ゴツプロ!が劇団道学先生 青山勝演出で『無頼の女房』を上演! “ダメな男”が愛おしい、中島淳彦の脚本に挑む

ゴツプロ!が劇団道学先生 青山勝演出で『無頼の女房』を上演! “ダメな男”が愛おしい、中島淳彦の脚本に挑む

 小劇場界で長年活躍する男性俳優のみで結成された「ゴツプロ!」。2018年の本多劇場進出を皮切りに、地方はもちろん、台北公演で海外進出も果たしている。そんなゴツプロ!メンバーたちが出会うきっかけとなったのが、中島淳彦脚本舞台での共演だ。今回はその代表作『無頼の女房』を、「劇団道学先生」主宰・青山勝の演出で上演する。脚本を手掛けた故・中島淳彦への想いと上演への意気込みをメンバーの塚原大助と佐藤正和に語ってもらった。

―――『無頼の女房』をゴツプロ!で上演することになったきっかけは?

塚原「僕らはみんな、中島淳彦さん作品の共演で出会っているんです。20年くらい前に劇団道学先生を観ていた僕らは中島さんの本が大好きで……。メンバーの44北川が、『フツーの生活』という脚本を中島さんに書いていただいたこともあります。戦中戦後3部作として長崎・沖縄・宮崎を舞台に、原爆や人間魚雷などを題材にした話でした。ほとんどのゴツプロ!メンバーはその時に共演して、今に至っているというご縁があります。中島さんは残念ながら5年前に亡くなられたのですが、いつかゴツプロ!で中島さんの作品を上演したいとメンバーとも話していました」

―――演出を務める青山さんは以前、佐藤さんが主宰する「青春の会」で上演した『父と暮せば』でも演出を務めていらっしゃいましたね。

佐藤「一番シンプルに作品の面白さを演出してくださるのは青山さんだと思ったんです。いい意味で癖がなく、ご自身もプレイヤーであるからこそお芝居に造詣が深いので、作品と役者の良さを引き出してくださるんです。おかげで素晴らしい作品に仕上がったと思います」

塚原「そのご縁もあって、今回ゴツプロ!でも演出をお願いすることになりました。青山さんから、ゴツプロ!で劇団道学先生の作品をやるなら『無頼の女房』が合っているんじゃないかとご推薦いただいたかたちです」

―――おふたりは、青山さんとも付き合いは長いのですか?

佐藤「僕はいちファンとして、劇団道学先生を何作品も観ていましたが、初めて話をしたのは2010年の『フツーの生活』宮崎編の再演に出演させていただいた時ですね。再演の方では演出も中島淳彦さん自ら務めてくださったんですけど、その時に初めて青山さんともご一緒しました。当時は全然鼻にもかけてもらえなくて(笑)。おふたりともお酒が大好きで、稽古終わりに何人かでお酒を飲んで、カラオケに行って……。僕、歌に関しては決して上手くはないけど下手ではないと思っていたんですが、『君の歌声には味がない!』ってダメ出しされてしまったのを覚えています(笑)。そりゃ青山さんも中島さんもバンドをやっていらっしゃるくらいお上手なので仕方ないですけどね。
 僕はずっと劇団道学先生に出たくて、『あたらしいバカをうごかせるのは古いバカじゃないだろう』っていう作品のオーディションで“ギターが弾けて高校生に見える役者”が募集された時に、当時40歳くらいだったんですけど、おふたりとも知り合いだし、ダメなら書類で落とされるだろうって思ってダメ元で書類を出したんです。そうしたら1次審査を通ってしまって……。2次審査に行ったら、理不尽にも中島さん、青山さんに『何で来たの!?』って言われたんです(笑)。そのくらい劇団道学先生の作品に出たかったので、自団体とはいえ、今回は本当に念願がかなったかたちになります」

塚原「僕は2010年の『フツーの生活』で共演させていただいて、僕は鼻にかけていただいたのかな(笑)。その後何度か劇団道学先生に出演させていただきました。青山さんとは日常的にご飯に行く機会も多くて……。楽しいんですよね、一緒にいて。芝居の話もそうですが、青山勝という人間性が僕らは物凄く大好きで尊敬する先輩です。10年くらいそういう関係が続いている中、今回ゴツプロ!で劇団道学先生の代表作でもある『無頼の女房』を、かんのひとみさんにもご出演いただいて上演できるというのは、僕ら2人だけではなくて、全メンバーそれぞれに感慨深い想いがあると思います」

―――中島さんも天国で見守ってくださっていると思います。かんのさんのお名前が出ましたが、第6回公演以降、ゴツプロ!でも女性キャストが出演するようになったからこそできる挑戦かもしれないですね。改めて今作の見どころは?

塚原「とにかく本が面白い。坂口安吾と妻の三千代をモチーフとした夫婦を中心に、彼らを取り囲む編集者や、太宰治をモチーフにした役も出てきて……。無頼派といわれた当時の作家たちの、破天荒な⽣き⽅。流⾏作家ゆえの重圧から酒と薬物で⼼⾝のバランスを保っているような⽣活を送っている。そんな圭吾に寄り添ってきたやす代にとある変化が訪れたことで、夫婦の時間が変わってくる。今の時代からしたらダメな男たちを、⼥性たちが守ってくれているような作品です。必死に⽣きているとみっともないし、情けないこともある。だからこそ⼈間は愛おしいんだと思えるこの作品を、今だからこそ上演したいんですよね。20年も前の作品なので、世の中は大きく変わっていて、再度上演することは大きな挑戦でもありますが、ぜひ当時観ていたみなさんは勿論、若い世代にも観てほしいなと思います」

佐藤「“コンプライアンス”なんて言葉がなかった頃に書かれた作品ですからね。今の時代にそぐわない作品かもしれないけど、でも今ってちょっと息苦しいなって思うこともありませんか? 美しいものばかり、綺麗なものばかりが良しとされるけれど、みっともない姿、ダメな姿を晒してしまうのって、いけないことなのかなぁと。映像はそれこそコンプラが厳しいので、舞台で、生のお芝居でないと表現できない世界も増えてきたなと思うので……。『無頼の女房』はそこまで激しい表現はないですけど、中島さんの本に詰まっている、欠落したものへの愛や美しさを表現できたらいいなと思います。……正直、中島さんご自身も色々欠落した人だったから(笑)」

塚原「間違いない(笑)」

佐藤「でも、凄い人なんですよ。ご存命だったら今でももっと沢山の作品を世に出していらっしゃったと思います。今作をはじめ、過去に書かれた作品たちはどれも、今上演してもなお、色褪せない魅力があります」

―――劇団道学先生で同作品を上演していた時は、青山さんが主人公の塚口圭吾を演じていたとお聞きしました。今回は同役を塚原さんが演じるとのことですが、プレッシャーはありますか?

塚原「プレッシャーはないのですが、初めに台本を読んだ時はどうしても青山さんが演じているビジョンが見えてしまいましたね。今はそれを超えて、自分だったらどう演じようかと考えています。直々に演出を受けられるのも楽しみですし、やりがいのある役なので、一緒に作っていけたらと思います」

―――佐藤さんはどのような役どころになりますか?

佐藤「僕は編集者の役です。僕と渡邊聡、泉知束……ゴツプロ!のメンバーが編集者の役を演じるのですが、変わった人のところには変わった人が集まるんだよなぁと(笑)。妙な一体感が出たら面白いだろうなと思います」

塚原「今作にも実力派のいい役者が揃ったよね。オーディションで鹿野真央さん、前田隆成さんが決まって……」

佐藤「2010年に劇団東京ヴォードヴィルショーが無頼の女房を上演した際に土屋佑壱さんが出演されていて、今回も同じ役で出演していただきます」

―――それは、当時ご覧になっていた方も感慨深いでしょうね!

塚原「かんのひとみさんが演じていたヒロイン役は、今回は浅野令子さんが演じます。彼女は青山さんの推薦です。新国立劇場で、全キャストフルオーディションでキャスティングされる企画『斬られの仙太』という作品で青山さんとはご一緒されていて、そこからのご縁で」

―――素晴らしいキャストが集まりましたね。ゴツプロ!は浜谷康幸さんが主導する、ゴツプロ!演劇部をはじめ、若い世代への働きかけも熱心な印象がありますが、今作を通じて若手の役者たちに伝えたいことは?

佐藤「僕ら自身が若い頃、劇団道学先生に夢中になって、この団体に出たいなと焦がれ続けたので……。そういうお芝居をゴツプロ!もできるようにならないといけないなと思いますね。憧れてもらえる存在でありたい」

塚原「いつか一緒に芝居をやりたいなと思って、頑張る原動力になれたらいいよね」

佐藤「僕らだってまさかシアタートップスで観ていた劇団道学先生の作品を、自分たちのプロデュース公演として、青山さん自ら演出していただき、本多劇場で上演できるなんて思ってもいなかったので。お芝居を続けていると、何があるか分からないですよ」

塚原「中島さんの戯曲で書籍として残っているのは『ぐらぐら少年』、『エキスポ / 無頼の女房』だけではあるんですが、色々な団体に上演してほしいとあとがきに書かれていました。僕らが今回上演することで刺激を受けた若い世代が、また10年後、20年後に上演してくれて、作品の良さが脈々と下の世代にも伝わっていったら嬉しいです」

―――ありがとうございます。では最後に、観に来てくださるお客様に一言ずつメッセージをお願いします。

塚原「中島淳彦さんの脚本、青山勝さんの演出で、人間味あふれる作品をお届けできると思いますので、新たなゴツプロ!の一面をぜひ楽しみにしていただけたらと思います」

佐藤「本多劇場で中島さんの世界観を、脚本に仕込まれた“毒”をぜひ浴びてほしいなと思います。僕ら自身も凄く楽しみにしていますので、ぜひ劇場でお待ちしております」

(取材・文:通崎千穂 撮影:友澤綾乃)

春は出会いの季節。最近、新たに出会ったものorひとは?

塚原大助さん
「深井邦彦、髙橋広大、川名幸宏といった劇作家・演出家との出会い。新たな才能に出会い共に舞台を創作する。それぞれが持つ独特の世界観に自身を浸透させていく、融合させていく時間は刺激的であり喜びです」

佐藤正和さん
「“池田成志さんの高校の同級生”。行きつけの下北沢のバーで飲んでいたら、隣の席の男性二人組に『お兄さん、役者さん?』と話しかけられました。そうだと答えると唐突に『池田成志って知ってる?』と。知ってるもなにも! 大学生の時に成志さんの『熱海殺人事件』を観たから芝居にハマったんです! 好きすぎて自分でも熱海やったんです!と店に貼ってもらっていた自分のポスターを指差して興奮して答えました。『オレたち高校の同級生』と。じゃあ大野城ですか? 僕、大牟田です!と成志さんの話、地元の話で盛り上がりました。ビバ! 下北沢! そして、そろそろ、成志さんご本人にも出会いたいなぁ」

プロフィール

塚原大助(つかはら・だいすけ)
1976 年7月16日生まれ、東京都出身。ゴツプロ!主宰。本公演のプロデュースも務め、本多劇場進出、地⽅公演や海外公演の実現、メディアミックスや全公演⽣配信等、 新しい取組を推進。⼤⼩ 様々な劇場で様々な作家・演出家とコラボレーションしていく舞台企画「ブロッケン」もプロデュース。こまつ座『⼈間合格』、椿組花園神社野外劇『贋・四⾕怪談』、⻘春の会『熱海殺⼈事件』、映画『ソワレ』、テレビ東京『I ターン』、WOWOW オリジナルドラマ『向こうの果て』、台湾公共電視ドラマ『聽海湧(邦題:波の⾳⾊)」などに出演。

佐藤正和(さとう・まさかず)
1970年7月7日生まれ、福岡県出身。子供向けの舞台企画「下北沢桃太郎プロジェクト」や気軽に演劇を楽しんでもらうための「青春の会」をプロデュースしている。福田雄一主宰「ブラボーカンパニー」の創立メンバーであり、劇団作品のほぼ全作品に出演。ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズや、WOWOW×ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』など映像作品への出演も多数。

公演情報

ゴツプロ!第九回公演『無頼の女房』

日:2024年6月6日(木)~16日(日)
  ※他、福岡公演あり
場:下北沢 本多劇場
料:一般7,000円
  早期割引[6/6・7]6,500円
  U-25[25歳以下]割引・養成所割引4,000円
  ※枚数限定/要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://52pro.info/burainonyoubou/
問:ゴツプロ! mail:staff@52pro.info

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事