俳優や演出家として活躍する青山太久主宰「劇団わ」の6月公演は、ヒーローがテーマ。夢をあきらめてしまった大人たちに送る、全力青春物語だ。誰もが楽しめるコメディにアクションとファンタジー要素を詰込み、2017年公演からブラッシュアップする。作品を代表して、主演・青山太久、ヒロイン・井坂仁美、佑太、吉田菜都実に話を聞いた。
夢を持っていた時間ってなんだったんだろう
―――ヒーローに憧れる青年が真のヒーローになるために挑戦し続ける物語で、2017年の作品を再演とのことですが、どのように生まれた作品だったのでしょうか。
青山「脚本は村上芳が担当しています。メッセージとしては、子供の頃に夢を持った方がいいと、いっぱい言われて育っていたのに、高校生ぐらいになると進路どうするのとか、就職は? お金は?と、急に現実を見ろと言われます。じゃあ夢を持っていた時間ってなんだったんだろうと。
僕は役者や演劇っていうものが、ヒーローとすごくリンクするものとして捉えていて、でもいい歳して安定しない職業についてみたいなこと言われることが、社会においてすごく変なんじゃないかと。だったら最初から夢を持つなと言って育ててくれればよかったのに」
―――前回と違いはあるのでしょうか?
青山「前回は非常にコンパクトな劇場で、大股5歩ぐらいで袖から袖いけちゃうくらいの広さでしたが、小屋が大きくなることによって、舞台セットや照明、音響でできることが増えていくっていう意味でのブラッシュアップと、今回アンサンブルの方が入るのでパワーアップした違いが見れるんじゃないかと思っております」
―――青山さんは引き続き主演・吉田郷役を演じます。大学の法学部なのに熱血おバカキャラですが、今回の挑戦として思う所は?
青山「脚本は大体4万文字ぐらいあるそうなんですが、前回は僕がほぼ半分以上を喋っていたらしくて、確かに毎公演、喉を酷使して命をかけて全力でやってたなっていう記憶があります。
ただただ愚直な原石みたいな感じで、力で攻めていたところがありましたが、今回は歳も少し重ね、これまで培ってきた技術も加えて少し落ち着いてこの作品を作っていけたらと思っています」
――そして井坂さんが演じる野崎綾瀬役は、本作のヒロインですね。
井坂「郷くんの幼なじみで彼を好いているけど、郷は気づいていない彼女未満の役どころです。
実は2017年版を観ていまして、この役を演じていた子は私が所属していたグループの元メンバーの子だったんです。それをやると思うとちょっとプレッシャーもありながら、雰囲気はわかっているので楽しみです。
劇団わの作品を初めて観たのがこの作品で、だいぶ厨二病なところが私は大好きで、普通に面白いと思ったことを覚えています。その後、ご縁があって何作か出演しましたが、この作品にヒロインとして出られることが嬉しいですね。たくちゃん(青山)の厨二病全開なところをそばで見るもの楽しみですし、コメディ要素も入っているので、同級生チームでは楽しくふざけていきたいなって思いました」
―――ヒロインを演じるにあたり、意識していることは?
井坂「ヒロインだからと気負いはないですが、やっぱり若さを出せるようにはしたいなと。大学生役なんで(笑)たくちゃんに引っ張られすぎず、こっちも全力でぶつかっていきたいと思っています」
青山「ありがたいです!」
井坂「何も心配はなく初日からフルスロットルでいけると思います。私はこの取材のみなさんと共演経験があり、同級生チームとしての距離感は初めから近い状態なので、やりやすいだろうなと」
―――佑太さんが演じる雨宮佑は、郷くんとは幼なじみの関係です。作品の印象などお聞かせください。
佑太「ヒーローにはすごく憧れていました。この作品もそうですけど、子供の頃憧れてたヒーローと、ちょっと大人になってからのヒーロー像って変わってきていて。悪役をやっつければヒーローっていうわけではなく、いろんなヒーローのあり方があって、それをすごく考えさせられる作品だなって思いました。そう気づけたことが自分が大人になっていたんだと、安心しましたね(笑)」
―――雨宮くんはどんな役柄ですか?
佑太「ちょっと冷静な子だと思います。郷くんは猪突猛進ですけど、それ対して1歩引いて見ているような、別の角度から見られる幼馴染です」
―――劇団わの本公演には初出演の吉田さんは、雨宮くんの彼女・リナ役を演じます。どのようなキャラクターですか?
吉田「脚本をいただいた時に、ロボ系女子と書かれていて、ロボ系女子ってなんだろうと」
全員「(笑)」
吉田「台本を読むと難しいというより、ずっとセリフを喋っていたので、どう覚えようかと思っているところです。
作品自体はコメディで、いろんなキャラクターが出てくるので、何も考えずに観て楽しんでもらえる作品なのかなと思います。無感情なキャラクターは経験がありますが、このタイプは初めて演じるので楽しみですね」
この4人で大学の同級生役を!
―――共演経験があるということで、青山さんが感じる、みなさんの魅力をお聞かせください。
青山「先日の公演を加味してお話しますが、劇団わの気合いを入れた復活公演『Happy Spell』に井坂さんと佑太さんに出ていただいて大成功で終わることができました。僕は演出家としてその場にいたんで、お芝居したいな、セリフ喋りたいな、舞台に立ちたいなっていう気持ちで非常にもどかしい想いがあったんです。6月の公演は自分が主演と決めた時に、“誰とお芝居がしたいか”からスタートして、距離感的にも近い同級生役ですし、ご一緒したことがあるキャストがいいのではとお願いしました。
井坂さんは、いろんな所で培ったコメディ力がこの2年半で更に磨かれてる感じがしたので、そこに期待をしています。佑太さんはやっぱり遊び心、子供心が1番あるんじゃないかなって思って。この作品の余白の遊び心がすごく出るんじゃないかと思っています。そして吉田さんは、そんな中でみんなをちゃんとここだよって戻してくれる役割の人と思っています。この3人(青山・井坂・佑太)が勢いで放たれたところを吉田さんが呼び戻す……1番大変かもしれませんね」
佑太「年齢的には1番下なのにね」
一同「(笑)」
青山「そうだった! それぞれの個性が役にばっちりはまっていて、キャスティングには自信を持っております!」
―――それぞれの注目ポイントや楽しみにしていることをお聞かせください。
井坂「私は主人公の郷に無茶ぶりされて、あるモノにならなければいけないシーンがありまして、これをどう表現しようかと。郷が入り込んでいる世界観に入らないといけなくて。それも1回ではないので台本を見てニヤニヤしながら考えています。キャラクター的には可愛いただのヒロイン、ただの幼馴染ではないところがポイントです」
佑太「まずこの4人で同級生を演じることがすごく楽しみです。あと演出の村上芳くんが久しぶりに演出をします。僕は芳くんの演出が好きで、演出を受けるのも楽しみの1つです。
『Happy Spell』では役者で出演していましたが、劇団としては演出が3年ぶり。芳くんが発する言葉は耳に残ることが多くて、その言葉を久々に聞けるのですごい楽しみです。あとは彼女役の吉田さんとの関係性も楽しみですね」
吉田「私は皆さんとはそれぞれ作品でご一緒したことはありますが、ガッツリ絡んではいなくてセリフを交わしたことがあまり無いんです。今回セリフを交えることができるのでとても楽しみです。キャラクターとしても不思議な感じなので、新しい姿をお見せできるんじゃないかなって思っています」
青山「なにかに一生懸命な人間はとてもエネルギッシュで、すごく魅力的です。作品の本質は、エネルギー量、一途っていうところにあると思うので、シンプルに物語を伝えていくことが大事だなと思います」
憧れることができる人がヒーロー
―――ではヒーローにちなんで、みなさんが思うヒーローとは? ヒーロー像について教えてください。
青山「僕にとってのヒーローは関わる人みんなで、僕よりも優れているものを持っている人、自分にできないものができる人が最近はヒーローとして感じるようになっています。どの人に会っても自分よりもできることが絶対にあって、この人のこういうとこすごいな!と」
―――“ヒーロー=プロフェッショナル”の考え方ですね。
佑太「僕も同じですね。憧れることができる方がヒーローなのかなと思います。僕がこの世界に入ったのも憧れからです。この世界で魅力を出して、自分も憧れの存在になれたらと思います」
―――歳を重ねて憧れられる立場も近い気がします。
佑太「そうなんですよね。役者として歩んできて(ぜんぜん変わらなくて)おかしいなって思うこともあります(笑)。あれ? こんなはずじゃないなとか、ちょいちょい」
一同「(笑)」
―――井坂さんはいかがですか?
井坂「1番身近なヒーローと言われたら私は仮面ライダーです。平成のライダーは色々なテーマや、様々な環境であったり、誰かのために戦っているんです。自分は犠牲になってもいい、自分の命よりも誰かのために、誰かを守るために、世界を守るために戦っています。
自分のことだけを思っている人よりも、他人に寄り添って会話している人は魅力的です。今の若い人たちも、若くなくても仮面ライダーを観てほしいなって思います」
吉田「私は困った時に支えてくれる人にありがとうって思うタイプなので、両親や小学校の先生がヒーローですね。先生は今でも手紙をくれるので」
井坂「わ~素敵な先生だ!」
吉田「ちょっと落ち着きますし、支えてくれる人に憧れがあります」
―――では最後に作品を代表して青山さん、メッセージをお願いします。
青山「舞台を見ることは、僕は素晴らしいことだなって思っていて、僕もプライベートで舞台を見に行って感動しています。舞台はただの娯楽ではあるけど、お芝居を見ることで人生が豊かになるんじゃないかなと本気で思います。これからもっとSNSを利用してみんなをお誘いします。ぜひいらしてください。必ず感動すること間違いないとお約束します」
(取材・文&撮影:谷中理音)
プロフィール
青山太久(あおやま・たく)
9月19日生まれ。俳優・演出家・殺陣師・コミュニケーショントレーナー。劇団わ主宰。身体能力を生かした殺陣・ダンス・アクロバットを得意とし、幅広く演じ分ける演技に定評がある。12歳の時に劇団APRICOTに入団。14歳の時に劇団あおえんどうを旗揚げし、旗揚げ公演『もしも』を脚本・演出、出演する。演出した近作に、劇団わ ミュージカル『Happy Spell』など。
井坂仁美(いさか・ひとみ)
2月27日生まれ、神奈川県出身。舞台を中心に活躍中。仮面ライダーGIRLSのリーダーとしてもグループを牽引している。主な出演作に、『風都探偵 The STAGE』、舞台『志立彩色女学院アイドル科』などがある。
佑太(ゆうた)
3月23日生まれ、東京都出身。多くの舞台で活躍中。近作に、劇団わ ミュージカル『Happy Spell』、舞台『MIANEYO-ごめんね。-』など。2024年5月22日~26日には、EXE.ROCK.Entertainment Another Stage『unknown BET 〜キャロルの旋律〜』が控えている。
吉田菜都実(よしだ・なつみ)
5月1日生まれ。東京音楽大学声楽科を卒業後、ミュージカルからコメディ、ストレートプレイまで幅広くこなしている。近作に、劇団ラパン雑貨ゝ 第10回本公演『Reduce:Reuse:Restart 2ndstory ~静止した時を再び~』、舞台『THE GOEMON~episode 0~』がある。
公演情報
劇団わ本公演『僕のヒーロー願望』
日:2024年6月5日(水)~9日(日)
場:中目黒キンケロ・シアター
料:10,000円(全席指定・税込)
HP:http://www.wagumi.site
問:劇団わ mail:cs@gekidan-wa.tokyo