初代国立劇場最後の歌舞伎公演 若手女方・中村米吉が抱負と国立劇場の思い出を語る

初代国立劇場最後の歌舞伎公演 若手女方・中村米吉が抱負と国立劇場の思い出を語る

 日本の伝統芸能を鑑賞できる場所として長年親しまれてきた国立劇場がいよいよ閉場となるが、幕引きを飾るのは9月から続く『妹背山婦女庭訓』の後半部分。ここで悪役、蘇我入鹿の妹 橘姫を演じるのが、若手女方の中でも頭角を現している中村米吉だ。

 「この作品は大化の改新を舞台にした古風な時代物です。序幕では橘姫と姫が慕っている男性である帽子折(えぼしおり)の求女(もとめ)。そして同じく求女を慕う杉酒屋の娘、お三輪が登場して、女2人で求女を巡る恋のさや当てが始まるんです」

 『道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)』として有名な踊りのシーンだが、今回は求女を中村梅枝、そしてお三輪をテレビドラマなどへの出演も多い尾上菊之助が勤める。まさにこれから先、大いなる活躍が期待される3人による場面だが、米吉自身のプレッシャーはいかほどのものか。

 「梅枝兄さんは6歳上ですが、菊之助兄さんは16歳上。女方としてトップランナーのおふたりですから、できる限り食らいついていきたいと思っています。まあ緊張というより、やりきらないといけないという想いが強いですね(笑)。ともあれ、国立劇場最後に相応しい、これからを担う3人の道行だと思っていただけるようにしたいです」

 そんな米吉自身にとって、国立劇場は思い出深い場所であるという。

 「国立劇場には毎年のように出演してきました。特に吉右衛門のおじさま(二代目中村吉右衛門)がご自身を中心に組まれていた年末の公演には女方を始めて間もない頃からずいぶんと出させて頂き、復活狂言の作り方など大変勉強になりました。また伝統歌舞伎保存会主催の研修発表会という若手の勉強会で、時に身の丈に合わない大きなものまで色々なお役を頂いたのも国立劇場です。だから思い出深いです」

 今から新劇場での躍動に胸躍るが、まずは最後の公演に足を運びたいところだ。

 「そうですね、初代国立劇場最後ということをきっかけにご来場いただければ、それが後世自慢になるかもしれません。実は国立劇場の館内には絵画や彫刻も多数展示してあるんです。圧巻は高さが2メートルもある平櫛田中作の『鏡獅子』ですね。そんな作品が鑑賞できるのも国立劇場ならではです。そして歌舞伎の魅力を感じたら、また再開場後の新しい劇場にも足を運んで頂きたいと思います」

(取材・文:渡部晋也 撮影:平賀正明)

あなたにとって、ご褒美の1杯はなんですか?

「何か大きな事をし終えた後、ネオン煌く夜の街、その喧騒を忘れさせる店で、自分を労いグラスを傾ける……。と、そんな洒落たことには縁もなく、やはり甘いもの好きの私としてはご褒美には甘いものを、となってしまいます。ただ、甘い物で“一杯”となるとなかなか難しいです。思いついたのは、お汁粉のような椀物ですよね。温かいあんこに目がないものですから、常々好物としていますが、いかんせんヘビー級です(笑)。お餅入ってますからね。もはや甘味を超えてあれはお食事ですよ。カロリー面を考えて滅多矢鱈には食べられないからこそ、ご褒美になりますよね! 個人的にはご褒美よりも、これから何かしっかりやらねばならぬことの前に食べるのもおすすめです。ちなみに、お汁粉よりも粟ぜんざいの方がより好きですが、ただでさえ甘味処の少なくなって来た世の中ではお目にかかる機会が少なくて寂しいものです」

プロフィール

中村米吉(なかむら・よねきち)
東京都出身。中村歌六の長男として生まれ、7歳で初舞台を踏む。2011年から本格的に女方を志し、古典歌舞伎はもとより新作歌舞伎『風の谷のナウシカ 上の巻―白き魔女の戦記―』でのナウシカ役、『ファイナルファンタジーX』のユウナ役など、新作歌舞伎へも多数出演し、海外公演にも参加している。2021年、第42回松尾芸能賞 新人賞受賞。

公演情報

初代国立劇場さよなら特別公演 令和5年10月歌舞伎公演 通し狂言『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 』<第二部>

日:2023年10月4日(水)~26日(木)
  ※10月10日(火)・20日(金)は休演
場:国立劇場 大劇場
料:1等席14,000円 2等席10,000円 3等席4,000円 
 学生 1等席9,800円 2等席7,000円 3等席2,800円
 (全席指定・税込)
HP:https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu
問:国立劇場チケットセンター
  tel.0570-07-9900(10:00~18:00)

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