キャストが新宿の2劇場を行き来しながら作品を同時上演!? 前代未聞の舞台がついに15年ぶりに復活へ!

キャストが新宿の2劇場を行き来しながら作品を同時上演!? 前代未聞の舞台がついに15年ぶりに復活へ!

 紀伊國屋ホールと新宿シアタートップスという2劇場で起きた出来事を、実際に2劇場を使用して同時上演するという前代未聞の舞台『ダブルブッキング!』。物語は、紀伊國屋ホールで上演する劇団 天空旅団と、トップスで上演する演劇ユニット デニスホッパーズの、初日開演2時間前。デニスホッパーズの座長が、天空旅団の公演にも同時出演するという情報がネットに書き込まれ、騒動になり――。
 2劇場を同時に開演し、全キャストが本番中に劇場の外を往き来しながらストーリーを完結させるという本作は、2008年に初演、2013年に下北沢バージョン、2021年に朗読劇として上演された。今回“伝説”の初演版の上演が15年ぶりに実現する。
 天空旅団出身・藤崎竜一役の久保田秀敏と、天空旅団所属の女優・船山千尋役の関根優那、そして天空旅団座長代理・チャーリー若松役の水谷あつしの3人に話を聞いた。

―――今回、15年ぶりに新宿で『ダブルブッキング!』が上演されますが、出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

水谷「15年前の作品を復活させるなんて、“まさか”ですよ。僕は初演にも出演していたので、凄く素晴らしい企画だというのはわかるんですけどね。今の時代に2劇場借りて、稽古場も2つ借りて、スタッフさんもそれぞれ抑えるなんて……そんな大変なことわざわざやらないでしょう? しかも本番は夏! 初演の時も夏で、本番期間中に祭が開催されていてね……。凄い人出の中、僕なんか天狗みたいな格好で2劇場の間を走っていました(笑)。汗、汗、汗ですよ。
 あれから15年、僕もその分年をとったので、43歳設定のチャーリー若松を本当にできるのでしょうか……? まぁ、僕以外はみんな若いメンバーなので、若い子たちが頑張っている姿を見ながら、ちょっとゆっくり走ろうかななんて思っています(笑)」

久保田「僕は初演の公演を観ていないですし、2021年の朗読劇をやった時ですら『疲れたな〜』と思っていたぐらいなので、話を聞いた時は震えました(笑)。本番は梅雨があけたかあけないかぐらいのムシムシした季節。その気候の中、2劇場を走るとなると相当体力を使うだろうと思いながらも、お客さんとしては絶対面白い企画だと改めて思うんですよね。どちらかの劇場はもちろん、外でも観られるから、色々なベクトルで楽しめるじゃないですか。
 僕の演じる藤崎は天空旅団を離れ、これからスターになっていくんだという役。今まで当たり前にやってたことが怖くなる瞬間って、みんな生きててあると思うんですが、藤崎も原点を見つめ直して、『あ、やっぱり自分が学んできた環境ってここにあったんだ』と気づき、色々な想いを積んで……結構僕の役者人生とも重なると思うんです。
 僕も最初は小劇場で劇団を旗揚げして、そこからオーディションに受かって、大きな劇場に立つ機会の方が多くなって。このままいくと、役者としては夢を見られるかもしれないけれど、そこにいきすぎると一番重要なところが見えなくなってくる……。そんな感覚がわかるんです。今この『ダブルブッキング!』という作品に出演の機会をいただいたのも、改めて久保田秀敏という役者が原点を見つめ直す良い機会になっていると思います。昔のことを思い出しつつ、この役に自分を重ね合わせて掴めていけたら。……あとはもうジムに行きます! 基礎体力を鍛え直すために(笑)!」

関根「最初にお話をいただいた時、『体力ある?』と聞かれたんです(笑)。何をやるんだろうと思ったら、同時上演で2つの劇場を階段で移動すると聞いて。まだ想像がちゃんとできていない部分もあるんですけど、台本を2ついただいて、いつも以上に一人ひとりの役割の大きさや連携の大切さを感じました。
 私が演じる役も女優の役なので、ある意味、自分と重なる部分があります。同じ職業を選んでいるという時点で、きっと誰よりも一つひとつのセリフにも思いが込められるでしょうし、あまり表では見せない葛藤だったり、“負けたくない”という気持ちだったりを舞台で表現できるのは、単純に楽しみですね。
 あとは、本当に体力勝負だと思います。真夏に役を背負って階段ダッシュなんて、やったことないですから(笑)。一生心に残る作品になると思いますし、カンパニーの団結感が生まれそうだなと」

―――初演時、本番はもちろん大変だったと思いますが、お稽古も大変だったのでは? それぞれの劇場の進行にズレが出ないように、時間の調整はとことん稽古されたと伺いました。

水谷「作・演出の堤泰之さんって本当に凄いんですよ。東大出身だからでしょうね。数字に強いし、すべてをとても緻密に計算されている。だから僕らは堤さんの言う通りにやっていれば、そんなに大変なことはなかった。ただね、楽しくなってくるとアドリブが出るじゃない? アドリブで生きてきた人間にとっては、決められた時間内に動かなくてはいけないことが大変でした(笑)。稽古場も2つ借りなきゃいけないし、走る稽古もあるし…..」

関根「え、走る稽古!?」

水谷「そうそう。ちゃんと紀伊國屋とトップスの距離を測って、走る稽古やったよ。それに演出家は1人しかいないじゃない? Aの稽古場で芝居をつけている間、もう1つのBの稽古場の様子はビデオ撮影して、それをモニターで堤さんがAの稽古場で観ているという不思議な状態でしたね。ひどい時には誰も観ている人がいない状況だったこともあったな(笑)」

―――いざ幕が開けてからもハプニングがあったのでは?

水谷「サラリーマンの格好をしているキャストが出演者に見えなくて、警備の人に止められたこともあったなぁ……。それから2劇場をもの凄く行ったり来たりするキャストがいるんですけど、『もう走れない』と言ったことも。あとはメイクなんか気にしていられないぐらい、汗を掻きますからね」

久保田「この取材が終わったらすぐにジムに行こうと思いました(笑)。僕はそこまで走る役ではないけれど、油断できないですね。タイムだけはちゃんと守れるようにしたいです」

水谷「しかもさ、普通5分位間はで休めたりすると思うじゃない? でも堤さん、本当に上手に作ってあるから、ほぼ休めないんですよ。もうジェットコースターに2時間乗りっぱなしの感覚です」

久保田「あはは。でもそのいっぱいいっぱいなところが、お客さんからしたら面白いんでしょうね」

水谷「そうそう。スレスレのところで、みんな板に立ってる感じ! 古臭い演劇人って感じよね。僕は優那ちゃんと『盾の勇者の成り上がり』という作品で共演したことがあって、彼女は天使みたいな役で、可愛い優那ちゃんしか知らないんです。でも今回は、“劇団員全員の声が枯れている”というト書きがある絶叫劇団ですからね? 15年前、みんな声を枯らすことから始めたら、本番で全く声が出なくなっちゃって……(笑)」

関根「いや〜〜! 絶対、声は枯らしたくないです(笑)」

水谷「そうよね、時代じゃないよね(笑)」

―――それぞれの役について思うことを改めて教えてください。

関根「先輩にチクチク言われて、負けたくないと思う役です。私自身がそういう経験があるわけではないですが、なかなかうまくいかなくて葛藤している姿は共感できる部分ですかね。
 同じ女優というお仕事を選んでいる点でも、多分いつもやっている役よりも、より近い存在に思えると感じています。そして劇団を背負う責任感とか、表に出さないぐちゃぐちゃな感情を出すという点は、まるでドキュメンタリーのように、自分自身に近い表現になるのかなと」

―――久保田さんは、先ほどご自身の原点に少し戻るというお話がありましたが、重なる部分がやはり多いですか?

久保田「はい。役者として生きるうえで順調であることはもちろん一番良いことですが、やはり周りが見えなくなってくる時期って、どうしてもあると思っていて。この作品が教えてくれることが結構あると思うので、今一度自分自身に落とし込んで、真摯に付き合っていきたいと思います」

―――水谷さんはいかがですか?

水谷「僕が40代で演じてきた役の中で、一番印象に残る役がチャーリー若松でした。僕自身、80年代に劇団に所属していたんですね。エンターテインメントで華やかで、全国をまわるような人気劇団でしたが、裏側では主宰は神様のような存在だったし、『他の劇団とは口を聞くな!』みたいな文化があって…..。まさに天空旅団のようだったんです。理不尽なことがあったとしても、晴れの舞台に立ったらそれをすべて忘れる――そんな時代でした。今それを現実にやったらコンプライアンス違反でしょうが……。あの当時の雰囲気を描いた2008年の初演をあえてやろうというのは、なんか嬉しかったですよね。
 初演から15年経って、改めてチャーリーと向き合った時に、初演ではわからなかったことや気づけなかったこともあると思うんです。そういうことが今回の芝居で出せたらいいかな。とはいえ、芝居している感覚はあんまりないというか、チャーリーなのか、僕なのかよくわからなくなってくる作品なんです。とにかく『15年前の方が良かったよ』なんて言われないようにしたいですね(笑)」

―――2008年に初演したときの“演劇観”と、2023年に上演する“演劇観”は確かに違うと思います。この作品がどう観客に映るのか、楽しみです。

水谷「今の時代の舞台には映像があったり、照明も音響も機材が進化したり、とんでもない時代になっているわけです。だけど、この『ダブルブッキング!』は照明さんがバインド線を巻くという、古臭いところから始まっている(笑)。なんか役者が丸裸になるような、誤魔化しがきかない感じでしたよね、当時は」

関根「私はあつしさんが今仰ったような照明や音楽に支えられた作品に立たせていただくことも多く、こういうドキュメンタリーに近いお芝居はやったことがなくて。やっていくなかで、”苦しいし楽しい”という感覚になるのかなと。丸裸にされることで新しい自分とも出会えそうですが、ちょっと怖くもあるかな」

水谷「怖いけどね、もう笑えてくるよ。怖いを通り過ぎて、笑える」

久保田「楽しみでしかないです。今、演劇でも色々な表現の仕方が増えていますが、まっさらな裸舞台から作り上げていくことはなかなかないですから。
 僕が演じる藤崎という役は、劇団の外の世界に行った人間なので、ちょっと浮世離れした感じも出したいと思っているんです。『外の世界に出れば、人ってこんなに変わるんだ』というまずはビジュアルから入って、最後に繋げていきたいかな。『結局、演劇人は演劇人。みんな同じ方向を向いていて、同じ想いでしょうもないことをやって、頑張ってる人間は可愛いよね。愛せるよね』とお客さんに思ってもらえたら一番最高ですね」

―――最後にお客様に一言お願いします!

関根「2つの劇場同時公演ということで、みなさんも私も未知数な部分があるんですけど、15年ぶりに同じ内容で上演できるので、今の時代だからこそ、15年前の空気感を表現することの新しさを感じていただけたらなと思っています。
 それに演劇のリアルな部分を生で味わえるのは、この作品ならではの魅力だなと。真夏に熱い舞台を観に来ていただけると、より熱い夏になるんじゃないかなと思います。ぜひ私たちの想いを直接感じていただけたら嬉しいです」

久保田「『しょうもないことやってんな〜』と思ってもらえるのが一番嬉しいです。僕らは超ど真面目にやっているんですけど、傍から見たら『何この人たちやってんの?』って。でも、その姿を見て『なんか面白そうだな』、『元気もらえたな、明日からも頑張れそう!』と思ってもらえたら、成功なんだと思います。
 今の時代にこんなアナログなことをやれることもなかなかない。メッセージが散りばめられていて、色々な見方があって、どこで楽しむかはもうお客様次第! ぜひ色々な楽しみ方を見つけてもらえたらと思います。楽しみにしていてください!」

水谷「演劇にとって辛い時期が続きましたが、やっとちょっとずつ明けてきて。そこであえてこの『ダブルブッキング!』をやる心意気に脱帽です。
 15年前に『これは当たった!』という感覚が確かにあって、『またやろうね〜』なんて言っていたらシアタートップスが閉館になって……。下北沢版も朗読版の時も、『大変だけど、この作品は凄いな』と思ったんです。
 ダメダメだけど、愛すべき人間がたくさん出てきて、みんなが愛おしい。一度観たらきっと何回も観たくなる作品ですから、ぜひ両方の劇場でまずは観ていただきたいと思います!」

(取材・文:五月女菜穂 撮影:平賀正明)

プロフィール

久保田秀敏(くぼた・ひでとし)
1987年1月12日生まれ、福岡県出身。ミュージカル『テニスの王子様』2nd シーズンに仁王雅治役で出演し注目を集める。2013年、舞台『心霊探偵八雲』斉藤八雲役で主演。近年の出演作に、ミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズ、『薄桜鬼』シリーズ、舞台『血界戦線』シリーズ、『文豪とアルケミスト』シリーズなど。

関根優那(せきね・ゆうな)
1994年9月28日生まれ、埼玉県出身。2012年〜18年まで「Cheeky Parade」のメンバーとして活動。現在は2.5次元舞台を中心に活躍。主な出演に、主演舞台『新サクラ大戦 the Stage』シリーズ、『フルーツバスケット』、『スクールアイドルミュージカル』、『Bumblebee7』など。

水谷あつし(みずたに・あつし)
1965年7月26日生まれ、神奈川県出身。東京キッドブラザーズの看板俳優として全国公演で活躍。萩本欽一氏が手がけるバラエティー番組にJA-JAとしてレギュラー出演し、幅広い人気を獲得。退団後、ストレートプレイからミュージカル、小劇場から大劇場と多様なジャンルの舞台で活躍。

公演情報

エヌオーフォー【NO.4】
『ダブルブッキング!』 -2023-

日:2023年7月13日(木)~23日(日)
場・料:【紀伊國屋ホール】
    S席7,000円 A席5,500円
    (全席指定・税込)
    【新宿シアタートップス】
    8,000円(全席指定・税込)
    ※2劇場同時上演
HP:https://no-4.biz/doublebooking/
問:株式会社エヌオーフォー
  mail:info@no-4.biz

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