幻想文学の最高峰を新演出で昇華させた“超攻撃型新派劇” 泉鏡花が人と妖の交わる“天守”に込めたもの

幻想文学の最高峰を新演出で昇華させた“超攻撃型新派劇” 泉鏡花が人と妖の交わる“天守”に込めたもの

 劇団新派俳優の桂佑輔が主宰するシアトリカルユニット・PRAY▶が、俳優・篠井英介との合同企画で泉鏡花による日本古典戯曲の名作『天守物語」を上演する。白鷺城(姫路城)の天守閣に棲む“異界の主”である冨姫と、主君の命により、逃げた鷹を追って禁足地に足を踏み入れた鷹匠・図書之助の許されざる恋に、鏡花の平和や芸術への願い、人間の魂の純粋さ美しさに対する信仰、弱者への柔らかな愛が豊かに練り込まれた珠玉の一作。
 歌舞伎とリアリズムが共生する新派劇の手法を軸に、能・アングラ・日本舞踊・コンテンポラリーダンスなど、古今東西の手法を融合させた新演出により、より鮮やかに現代に蘇る。冨姫を演じる篠井と図書之助に挑む安里勇哉に公演への思いを聞いた。


―――1917年に発表されて以降、歌舞伎や新派をはじめとする団体が上演してきた古典の名作中の名作に挑まれます。作品についての印象をお聞かせください。

篠井「『天守物語』は、2011年の新国立劇場での舞台に続き、朗読劇でも演じさせて頂いており、ライフワークというと大袈裟ですが、自分にとっての大事な作品と言えます。
 歌舞伎の古典劇というイメージがあると思われますが、他に類をみないファンタジックな作品であり、図書之助の主君に対しての一本気な忠義の気持ちや、ここぞと決めたら守り抜く正義感など、日本人ならではの美学貫かれており、それが名作たる所以だと感じます。
 加えて、妖怪たちが住む城に図書之助という1人の人間が足を踏み入れるという、ファンタジーの面白さや荒唐無稽さとのコントラストがとても素晴らしいです。
 一方で、社会派な一面もあって、劇中の妖怪たちは地位や名誉、お金に目がくらみ、一番大切なハートを失っている大名や家臣たちを軽蔑しているんですね。一方でお百姓さんや、動物、自然に対してはもの凄く愛情がある。コツコツ生きている人の尊さを妖怪たちは分かっている。ある意味、それは泉鏡花による大きい意味での社会批判でもあるんですね。
 心の美しい2人が許されない状況で恋をするというラブロマンスであり、不思議な形での終幕もまた見どころ。台詞の文言も難しいけれども、日本語ならではの美しさに彩られていて、舞台で喋っているうちに、その言葉に酔う、一種の陶酔感があります。それが忘れられなくて今度も演じさせて頂くことになりました」

安里「篠井さんがお話されたように、僕も図書之助からは男気を感じました。当時の人たちの一本気な気持ちは現代を生きる僕らから見ても共感しますね。純粋にカッコイイなと。一方で、実際に自分が同じ行動をとれるか?と色々考えさせられました。台詞の言葉の難しさについては、僕も沖縄出身ということもあって、昔から使われてきた方言が少しずつ失われているという感覚もありますので、当時に思いを馳せながら大切に台詞回しができればと思います。古くから歌舞伎や舞台、映画など様々なところで演じられてきた名作中の名作であり、僕にとっても大きな挑戦になります!」

―――恋に落ちる冨姫と図書之助の関係性についてどのように捉えていますか?

安里「恋心が一目惚れなのか、何度か会ううちに芽生えたのかは分かりませんが、誰かを好きになるという気持ちは昔も今も変わらないと思います。妖怪であっても心を持っていればそれは同じだと。僕自身の役作りとして、演じる役の気持ちを自分の中にどれだけ取り込めるかを大事にしているので、冨姫と出会った驚きとその美しさに魅了される純粋な気持ちをいかに素直に表現できるかが試されると思いました」

篠井「冨姫と図書之助が一目惚れなのか、三度逢って恋に落ちたのかは、稽古の中で決めていけばいいと思うので、安里さんの心が動くようにやって頂くのがお芝居の醍醐味でもあるので、ありのままで飛び込んでもらえればと思います。
 古典独特の台詞回しなので、言葉を発する時は、背筋が伸びて腰が据わりがちになります。これは僕らが日本人としてDNAに刻まれた感覚ですが、安里さんは格調高い琉球文化を育んできた沖縄の血筋があるので、そこは全く心配しておりません」

―――篠井さんはPRAY▶が魅せる演出に共感を得られたとのことですが。

篠井「PRAY▶のディレクターである桂佑輔さんが、泉鏡花の名作をフレッシュな作品として生まれ変わらせていることに感動して、そこからご縁を頂いて一緒にやろうとなったのが今回の企画です。僕は古典も大好きで愛していますが、現代を生きる人たちが共感できて楽しめるエンターテインメントを作りたいという思いがありました。歌舞伎では坂東玉三郎さんというイメージもあり、ある意味1つの完成形をみた作品ですが、今回は衣装からどこの国のいつの時代の誰かというのが想像できないぐらい、従来の時代劇からは一線を画した新演出が見どころになっています。
 僕は女方として女性の役をやり続けてきているので、生意気かもしれませんが、ある意味、日本の伝統の芸を持っている自負があります。ですから、僕が天守物語で冨姫の役を演じるかぎり、古典性の根幹のようなものは大きく崩れないと思います。安里さんを始めとするさまざまな出自の方々が入り、舞台がどうフレッシュにアレンジされるか。そこは桂さんの腕にかかっているのかと。
 僕みたいな60歳を越えたおじさんを相手に恋をしなければいけないの安里さんに大変恐縮だけども、古来の日本にはそういう風習もありましたし、そういうものに一度触れておくことはとても有意義だと思います。僕の中にある伝統の様式美と現代劇のリアリズムが混然とするといいなと思っていて、そういうのが上手くいけば、凄く楽しい作品になるはずです」

安里「僕自身、新派劇を生で観た経験はないですが、2.5次元作品を初めて演じた時には、新しいものと出会うことで自分の中で生まれる様々な化学変化みたいなものがありました。今回はそれ以上の変化が生まれそうな気がしています」

―――ここは注目して欲しいという部分は?

安里「(取材時は)まだ稽古が始まる前なので、今後どうなるかは分かりませんが、今の段階では初めて新派劇を観るお客さんと一緒の気持ちなので、全く新しい安里勇哉が1つの見どころになるんじゃないかなと感じています。観ていて大変そうだなでもいいですが(笑)。そこを観てもらえればと思います」

篠井「『今はお客さんと同じ気持ちです』とおっしゃった安里さんが、桂さんのつくる天守物語の世界に飛び込んでいく構図は、まさに人間界から妖怪の住む天守閣に足を踏み入れる図書之助と同じなんですね。だからこれまで培ってきたものを胸に作品に挑んで頂くことこそが、一番の見どころと言えます。願わくは、観劇後の余韻で、心の美しさ、正しさ、清らかさ、誰かを想うって尊いことなんだと思って頂いたり、例え言葉にならなくても何か、清々しい気持ちになったりして、帰って頂けるといいなと思います」

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

安里「稽古を通してどんな作品になっていくのか、未知への挑戦はやりがいもあり、緊張もしていますが、お客さんと同じ目線で楽しめたらなと思います。ぜひ劇場で一緒に体感しましょう!」

篠井「古典劇の名作というイメージがありますが、作品が世に出た当時は物凄くアバンギャルドで、既にこの作品自体に攻撃的な要素を含んでいたと言えます。現代の僕たちがそれを楽しんで演じることで、お客さまに日本にこんな芝居があったのかと衝撃を受けて頂きたいという思いが強くあります。ぜひ、劇場で目の当たりにしてください。心よりご来場をお待ち申し上げております」

(取材・文:小笠原大介 撮影:平賀正明)

最近あった「わ!ダマサれた!!」なエピソードを1つお願いします

篠井英介さん
「この後に来る電車は急行だから1本は見送ろう。そう思って待ってました。ところがやってきた電車は各駅停車の上に行き先も違う。えっ! 騙された?! 単にナビの検索入れ間違いだったのですが……。常に電車移動の身としてはちょっとハラハラしつつ過ごしています」

安里勇哉さん
「僕、カレーが好きなんです。カレーの中でも甘口のカレー。てか、辛いのがあまり好みじゃないってのもあるんですが。このあいだ友人達がオススメするカレー屋に行ったんです。辛くないから食べれるって言われたんです。信じて食べたらスパイスが沢山入ってるカレーだったんです。とても辛かったです。ダマサレマシタ」

プロフィール

篠井英介(ささい・えいすけ)
1984年、男ばかりのネオかぶき劇団・花組芝居(前身・加納幸和事務所)に参加。看板女方として人気を博す存在となる。1990年退団後は女方のみならず、中性的な役や、悪役など、変幻自在の演技派俳優として活躍中。1992年、第29回ゴールデンアロー賞 演劇新人賞受賞、2024年、第58回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。2014年、石川県観光大使に任命。また日本舞踊の宗家藤間流師範名取・藤間勘智英の名を持つ。

安里勇哉(あさと・ゆうや)
和と洋をMIXしたショーボーイユニット「TOKYO流星群」のメンバーとして活躍中。主な出演に、舞台『黒子のバスケ』、『おそ松さんon STAGE~SIX MEN’SSHOW TIME~』、『フルーツバスケット』、Action Stage『エリオスライジングヒーローズ』-THE WEST-などがある。また、ドラマ『CODE1515』、映画『BLOOD-CLUB DOLLS 1』『BLOOD-CLUB DOOLS 2』、『三大怪獣グルメ』などに出演。さらに、TVアニメ『王室教師ハイネ』、『魔法少女サイト』では声優を務める。そのほか「和田雅成と安里勇哉の男映えシリーズ」などのバラエティーでも活躍中。

公演情報

PRAY▶vol.4×篠井英介 超攻撃型“新派劇”『天守物語

日:2024年8月22日(木)~27日(火)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:一般6,500円
  25歳以下3,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.pray2024tensyu-monogatari.com
問:PRAY▶
  mail:pray.theatrecompany@gmail.com

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