第5回かつしか文学賞 大賞受賞作『博志の一週間』がいよいよ舞台化 迫り来る“死”を前にした男性が“生きる”ことに向き合う

第5回かつしか文学賞 大賞受賞作『博志の一週間』がいよいよ舞台化 迫り来る“死”を前にした男性が“生きる”ことに向き合う

 東京都の東端に位置する葛飾区は、映画『男はつらいよ』や、漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の舞台として知られており、他にも風情あふれる立石や新小岩の飲み屋街、江戸時代から続く堀切菖蒲園、国内外のアーティストが集うかつしかシンフォニーヒルズなど、ユニークなスポットが数多くあるエリアだ。そんな葛飾区が実施している文化芸術創造事業「かつしか文学賞」は、“葛飾区を舞台に、そこに暮らす人々のふれあい”を題材にした小説を公募し、大賞を受賞した作品は脚本化・舞台化するという、これまたユニークな事業だ。

 昨年おこなわれた「第5回かつしか文学賞」では、149編の作品の中から、桜川碧作『博志の一週間』が大賞を受賞した。その後、舞台化に向けてのオーディションや稽古などの準備が進められ、今年9月に上演される運びとなった。

 このプロジェクトに初回から携わっているのが、劇団東京ヴォードヴィルショー主宰・佐藤B作と、演出家・永井寛孝だ。そして脚本を「第3回かつしか文学賞」より3作品続けて、シライケイタが担当している。このプロジェクトや、今回の受賞作について話を聞いた。

佐藤「私はずっと劇団をやってきた人間なんで、客席にいる人たちはどんな人なんだろう?という興味があったんです。そして、そちら側の人と一緒に芝居を作るということにも興味がありました。劇場に足を運んで観に来てくれる人たちが舞台に立つなら、どんな演技をするのか。演劇をどう考えているのか。「かつしか文学賞」は、そんな私の興味を叶えてくれるプロジェクトですね。
 また、そちら側の人にどんな逸材がいるのかにも興味があります。これまでも何度か演技がおもしろいだけでなく、人間的におもしろい人が現れました。まぁ、大概は女性なんだけどね(笑)。男性に興味がないのかね(笑)」

シライ「確かにそうかもしれませんね(笑)。脚本家の立場として、このプロジェクトは極めて特殊です。普通、原作がある場合は『これを舞台にしませんか?』と持ち込まれてから考えるのですが、このように選択の余地がないことはなかなかありません。文学賞の審査員は別ですから、演劇にしやすいかどうかは関係ないわけです。今回はまさに舞台化に向かない作品で、今まで関わった中では一番難しかったですね」

永井「演出側としてはオーディションで選ばれた方々が素敵に見えるように、台本の中でどうやってみなさんが楽しんで芝居を作れるかを考えています。やはり演劇を好きになってもらいたいですから。出演されるみなさんは色々な方がいるわけです。プロ志向の方だけでなく、学生さんや仕事を引退されて余生を過ごしている方など」

佐藤「昔プロだった人もいるね」

永井「そうそう。そんな色々な生活の中で1つの芝居作りに関わって、それが楽しかったとなってくれると嬉しいです」

佐藤「今年は主人公が男性で、出演者も男性が多いです。平均年齢は今までより高いかな。オジサンたちがなかなかいいんですよ。声もいいし、歌も上手い。あまり歌が上手いオジサンって少ないんだけど。若い女性でも元気な子がいるしね」

シライ「みなさん素敵ですね。実は僕の教え子もいるんです。やはり大学で演劇をしっかり学んでいますから、オーディションでも光っていました」

永井「路上生活者とか施設の利用者とか、どうしてもオジサンがたくさん登場しますからね。稽古場は前向きな空気に包まれています。みなさん経験の度合いは様々で、今回が初めての舞台という人ももちろんいます。だから演出だけでなく演技指導もしています」

 大賞作『博志の一週間』は、健康診断で肝臓に腫瘍のようなものが見つかり、精密検査を言い渡された男が、検査を受けるまでの一週間に大切な人たちに会い、“生きる”ことに向き合う物語だ。

佐藤「芝居は世の中を映す鏡だなと思いましたね。通し稽古を見ていたら、やたらと“生きる”という言葉が響きました。なぜだろうか? 戦争が多いからか?など、いろいろ考えました。そんな作品なんです」

シライ「原作がそういったテーマですからね。それしかないシンプルな作品とも言えるんです。命に向き合う主人公が、その大切さを知る一週間の話ですから」

永井「冒頭が医者とのシーンで、再検査の通告を受けて落ち込んで、それからの一週間で何が変わるのか。悲観的な出だしから、徐々に希望が出てきてそこで前を向いていくんですね」

 博志のように、きっと観客も“生きる”ことを見つめることになるだろう。そんな作品を作り手としてはどんな人に観てほしいのか。

佐藤「どうだろう? 政治家かね。最近は悪い話ばっかりですよね。いいことなくて軍事費は増えるし、格差も酷いしコロナも収まらない。みんなが生きるためにどれだけ大変な思いをしているかを知ってほしいですね。逆に毎日ひたむきに生きているみなさんにも観てほしいですね。きっと応援歌になりますから。世の中それほど捨てたものでもないですよってね」

シライ「初めての人にぜひ観に来てほしいですね。演劇の間口を広げるのは必要なので、出演者のお友達から広げてほしいです」

永井「そう、チケット代もとてもリーズナブル(笑)。でも僕たちがしっかり作っていますから。2日間だけの公演ですが、ぜひ劇場に来てほしいです」

(取材・文:渡部晋也 撮影:平賀正明)

これがないと落ち着かない! カバンの中に必ず入っているものはありますか?

佐藤B作さん
「折りたたみ傘と、のど飴です! 今の地球は天候異変が甚だしいので傘は手放せません。のど飴は、声を守るのと、突然の出会いの時の口臭に気を使うからです」

永井寛孝さん
「スケジュール帳とペンケースとストップウォッチとティッシュペーパーと健康保険証。その理由は、以下の通りです。
・スケジュール帳:スマホの充電切れの心配及び使用能力不足により手帳は手放せないから
・ペンケース:手帳にはペンが必須
・ストップウォッチ:芝居の演出上、場ごとの時間を把握しておきたいから
・ティッシュペーパー:花粉症、食後の鼻水への対応のため
・健康保険証:自転車移動の事故への危険性と脳梗塞経験から、いつ何が起こって救急搬送されるかもわからないので」

シライケイタさん
「スケジュール帳。他の全てのものは、ほぼデータで管理していますが、スケジュールだけは紙の手帳を使っています。これを忘れると、明日の予定すら分かりません」

プロフィール

佐藤B作(さとう・びーさく)
劇団東京ヴォードヴィルショー主宰。1973年の結成以来、誰にでもわかる喜劇を追究し続けている。その活躍は舞台のみに留まらず、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』、NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など、映像作品にも数多く出演。

永井寛孝(ながい・かんこう)
俳優・脚本家・演出家。1978年、劇団テアトル・エコー演技部に入団。退団後は、俳優・田中真弓、音楽家・竹田えりとオリジナル歌芝居集団「おっ、ぺれった」を旗揚げ。1999年、テアトル・エコー文芸演出部に再入団。

シライケイタ(しらい・けいた)
演出家・劇作家。劇団温泉ドラゴン代表。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻在学中に、蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』パリス役で俳優デビュー。2011年より劇作と演出を開始。温泉ドラゴンの座付き作家・演出家として数々の作品を発表。生と死を見つめた骨太な作品作りが特徴。

公演情報

第5回かつしか文学賞 大賞作品『博志の一週間』

日:2024年9月22日(日・祝)・23日(月・振休) 
場:かめありリリオホール
料:一般2,000円
  高校生以下1,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.k-mil.gr.jp
問:かめありリリオホール チケットセンター
  tel.03-5680-3333

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