これまでになかった新たな挑戦 「大人の麦茶」今川宇宙が手掛ける、最初で最後の特別メモリアル公演

これまでになかった新たな挑戦 「大人の麦茶」今川宇宙が手掛ける、最初で最後の特別メモリアル公演

 旗揚げから22年目となる劇団「大人の麦茶」の30.5杯目公演『すいません、どうかしてました。』が2024年1月に上演。作・演出を劇団最年少かつ俳優部唯一の女性劇団員・今川宇宙が手掛ける今回の公演は、劇団にとって大きな挑戦となる作品だ。今川はこの公演を最後に大人の麦茶を退団することも発表しており、本作は最初で最後となる特別メモリアル公演となる。
 主演を務める奥谷知弘、大人の麦茶には初参加となる劇団「おぼんろ」のわかばやしめぐみ、そして劇団員で本作のプロデュースも務める岩田有弘、作・演出の今川宇宙に公演への想いを聞いた。

―――今川さんにとって、「大人の麦茶」として最初で最後の作・演出となる本作。まずは、本作に懸ける想いをお聞かせください。

今川「私が劇団に入ったのは、コロナ禍が始まった当初の2020年なので、それから3年半ほどの時間が経ちました。(劇団主宰の)塩田泰造さんの世界が大好きで、近くで見ていたいという思いから劇団に入り、学ぶことがたくさんありましたし、こうして自分で作品を作り始めたのも劇団に入ってからです。大人の麦茶は、私にとって演劇愛を培った場所でした。なので、そんな大好きな大人の麦茶に、感謝の気持ちを返せるような作品にしたいと思っています」

―――『すいません、どうかしてました。』は、どのようにして生まれた物語なのですか?

今川「大人の麦茶の公演として上演する作品なので、大人の話にしたいと思っています。私自身は自分のことをまだまだ子どもだと思っていたんですが、実は27歳でもう大人なんですよ(笑)。そんな中で、“大人”について書こうと思った時、周りの面白い大人たちを思い返していきました。
 大人の麦茶の劇団員はもちろんですが、演劇を通して出会った方には面白い大人がたくさんいます。ですが、そんな皆さんは一貫して『昔は良かった』という話を飲み会でするんです(笑)。私は『昔は良かったこともあるかもしれないけど、今のあなたもめっちゃくちゃ素敵だよ』と思うことが多いので、それを描きたいと思ったのがきっかけでした」

―――岩田さんはプロデュースも兼ねていらっしゃいますが、今回の公演についての想いを改めてお聞かせいただけますか?

岩田「会場であるシアタートップスさんとお話しして、1月の公演は僕がプロデュースする公演をすることがまず前提としてあります。そこで、何か新しいことをやりたいと思った時に、今川宇宙が思い浮かびました。
 僕が大人の麦茶に入ったのは10年ほど前ですが、その頃からずっと男性ばかりの劇団だったんですよ。その中に、本当に久々に宇宙という、可愛らしいキラキラした女の子が入ってきて、演劇に対してのアプローチがみるみるうちに変わっていったのを間近で見ていました。僕たちの想像以上に成長しているのを感じて、彼女にとって大人の麦茶と出会った5年間は、とても大きなものだったんだと思います。
 大人の麦茶という劇団は主宰の塩田泰造の劇団ですので、外部の方に作・演出をお願いするというのはまず考えられないことだったのですが、この5年間で宇宙は色々な経験をして、成長している。彼女のフルスロットルを大人の麦茶で見たいなと思ったのが最初のきっかけでした」

―――なるほど。

岩田「そこから劇団員のみんなにも相談して、塩田泰造が書かず監修に入り、男ばかりの劇団の中、今川宇宙に作・演出をしてもらうということは大人の麦茶にとってもチャレンジになるなと。今回は特別公演として上演しますが、今回の公演が今後の本公演にも大きな影響を与えていくのではないかと思っています。大人の麦茶でも新しいことをやりたいという思いもあり、生まれたものでした」

―――では、そうした作品に出演される奥谷さんは、オファーを受けてどんなお気持ちでしたか? 奥谷さんは、今作が演劇初主演となるそうですね。

奥谷「そうですね。僕はグループ活動もしている中で、こうしてお芝居をやらせていただき、舞台やドラマ・映画のお仕事をさせていただいているのですが、劇団さんの作品で主演を張るというのは初めてのチャレンジなので、今まで学んだことや培ったものをしっかり出して、少しでもお力添えできたらと思っています。
 岩田さんは初めてお会いした時から気さくに声をかけてくださる方だったので、こうしてお声掛けいただけたことはとても嬉しかったです。岩田さんのためにも、そして今川さんのため、大人の麦茶さんのためにも全力を尽くして、いい作品にできたらと思っております」

岩田「ありがとうございます。初めての劇団の主演が、大人の麦茶でいいんですかと僕は聞きたくなりましたが(笑)、すごくありがたいです」

―――お二人の出会いは、舞台での共演ですか?

岩田「彼がレギュラー出演している『猫のひたいほどワイド』というテレビ神奈川さんの番組との企画で、朗読劇をプロデュースさせてもらったんです。その時に出会って、一目で惚れました。久々にいい役者に出会ったなと思って。この人と何ヶ月も一緒にお芝居をしたら、どこまで素晴らしいものに仕上げてくれるんだろうと、知りたくなったんです。それで、告白しちゃいました(笑)」

―――わかばやしさんはどういった経緯でご出演が決まったんですか?

わかばやし「私は主宰の塩田さんの奥様と昔から仲良かったんですよ。そうした関係で、劇団が立ち上がる前の段階から知っていて、公演も観てきました。なので、とてもよく知っている劇団で、これからもずっと観劇する劇団だと思っていたのですが、今回、宇宙ちゃんが声をかけてくれて、『私でいいの?』と驚きながらも嬉しく思い、引き受けさせていただきました。
 大人の麦茶さんは、どの作品もタイトルが素敵で、昔からお気に入りなんです。今回の作品もタイトルから引き込まれるものがあって、とても印象的で、“シャレオツ”だなと思います。宇宙ちゃんの大人の麦茶での最初で最後の作・演出というこの作品でご一緒できるのは、本当に“ワクドキ”で頑張ろうと思っております」

岩田「当初、宇宙とこの作品についてさまざまな話をしながらキャスティングの相談をしていく中で、最初に宇宙から出たのがわかばやしさんのお名前だったんですよ。ずっと一緒にやりたかったと」

今川「(わかばやしが所属している劇団)おぼんろさんの公演を拝見して、素敵な女優さんだと思っていたんですが、この作品を書いている時から、完全にめぐみさんのイメージで書いていました。情熱的でパワフルで、この役を演じるのはめぐみさんしかいないとずっと思っていたので、出演してくださるとなって本当に嬉しいです」

―――ストーリーについても教えてください。今回は、幽霊にまつわる物語ですが、ホラーというわけではないんですよね。

今川「お化けは出てきますが、ホラーではないです。むしろ、コメディタッチにしようと思っています。
 私は寝ると必ず悪夢を見るんですよ。その夢から物語の着想を得ることが多いのですが、今回も夢を元に風景を想像してみたシーンがたくさん登場します。
 演劇の魅力は、そこにないものがあるように見えたり、想像でどんな世界も描けることだと思っているので、その力を借りれば、幽霊も出せるんじゃないかなと思っています」

―――奥谷さんは、どんな役を演じるのですか?

奥谷「死体を描く画家で、SNSや展示会で活動している人物です。先日、ビジュアル撮影もさせていただいたのですが、きれいめな格好と落ちぶれた格好の2パターン撮影して、落差がすごい役だなと感じました。落ちぶれるには、それなりの理由があって、葛藤や迷いがあったのだと思います。
 生きるためにはお金も必要ですし、現実の厳しさに打ちのめされて、お金に目が眩んでしまっている。人間味に溢れた人ですが、僕には初めての役柄です。周りの人に人間味がないとよく言われるんですよ」

岩田「パーフェクトな人間に見えるからね」

奥谷「そんなことはないですが(笑)、でも、そう言っていただけるなら、その印象をぶち壊してやろうと思います。僕の初主演作でもあり、初めての役どころでもあるので、チャレンジしていきたいと思います」

今川「(奥谷が演じる主人公は)本当に人間味があるという言葉がぴったりな登場人物だと思います。最近、私は『バズる』って人を壊すなと思うんですが、彼にはまさにバズって壊れてしまった人の役をやってもらいたいと思っています。人間は、落ちるところまで落ちたときに本質が見えたり、馬鹿力が出たりすると思います。その輝きみたいなものが見られたらいいなと思います」

―――わかばやしさんが演じるのは、貢ぎグセのあるスナックのママということですが。

わかばやし「ビジュアル撮影でも、一升瓶を抱えて撮りました(笑)。そのままですね(笑)。お酒が大好きなので。
 私が演じる星まき子という人物は、きっと色々な経験を積んできたであろう人物で、大変な過去があっても今を豪快に生きている人物だと思います。とにかく楽しみで仕方ないです」

今川「生まれてからずっとフルスロットルで生きていて、かつ、愛に生きている人物です。辛いことも楽しいことも全てを全力で受け止めている懐の深さやエネルギッシュさがある。男たちの中にいても1番男らしいというような人物をイメージしています」

―――岩田さんはヤクザの若頭役です。

岩田「今川さんは、岩田をこう思っているんだなと(笑)。自分では自分をパーフェクトな人間だと思っていたんですが、抜けている人物を演じた方がいいといってくださるので、今回は怖いイメージの役でもチャーミングだったり、すっとぼけた一面を宇宙が引き出してくれるんだと思います。存分に演じたいです」

今川「私の中で有さん(岩田)は、コメディの人という印象が強いんです。もちろん、かっこいいシュッとした役も好きなんですが、コメディを任せるなら絶対、有さんがいいと思っていたので」

岩田「ハードルがどんどん高くなっていく(笑)。お互いに頑張ろうな(笑)」

今川「今回は、おちゃらけている人物ですが、娘がいて、その娘や家族のために大きな嘘をつかなくてはいけないという役なので、その姿が愛しく見えたらいいなと思っています」

―――今川さんもご出演されますよね。

今川「はい、いくつかの役を演じるのですが、ネタバレになってしまうので詳細は控えます(笑)。便利屋的な感じでちょこちょこ出ようかなと思っています」

―――では、この作品を通して、どんなことを伝えたいですか?

今川「未来が楽しみになる話にしたいと思っています。それは、明日でもいいし、来年でもいいし、50年後でもいいけれど、未来に希望を持って欲しい。難しいメッセージを受け取ってほしいというよりも、脳みそを開いた状態でただ楽しんでほしいです」

岩田「そもそも、大人の麦茶の公演は、そういう作品が多いんですよ。誰もが考えたことがあるような、普遍的なテーマを扱っていることが多くて、そこに個性豊かな人たちが登場する。きっと宇宙は、大人の麦茶に書き下ろすならということも意識して書いていると思います。特別公演ではありますが、大人の麦茶の新しいスタイルだと思ってみていただけたら、色々と楽しめるんじゃないかなと思います」

―――最後に、改めて公演への意気込みやお客さまに向けてメッセージをお願いします。

岩田「今川宇宙の新しい門出を祝う公演にもしたいですし、明日に希望を持てる作品にもしたいと思います。新年明けてすぐの公演なので、おめでたい気分で、難しいことを考えずに見て、思いっきり楽しんでいただけたらと思います。作品の中には、今川宇宙が今、考えていること、劇団に対しての思い、キャストへの思いといったものが詰まっていると思うので、ぜひ観ていただきたいです」

今川「寂しい気持ちもありますが、ものすごく悩んで決めた退団です。まだまだな私に作・演出させていただける機会をいただけたことに、本当に感謝していますし、その期待を裏切らないように、観に来て良かったと思っていただけるような楽しい作品を作りたいと思います。
 明日、楽しみだなとか、今後何かいいことがあるのかもしれないと思っていただけたらと思います。そう思ってもらうことは実はすごく難しいことだと思うので、この心強い、楽しいキャストの皆さまのお力と、大人の麦茶の懐を借りて、最高の作品をお届けできるように頑張ります」

わかばやし「こうしてご一緒できる機会をいただけるなんて思っていませんでしたし、ご縁が深いなと改めて思います。宇宙ちゃんの世界観を役者さんたちがみんなで立体化していけば、あとはお客さまが入った瞬間に生まれ出るものだと思うので、一緒に作るという機会を楽しんでいきたいと思います。
 2024年、私も初めて立つ舞台がこの作品になります。2024年、パッと花を咲かせて頑張りたいと思っております。ご覧いただけたら絶対損はさせません。ぜひ劇場に観に来てください」

奥谷「2024年最初の舞台は、僕もこの大人の麦茶さんの作品になります。グループとして活動している奥谷知弘、役者としての奥谷知弘、色々な自分がいる中で、今回、個人的に“解放”をテーマにしていきたいと思っています。それは役者としてもそうですし、この作品をもっと広げたいという意味でもそうです。今川さんの退団という門出を祝い、今後、さらに素敵な女優さんや演出家さんになられると思うので、そうした思いも込めた“解放”です。
 この役柄にしっかりとチャレンジして生き抜きたいと思います。ぜひ劇場には気楽な気持ちで観に来ていただき、笑っていただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

奥谷知弘(おくたに・ちひろ)
1994年12月26日生まれ、埼玉県出身。ドラマ・テレビ・舞台で俳優として数々の作品に出演しながらも、6人組のアーティストグループ 「Candy Boy」のメンバーとしても活躍。主な出演作に、舞台『あんさんぶるスターズ!エクストラ・ステージ』シリーズ、『ジョーカー・ゲーム』シリーズ、テレビ朝日系ドラマ『トットちゃん!』、BS朝日『無用庵隠居修行3』など。現在、テレビ神奈川(tvk)の情報番組「猫のひたいほどワイド」にて、レギュラーメンバーとして出演中。最近では、考察ミステリードラマ 意味が分かると怖い『配信停止になった婚活ドキュメンタリー』にも出演。

わかばやしめぐみ
9月22日生まれ、東京都出身。桐朋短期大学演劇科を卒業後、演劇集団 円付属研究所を経て、現在は劇団「おぼんろ」に所属。語り部として全作品に参加。舞台を中心に活動。客演多数。演出家としても活動。2024年3月、ハルベリーオフィス設立10周年記念舞台第一弾『輪廻転生∞楽園ダイバー』(新宿シアタートップス)演出予定。若手育成のため演技指導にも従事している。

岩田有弘(いわた・ありひろ)
1979年10月30日生まれ、東京都出身。2013年から劇団「大人の麦茶」に入団。舞台プロデュースユニット「銀岩塩」の代表、「エンターテインメント風集団 秘密兵器」の主宰も務める。これまで下北沢本多グループで500ステージ以上の舞台出演と製作をおこない、“下北沢小劇場の申し子”と異名を得る。近年の主な出演作品に、考察ミステリードラマ 意味が分かると怖い『配信停止になった婚活ドキュメンタリー』、YouTube特撮ドラマ『華衛士F8ABA6ジサリス』など。

今川宇宙(いまがわ・うちゅう)
1996年12月3日生まれ。2020年に劇団 大人の麦茶に入団。俳優として活動するだけでなく、イラストレーター・歌手・脚本家・演出家としても活動。2021年に、「演劇企画よいやみなべ」を主宰として旗揚げ。主な出演作に、明治座 ミュージカル『ふたり阿国』、テレビ東京系ドラマ25『晩酌の流儀』など。

公演情報

大人の麦茶 30.5杯目公演
『すいません、どうかしてました。』

日:2024年1月12日(金)~17日(水)
場:新宿シアタートップス
料:5,000円
  U-30[30歳以下]4,000円
  学割2,700円 ※要学生証提示
  (全席指定・税込)
HP:https://otomugi.amebaownd.com
問:大人の麦茶 mail:otomugi@gmail.com

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