平野良と多和田任益が2役を交互に演じる 「AIと葬儀」をテーマにした、ある未来の物語

 CCCreationによる堀越涼の新作舞台『白蟻』が6月6日から上演される。主人公の櫛本悟と勢堂直哉を、平野良と多和田任益が交互に演じ、“AIと葬儀(弔い)”をテーマにした物語を生演奏に乗せて描く。堀越・平野・多和田、そして前作『沈丁花』に続き、堀越作品に出演する松島庄汰に公演への意気込みや本作の見どころを聞いた。


―――最初に、堀越さんからこの作品が生まれた経緯や、発想の出発点をお聞かせください。

堀越「もともとこの企画は僕が3、4年ほど前からあたためていたもので、すでにプロットも完成していたのですが、なかなか上演する機会に恵まれずにいたものでした。実は昨年の5月まで、実家のお団子屋さんを継いでそこで働いていたんですよ。色々と事情があり、今は辞めてしまったのですが、辞める直前にこの作品のプロデューサーの宮本茶々さんが遊びに来てくださって。『また何かやりませんか?』とお声を掛けていただいたんです。その時に、まだ出していないプロットがあるとこの作品を提案したという経緯でした。宮本さんの好みがわからなかったので、『ブロマンス的な要素を取り入れたものなのですが大丈夫ですか?』とお渡ししたのですが、宮本さんもブロマンスをやりたいと思っていたとおっしゃって。それならばと動き出した企画でした」

―――家業のお団子屋さんで働いていたということが、作品の登場人物たちとも重なって見えますが、そうしたご自身の事情も発想のもとにあったのでしょうか?

堀越「そうですね。やっぱり家を継ぐということが僕の頭の中になんとなくあったので“家業を継ぐ、継がない”という問題を描きたいという思いは僕の中にありました。僕自身、“家”をテーマに作品を執筆することが多いのですが、そうした要素も取り入れていけたらという思いで今回の脚本も書きました」

―――平野さん、多和田さん、松島さんは最初に脚本を読まれた時に、どんな印象を持ちましたか?

多和田「AIが活躍する世界を描いた物語なので、難しいのかなと、最初は構えてしまったのですが、全くそんなことはなく、すんなりと作品の中に入っていけました。こうした未来がいつか来そうだと感じる場面も多く、意外と遠くない未来の話なのかもしれないという気持ちになりました」

平野「台本を読んだときに、“舞台っぽい台本だな”とか“これはちょっと映画に寄っているな”という感想を漠然と抱くことがあるんですが、この作品の台本を読んだときの読了感は小説に近かったんですよ。景色の色やその時に登場人物たちが感じていることを生々しく感じる本だったので、それを舞台上で表現する楽しさと難しさがあるなと思いました。“人が作ったものは生命になり得るのか”というAIの問題は、これからどんどん現実味を帯びてくる問題だと思います。人が生きていく上で、人を人たらしめるものは何なのか。人類もそうしたフェーズに入ってきているのを感じるので、これを演劇としてやるというのは、芸術の観点からも僕は素晴らしい企画だなと思いました」

松島「台本を読ませていただいた後にマネージャーさんと、“ようこんなん思いつくな”と同じ感想を言ってました(笑)。堀越さんとご一緒させていただいた『沈丁花』とは、過去が現在に混ざり合うという構成は似ていますが、それ以外は全く性質も話も違っている作品で。なんといっても言葉が美しい。声に出したくなる言葉が多いので、さすがだなと思います」

―――今回、平野さんと多和田さんは、2役を交互に演じるということですが、それもまた新しい試みですよね。

多和田「聞いた時に耳を疑いました(笑)。『何かの間違いではないですか?』って本当にマネージャーさんに聞いたくらい衝撃でした」

―――プレッシャーも大きい?

多和田「とにかく、平野さんは大先輩なので、一緒にやらせていただくだけでも凄く嬉しいのに、同じ役をやらせていただくというのは正直、怖い気持ちもあります。ですが経験値としては凄く大きいものがありますし、ここは頑張らないといけないなと思っているところです。僕は平野さんよりも年齢が下なので、この作品の魅力や世界観の幅がそうした僕たちの差と合わさってより広がるのではないかなと思いますし、交互に演じることで感じ方が変わる作品にもなるのかなと感じています。そう思うと、プレッシャーと同時に、やる気も溢れています」

平野「今まで、役を変えて演じるとなると年齢が近い役者だったり、どこか類似しているとこがあることが多かったので、僕も最初は耳を疑いました。『あれ? 若い人とおじさんが入れ替わるんですか?』って(笑)。『お客さん、心臓が止まっちゃうんじゃない? 今日はおじさんだってことにならない?』って(笑)。でも、だからこそ(多和田が言うように)幅が広がるんだと思います。また違った色合い、景色になるのかなと思います」

―――堀越さんは、2役を交互に演じてもらうというアイディアは脚本を書いた段階からあったのですか?

堀越「いや、そんなことはないです。宮本さんとどういう企画にしようかというお話をしている中で出てきたもので、僕としてはチャレンジなところはあります。もともと想定していた、ピッタリだと思う配役のままでもいいのですが、どうしても僕は異化効果を狙いたくなってしまうので。ひっくり返ったらどうなるんだろう、それを見てみたいという思いがありました。おふたりには膨大なセリフ量を担っていただかなくてはいけないので、そこに関しては申し訳ございませんが、きっと頑張っていただけると思っています。勢堂はいわゆる主人公ですが、覇気がなく、葬儀屋としてのオーラを纏いつつも、先輩である櫛本に思いを寄せているというのが物語の軸になっています。つまり、憧れの対象と憧れている人という関係性でもあるので、2役を演じることで、その関係性がひっくり返るという面白さもあると思います」

―――いま、堀越さんから勢堂と櫛本の関係性について「憧れの対象と憧れている人」というご説明もありましたが、平野さんと多和田さんはその関係性についてはどう感じていますか?

多和田「脚本を読んでいる段階では、まだ細かくは想像ができていなかったのですが、とても深い関係性があり、愛があることを感じています。きっと稽古が始まって実際にどちらかの立場に立って演じてみることで、感じるものがあるんだろうなって思うので、平野さんと、それから周りのみなさんと堀越さんと一緒に探って、広げていけたらと思っています」

平野「全く違う種類に見えるけど、2人とも純粋だなというのを感じています。ただ、純粋ってなんなのかを考えたら、それは人のエゴであり、見たいものをみる力だったりするのかなと。その方向性の違いがすれ違いになったり、同じ方向に進む気持ちになったり。今後の稽古で、その純粋の正体を改めて紐解いていくことになるのかな」

―――松島さんが演じる新渡戸はお寺の住職です。脚本を読んだ今の時点では、どんな人物だと感じていますか?

松島「わかりやすい人物ではないのかなと」

堀越「今回、松島さんに演じていただく新渡戸は、アナザーストーリーの主人公みたいな立ち位置です。勢堂と櫛本のラインの話と少しずれたところにいる“こっち側”の主人公というのが僕の中でのイメージです。宮本さんとお話をしていたときに、『松島さんがやってくださったら凄いね。無理かな』と、聞いてみるだけ聞いてみようと意を決して連絡をさせていただいたので、引き受けてくださったっていうのは凄く嬉しいです。前作では、本当に真っ直ぐな主人公を演じていただいて、僕も凄く信頼してるので、参加していただけて本当にありがたいです」

松島「前回の稽古で、日本語の正しいイントネーションを凄く重要視されていたことが印象に残っているんです。それに凄く苦戦したので」

堀越「日本語の美しいイントネーションは、弓形で終わっていくんだということを稽古で言ってしまうタイプなんです、僕(笑)。(松島は)凄く真面目だから、全部やってくれようとしたので、前半は大変だったと思います」

松島「『弓形とは?』と思いながら、頭から煙が出そうでしたが(笑)。細かいことまでご指摘していただけるのはありがたいなと思いました。なので、今回もまた苦しむのかなと思います」

―――前回の稽古の時の印象は、そのイントネーションが一番の苦労だったのですね。

松島「そうですね。堀越さんの本は、考えて演じるというよりも、脚本のまま読んでいけば自然に感情が出てくる印象が強いので、今回もあまり難しく考えずに演じたいです」

―――演出面では、どのようなことを考えていらっしゃいますか?

堀越「美術の久保田悠人さんが面白いものを提案してくださったので、美術も面白いことになると思います。それから、AIをどう表現するかですが、前回、コンテンポラリーダンスを初めて取り入れたら、非常に面白いものが出来上がったので、今回も取り入れる形で振付は新たに木皮成さんにお願いしています。多和田さんが踊れるのは知っていますし、踊れる方を前にやらなくていいですというのも勿体無い話ですが、今回はAIの方で取り入れる予定です。AI大黒役の島田惇平さんは身体表現を得意とされる方なので、コンテンポラリーダンスを取り入れたAI表現を一緒に作っていきたいと思います。リアルによらずに、抽象的な表現で面白い転換を作っていけたらと考えています。僕、アーティスティックに見られたいんですよ(笑)。アートだなと感じてもらえるものを作りたい。上演するKAATには、アーティスティックな印象があるので(笑)。そんなことを今、考えています」

―――これからの稽古に対しての楽しみや意気込みをお願いします。

多和田「昨年、堀越さんの作品を初めて拝見させていただきました。その作品もとても面白く、いつかご一緒したいと思っていたので、今回ご一緒できることが本当に嬉しいですし、今やる気に溢れています。以前からご一緒したかった平野さんと松島さんとご一緒できるのも嬉しいです。かなり難しい題材を扱った作品だと思いますが、人間が大事にしなくてはいけないものがテーマとしてあるのを感じているので、うまく自分の中に取り入れていきたいと思います。何よりも今回は2役を交互にやるという、初めてのトライが大きな壁としてあるので。きっと、それを越えた先にまだ見たことがない場所に行けると思うので、必死に頑張っていきたいと思っております」

平野「今回、堀越さんとは初めてご一緒させていただくので、作品ごとの“平均値”や“普通”というものが存在するのであれば、僕はそれをまだ知り得ていません。初めましてのメンバーも多い中で、その世界の“普通”や世界観に合わせてチューニングしていく作業が、僕は好きなので、この空間に生きている人たちの呼吸やリズム、心臓の音を感じながら合わせていく作業を楽しみにしています。2役交互に演じるということで、僕たちも、そして観ている方々も感じ方が広がる面白さがあると思います。AIがまだ日常に溶け込んでいない今、科学ではできないものを浮き彫りにしていくこの作品は、人間らしくて素敵だなと感じていますし、きっと観終わった後には一番馴染み深い感情が広がるのではないかなと思います。AIを描いていながら、そうした感情になるというのが僕の中でも楽しみなところでもありますし、挑戦しがいのある作品だと感じています」

松島「初めてお坊さんを演じさせてもらうのですが、僕は実家の裏が寺で、親友の1人にお坊さんがいるので、親友の手を借りてお寺を見学させてもらいたいと思っています。実は前回、ダムに沈んだ村のお話をやったときも、実際にその空気を感じたいと思って本当にダムに沈んだ村に行ってきたんですよ。なので今回も色々と調べてから稽古に入りたいと思っています。それから、堀越さんの作品は楽隊も見どころの1つです。音楽と芝居との調和を楽しんでいただけると思いますので、そこにも注目していただけたらと思います。頑張ります」

―――堀越さんからも、改めて本作の見どころをお願いします。

堀越「最初にお話した通り、この作品のプロットを書いたのはもう3、4年前でした。それを宮本さんが『やりましょう』と言ってくださって、こうして上演できる機会をくださったのは非常にありがたいです。このプロットを書いた当時よりもAIは進化していて、時代がこの作品の内容に近づいてきています。なので、よりリアリティを持って観劇していただけるのではないかと思います。実は、戯曲上にちょっとした仕掛けがあるので、この台本は賞味期限があると思っていたんですよ。それがおそらく、2025年。それまでに上演したいと思っていたので、この時代に合ったお芝居をご提案できるのではないかと思っています」

(取材・文:嶋田真己 撮影:友澤綾乃)

春は出会いの季節。最近、新たに出会ったものorひとは?

平野 良さん
「アニメです。漫画は大好きで昔から読んでいますが、アニメに関してはたまに観る程度でした。ですがこの半年で大ハマりしてサブスクなどで時間が許す限り観ています。1回見出すと次から次へと止まらない状況。小説も好きなのですが、きっと物語や世界観への没入が支えになっているのでしょう」

多和田任益さん
「ダンスエンターテインメント集団「梅棒」への加入以来、取り組み始めた公演の振付から始まり、最近アイドル楽曲の振付や舞台のステージングなど、新たなフィールドのお仕事をいただけるようになりました。それらに取り組む過程で、これまでになかった感覚や感動、触れることのなかったスタッフ視点に出会えています。その出会いで役者として作品や役に向き合う時の視点、感性も広がったと感じているので、今はとにかくどんどん演じたことのない役に出会いたい気持ちが膨らんでいます」

松島庄汰さん
「運転でしょうか。昨年の12月に運転免許を取りまして、まだ一度も運転をした事がないので、暖かくなってきた春に遠出をして行動範囲を広げたいなと思っております。桜なんか見に行ってみたいですね。ペーパードライバーだけにはならないよう心掛けます」

堀越 涼さん
「演劇をやっていると、素敵な人との出会いは沢山あるし、選ぶことも出来ないので、敢えてここには書きません。僕は一年を通して、面白いゲームはないか、と血眼になって探しているのですが、世の中で評価されているゲームと感覚が合わない部分もあり、かなり難航してたりします。しかし、この度、無事、『Terraria』という神ゲーと今更出会い、毎日を楽しく過ごしています。素晴らしい出会いに感謝」

プロフィール

平野 良(ひらの・りょう)
中学生の頃から芸能事務所に入り活動をスタート。『3年B組金八先生』第5シリーズにて映像作品デビュー。主な出演に、ミュージカル『テニスの王子様』1stシーズン、ミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズなど。

多和田任益(たわだ・ひでや)
ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン 手塚国光役、スーパー戦隊シリーズ『手裏剣戦隊ニンニンジャー』スターニンジャー/キンジ・タキガワ役を務めた。2020年にダンスエンターテインメント集団「梅棒」に加入。

松島庄汰(まつしま・しょうた)
2007年、アミューズ30周年全国オーディション準グランプリ受賞。主な出演に、映画『わたしの幸せな結婚』、『仮面ライダードライブ』、舞台『ゲルニカ』など。

堀越 涼(ほりこし・りょう)
大学卒業後、花組芝居に俳優として入座(2021年退団)。2012年に「あやめ十八番」を旗揚げし、作・演出を務める。古典のエッセンスを盗み現代劇の中に昇華すること、現代人の感覚で古典演劇を再構築することの両面から創作活動を行う。

公演情報

CCCreation Presents 舞台『白蟻』

日:2024年6月6日(木)~9日(日)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:パンフレット付きS席11,500円 S席9,800円
  U-25[25歳以下]6,500円 ※要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp
問:CCCreation mail:contact@cccreation.co.jp

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