劇団山本屋を主宰する山本タクが、“あなたの知らない世界を演劇を通してつなげる”をコンセプトに立ち上げた「CUWT Project」。そのvol.2.0となる本作は、競技人口は世界100ヶ国・15万人以上いるが、日本では認知度が低いセーリングを題材とした作品だ。2018年の初演以降、多くのファンを魅了し、2021年の東京五輪イヤーに再演された前回は、全公演完売の大好評を得た。
そして8月にパリ五輪を迎える2024年。劇場とキャストを一新して、さらなる芸術の高みを目指す。主人公の葵翔役の関隼汰、ライバルのキリサメ役の影山達也、個性派集団をまとめるヒロインのアザミ役・藤田奈那、そして山本を含めた4名に本作への意気込みを聞いた。
―――パリ五輪を控えたタイミングでの再演となります。
山本「2020年の東京五輪では公演がコロナ禍で1年延期となったので、またこうして再演できることがとても幸せで有難いです。最初にこの企画をおこなうにあたり、日本セーリング連盟の方とお会いした時に、『東京五輪だからこの企画をやるのではないです』とお伝えしたら、『そういう心意気でセーリングを応援してくれるのであれば、是非協力させてください』と仰ってくださり、公演が実現しました。
1年延期となって実現した21年の初演の時も、色々制約がある中での上演でした。せっかくスポーツと青春を描く物語なのに、皆と仲良くなっても、稽古場で満足に話し合うことも出来なかった。皆でBBQとか行って結束力とか上げたいじゃないですか。でも今回はそういう制約もないので、また違うエネルギーが乗った作品になるんじゃないかと期待しています」
―――3年が経って何か演出面での変化はありますか?
山本「まず劇場が変わりました。東京芸術劇場という箱をどう使うかということを念頭に置いています。あと、『より風を感じられる工夫ができないか』と技術さんにも相談しています。
でも演出を加えるほど、お客さんの想像力を削いでしまうマイナス面もあるので、そこのバランスが難しいところですよね。なので、よりお芝居を突き詰めていく方向が面白いかなと考えています。役者が海と空と風を感じてくれないとお客さんに届かないので、それは常に言い続けていこうと思います」
―――セーリングというスポーツ、そして本作の印象をお聞かせください。
関「競技名は知っていましたが、ルールや醍醐味などの具体的な内容までは詳しく知らなかったので、大変失礼ですが、ヨットに乗って操るだけという、どちらかというと頭を使うイメージを持っていました。でもこの作品に出会ってからは、物凄く体力を使うスポーツで、チームクルーとの連携などもすごく重要という、奥が深い競技なんだということを知りました。なので役に挑むにあたってもっとセーリングについて勉強したいと思いました。
主人公の葵翔については、海が好きで運動神経もあって活発。やると決めたらとことん突き進むタイプですね。僕も地元が千葉で海がそばにあったこともあって、海を身近に感じていましたし、一度決めたことは守るということを信念にしているので、そういう意味では葵の感性に共感できる部分は多いです」
影山「僕はセーリングという競技自体をこの企画書で知りました(笑)。調べていくうちに、他のスポーツと違って整えられた環境で競技をおこなうのではなく、ある意味、風や波といった自然をいかに味方につけられるかが重要になるスポーツだと思いました。
キリサメは主人公・葵のライバルで強化指定選手に選ばれるほどの天才。非常にストイックでプライドが高く、負けず嫌いという印象があります。僕もサッカーをしていたので、その気持ちはすごく分かります。とことん自分に厳しい人なんだなと。なので自分も甘えずに稽古に取り組んでいこうと思います!」
藤田「私もこのお話を頂くまで、全く知りませんでした。事務所の方から最初に聞いた時も“セーディング”と全く別のものとして聞き間違えたぐらいで(笑)」
一同「(笑)」
藤田「前回の映像を観させてもらって、台本を読んで、YouTubeで日本代表の密着動画も拝見したら、めちゃくちゃ面白い! もっと知りたいと思いましたし、タクさんが掲げる“お客さんが知らない世界を演劇を通して伝える”ことが、すごく意味があることなんだと実感しました。その一員になれることがすごく嬉しいです。
個人的には、13歳からAKB48に所属していたこともあって、“ザ・青春!”という経験が無いんですよ。そういう世界に憧れがあったので、今回は演劇を通して体験できるのでとても楽しみです。
アザミについては、突然、聞いたことのないセーリングという競技のPRを任されて、当惑しながらも色んな人達を巻き込んでいく行動力がある女性という印象を持ちました。自分も広い視野を持って演じられたらなと思っています」
―――見どころの1つとして、洋上で艇が競い合うレースシーンがありますね。
山本「まず、舞台上で洋上レースをどう表現するかが命題でした。実際に艇に乗って体験した感覚をどう表現するかを考えたときに、4隻組み込んだ各艇の船首を順番に回転させて、実況場面を表現する方法を思いつきました。
試合中に選手が船上で話している内容を聴き取ることは難しいので、実際に日本代表や企業チームの方に船上での会話について取材させて頂いて、実際に乗っている人しか分からないことを台詞に入れました。
聞いてみると、選手同士で『どけ! こっち回れ!』とか『お前死ぬぞ!』とかケンカ腰で会話されてるんですね。一歩間違えれば、命を落とす危険性もあるシビアな競技ですから、自然とそうなるのは分かりますし、それらは陸上からは分からないやりとりなので、それをリアルに表現しようと思いました。なので、舞台を選手や関係者の方に観て頂いたら『あるある! 自分もやってた!』と思って頂けるはずです」
関「僕も野球を18年やっていて、練習もキツくて辛かった思い出がありますが、振り返ってみると、これも青春だったのかなと感じます。仲間とコミュニケーションを取りながら共に切磋琢磨して、色んな感情を共有したことは今でも貴重な時間だったなと。
セーリングも競技は違えども、逐次変わっていく状況の中で仲間と共に臨機応変に対応するのは共通しているので、自分の経験も芝居に生かせたらなと思っています」
藤田「私もAKBに入る前は10年ほどクラシックバレエをしていて、スポーツではないものの、1人ひとりが技術を磨いて、それが合わさって1つの芸術になるのは共通している部分かなと思いました。バレエでは言葉よりも阿吽の呼吸でリズムを合せることがあるのですが、AKB時代にも仲間の表情や雰囲気を通して分かることもありました。アザミは選手ではないけども、そういう仲間の繊細な感覚をしっかりキャッチできるようにしたいなと思います」
―――“知らない世界”を伝える上で、演劇だからこそできる強みはありますか?
山本「演劇の良さは劇場に一定時間、閉じ込められることだと思うんですね。殺人現場という例えは良くないですが、お客さんは舞台上で起きている現場を目撃しに来ているんです。面白くなければ途中退場もできますが、動画のように一時停止して、明日その続きを観られるものではない。時間を工面して決して安くはないチケット代を払って、交通費を使って来るということは、それなりのモチベーションが必要です。なのでお客さんがもらう刺激はより強いものになるはずなんです。
また、お客さんがそれぞれ違った反応が見られるのが劇場だと思うし、追体験ができるのも実際に生で観られる演劇だからこそと信じています。いつか本作を観たという子供がスポーツの世界大会に出たという日がきたら、僕はきっと号泣すると思います!」
一同「(笑)」
―――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
藤田「今、タクさんの話を聞いていてハードルが5段ぐらい上がりました(笑)。だからこそやりがいはありますね。私の舞台を通じて、初めて観劇されたファンの方から『新しい体験が出来た』というメッセージをもらったことがあって。
今回、自分にとってもセーリングは未知の世界。自分が感じたことをどう表現できるか、またお客さんがどのように感じ取ってもらえるかが今からすごく楽しみです。セーリングを知らないから観ない、というのはもったいないです! 一度、劇場に体験しにきてくれたら嬉しいです!」
影山「僕も過去に色んなスポーツの作品を演じさせてもらいましたが、全てに共通するのは、自分が真剣じゃないとお客さんには伝わらないし、スポーツに対しても失礼になるということです。それを肝に銘じて、影山のガチンコをお客さんに届けられたらと思います。
僕はタクさんと10年ぶりにお会いして、これまでの成長をお見せしたいですし、稽古の中でさらに色々と吸収して、カンパニー全員でより良いものを届けられたらと思います。劇場でお待ちしています!」
関「セーリングを知っている方も、全く知らない方に対しても、僕らがまずこのセーリングという競技を心の底から愛してストーリーをつくっていかないと届かないと思うので、競技について知らないことはないぐらい徹底的に知識をつけていきたいです。あとはみんなで思い切り青春したいです!」
山本「僕も劇中のアザミと同じように、セーリングのPRを頼まれたことが起点になっていますが、競技について調べれば調べるほど、僕の方がのめり込んでいって、こんな面白いスポーツなんだと思うようになりました。知れば知るほど抜け出せないというか。もし死ぬまでに趣味をつくるのであれば、セーリングにしようと思うぐらいです。
ゴルフと同じく生涯できるスポーツなので、今回の再演を通して、皆さんの日々の生活の中に、セーリングが少しでも入ってくれたら嬉しいです。マイナースポーツに少しでも目を向けて頂ける人が増えてくれることを願っています。カンパニー全員が惚れ込む自信がありますし、観に来て後悔はさせない作品と断言しますので、是非、ご期待ください!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
関 隼汰(せき・はやた)
1999年8月18日生まれ、千葉県出身。2020年、第33回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト フォトジェニック賞を受賞。2021年、『仮面ライダーリバイス』オルテカ役で俳優デビュー。近年の主な出演作に、舞台『炎炎ノ消防隊-五つ目の柱-』カリム・フラム役、ミュージカル『コードギアス 反逆のルルーシュ 正道に准ずる騎士』クロヴィス・ラ・ブリタニア 役、Monkey Works vol.11『明日は捲る』など。2024年7月3日より、劇団TEAM-ODAC第43回『ダルマ』堤役での出演が決まっている。
影山達也(かげやま・たつや)
1992年7月12日生まれ、静岡県出身。主な出演作に、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズ 影山飛雄役、舞台『GANTZ:L -ACT&ACTION STAGE-』小池修役、舞台『どろろ』仁木田之介役などがある。現在、2.5次元ダンスライブ『ALIVESTAGE【SOARA】』在原守人役、ミラクル☆ステージ『サンリオ男子』シリーズ 菅見直樹役にて出演中。また、イケメン役者育成ゲーム『A3!』荒川志太のキャラクターボイスを担当している。
藤田奈那(ふじた・なな)
1996年12月28日生まれ、東京都出身。2010年、AKB48 第10期研究生オーディションに合格し、同年AKB48劇場の公演デビューを果たす。2015年「第6回AKB48グループ ソロシングル争奪じゃんけん大会 in 横浜アリーナ 〜こんなところで、運なんか使っちゃうのかと思うかもしれないが、とりあえず、勝たなきゃしょうがないだろ?〜」で優勝し、同年「右足エビデンス」でソロデビューした。2019年に約8年間の在籍期間をもって、AKB48を卒業。近年の主な出演作に、30DELUX × KoRocK『スペースウォーズ 2023 feat. BOYS AND MEN』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、劇団 Rainbow Jam 第三回公演『Stranger―よそ者―』、WAKUプロデュースvol.27『something どこにいても ここ』、30-DELUX collaborate with UNiFY『SHAKES2024 ~それは夢、だが人生という永劫の物語』などがある。
山本タク(やまもと・たく)
1980年11月1日生まれ、山口県出身。演出家・脚本家・役者。ゲームクリエーター戯曲『モルヒネと海』で演出家デビュー。映画や小説、イベント、などの構成やアクトトレーナーを手がける。“世界最古の総合芸術を創造する”をモットーに演劇企画ユニット 劇団山本屋主宰を務め、「1号」公演『あまもり』を東京芸術劇場で上演。作品作りにおいては、年代や国境を越えた人間の根本にある二律背反や愚かさをコミカル且つリアルに描き出すことを大切にしている。近年は、戦争を扱った世田谷観音奉納舞台『天泣に散りゆく』の野外公演や、“震災を知らない子供達に演劇で伝える”をコンセプトに神戸新聞社と共同で阪神・淡路大震災をテーマにした『午前5時47分の時計台』など、社会派の作品も手がける。
公演情報
演劇企画ユニット 劇団山本屋
CUWT project vol.2.0『風を切れ 2024』
日:2024年7月25日(木)~28日(日)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:S席[前方エリア・特典付]10,000円
A席8,000円 B席6,000円
サイド席5,000円(全席指定・税込)
HP:http://yamamotoya.tokyo
問:劇団山本屋
mail:ticket.yamamotoya@gmail.com