お座敷コブラの新たな代表作になる たくさんの意図をかくした見どころだらけの物語

お座敷コブラの新たな代表作になる たくさんの意図をかくした見どころだらけの物語

 コロナ禍においても濃密な会話劇を作ってきたお座敷コブラの15畳目は、“背筋も凍るラブコメディ”。リモート稽古を多用して作り上げた『GEPPETTO』に引き続き、お座敷コブラ看板俳優の古林一誠、実力派俳優・梶原航の共演が実現。また、お座敷コブラ初参加の小林未往と常盤美妃が回ごとに入れ替わりで2役を演じる。

―――まずは意気込みをお願いします。

古林「世の中の流れが少し変わり、普通にお芝居ができるようになったかな、というのを非常に嬉しく思っています。既に台本をいただいて読み合わせも少ししましたが、この時点でもう面白い。ここからさらに面白さを積み重ねて、お客さんにぶつけられたらいいなと思っています」

小林「今回、オーディションから参加させていただいています。初めましての方ばかりなので、新しい技術や魅力を開拓し、応援してくださっている皆さんに2024年のおNewな小林をお届けしたいと思っています。新年一発目の観劇になるお客様も多いと思うので、良いスタートとなるよう、パワーや笑顔をお届けできたら」

常盤「私もお座敷コブラさんは初めまして。前作の『TRIANGLE』を観た時に、この人たちと一緒にやったらどんな世界が見られるんだろうと思いました。そのタイミングで一緒に作品を創る人を探していますというお知らせを見て、乗らない手はないと思いました。
 初めましての皆さんと一緒に、自分が参加したかった場所で作品を作れること、それを観ていただけること、お座敷コブラさん20周年といういろんなめでたいことが重なっているのがすごく嬉しいです。私はきっと全力で楽しんで苦しんでいるので、一人でも多くの方に見ていただけるよう頑張りたいと思っています」

梶原「今回は20周年にふさわしい、ポップでワクワクする中にビターなコブラの毒が入っている、お座敷コブラらしい作品だと思います。前2作で感じた進み続ける時間や喪失感、秘密や愛といった大きなテーマが集約されたお座敷コブラの代表作になるんじゃないでしょうか。
 僕はお座敷コブラ5周年の作品に美術アシスタントとして携わっていたので、懐かしさもありました。ファンタジーと心の機微といったコブラらしい味に、大人になった伊藤裕一の人生観なども集約されている。15年前から知っている演劇青年たちがそれぞれの戦いを続け、コロナ禍でも生き残って集まるというのも中々ないことですよね」

―――小林さんと常盤さんは2人で役を入れ替えながらになりますが、皆さんがそれぞれどんな役を演じるのかもお聞きしたいです。

常盤「一人はヒロイン、もうひとりは主人公に思いを寄せる女性。2人とも主人公を思っているところは変わりませんが、役割や立場が回によって変わります」

小林「物語を生きる上での視点が変わるので、片方の役を通してもう1つの役への理解度が深まりそうだと感じます。さらに、同じ役を演じる女優さんがいることで、その他者からも得られる・得てもらえるだろうと思うし、自分の二面性みたいなところも発見できると思うので、得るものがいっぱいありすぎる気がしています」

古林「小林さんの読みを聞いたあとにスイッチキャストが決まりました。その後、常盤さんの読みを聞き、これは確かにお二方が両方の役を演じる姿を見たいな! と思いました。お客さんも片方を見たらもう片方も見たくなると思います。
 また、ストーリーの中で愛情を描くことはあったけど、お座敷コブラがラブコメをやるのも初めて。さらに橋本我矛威さん・西村優さんがWキャストで、僕と梶原さんは変わらず。組み合わせでいうと4通りですが、相手の演技や言葉によって回ごとにいろんな色を見せられると思います。稽古の段階から互いに干渉しあい、影響しあって積み重ねていけるのが楽しみですね」

小林・常盤「楽しみです!」

古林「僕自身は今回すごく好きなタイプのキャラクターで、だからこそプレッシャーもあります。昔と今で、得意分野でもちょっと違うところを見せたいというよこしまな気持ちを抱きつつ、期待に応えられるように頑張ろうと思います」

梶原「僕は大切な恋人を突然失った男を演じます。彼女がいなくなったことを受け入れられないまま数日経ち、喪服姿の親友が訪ねてきて初めて現実を直視する。なにをどう受け入れたらいいのか、このままの生活が続いていくんだろうかというところから物語が始まります。
 愛する人を失っても人生は続いて新たな女性と出会うけど、自分の目の前にはまだ愛する人がいて。肉体がなくなっても愛は永遠に続くのかを最近ずっと考えています」

―――小林さんと常盤さんはほぼ初対面ということなので、現時点での印象、聞いてみたいことがあったら教えてください。

常盤「お名前、なんて呼ばれてますか?」

小林「私、あだ名がないので、この現場であだ名がついて、定着したらいいなって思ってます!」

常盤「下の名前が未往(みお)と美妃(みき)なんですよね。私は『とっきー』って呼ばれていますが、『こばやしさん』も2人いる……」

古林「ややこしい(笑)」

小林「未往さんって呼ばれることが多いんですけど、違うあだ名がついたらいいな、稽古が楽しみだなと思っています(笑)。あとは、稽古で動いて喋って演じているとっきーさんや皆さんを早く見たいですね」

常盤「前回お会いした時は15分くらいで、その時に抱いた未往さん像と今日お話ししている未往さんが良い意味で離れています。穏やかで話しやすいなって」

古林「写真だと気性が荒そうでしたか(笑)?」

一同「(笑)」

常盤「宣材写真では世界観のある雰囲気だったので、すごく話しやすくて嬉しいです」

―――古林さんと梶原さんは『GEPPETTO』で二人芝居、『TRIANGLE』でWキャストときて今回の共演です。お互いの印象はいかがですか?

古林「梶原さんは15年前も今も変わらずセクシーです。声を大にして伝えたいですね。見た目もそうだけど、芝居に対する姿勢がすごくセクシー」

梶原「なにかの構文みたいになってない(笑)?」

古林「(笑)。お芝居に対する哲学を人に語るときもすごく色気と人間味がある。流用じゃなく、自分の中に蓄積した言葉を組み合わせて生まれたものを出せる人だと感じています。『TRIANGLE』では逆のチームで同じ役でしたが、僕とは全然違う演じ方をしてくださって、懐の深さを感じました。
 それを経て今回の共演なので、ある時は味方、ある時は敵になるアメコミみたいですよね(笑)。ドラマチックだなと思います」

梶原「一誠さんは15年前からほぼ変わらないです。当時から大人っぽかったしセクシーだったし(笑)。人柄も品も良くて、でもプライベートが全く見えないんですよ。誰とでもフランクに話すし人当たりがいいけど掴みどころがない。
 何回か共演チャンスはあったけど実現できずにいたので、『GEPPETTO』での二人芝居は嬉しかったですね」

古林「嬉しかったし面白かったです。でも、せっかく二人芝居ができたのに、コロナ禍なのもあって接触なし」

梶原「『GEPPETTO』はずっと前を向いていたから、”一誠さんは今どんな顔をしているんだろう”とずっと考えていました。今回は果たしてどうなるのか(笑)」

古林「今までのお座敷コブラをご覧になっている方には、我々がどれだけ近付くかも楽しみにしてほしいですね(笑)」

―――今回の台本を読んで、ストーリーに感じた魅力を聞きたいです。

小林「とあるセリフの価値観が個人的にすごくしっくりきました。私は元々、人の死や魂の在りどころを考えるのがすごく好き。ただ、あまり共感してもらえたことがなくて。脚本を読んですごく嬉しくなったと同時に、改めて自分が”死”をどう捉えているのか考えました。
 この作品を通して、お客様も自分や他者の命の重さ、自分が他者をどう扱っているかを発見できると思います。コメディとしての面白さだけじゃなく、哲学や宗教的なものを考えられる面白さもある作品だと感じました」

梶原「死んだらどうなると思いますか?」

小林「いわゆる天国などは証明できないけど、あった方が楽しいと思います。ただ、亡くなった人はきっともう素敵な場所に行っていて肉体に関しては”無”だと思うので、悲しいという感覚があまりないんです。
 とあるキャラクターがいうセリフに共感したというか、『あの人はいい人だった』とかは、亡くなった人についての勝手な理想像を語っているだけ。死者目線だと『亡くなってからしか言えないのか』って思っている可能性はあると思っていたので、脚本が寄り添ってくれたような感覚がありました」

梶原「小話にもありますもんね。『あの世っていいところらしいですね。だって行ったきり帰ってくる人がいないから』って」

常盤「すごくわかりやすいストーリーなのに、細かい遊び、ヒントや仕掛けがたくさん散りばめられていると思いました。丁寧に追っていくと肉体的にも感情的にも複雑。読めば読むほど内包されているものに気付くので、どこまで追いかけたらいいんだろうと思いながら自分のキャラクターを模索しているところです。
 逆に言えば、それだけ悩める幅を用意してくださっている。自分の得意・不得意の両方に挑めるのが楽しさであり難しさでもあると思いますね」

梶原「伊藤くんの台本はいつも名前が気になる。『TRIANGLE』にも『名前にはやっぱり願いがありますから』というセリフが出てきますが、伊藤くんが名付けたこのキャラクターの幸せ・願いはなんだろうと推理しながら読んでいます。
 今作で1番大きいのは、肉体がなくなってから人はどう行動していくのかというところ。哲学的なところが強いので、これが紐解けたら次のお座敷コブラは”宇宙”をテーマにしたものになるんじゃないかな(笑)」

古林「伊藤裕一は面倒臭い人だと常々思っています(笑)。世の中の人がスルーしてしまうもの、例えばさっき話していた”死”についていうと、みんなが悲しんで墓前で手を合わせるって死んだ人からするとどうなの?とかに着目したり、世の中にあるものや言葉一つひとつに色々な意味を込めたりして台本を書いていく。
 ここ数年は特に顕著で、今回も『斯くして』というタイトルにたくさんの意味がカクシテあるんですよ。人が死ぬということも視点を変えると意味合いが変わったり、物事が見えている人・見えてない人、隠し事をしている人も理由があったり。今回もスイッチやWキャストの組み合わせによって様々な意味や価値が生まれていくと思うので、お客様にどう受け取ってもらえるかワクワクしますね」

梶原「ある種ベタだよね。託されたような気持ちがあります」

古林「前作のインタビューで『座組のみんなでお化け屋敷を作ってお客さんに楽しんでもらおう』と話していたら、今回まさにお化け屋敷みたいな話になったし」

梶原「正直、『どうやって作るの? 実現できるの?』というギミックもたくさんあります」

古林「ただびっくりさせるんじゃなく、なぜここでその演出なのか、どういう気持ちを持ってほしいのかを考えて、みんなでお客さんを連れていくような構図になっています。実はこれ、伊藤が大学時代からやっていることなんですよ。合宿の肝試しをプロデュースして大パニックを起こした経験がある(笑)」

一同「!?」

古林「乗り移られたっていう設定で川にザブザブ入っていって一心不乱に石を叩きつけるっていう。怖がりな先輩が『やばい! 中止だ!』って言いながら帰ってきちゃった(笑)。当時は若気の至りで尖りまくっていたけど、その心を持ちつつエンターテインメントとして提示できるのが今回の作品なのかなと思います」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

古林一誠(こばやし・いっせい)
1981年4月29日生まれ、東京都出身。俳優・マジシャン。旗揚げ当時からお座敷コブラに所属し、現在まで中心メンバーとして活動。説得力のある低音の声を武器に、数多くの作品で存在感を発揮している。幼少期から奇術や忍術に興味を持ち研究を続け、自身でソロライブを行うなど、マジシャンとしても活動。その他、プロジェクトマネジメント、データベース言語の講師、タイでの海外講演経験、合気道初段など、一風変わった経歴と資格を持つ。

梶原 航(かじわら・わたる)
北海道出身。新国立劇場演劇研修所第5期修了。口跡の鮮やかさと、変幻自在に演じ分ける演技力に定評を博す。数々のシェイクスピア作品で主演を務めるほか、一人芝居・朗読劇・ミュージカル・アクションエンターテイメントまで、俳優として多彩な作品に出演。他、NHK『青春アドベンチャー』などラジオドラマでも活躍。分析力と再現力の高さを活かし、トレーナー・講師としてプロの俳優への指導・後進の育成にも積極的に取り組んでいる。

小林未往(こばやし・みお)
2011年より役者活動をスタート。エンターテイメント作品を中心に、最近はイマーシブシアターなど活動範囲を広げている。また役者の他、演出助手やオペレーター、ヘアメイクやイラストなど様々なポジションで演劇に関わってきた。代表作に、「CASUAL MEETS SHAKESPEARE」シリーズ、舞台『機動戦士ガンダム00 破壊による再生 Re:Build』、イマーシブシアター『漂流する万華鏡』など。

常盤美妃(ときわ・みき)
俳優・喋り手。2014年にFM栃木(RADIO BERRY)の番組でリポーターを担当、卒業後は地元・栃木県を中心にヒーローショーやイベントのMC、舞台出演をする。2017年よりアンダーグラウンド団体「舞台芸術創造機関SAI」に加入、以降は主力メンバーとして団体活動に尽力し、幻想音楽劇『贋作マッチ売りの少女』ヴァン・ゴッホ役、『変身-METAMORPHOSIS』グレゴール・ザムザ役などで主演を務める。2022年からは団体以外の活動に注力、ジャンルに捉われず出演中。

公演情報

お座敷コブラ 15畳目公演『斯くして』

日:2024年1月10日(水)~14日(日)
場:中野 テアトルBONBON
料:6,000円(全席指定・税込)
HP:https://ozashikikobura.jimdofree.com
問:お座敷コブラ
  mail:ticket.ozashikikobura@gmail.com

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事