2014年に初演を迎え、芸術選奨文部科学大臣賞など数々の賞に輝いた二兎社の『鷗外の怪談』。森鷗外の謎多き内面に迫った本作は、永井愛の代表作のひとつとして知られる。7年ぶりの再演となる今回はキャストを一新し、上演を行うという。
永井「戯曲化に際し膨大な資料にあたりましたが、調べても調べてもキリがなく、何も書けない日もありました。ただただ夢中で書いていて、初日の17日前にやっと仕上がったんですが、体感的には5日前ぐらいの緊迫感だったと言われたりする(笑)。私自身精魂傾けた戯曲ではあり、この7年間で熟成してきたものを踏まえ、決定版にしたいと思っています」
松尾「恐れ多くも鷗外を演じます。永井さんの台本は史実と創作をパズルのように組み合わせつつ、深く描かれていて、実在の人物たちが物語の中で生き生き絡み合っている。読む度に新たな発見があるのを感じます」
鷗外といえば誰もが知る大文豪。松尾は実在の偉人をどう体現していくのか。
松尾「鷗外の資料や映像も見ましたが、この役には正解というものがなく模索の日々です。何より台詞が膨大で、そこでまず苦しんでます(笑)」
永井「鷗外はマルチな顔を持っていた人で、松尾さんもまたとても知的で、色々な方面に関心を持たれてる。そこがリンクしたら面白いですよね」
松尾「永井さんの演出は“なぜそこはそうしたのか”と問いかけが次々来るので、脳味噌を使う。稽古後は毎回抜け殻のようになっています(笑)」
永井「松尾さんは人の真髄を掴むのが凄く上手で、私の役目は鷗外に辿りつくまでのお手伝い。最終的にご自身でそれを見つけた時、私も想像していなかったような面白い物を見せてくれるのではと期待しています」
高名な作家であり官僚でありながら、家では若き妻と母の板挟みになり―― 文豪の知られざる二面性を描き出す。
松尾「人は色々な側面を持っていて、誰もが自分の役割を演じてる。鷗外はその振り幅が大きい人だった気がします。本当の鷗外は誰も知らない。観た方に“鷗外ってこうだったかも”と思ってもらえたらいいですね」
永井「鷗外の抱えていた問題というのは今私たち一人ひとりが抱えている問題とそう違わない。彼ほどの頭脳の持ち主でも、色々な矛盾を抱えながら、戦い、その上でより良く生きようとしてた。そんな彼の姿はきっと今の人の胸を打つと信じています」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:間野真由美)
永井愛さん
「タイムマシンに乗って今回の舞台『鷗外の怪談』の時代に行き、森鷗外の住む観潮楼を訪問したい。そこで鷗外や妻のしげと話をしてみたい。それが今の私にとって一番嬉しいプレゼントです」
松尾貴史さん
「時間。少しでも多くの時間が欲しいのです。金品は才覚や努力で増やすことはできますが、時間だけはどうにもできない。もちろん、その質を上げるのは本人次第ですが、そのもととなる時間はいくらあっても邪魔になりません。『人生とは何か』を考えると、それは時間そのものですから」
プロフィール
永井 愛(ながい・あい)
劇作家・演出家。二兎社主宰。桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒。「言葉」や「習慣」「ジェンダー」「家族」「町」など、身辺や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結した、ライブ感覚あふれる劇作を続けている。日本演劇界を代表する劇作家のひとりとして海外でも注目を集め、『時の物置』、『萩家の三姉妹』、『片づけたい女たち』、『こんにちは、母さん』など多くの作品が、外国語に翻訳・リーディング上演されている。
松尾貴史(まつお・たかし)
兵庫県出身。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業。俳優・タレント・ナレーター・コラムニスト・“折り顔”作家など、幅広い分野で活躍。近年の出演作品に、テレビドラマ『獣になれない私たち』、『インハンド』、『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』など。二兎社『ザ・空気ver.2誰も書いてはならぬ』では政権べったりの保守系全国紙論説委員を好演し、読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。
公演情報
二兎社公演45 『鷗外の怪談』
日:2021年11月12日(金)~12月5日(日)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト ※他、地方公演あり
料:一般6,000円
25歳以下割引3,000円
高校生以下割引1,000円
(全席指定・税込)
※25歳以下・高校生以下チケットは枚数限定/要証明書提示
HP:http://www.nitosha.net/
問:二兎社 tel.03-3991-8872(平日10:00~18:00)