自分を辿る旅路を描く、音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』 「とにかく生きることが大事なんだ、という思いを届けたい」

自分を辿る旅路を描く、音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』 「とにかく生きることが大事なんだ、という思いを届けたい」

 ミステリの女王 アガサ・クリスティーが別名義で発表した異色作『春にして君を離れ』。嫁いだ娘の病を見舞った帰り、荒天で交通網が途絶え、砂漠のレストハウスに1人幾日も留まることを余義なくされた女性。退屈な日々の中、過去を回想するうちに家族や人生の真実に気づいていく――。この作品を世界で初めてミュージカル化した『SUNDAY(サンデイ)』が、原作発表から80年を記念して3度目の上演を果たす。2018年の初演以来、主人公のジョーンを演じ続ける高野菜々と、原作にはない主人公と表裏一体の存在で、狂言回しでもあるゲッコーを初めて演じる、客演の藤重政孝が公演への想いを語ってくれた。

高野「2020年の再演がコロナ禍の只中だったので、今まで当たり前だったものが全て覆ってしまったんです。でもだからこそカンパニー全員が“この作品をなんとかしたい”という思いで舞台に臨んだので、どこかやりきった感覚があって。それだけに3演目に向かっている今、どうしてもすでにあるものに付け加えようとしてしまう自分がいるので、そうではなく、もっと本質的なものに感覚を研ぎ澄ましたいと日々もがいている真っ最中です」

藤重「今の話を受け継ぐならば、逆に僕は全てが初めてなので、カンパニーのみなさんとの温度差を結構感じています。温度と言っても、冷めているのか熱いのか、ということではなく色の違い。みなさんが2024年の『SUNDAY(サンディ)』の方向性を様々に探っている中、人間って理解しているからこそ悩んだり失われたりするものもあると思うので、そこに全てをフレッシュだと感じる僕がいることで、補っていけたらいいなと思っています」

高野「砂漠の中でたった1人って、考えただけでもとても恐ろしい状況ですよね。そんな生死の境にいるジョーンが、自分自身と対話している相手がゲッコーで、それを私は唯一の光と感じていたんです。でも自分しか話し相手がいないと考えるととてつもない闇でもあるんだと、シゲさん(藤重)のゲッコーに対峙して気づかせてもらったのが、私にとって凄く大きなことでした」

藤重「僕としてはジョーンに影を見せることによって光を再確認させる、どっちも大事で愛しているんだよというゲッコーを目指しています。人生って美しいだけのものではないし、どんなに孤独を抱えていても、とにかく生きることが大事で、大層なものじゃなくていいんだ、と思っていただける作品でありたいです。あくまでも僕はなんですが、舞台から何を伝えられて感じ取っていただけるかが一番大切だと思っているので、そこは大切にしたいですね」

―――高野さんは、黒澤明監督の映画をミュージカル化した『生きる』(企画制作:ホリプロ)で、小田切とよ役を演じられていました。オリジナルミュージカルの世界が、本当に似合うなと思ったのですが。

藤重「良かったですよね! 音楽座ミュージカルではない舞台に出演してどうだった?」

高野「2008年に音楽座ミュージカルに入団して、今年で16年目になります。その間、音楽座ミュージカルのやり方しか知らない訳じゃないですか。そこから外の舞台に出させていただいて、全てが新鮮だったというのが一番の印象でした。例えば、稽古の進め方1つをとっても全く違いますし、音楽のジャンルも違う現場で、宮本亞門さんの演出にくらいついていった。そんな中で、改めて知らないっていいことだなと思ったんです。何某かの先入観があって、前はこうだったのに今回はこうだな、ということが全くないからこそ全力でトライさせていただけた。この歳になってもまだ挑戦させてもらえる、知らない世界があるって実はとても大切なことなんだなと、初心に帰らせてもらえたことが、振り返ってみると1番の印象ですね」

―――高野さんから「知らないのはいいこと」というお話がありましたが、そういう意味で藤重さんは初めて音楽座ミュージカルの現場に入られていかがですか?

藤重「僕はそんなに舞台経験が豊富という訳ではありませんが、それでもここまで“みんなで創る”カンパニーは初めてですね。今回は3演目なので、ゼロから立ち上げるのではないはずなんですが、大枠はもうある中でも、本当にみんなで意見を出し合っていくんです。もちろん他の現場でも意見交換はしますけれども、演出家さんのもとで役者としてはこう感じるみたいな感じで話し合うのですが、音楽座ミュージカルはそういうスタッフとか、俳優とかの立ち位置に関係なく、みんなが自由に意見を言うんです。そこから『じゃあそれでやってみよう』となるし、『あ、やっぱり今のは違うね』とか、トライ&エラーを繰り返すのでとてもおもしろいです。疲れますし、体力・集中力を使いますが、それが心地良い疲れなのが楽しいですね」

高野「もちろん代表の相川タローが“こうやりたい”というものが真ん中にはあるのですが、その山に登っていく登り方が提示されるわけではないので、本当にカンパニー全員で話し合いながら『SUNDAY(サンデイ)』に挑戦しています。
 藤重さんがおっしゃったように、この作品はゼロからのスタートではありませんが、2020年の再演から考えても4年を経ていて、その間みんなも凄く変わっていますし、時代も変化していますから。そこを掛け合わせながら作っているので、今はまだカオスな状態なんです(笑)。先日、2幕の通し稽古をやりましたが、前回公演とは全然違った形になりました。ただまだまだこれから稽古を重ねていくので、もしかしたらみなさんにお届けする頃には前回と同じようになっている可能性もあります」

―――そこまで柔軟に?

高野「そうですね。やっぱり前回はこうだったからということではなく、今作りたい物は何か、『SUNDAY(サンデイ)』は本当にこれでいいのか?を探求し続けている感覚なので」

―――そこには藤重さんが新たにゲッコー役で入られているということも大きいですか?

高野「冒頭から藤重さんに新しいアイディアがあるんですよね?」

藤重「劇場では開演前に『携帯電話、音や光の出る電子機器の電源はお切りください』っていうアナウンスがあるじゃないですか。なのに着信音が鳴り響いて、出てきたゲッコーが『誰だよ、携帯鳴らしているのは!』と客席に向かって言ったら、自分の携帯が鳴っていた、というくだりがあるんです」

高野「そこで藤重さんから提案があったと聞いていて、4月中にもう1度通し稽古をすると思いますが、そこでその新しいバージョンをシゲさんがやってくださるというので、とても楽しみなんです」

藤重「でも、それも本番でどうなるかはまだわかりません。今言った形に戻っているかもしれないので、それはぜひ劇場で確かめてください」

―――そんな作っては壊しを繰り返している最中に、俳優としてでも人間的にでもお互いに感じる魅力はどんなものですか?

藤重「ジョーンとゲッコーって今までお話してきたように、表裏一体の関係で恋人同士ではないんですけど、人間を愛し続けているというのがゲッコーというキャラクターだと思っているので、ジョーン高野の魅力を見つけ出す日々なので、凄くウザいと思います!(爆笑)」

高野「そんなことないです! ただもしかしたらシゲさん自身も、シゲさんのことをわかっていらっしゃらないのかも?と思うほどなので、そこにはきっととてつもない奥行があるんだろうと感じていて。もちろん自分のことを自分が全部わかっているのか?と言ったら、みんなわかっていないんじゃないかと思いますが、だからこそシゲさんの全部をわかりたいなと思って対峙しています。わからないからもっとその先を見たくなるのは、ジョーンと一緒だなと思っていて」

藤重「おっしゃる通り、俺は全然自分のことわかってないんで。もうこのままわからないままで行こうというか(笑)。あんまり考えないようにしているかもしれないですね」

高野「そこが凄く魅力だなと思います。私は真逆で、自分のことを知りたくて堪らなくなる方なんですよ。わからないままにしておくというのが気持ち悪くて、自分の闇にも突き進んでいきたくなるタイプだからこそ、シゲさんいいな、素敵だなと思います」

藤重「でもそうしてわかろうとして一番わからなくなるってやつかも(笑)。俺は高野さんの歌や演技力の素晴らしさを拝見していて、俺にはないストイックさを持っている人で、全く別の方向の人間なのでそこが魅力ですね。そういう2人が演じることで、本当に伝えたいものが客席に届くといいなと思います」

―――そうした伝えたいものを届けるために、ミュージカルにすることの効果は感じられていますか?

高野「私は今回作品に改めて向き合っていく中で思ったのが、この物語ってほぼジョーンの想像で、昔話だったり妄想だったり現実ではないものになっていくんです。でも過去のことって自分の認識で歪んだりもするし、真実を自分の見たいものに変換してしまったりって、とてもよくあるなと。だからこの作品は観る人によっていかようにも取れるんです。単なる想像でしょう?とも、想像していると思っているけれども、実は真実なんだと感じていただくこともできる。そういうドラマをミュージカルにすることによって、より一層感覚的にお客さまに届けることができるんだなと感じています。ジョーンはゲッコーから見たくないものを突き付けられたりもするのですが、そこでは自分がこういうアドバイスをしたから子供たちは正しい道に進んだ、成功していると思っていたのに、実は子供たちは全然違うネガティブな要素を持っていたんだとわかり、その事実が恐怖になっていくんです。そこの表現については今まだそれこそトライ&エラーの最中ですが、そうした恐怖までも音楽があり、歌があり、ダンスがあるからこそお客さまに伝わるんだろうと凄く感じているので、この作品をミュージカルにした醍醐味が、きっとそこにあるんだろうなと思っています」

藤重「この作品のテーマは日常を軸に作られていて、人間一人ひとりみんなそれぞれの人生の主人公じゃないですか。そういう個々の人生が投影できる作品をミュージカルにすることによってそのドラマを増幅させているなと思います。だから凄く面白いですし、みなさんの日常って実はこんなにドラマチックだったんだ、と感じられる、そう作りあげられるミュージカルって素晴らしいなと思います」

高野「悲しいことに戦争も身近に感じる時代になってしまっていて、個人的には絶望を感じる瞬間が大きくなっている気がするんです。そんな時代の流れの中で、改めてこの『SUNDAY(サンデイ)』をやっていると、この絶望がいつか希望に変わるんだろうかと不安に思いながらも、人は生きていかなければいけないのだから、私もカンパニーもこの作品を通して観てくださる方に『一人じゃないんだよ』ということをお伝えしたいです。ジョーンだけでなく、登場人物一人ひとりが自分の人生を強く生きているので、痛みを背負いながらも生きていく、その素晴らしさをぜひ感じていただきたいです。劇場でお待ちしています!」

(取材・文:橘 涼香 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

高野菜々(こうの・なな)
広島県生まれ。2008年に音楽座ミュージカルに入団。初舞台の『マドモアゼル・モーツァルト』で主役に大抜擢されて以降、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』、『リトルプリンス』、『泣かないで』など、音楽座ミュージカルを代表する作品の数々で主要な役柄を歴任。『SUNDAY(サンデイ)』ジョーン役にて令和2年度(第75回)文化庁芸術祭賞(演劇部門新人賞)受賞。2022年には文化庁の令和4年度新進芸術家海外研修員として、ニューヨークに1年間留学。2023年、ホリプロ企画・制作のミュージカル『生きる』に出演するなど、活躍の場を広げている。

藤重政孝(ふじしげ・まさたか)
山口県生まれ。1994年に「愛してるなんて言葉より…」でアーティストデビュー。音楽活動の他、ラジオパーソナリティー・テレビ・映画などでも活躍。主な出演に、ミュージカル『RENT』エンジェル役、『モーツァルト!』、『王室教師ハイネ -THE MUSICALⅡ- 』など。

公演情報

音楽座ミュージカル『SUNDAY(サンデイ)』

日:2024年6月13日(木)~17日(月) ※他、名古屋・広島公演あり
場:草月ホール
料:SS席13,200円 S席12,100円 A席7,700円 
  U-25[25歳以下]席2,750円 ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://ongakuza-musical.com
問:音楽座ミュージカル事務局 
  tel.0120-503-404(月~金12:00~18:00/土日祝休)

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