より情熱的で、より感情的で、より面白く! 「青春の会」が再び『熱海殺人事件』に挑む

より情熱的で、より感情的で、より面白く! 「青春の会」が再び『熱海殺人事件』に挑む

 「青春の会」は、ブラボーカンパニーやゴツプロ!など舞台を中心に活動している佐藤正和と、★☆北区つかこうへい劇団14期生としてつかこうへいの世界で活動してきた井上賢嗣が2020年に結成したユニットだ。今見せたい演劇をより気軽に多くの人々に楽しんでもらいたいと始まった「青春の会」が、今回選んだ演目は『熱海殺人事件』。2021年に第1回公演で好評を得た本作を再び上演するという。
 佐藤と井上に、ユニットの立ち上げの経緯や、再び『熱海殺人事件』に取り組もうと思った思いなどを聞いた。

―――「青春の会」の発足の経緯から教えてください。

佐藤「そもそもは2019年に僕が『思いついたことをとにかく具現化し、実行する』ことをモットーにしたんです。その頃にたまたま、当時まだ北区★AKT STAGEに所属していた井上賢嗣が演出する『売春捜査官』を観たんですよ。
 賢嗣とは10年近く前にRISU PRODUCEで共演して以来、ほとんど会っていなかったんですが、『売春捜査官』を観に行ったときに、粗削りだけど真っ直ぐなエネルギーに強く強く胸を打たれまして。あ、『熱海殺人事件』をやりたい、とそのときに思ったんです。その『熱海殺人事件』は、1993年に成城大学演劇部の卒業公演として福田(雄一)さん演出で上演したんです。紀伊國屋ホールの『熱海殺人事件 〜ザ・ロンゲスト・スプリング〜』で、池田成志さんの木村伝兵衛を観たときにものすごく感銘を受けてどうしてもやりたくて。
 そのとき以来、もう二度とできないなと思っていたんですけど、賢嗣が演出した養成所の皆さんの『売春捜査官』を観たときに、もう1回やってみたいなと。それで賢嗣に電話しました。『ちょっと今から飲めないか?』とね」

井上「全く連絡を取ってなかったので、何か怒られたり、説教されたりするのかなとびくびくしていましたが(笑)、『熱海殺人事件』をやりたいというお話でした。
 つかこうへいが亡くなって10年経った2020年。僕もつかこうへい作品を改めて上演したいなと思っていた矢先だったので、話に乗っかってみようと素直に思いました。それから何度も何度も飲みを重ねて……最初は1ヶ月後にやりたいと無茶なこと言ってましたよね(笑)?」

佐藤「思い立ったらすぐ行動に移さなきゃと思っていたから。でもそれはさすがに無理ですと言われた(笑)。でも半年後ぐらいならできるというので、その場で劇場に電話して、抑えたんだよな。それでその場でキャスティングの話もした」

井上「そうそう」

佐藤「僕のほかの男性キャストは、賢嗣がどうしてもやりたい人が2人いると言われました。ただ、女性キャストだけは俺に選ばしてほしいと言ったんです。僕はゴツプロ!やブラボーカンパニーという男所帯のところでしかやったことがなくて。女優さんと共演はしたことあっても、自分がキャスティングなんてことしたことなかったので、絶対にこだわりたかった。それで僕は水野朋子役を探す長い旅に出るわけですが、『青春の会』の設立の経緯はそういう感じです」

―――名称については? なぜ「青春」とつけたのですか?

佐藤「僕が“アビ”と呼ばれているので、アビと賢嗣で“アビケン”とかね。でも何か違う……。そこで『青春の会』という言葉が浮かびました。古くさい言葉だけど、今の自分らにはすごくポップで、いろいろことが巻き起こりそうなイメージがあって、それで青春の会となりました」

井上「アビさんに「賢嗣たちが血反吐を吐きながらやっていた『熱海殺人事件』がやりたい」と言われて、僕も火がついたんです」

佐藤「……とにかく失礼だと思っていたんですよ。生半可な気持ちでこの作品に取り組むことが。僕もものすごくつか(こうへい)さんの世界に憧れてきたけれど、北区★AKT STAGEはじめその作品を大事に思っている方々がたくさんいる中で、軽々しく『久々にやりたいから、やります!』というのは失礼だなと思って」

井上「『やりたい』と言ってくださる方は結構いらっしゃるんですけど、ここまで言ってくださったのはアビさんが初めて。じゃあやってもらいましょうと、僕も腹が決まりました」

―――なるほど。熱意とスピード感を持って始めたんですね。

佐藤「ただ、最初に劇場を抑えたのが2020年でコロナ禍だったんです。それで1回中止になって、1年延期したんですね。
 その間に出会ったのが、大石みちるという当時岡山大学の大学生。ほぼほぼ芝居経験のない子でしたけど、熱意があって。彼女を水野朋子役として、2021年6月に青春の会第1回公演『熱海殺人事件』を上演しました。想像以上に面白い作品ができました」

井上「面白い女優さんでしたね、本当に」

佐藤「すごくまっすぐで、エネルギッシュな水野を演じてくれました。いろいろな人からお褒めの言葉をいただきましたね。そんな彼女はこの2021年の『熱海殺人事件』を最後に女優業を引退して、地元の島根県で会社員になっています」

―――そういう意味だと、彼女にとってもある意味「青春」でしたね。

佐藤「まさにね。『あなたは私の青春でした』という木村伝兵衛のセリフがあってさ、それを初めて台本で見たときにはもう泣きましたよね」

―――で、今回第4回公演で再び『熱海殺人事件』を上演されますが、これまたなぜ?

佐藤「2021年の初演が終わったときに、ものすごい充実感が確かにあったんです。本当に良い役者さんと素晴らしい演出だったので、やりきった感はあったんですけど、僕は個人的に役者としての敗北感を感じて。『こいつらに負けた』と。
 いや、たくさんの方に面白かったと言ってもらえて、反響も大きかったんです。でもね、僕は共演者たちに勝ってない、井上賢嗣の演出にも勝ってないと思った。だからもう1回やりたいと思いまして、すぐに劇場とキャストを抑えました」

井上「嬉しかったですね。僕の中でも終わった後に『もっとこうやれたんじゃないかな』という思いが実はあったので、アビさんからまた声をかけてくださったのは、すごく嬉しかったですね。ただ、女性キャストどうしますという話になって……。もういないですからね」

佐藤「(大石さんとは)1回島根で会って、『本当にやらないんだね?』と聞いたんですけど、『やれない』と(笑)。それで、できるだけ多くの役者さんと出会うためにオーディションをやろうということになったんです」

―――150人ほど応募があったとお聞きしました。

佐藤「正直、こんなに集まると思っていませんでした。『ガッツのある20歳以上の女性』というのが応募条件だったのですが、本当にガッツのある女性がたくさん来てくださって。僕らも役者ですから、ちゃんと接して、見て、選びたいと思っていたので、選考は大変でしたが、同時にすごくいい時間でした」

―――そして、難波なうさんを選ばれた。

佐藤「最後に残った役者さんは本当に面白い方々ばかりでしたが、やはり今回のこの『熱海殺人事件』の水野役を選ぶことが目的だったので。誰と1番面白くなるか、誰が僕ら男キャスト3人を引っ掻き回してくれそうか。難波さんはダントツに自由でキュンとさせられました」

―――ガッツがあふれる稽古場になりそうですね。

佐藤「そうですね。体力、使いますね」

井上「(その他共演者の)丸山(正吾)も齋藤(伸明)もだいぶ楽しみにしていますよ」

佐藤「チラシ撮影のときに初めて4人が集まったんですが、そのときからもうバチバチと始まってましたね(笑)」

井上「そうそう。『初日にセリフ入れてきますよね?』と難波さんが早速皆さんに振ってました(笑)」

―――では初演とはまたガラッと変わった作品になるのでしょうか?

井上「僕のテーマの1つは、前回からのブラッシュアップですね。人が変われば、必ず空気も芝居も変わる。全く同じことをやろうとしても、勝手に変わっていくというのはもう身をもって体感していますから。
 あとはキャスト4人が何を稽古場に持ってきてくれるのかですよね。僕ももともと演出家ではないので、同じ目線で考えることしかできないんですけれども……。12年ほどつかさんの作品に関わらせていただいたという経験を生かしていきたいと思っています。あまりうまくいかなかった『熱海殺人事件』もたくさん観てきているので(笑)、どうしたらお客様が喜んでくれる『熱海殺人事件』になるのか考えていきたいです。『熱海殺人事件』を観たことがある方も楽しめて、初めて観る方でも優しい公演にしたいですね」

佐藤「変えようとしなくても変わってくるはずだし、新しいものになるでしょうね。More passional, More emotional, More entertaining(より情熱的で、より感情的で、より面白く。)そうなっているかどうか、ずっと考えながらやりたいなと思っています」

―――いろいろなプロダクションや役者が『熱海殺人事件』を上演してきました。なぜここまで愛されるのでしょうか。改めて魅力に感じている部分を教えてください。

井上「やはり役者として言っていて気持ちがいいセリフ、お客さんとして聞いていて気持ちいいセリフがたくさんある。つかこうへいが残したセリフの力ですよね。それが1番だと思います」

佐藤「ずっと僕はつかさんの世界に憧れはあったけども、自分がやろうと思えなかったんです。『熱海殺人事件』はセリフが直接的で、差別とも捉えられるようなワードがあって、芝居のエネルギーも含め、自分には表現できないと思ってました。
 でも前回取り組んでみて思ったんです。これは僕の解釈ですけど、そういう言葉の全てが愛情に裏打ちされているんです。誰かが誰かのことを思うから出てきた言葉なんです。『もうお前のこと好きなんだ! お前のこと好きなんだ!』という芝居だと感じました。学生の頃に『熱海殺人事件』をやっていたときは、そのスタイルに憧れたんですね。ただセリフが格好いい、音が格好いい、照明が格好いい、と。何を表現しているかまで思いが至らなかった。
 でもほぼ30年ぶりに上演して、結局誰かのことが好きでたまらない芝居なんだなという発見があったんです。だからこそ今やるべきお芝居なのかなと思う。『熱海殺人事件』をやってはいけないと世間に言われる日が来るのではないかという怯えもどこかにあるから」

井上「文字だけ読んでいると、パワハラ・セクハラとも受けとれる言葉のオンパレードですからね……」

佐藤「だから逆に言うと、演劇でなくてはできないんじゃないかと思うし、僕らがやる意味はきっとあるなと思うんです。中には苦手だと思う人もいるかもしれないですけど、それ以上に血が踊り、心が震える人たちがきっといるはず。それがこの芝居が持っているエネルギーだと思います。つかさん亡き後、僕らが勝手にそういう想いを演劇を通して伝えられればいいなと」

―――最後にお客様へメッセージをお願いします!

佐藤「この青春の会はコロナ禍でもやり続けてきました。コロナ禍で演劇から離れているお客さんもきっといっぱいいらっしゃると思いますが、そういう人たちがまた戻ってきてくれればいいなと思うし、僕らがやり続けてきた芝居はきっと届くんじゃないかなと期待しています。
 『逆境の中でもやりたい奴が、力を合わせて面白いことやろうぜ』となったコロナ禍。僕らにとってはすごく貴重な時間でした。これから真価が問われると思うので、ますます頑張っていきます!」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

佐藤正和(さとう・まさかず)
1970年7月7日生まれ、福岡県出身。「ゴツプロ!」「ブラボーカンパニー」所属。気軽に演劇を楽しんでもらうための「青春の会」を主宰するほか、子ども向けの舞台企画「下北沢桃太郎プロジェクト」のプロデュースも手がける。ブラボーカンパニー(福田雄一主宰)の創立メンバーでもあり、同劇団ほぼ全作品のほか、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズやWOWOW×ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』などにも出演。

井上賢嗣(いのうえ・けんじ)
1982年9月17日生まれ、福岡県出身。★☆北区つかこうへい劇団に入団し、北区★AKT STAGEには旗揚げから参加。舞台のほか、映像やCMにも出演。

公演情報

ゴツプロ!Presents 青春の会 第四回公演
『熱海殺人事件』

日:2023年6月20日(火)~25日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般4,800円 早期割引[6/20-21]4,300円
  U-22[22歳以下]3,500円
  (全席指定・税込)
HP:https://seishun-no-kai.jimdosite.com/
問:青春の会制作部 mail:staff@52pro.info

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