それが私にとっての魅力です。
 私は、毎日つまらないなと思ったら、舞台を観にいきます。その時にたまたまやっている舞台にフラッと行って舞台を観ると、その作品・空間・劇団を好きになって、元気になるんです。すごく不思議な力があると思います。見えない何かがあるなって思いますね、演劇には」

―――最後に、改めて演劇祭に向けて読者の方にメッセージをお願いします。

板尾「演劇が好きな人は間違いなくハマる演劇祭だと思います。今まで通り、好きな劇団を普通に観に行く方がよかったなと思うのなら、きっとあんまり演劇が好きなわけじゃないんですよ(笑)」

―――この演劇祭は、普段、自分では選ばないような劇団さんの作品が観られるいい機会になりますよね。

板尾「まさにそういうことで、自分の知っている劇団を観に来たとしても、違う劇団も観ることになるので、新たに世界が広がると思います。興味を持つ劇団が増えるかもしれないし、そうしたら今度は本公演を観に行ってみようという思いになるかもしれない。この脚本家さんの本がすごいから別の舞台も観に行ってみようとか、この役者が出ているから観てみようとか、そうしたことにも繋がっていったらいいなと思います。演劇に興味ある人はぜひ観に来ていただければと思います」

福田「きっとつぼみ大革命以外の劇団さんもただならぬ思いで参加されていると思うので、私たちも含めて、人間が本気で何か1つのことに取り組んでいるエネルギーを受け取りに来てもらえたら、きっと明日からも頑張ろうって思えるんじゃないかなと思います」

(取材・文:嶋田真己 撮影:平賀正明
 スタイリスト:高堂のりこ(板尾創路) 曽我一平(福田麻貴)
 ヘアメイク:中山伸二
 衣装(福田麻貴):STACCATO 問い合わせ先:バロックジャパンリミテッド 03-6730-9191)

プロフィール

板尾創路(いたお・いつじ)
1963年生まれ、大阪府出身。NSC4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ「130R」を組み、数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、2012年『月光ノ仮面』、2017年『火花』を監督。映画・ドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバル・ディレクターを務めている。

福田麻貴(ふくだ・まき)
1988年生まれ、大阪府出身。2019年「3時のヒロイン」として「女芸人No1決定戦 THE W」で優勝。そのリーダーを務める傍ら、ネタ作り・ツッコミを担当している。バラエティ・ドラマ・CMに加え、俳優・脚本家・エッセイストなど幅広く活躍している。

公演情報

『関西演劇祭2024』

日:2024年11月16日(土)~24日(日)
場:COOL JAPAN PARK OSAKA SSホール
料:1日券[2公演]7,000円 [3公演]10,000円
  つながーるチケット(特典チケット)7,000円
  4,000円 大学生・専門学生3,000円
  (全席自由・税込)
HP:https://kansai-engekisai.com
問:関西演劇祭実行委員会
  mail:info@kansai-engekisai.com

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