1998年に舞台芸術学院47期卒業生によって旗揚げされて以来、日常に起こりうる可笑しみや痛み、少しの毒気を持ち合わせた物語を発表し続けてきたONEOR8。結成26年目となる2024年、1年半ぶりの新作公演『かれこれ、これから』が上演される。
作・演出の田村孝裕の熱望により若手俳優10名を招いて行われる今回の公演について、さらには劇団結成当初からの想いなどを、田村と劇団員の恩田隆一、山口森広、冨田直美から聞いた。
―――劇団を結成して26年になります。当時、どのような経緯で、ONEOR8を旗揚げすることになったのですか?
恩田「旗揚げメンバーは全員、舞台芸術学院という学校で出会った仲間です。田村が劇団を作るということで当時9人が集まって、結成しました。ただ、集まったはいいものの、全員が役者で、誰も書く人がいなかったんですよ。それで、どうしようかとなった時に、田村が『自分が集めたのだから書く』と申し出てくれて、そこから始まりました」
―――田村さんはどのような思いからこの9人のメンバーを集めたのですか?
田村「集めてないんです」
―――え? 集めてないんですか?
田村「偉そうな言い方になりますが、ここにいるメンバーには誰も声をかけてないんですよ。僕が別の人と劇団を作ろうと話していたら噂が広まって、みんなが来てくれました。なので、僕の感覚では『集めた』ではなく『集まっちゃった』です。
とはいえ、そうして集まってしまったので、これは僕が書かないとまずいかなと思って、最初は書きますと。その時はずっと書くかどうかは決めていなかったですし、持ち回りでもいいし、どんな形になってもいいと思ってスタートしたんですが、たまたま僕がずっと書くことになって、現在に至ってしまっているという感じです」
―――旗揚げ当時は、どのような活動、作風を目指していたのですか?
田村「学校で『中村座』というアングラ劇団を作っていらっしゃった金杉忠男先生に習っていたのですが、その方が晩年、静かな演劇に傾倒されていて、授業の中で平田オリザさんなどのテキスト扱っていたこともあって、僕はそうしたいわゆる90年代の静かな演劇から演劇人生をスタートしたんです。僕自身、そうした作品に役者として携わることも楽しかったので、何も分からないながらも、その時に自分の日常にあったものをかき集めたお話をやるようになりました。
本当にスーパーの2階を舞台にした、物語ですらないようなお話です。素人が集まって作ってしまった劇団なので、客演さんを呼ぶというのも僕の中では申し訳ない気持ちがあって、劇団のメンバーだけで公演を3~4年はやっていたかなと思います」
―――その中で恩田さんが座長に?
恩田「そうですね、途中からなりました」
冨田「最初は座長がいなかったんですよ。主宰に田村の名前があって、それ以外は平劇団員」
恩田「ただ、田村がどんどん忙しくなって、雑用ができなくなってしまったので、その時にいたメンバーをみて、自分しかいないと思って、それでなりました」
―――冨田さんはどのような経緯で劇団に入ったんですか?
冨田「私も舞台芸術学院の時に劇団をやるよという話を聞いて、一緒にやりたいなと思って」
―――そうすると、皆さん学校でも仲が良かったメンバーだったんですか?
恩田「仲良くはなかったですけどね」
冨田「でも、同じクラスで真面目に授業を受けてない人たちの集まりではありましたね。最初の頃はお金もないし、全て自分たちでやるという感じだったので、私が舞台美術をやって図面を描いて、みんなで叩いて(作る)ということをやっていました」
田村「そのスタイルは今もあまり変わってないかもしれませんね。もちろん、続けていく中で出会ったプロの方たちにもお手伝いをしていただいていますが、基本的にはその頃に決まった劇団の中での役割が今も続いています」
―――山口さんはどういった経緯で劇団員となったのですか?
山口「今いるメンバーでは僕と伊藤俊輔さん以外は創立メンバーなんですよ。それで、最初に俊輔さんが客演から劇団員になられて。僕も、恩田さんと共演したのがきっかけで、最初は客演で出させていただいて、その時はすごく楽しく終わりました。
そうしたら、次の公演も呼んでいただいて、またすごく楽しく終わって。次の公演も…となった時、恩田さん的には客演でお金を払うのもバカらしいから劇団に入れということで(笑)。ちょうど30歳で子どもが産まれた年だったんですが、奥さんも快く受け入れてくれて、劇団員になりました」
―――客演をされていた時から、ONEOR8に入りたいという思いがあったんですか?
山口「20代の頃に舞台にばかり出演していて、色々な方の演出を受けていく中で、自分の軸が分からなくなってしまった時期があったんです。そんな時に劇団は羨ましいなと思っていました。
30歳を目前にして、自分で立ち上げるというのも難しいなと思っていた時に、ちょうど劇団に入らないかという誘いがあったので、その方がいいなと。とにかくONEOR8の稽古は笑いがあってめちゃくちゃ楽しい。田村さんの演出が楽しい。このまま劇団に入ったら役者としても修行になるし、すごくいいなと思いました」
―――客演されていた時に感じたONEOR8の魅力とは?
山口「僕が初めて観たONEOR8の作品が『莫逆の犬』でした。(同作は)笑えるシーンも多いんですが、ラストはとんでもなく残酷に終わって……3日間ぐらい落ち込みましたね。芝居を観て、翌日までずっとブルーになっていることって、あまりないじゃないですか。あの衝撃はいまだに忘れられないです。『なんて気持ちにしてくれるんだ!』って(笑)。
ですが、家族の話というのは、誰にでも響くものだと思います。ONEOR8は家族の話を毎回、題材にしているので、それも劇団の魅力の1つかなと思います」
―――活動を続ける中で、本当にたくさんの出来事があったと思いますが、この26年の活動を経て、1番大きな変化はどんなところですか?
山口「大きな変化はいっぱいありました(笑)」
冨田「やっぱり当初の劇団員がいなくなったり、入れ替わりは少しずつあるので、そこでは変化していると思います」
田村「ターニングポイントという意味では、本当にたくさんありますよ。ただ、それが何1つクリアできてないから今に至っている感覚もあります。毎公演ごとに生まれる反省点を次の公演でクリアしたいと思っているのに、次の公演をやったら、次の課題が生まれてきて、また次の公演で次の課題が……という感じで続いてきた。
昔から言っているんですが、僕はさっさと解散したいんですよ。『みんなが売れて忙しくなって劇団公演をできなくなったから解散しましょう』というのが1番の理想なんです。でも、そうなれていないから続いている。他のメンバーはどう感じているのかは分かりませんが、維持のためにやるのならいらないと思っているところもある。26年も続けてきてすごいと言われますが、実はそれはすごくないんだと僕は言い続けています。
そういう意味では、僕自身は劇団公演はプレゼンだと思っています。役者も僕も、『こういう役者です』、『こういう芝居を作ります』というプレゼンの場です。だからこそ、お金にならないことを良しとしているし、自分たちの目の届くところで全てやるという感覚でいるんです」
―――そうすると、劇団として大きくしていくというのは目指すところではない?
田村「僕はないです。この26年の中で、そう考えた時期もありましたが、それはもう無理じゃないかなと思います。実は1度、劇団員を増やして、20人くらい入れようという話をしたのですが、人数が増えた分の実務をこなすことを考えると、あまりにも大変なことが多すぎる。それは現実的に考えると無理だと分かりました。
いまだに理想形はどういうことかと探していますが、26年ということについては何も偉くない。むしろカッコ悪いところを見せながら続けているというのが僕の感覚です」
―――皆さんはいかがですか?
山口「途中から入った僕からすると、26年続けているというのはすごいなと思いますよ。田村さんが参加していない『B面公演』という公演で、僕が劇場を探すことになり、手探りで探していたときに、冨ねえ(冨田)や恩田さんが段取りも早く、次々と物事を決めていかれる姿を見て、これが続けていける理由なんだなと思いました。変化で言ったら、去年、法人化したことも大きいのかなと思います」
恩田「法人化して、また一からですが、これから先は色々と目論んでいます」
冨田「私は気がついたら26年経ってた(笑)。こう言われると、もう26年経ったんだなという感じです」
恩田「僕らは18歳の頃からの知り合いなので、その関係性はずっと変わらないんですよね」
冨田「良いんだか悪いんだか分からないですが(笑)」
―――今、法人化のお話もありましたが、今後の劇団としての目標やご予定は?
恩田「色々な公演を打っていきたいですね。それは劇団という枠を超えて、また違った形での公演もどんどんとやっていこうかなと思っています。今までは、年に1公演、多くても2公演だったのですが、そうした公演回数をどんどん増やしていけたらと思います」
―――ありがとうございます。そうした活動の中でも、まずは新作公演の「かれこれ、これから」になると思いますが、今回はどういった発想から生まれた作品なのでしょうか?
田村「次はどうしようかという話をしていた時に、今回、たまたま出ないことになったのですが、伊藤俊輔が『若い俳優があぶれている。若い俳優がたくさん出ているお芝居って意外とあるようでないじゃない?』という話をしていて。僕自身も今後は若い人たちと付き合っていきたいという思いがあったので、それはいいなと。
これまで客演さんや外部のお仕事でも、先輩と付き合うことの方が多かったのですが、『40までは先輩の話、40を超えたら年下の話を聞く』という人生の指針のような言葉もあるように、本当に若い子たちとたくさん出会わないとダメだと思ったんですよ。自分でも取り残されていく感覚や、自分が古い芝居を作っているという思いが芽生えていたので、若い子と出会おうということから考えて、作品を作り、座長に若い子を集めてきてほしいとお願いして、それで今回やることになったというのが経緯です」
―――ストーリーについても教えてください。
田村「今回は、ゴリゴリの恋愛話をやろうと思います。とあるシェアハウスに共同で住まう10数名の若者とおじさん、おばさんから生まれる恋愛話です。ネタバレになってしまうので、詳しいことは言えませんが、最後になるかもしれない、人生を賭けた恋愛をする人たちを描きます」
山口「創立メンバーの皆さんは40後半になってきて、自分たちで仕込みをやりながら、痛い痛いと言って重いものを運んでいるような状態なので、やっぱり20~30代の若い子たちと一緒にやれるのは嬉しいです。今回、恩田さんが何回も色々な劇場に観に行って、いいなと思う子がいたら声をかけたりして集めたと聞いています」
恩田「僕はオーディションはあまり好きじゃないんです。オーディションで100%の力を出せる子なんてそういないと思うので。だから、観に行くしかないと思って、この1年半劇場に通ってお芝居を観て、選んだ子たちです」
山口「1番は人がいいということですよね」
―――それは大事ですよね。
恩田「そこだけは大切にしています。コロナ前は、芝居を観終わって、飲み屋で若い子たちとも一緒に飲んで、話して、大体どんな人なのかが分かったら、『お願いします』と。そんなところからキャスティングしていたんですが、今は、なかなかそういう機会も少ないので」
山口「ですが、難航しながらもエネルギッシュな人たちが集まってくれているので、それが今回の公演で1番の楽しみかもしれません」
恩田「みんな元気がいいんですよ。元気と自信だけはある子たちを集めました(笑)。自分も若い頃はいパワフルに動いていたと思うので、きっとこういうふうに見えていたんだろうなと思いながら、声をかけています」
冨田「年齢を見たら、私が上から2番目なんですよ。今までこんなことなかったから驚いています(笑)。ですが、自分の子どもでもおかしくないような年齢の子たちが集まって今回の作品を作ってくれますし、ストーリー的にも色々と考えることがあるんじゃないかなと思っています。パワーをいただけたらと思います」
田村「僕はキラキラした恋愛ものを書くのは初めてなんです。不得手なので2度とやらないかもしれませんが、今回は、きっと若い子たちの力を使ってキラキラした恋愛群像劇になると思います。キラキラした若い子たちと時代遅れのおじさん、おばさんたちを観に来ていただけたらと思います」
(取材・文&撮影:嶋田真己)
プロフィール
田村孝裕(たむら・たかひろ)
東京都出身。舞台芸術学院演劇部本科卒業。1998年から現在に至るまで、劇団ONEOR8全公演の脚本・演出を担当する。近年の主な舞台に、ONEOR8『千一夜』、インプレッション『緑に満ちる夜は長く・・・』、トム・プロジェクト プロデュース『沼の中の淑女たち』など。
恩田隆一(おんだ・りゅういち)
東京都出身。舞台芸術学院出身。1998年に学院出身のメンバーと共にONEOR8を旗揚げ。2007年より、正式に劇団の座長となる。寿司職人や、壁のクロス貼り職人、酒に呑まれる男の役など、下町気質で人情味のある役柄を演じることが多い。劇団公演『世界は嘘で出来ている』では、甲本雅裕氏の弟役で孤独死を遂げる男を演じた。外部では、モダンスイマーズ、タカハ劇団、椿組、小松台東など、多数の客演を経験している。
冨田直美(とみた・なおみ)
神奈川県出身。舞台芸術学院出身。1998年に学院出身のメンバーと共にONEOR8を旗揚げ。集団すっぴん部隊主宰。はっきりとした顔立ちと毛量の多さが特徴。劇団ではそのエネルギッシュな特徴を活かし、癖のある芸能マネージャーやヘビースモーカーのスーパー店員、頼りがいのある看護師、男を振りまわす不倫相手など多くの役を演じている。劇団公演『電光石火』では主演を務め、兄との確執に悩む木材工務店の娘を演じ、『Turkey』では挫折したプロボーラー役で主演を務めた。俳優の傍ら、劇団公演の舞台美術にも携わっている。
山口森広(やまぐち・しげひろ)
神奈川県出身。11歳から子役として、ドラマ・バラエティ・CM・舞台と様々なジャンルで活躍。2012年に劇団ONEOR8に入団。その後も映像に舞台にと、精力的に活動している。演じる役は、優しいお父さんや、パワハラ上司、暑苦しい男などシリアスからコメディまで幅広い。2019年には、福井駅前短編映画祭2019にて最優秀主演男優賞、渋谷TANPEN映画祭にて助演男優賞を受賞している。また自身が作詞作曲する音楽ユニット ジ・シゲキーズや、ボーカルを務める@Tension!!、そして短編映画で自身初の脚本・監督に挑戦するなど、活動の場を広げている。
公演情報
ONEOR8『かれこれ、これから』
日:2024年5月31日(金)~6月9日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般4,800円
前半平日割[5/31、6/3~5]4,300円
U-25割[25歳以下]2,500円 ※要身分証明書提示/劇団のみ取扱/枚数限定
(全席指定・税込)
HP:https://wp.oneor8.net
問:ONEOR8 tel.080-6577-1399