児童文学の名作を、水木英昭が気持ちを解きほぐすエンタメ作品へ 『ハッピーバースデー ~命の唄~』土居裕子・亜季緒が親子役に

児童文学の名作を、水木英昭が気持ちを解きほぐすエンタメ作品へ 『ハッピーバースデー ~命の唄~』土居裕子・亜季緒が親子役に

 1997年に出版され、2005年には文芸書版が刊行されている児童文学の名作『ハッピーバースデー』。累計150万部の売上を誇り、フジテレビ開局50周年記念としてドラマ化されるなど、数々のメディアミックス展開を広げてきた本作が、この度、水木英昭の手によって舞台化する。エンターテイメント・ヒューマン・シアターと銘打って行われる本公演だが、イジメや虐待という社会的テーマを扱っており、これまでの水木のプロデュース作品とは違った雰囲気になりそうだ。
 企画から関わった女優の土居裕子、構成・演出・脚本の水木英昭、そして自身の生い立ちが影響して娘を愛せない母・静代を演じ、さらに主題歌の作詞作曲と歌唱を担当する女優・シンガーの亜季緒に話を聞いた。

―――本企画は文芸書版の原作者である吉富多美先生と、作品に感銘を受けた土居さんが企画をしたということですが、改めてどういった経緯かをお聞かせいただけますか?

土居「中学校の教員をしている私の友人が、この『ハッピーバースデー』という作品と吉富先生を私に紹介してくれたのが始まりでした。吉富先生が友人の教え子のお母様なのだそうで。そこでその教員の友人と吉富先生から、私達が思う『ハッピーバースデー』をぜひ舞台で作ってほしいというお話をいただいて、今回このような素敵な企画を立ち上げさせていただくことになりました」

―――構成・演出・脚本は水木さんということですが、これまでの水木さんの作品とは少し印象が違いますね。

土居「原作を読んで、途中、あすかの声が出なくなってしまう場面があるのですが、そういった描写を含めてミュージカルで音楽を使って表現したいなと思ったんです。でもその半面、『子供たちが元気にお歌を歌います!というだけ』みたいなミュージカルにしたくないなという気持ちがあって……。
 もっとお芝居的な要素をしっかり作った上で、それを音楽と融合できる方にやってほしいなと思って水木さんにお願いしたんです。どうしても暗い題材ですけど、明るいシーンも入れた緩急のある物語にしてほしいなとも思ったので、そういう意味でも水木さんはぴったりかなと思います」

水木「今のところはあんまり明るい要素は入れられてはいないけどね……。でもいつもコメディを書こうと思ってコメディを書いているわけでもないんですよ。自分にとってのコメディ要素は、本筋を書いた後の裏返しなので、後付けなんです。
 “ミュージカル”っていう定義も難しいですけど、最終的には歌・音楽を大きなテーマにしたエンターテインメント作品に仕上がると思います。『ハッピーバースデー』って聞いて歌わないわけにはいかないですからね。誰もが知っている『ハッピーバースデー』の歌にどれだけの意味を持たせられるか、原作には原作の大きなテーマがあるので、それを崩さないように、物語に音楽が入ることによる相乗効果がどれだけあるかをぜひ楽しんでいただけたらなと。亜季緒の歌も効果的に使われると思います!」

―――主人公の藤原静代役を演じる亜季緒さんは、作品の第一印象についいかがでしたか?

亜季緒「この役を私が抱えきれるのだろうか、という不安が正直なところありました。最初は静代よりも娘のあすかちゃんに共感しすぎてしまって、静代に対して『許せない』『どうして』『理解できない』と憎しみの気持ちすら抱いてしまって……」

水木「『あなたなんて生まなきゃよかった』と言われるところから始まるもんね。でも、こんなショッキングな描写がある児童書なのに、これだけ多くの人に読まれているというのが驚きです。今の日本にはこれを受け入れる土壌があるんだなって」

亜季緒「そうなんですよね。ただ、時間が経つにつれて、どうして静代さんはこんなに気持ちがこじれてしまったのか……。静代の気持ちにも少しずつ寄り添って考えられるようになりました」

土居「静代と静代の母も、気が付いていないところで愛情がすれ違っているんですよね。大なり小なりどの家庭でもそういう気持ちのすれ違いってあると思うんですけど、それに気が付かずに、あるいは気持ちを封じ込めたまま大人になっている人がもしかしたら世の中には沢山いるのかもしれない」

―――昨今では「親ガチャ」「毒親」といったワードも横行するようになり、出版された当時とは世の中の状況や“親”というものに対する考え方が変わってきているかと思います。

土居「つい先日もワイドショーで取り上げられていたのを見たばかりです。本当にこんな酷いことをいう親がいるの?と思いますけど……。
 先ほどお話した、私にこの作品を紹介してくれた教員の友人は、こういう問題は昔からあって、今もずっと続いている、と話してくれました」

―――“親”も1人の人間ではあるのだな、と自分も大人になると気づくのですが、難しいですよね。

土居「そうなんですよね。親も人間であり、実は家族であるというだけで無条件に愛せるというわけでもなくて。でも家族ってやっぱり、他人と違って縁を切ることもなかなかできなくて、その結果、静代みたいな人が生まれてしまうのかなと。
 でもこの物語は、ただそれを問題提起するだけではなく、そういう溜まりにたまってしまった家族の“しこり”を1度全てぶちまけて、再構築するところが描かれるので、そこが見どころでもあると思います」

―――亜季緒さんは今回、主題歌の作詞・作曲、そして歌唱を担当していらっしゃるんですよね。

土居「本当に素敵な歌なんですよ! 涙が出ちゃいました」

亜季緒「ありがとうございます……!」

―――亜季緒さんの起用は水木さんの推薦と聞きました。

水木「以前からのご縁でお願いしました」

亜季緒「女優業を始めた初期の頃にも水木さんに使っていただいて。拾って育てていただいたと言っても過言ではないです。でも私、水木さんに演出をつけていただく中でダメ出しされる言葉が、最初は受け入れられなくて」

水木「それは『うわ、またダメ出し出される、イヤだな』と思って受け入れられなかったってこと?」

亜季緒「……それもあるんですけど(笑)」

土居・水木「正直!(笑)」

亜季緒「それだけはないですよ! 水木さんっておそらく、私よりも私のことをよく理解していらっしゃって、それが少し怖くもあったんです……。自分が嫌いな自分と嫌が応にも向き合わないといけなくなるから。今回私が演じる静代さんも、自分のことを分かっているようで分かっていない大人だと思うので、もしかしたら似ているのかもしれませんね」

土居「なるほど!」

水木「亜季緒は本当に掴みどころがない女性なんですよ」

土居「女優でもあり、アーティストでもあるんだもんね。自分でゼロからイチを創り出せる人だから、一筋縄ではいかないものを持っている、魅力的な人だなと今日お会いして思いました!」

―――色々とお話を聞かせていただき、ありがとうございます。では最後に、意気込みをお願いします。

土居「絶対に面白い作品になります。今日亜季緒さんとお会いして、その気持ちが確信に変わりました。どうか観てほしい……。それしか言えないです。ぜひ劇場でお待ちしております」

水木「胸を掻きむしられるような、辛い気持ちになるシーンもあると思うのですが、その反面、幸せな気持ちになれるシーンもあると思います。その色々な感情の流れをエンターテインメントに昇華できるように我々は頑張っていこうと思います。原作が本当に素晴らしい作品なので、それを大切に『あぁ、いい舞台を観たな』と思ってもらえるよう、精一杯努めます」

亜季緒「世界全体で、感染症をはじめ色々なことが起きた中で、自分の心の声を聴く、自分の心に従うということが、実は自分の周りの人を愛するための方法だと私は思っています。でも、それが見えない柵(しがらみ)に縛られて、思うようにできなくなっている人が沢山いるなと思っていて……。この『ハッピーバースデー』にもそういう登場人物が出てきます。そういう雁字搦めになってしまった気持ちを解きほぐすようなエンターテインメントになったらいいなと思うので、ぜひ劇場でご覧いただけたら嬉しいです」

(取材・文:通崎千穂 撮影:間野真由美)

これだけは捨てられない! 手放せない理由とあわせて教えてください。

水木英昭さん
「歴代のスマホですね。おそらく今のスマホで5代目になると思うのですが、4代目はしっかり誤作動が始まったので買い替えました。それ以外は機能の変化と共に買い換えた感じなんですよねぇ。下取りしますか?と言われても……なんかお願いしますと言えないんですよ。といって置いておいても何に使うわけでもないんですが……捨てられないですね。というか捨て方がわからないのです。という訳で一回りずつサイズアップしていった過去のスマホ達が、静かに引き出しで眠っております」

土居裕子さん
「以前使っていたブログ。15~6年前に記録し始めていたブログで、まだガラケー時代の坊(かつての愛犬)や、稽古や舞台のことなど、けっこう毎日ちゃんと書いていたので、たまに読み返すとしばらくその時代を浮遊できます」

亜季緒さん
「物ではないけれど、まだ完全に手放せていない”お利口な私”が居ます。リミッター外すと暴れてしまいそうな、心に住む龍みたいな、きっと誰しも持っている一面のような、アイツです。最近は、アイツが己を分かり始めてきた感じで、少しだけ信頼出来るようになり、歌っている時だけは檻から仮釈放! みたいな挑戦をしています。……伝わりますか?(笑) これから先、アイツを本当に解き放つ日が来るのか否か⁉ 見張りながら時折遊ばせるだけなのか⁉ 全く想像も出来ないけど、今はまだ、手放せていないです。理由? うーん……! 人間に憧れてるから、でしょうか」

プロフィール

土居裕子(どい・ゆうこ)
11月27日生まれ、愛媛県出身。うわじまアンバサダー。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業後、NHK「なかよしリズム」歌のお姉さんを経て、音楽座の主演女優として活躍。その後も女優・歌手・声優として、劇団四季・東宝・俳優座劇場をはじめ国内の様々な主要作品に出演。文化庁芸術選奨文部 大臣新人賞、読売演劇大賞 優秀女優賞、紀伊國屋演劇賞 個人賞、菊田一夫演劇賞など多くの賞を受賞。昭和音楽大学客員教授。

亜季緒(あきお)
1990年9月17日生まれ。沖縄民謡バンドのボーカルとして活動後、アミューズ「虎姫一座」メンバーとしてステージデビュー。退団後、歌手・役者としてのキャリアをスタート。“こたえのない世界でつよくやさしく生きる” をテーマに、物語を詰め込ん
だ1st オリジナルアルバム「Hitotsu,me」を2022 年夏にリリース。

水木英昭(みずき・ひであき)
1969年4月28日生まれ、茨城県出身。劇団スーパー・エキセントリック・シアターを退団後、2005年に在団時より活動していた水木英昭プロデュース公演を再スタート。“ 眠れぬ夜”シリーズや、『蘇州夜曲』などで知られ、多彩な分野のアーティストを集結させ、それぞれの個性が融合することにより生まれる独創的な作品を創造している。

公演情報

Entertainment Human Theater!
『ハッピーバースデー ~命の唄~』

日:2023年10月25日(水)~29日(日)
場:紀伊國屋ホール
料:スペシャルシート[前方エリア・特典付]9,800円
  レギュラーシート7,500円
  ※他、親子チケットあり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.mizu-pro.com/
問:水木英昭プロデュース 
  mail:mizu-pro@mizu-pro.com

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