俳優・演出家の井上裕朗が主宰となり、家族や恋人、親友といった濃密な人間関係の中で生まれる小さな物語に焦点を当て深堀りした作品を上演する個性派創作ユニットの「PLAY/GROUND Creation」。
これまでは、『Navy Pier 埠頭にて』(ジョン・コーウェン作)、『The Pride』(アレクシ・ケイ・キャンベル作)、『CLOSER』(パトリック・マーバー作)など、海外戯曲が中心であったが、第5回目となる本公演では、初めて日本人作家を起用。俳優としても活動し、演劇サークル「Mo’xtra」を主宰する須貝英が、家族の死と向き合う2つの家族の物語『桜川家の四兄弟』『春を送る』の2本を手掛けた。
演出は井上裕朗、音楽は第1回公演からのオレノグラフィティが担当する。俳優としても親交の深い2人が描く世界は果たしてどんなものになるのか? 出演の鍛治本大樹も交えた3人に、本作への意気込みを聞いた。
―――旗揚げ公演から海外戯曲を中心に上演されていますが、5回目にして初の日本人作家の須貝英さんを起用した理由について教えてください。
井上「コロナ禍で劇場に足を運べないお客様が多くいる中で、公演の配信を実施したいというのが最初のきっかけです。海外戯曲の場合は版権の問題で配信が困難のため、挑戦という意味でも日本人作家の作品をやってみようとなりました。
最初は、既存の作品群の中で我々が過去に上演した作品の延長線上にあるというか、団体のコンセプトに合う作品を探していたのですが、なかなか見つからない。ならば新作も視野に入れてみるかとなった時に須貝君の事を思いつきまして、どう?と聞いてみたら、ふたつ返事で快諾してくれました。
元々、英ちゃん(須貝)とは、箱庭円舞曲という劇団に所属していた時からの仲で、彼は当時から役者をしながら創り手としても活動していて、僕が好きな世界観を描いていたんですね。家族や恋人という、小さくも濃くて深い関係性をうまく表現していた。それがずっと心に残っていて、今回、声をかけたという経緯があります」
須貝「ひろさん(井上)から声を掛けてもらった時はめちゃくちゃ嬉しかったですね。ずっと海外戯曲をやっていく団体さんだと思っていたので、まさか新作を求めているとは驚きでした。
PLAY/GROUNDさんの過去作は大好きな作品ばかりで、これに並ぶものを自分が出来るだろうかと不安もありましたが、お話を聞いていく中で確かにこれは僕がやったほうがいいと思うようになりました。PLAY/GROUNDさんの作品や演出には、常に“孤独”みたいなものがあるように感じていて、自分も脚本を書いていく上で、“基本、人間は孤独”という所からスタートするので、そういうシンパシーがあれば、きっとうまくいくのではと感じました。
自分で脚本と演出を兼ねることも好きですが、演出家さんが別にいて脚本家としてそこに参加する作品も大事に思っています。自分のアイデアだけで創るものと、誰かと一緒に共創して出来るものは全然違う。こちらこそ是非、宜しくお願いします!という感じでお返事しました」
―――本公演の2作品は共に家族を亡くした人々の物語です。これはおふたりのご経験にも基づいているそうですね。
井上「大枠として“孤独”や“愛”を置いた上で、どのような物語にしていくかとなった時に、僕も英ちゃんも近い時期に母親を亡くしていたんです。折角2人で物を創るならば、全然関係ない話よりも、共に強い衝撃を受けた経験から始めてみてはどうだろうと。そこからプロットを作っていきました。
そして、登場人物たちのとても個人的な、小さな物語にしようと思い、英ちゃんには『少しでも世界が広がりそうになったら勇気を持って小さくしよう』と伝えました」
須貝「2人の経験をすり合わせていく中で、普遍的なものと言いましょうか、こんな事あるよねとか、こんな感覚になるよねという発見がありました。
2人の個人的な所からスタートしていますが、血縁のある方を亡くすという経験は遅かれ早かれ、みんな経験することだと思うので、親和性の高い作品になっていると思います」
―――PLAY/GROUND Creationには3度目の出演となる鍛治本さんは、side-Aの『桜川家の四兄弟』で長男役を演じます。作品にどんな印象をお持ちですか?
鍛治本「初見での印象ですが、とてもシンプルな作品だと思いました。でもシンプルな内容にするってすごく勇気がいることですよね。
僕は姉2人の末っ子長男なので、4兄弟の長男ってとてもファンタジーな世界。男4人っていったいどういう関係性でいるんだろうって思いました。でも観客目線で見ると、これは確実に泣かせにきているなと」
一同「(笑)」
鍛治本「この言い方が正しいかは分かりませんが、これは泣きますよ。僕はもう序盤でダメでした」
須貝・井上「ずいぶん早いな(笑)」
井上「今回はプロットを踏まえて、キャスティングを組んでから物語を立ち上げていくという初の試みを取りました。だから本を読めばその人が喋っているし、想像する顔はキャストそのもの。大ちゃん(鍛治本)は3度目の出演で、個人的にも良く知っているのですが、ぴったりの役が出来上がったと思っています。
プロットからリライトを重ねていく中で、演じる俳優その人に寄せるというのではなく、『演じる役の人物がこういうことについて話しているのを見てみたい』という感覚で、その役を育ててきた部分があります。改めて新作をやるって楽しいなと思いましたね」
須貝「確かにそれはありますよね。『この人達がいるから、こういうこと話さないとダメだよね』とか。骨格は残しつつも、書き換えていったのはそういう所だったので、稽古場が楽しみになってきました」
鍛治本「共演者はわりと初対面の方が多いですけど、写真でも見るとその役で喋っている姿が容易に想像できました」
井上「これは偶然だけども、4兄弟の写真を並べてみると、皆どこか似ているんですよ」
須貝・鍛治本「確かに! これはすごいですよね」
―――これまでの過去作は海外戯曲であっても、“家族”“友人”という小さなコミュニティに焦点を当ててきました。今回は日本の家族の話なので、観る側はより親近感を感じる作品になりそうですね。
須貝「それはあると思います。どこの家庭でも誰にでも起きうる話で、ああうちもそうだよって。恐らく、作品を観終わったあとにご家族に連絡を取りたくなるとか、もし亡くされているならばその方のことを思い出すとか、そういう気持ちになるのではないでしょうか」
井上「僕は母親が亡くなったあとに特に思ったことなのですが、ここまでの2年間というのは、母の死というものを少しずつ受け入れていく日々だったんだと感じています。悲しい現実から目を背けるのではなく、それを一旦飲み込むことが必要だなと。お客さんにとってもそういう体験を共有できる時間になればと思っています」
鍛治本「劇中では回想であっても亡くなった大切な人に会えてしまう。それは幸せなことでもあり、すごく残酷なことでもあるなと思います。役者はそれを目の前で起きていることとして受けてないといけないので大変ですが、僕らの姿を通してお客さんの大切な人に想いをはせる時間にしてもらえれば幸せです。
PLAY/GROUNDには第1回公演から参加していますが、出る前と後では、明らかに俳優としての意識が変わりました。こんな風に創っていんだと衝撃を受けました。カンパニーや共演者と濃密なコミュニケーションを図る中で、自分の内側から喋りたいことがどんどん出てきて、自分という人間の新たな発見もある。そしてその延長線上に役が浮き彫りになってくる感じです。すごく大変な時間ですが、やりがいも大きいですね」
――5月25日と31日は2作品一挙上演もあるそうですね。
井上「それぞれ独立した話ではありますが、1人だけどちらにも登場する人物がいて、その人生の中に起こる2つの物語です。できればどちらも観て頂きたいという思いと、両作品を1つのものとして捉えて頂ける機会をつくりたいという思いから、2日だけ一挙上演日を設けました。休憩を挟んで前半後半という形で、おそらく3時間を超えますが、是非観て頂ければ嬉しいです」
鍛治本「1本ずつ別日に観るのと、1日に連続で観るのではまた違うと思います。どっちも楽しめますよね」
―――最後に読者にメッセージをお願いします
須貝「芝居好きが集まって本気で創った作品をここ数年お客さんも待ちわびていたと思うし、僕らもずっとやりたかった。まだまだ予断は許されない状況ですが、また劇場に戻ってみようかという気持ちが膨らんだ1年だったと思います。そういう中で団体が新作に挑戦することはとても意義があることだと思うし、やるべきことだと思います。
サンモールスタジオという凝縮された空間は芝居をより濃密な時間に変えてくれるはずです。お芝居好きの方はもちろんですが、すこし足が遠ざかってしまった方や初めてという方にも入り口としてはベストな作品ですので、是非お越しください」
鍛治本「なかなかPLAY/GROUNDのような芝居をやっている団体ってあまりない気がしていて、演劇界ですごく貴重な存在だと思います。これまでの海外戯曲もすごく面白かったし、未上演のものもすごく興味を惹かれる。俳優が中心にいて、かつ上下関係なく話し合って創る素敵な空間であり、俳優がカッコイイ姿を目撃しに来て欲しいですね」
井上「PLAY/GROUNDの第1回公演が2020年9月なので、過去の全ての公演をコロナ禍でやってきました。全然知名度もない中で、なかなか作品を多くの人に観てもらえず悔しい思いをしています。僕自身が俳優として色んな現場に参加する中で、良いか悪いかは別として、PLAY/GROUNDのような取り組みをしているところは珍しいと思っています。それだけユニークなんだろうと。
これまで4回やってきて、ある種の世界観が作り上げられてきました。かなり時間をかけて創って舞台に上げているので、高いクオリティーものが創れているのではないかと思っています。海外戯曲はちょっと敷居高いと思われているかもしれませんが、今回はとても身近な世界の話ですので、難しく考えずに観に来て頂ければと思います」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフィール
鍛治本大樹(かじもと・だいき)
1983年12月9日生まれ、宮崎県出身。2007年に演劇集団キャラメルボックスへ入団。劇団公演の主な出演作は、『アルジャーノンに花束を』、『雨と夢のあとに』、『時をかける少女』、『太陽の棘』(主演)など多数。外部団体への出演も多く、ほさかよう(空想組曲)、瀬戸山美咲(ミナモザ)など新進気鋭の演出家の作品や、2.5次元舞台『黒子のバスケ』シリーズにも出演。精緻さと大胆さを備えた幅の広い表現力が魅力。2017年1月よりアニモプロデュース所属。
須貝 英(すがい・えい)
1984年11月20日生まれ、山形県出身。2007年~2013年まで「箱庭円舞曲」に俳優として所属。2010年、演劇ユニット「monophonic orchestra」を旗揚げ。俳優・脚本家・演出家・ワークショップ講師として活動する一方、演劇サークル「Mo’xtra」を主宰。
これまでの主な劇作・演出作品に、穂の国とよはし芸術劇場PLAT主催・高校生と創る演劇『滅びの子らに星の祈りを』、海外ミステリーを原案としたMo’xtra Produce『グリーン・マーダー・ケース×ビショップ・マーダー・ケース』など。舞台『オリエント急行殺人事件』構成協力、『照くん、カミってる!~宇曾月家の一族殺人事件~』脚本も務める。佐藤佐吉賞にて2009年度最優秀主演男優賞を受賞。また、脚本を担当した映画『カラオケの夜』(山田佳奈監督)が門真国際映画祭2019にて映画部門最優秀作品賞を受賞。最近は新国立劇場で2022年11月上演の『私の一ヶ月』を執筆し、2024年4~7月上演予定の『デカローグⅠ~Ⅹ』(演出:小川絵梨子・上村聡史)では上演台本を務める。
井上裕朗(いのうえ・ひろお)
1971年10月24日生まれ、東京都出身。東京大学経済学部経営学科卒業後、外資系証券会社に勤務。退社後、2002年より北区つかこうへい劇団養成所にて俳優活動を開始。以降、TPT・地人会・流山児★事務所・T Factory・演劇集団砂地・乞局・箱庭円舞曲・DULL-COLORED POP・Theatre des Annales・イキウメ・風琴工房・serial number・TRASHMASTERS・unratoなど、小劇場を中心にさまざまな団体の作品に出演。
2015年、自身が主宰するユニット「PLAY/GROUND Creation」を立ち上げ、俳優主体の創作活動をスタート。2016年1月には、シアター風姿花伝にてワークショップ公演 the PLAY/GROUND vol.0『背信 | ブルールーム』を企画・上演。『背信』を演出、『ブルールーム』に俳優として出演する。2019年2月には、劇団DULL-COLORED POPにて『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』を演出。
PLAY/GROUND Creationの公演においては、#1『BETRAYAL 背信』・#2『Navy Pier 埠頭にて』にて翻訳・演出を担当。#3『The Pride』にて出演および演出を担当。#4『CLOSER』にて演出を担当。
公演情報
PLAY/GROUND Creation #5
『Spring Grieving』
日:2023年5月19日(金)~31日(水)
場:サンモールスタジオ
料:●前半日程[5/19~22]一般5,000円 U-24[24歳以下]2,500円
◇後半日程[5/24~31]一般5,500円 U-24[24歳以下]3,000円
※U-24は要身分証明書提示/他、特別料金あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.playground-creation.com/springgrieving
問:PLAY/GROUND Creation
mail:playgroundcreation.official@gmail.com