“全容は分からないけれど、なんだか面白い”を生み出す ロロの音楽劇『BGM』が6年ぶりの再演! 過去と現在が交差する“ロードムービー”

“全容は分からないけれど、なんだか面白い”を生み出す ロロの音楽劇『BGM』が6年ぶりの再演! 過去と現在が交差する“ロードムービー”

 様々なポップカルチャーを取り込みながら、既存の関係性から外れた〈出会い〉を描く作風が支持されている「ロロ」(主宰・三浦直之)。2018年に東京・仙台・三重で初演が行われたロロ唯⼀の⾳楽劇、舞台『BGM』が5⽉5⽇からKAAT神奈川芸術劇場〈⼤スタジオ〉で再演される。
 初演の江本祐介から引き継ぎ、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)が新たに⾳楽を担当。三浦は「演出をガラリと変える予定なので、気分としては新作です」と語っている。まるでロードムービーのようなこの戯曲は、2023年、KAATで一体どのように繰り広げられるのか。初演にも出演したロロのメンバー、亀島一徳・島田桃子・望月綾乃に話を聞いた。

―――改めて今作のあらすじは?

亀島「ざっくり言うと、学生時代の友人の結婚式に向かう、仙台までのドライブの話なのですが……。現在の時間軸と、10年前の時間軸が交差していきます。どちらも色々な人との出会いが描かれるのですが、クセの強いキャラクターばかりが出てくるんですよね。……望月さんは今回も本人役で出るの?」

望月「もしかしたら今回役名が変わるかもしれないのですが……。私、初演では“望月綾乃”役として出たんです」

―――本人役ということですか?

望月「そう……なるのかな。私、実際に(主宰の)三浦くんの芝居を観るために福島県いわき市に行ったことがあって、そのエピソードが盛り込まれた“望月綾乃”という人物を演じました」

亀島「こういう実際にあった話を元にしたリアルな人物と、明らかにフィクションだろうなっていう人物が同列に出てくるのがこの作品の1つの面白さだと思います」

島田「過去と現在も交差しつつ、フィクションとノンフィクションも混ざっていくという……ちょっと複雑ですが」

―――亀島さん、島田さんの配役は初演とは変わりますか?

亀島「変わらない……とは聞いているんですけども。どうなることやら……」

―――三浦さんも、「気分としては新作です」とおっしゃっていますよね。

亀島「震えています(笑)」

―――『BGM』を再演すると聞いた時のお気持ちは?

島田「これまでの作品をどれか再演しようという話になり、劇団内で話し合ってこの『BGM』に決まったんです」

亀島「他の劇団がどうかは分からないのですが、僕ら(ロロ)はいわば“挙手制”で、上演作品と内容が決まってから、出たい人が自ら手を挙げて出るんですね。客演など他の仕事が決まっていたり、この作品はちょっと自分には合わないかなと思ったりしたら、今回はパスで……というのも出来る環境なんです。
 『BGM』は出てくるエピソード全てが明るいわけではないけれど、トータルで見ると楽しくて、観劇後に前向きな気持ちになれる作品だと個人的には思っているので、今、このご時世に上演するのにふさわしい作品かなと思って、今回ぜひ出演したいと手を挙げました」

望月「私はスケジュールさえ空いていれば、ロロの作品にはなるべく出たい!というタイプなのですが、『BGM』はザ・スズナリで初演をやった時のお客様の反応が良くて、印象的だったので、また出られて嬉しいという気持ちです。
 ただ初演の時は少しバタバタしていて、熱狂のまま終わったというか……。俯瞰して作品を味わう余裕がなかった記憶なので、今回は再演ということで改めて色々なことをじっくり考えながらできるかなというのを楽しみにしています」

島田「私はこの『BGM』は比較的最近上演した印象で『え、もう再演か!』と初めは思ったのですが、遡るともう6年も前の作品なんですね。このコロナ禍という未曽有のパンデミックで3年は時が止まっていたに等しいので、体感では3年ぶりくらいかと思っていました……。
 演劇界全体が色々なことを考えさせられた期間だったので、それを経て、また新たなテイストの『BGM』をお届けできる機会になるんじゃないかと思って楽しみにしています」

―――音楽は江本祐介さんから曽我部恵一さんにバトンが渡されますが、それも含め、かなり初演とはかなり雰囲気が違う公演になるのでしょうか。

亀島「そうなんですよね。台本はあるのでベースは同じですが(三浦さんの)演出もガラッと変わるとのことですし、客演のキャストの方も結構変わりますし、劇場の規模感もだいぶ変わるので……別作品くらいの心持ちで臨まないといけないなとは思ってはいます」

望月「大人な雰囲気の『BGM』になりそう。前回(東京公演)はザ・スズナリのあのサイズ感で、江本さんのポップな音楽だったのが、KAATで曽我部さんの音楽となると……初演が原色のイメージだとすると、今回は淡い色のイメージかなと」

島田「初演が未熟だったというわけではないのですが、私たちキャストも年齢を重ねているので、その分、より成熟した作品がお届けできたらいいなと思っています」

―――改めて皆さんが思う、ロロの作品の特徴、魅力とは?

亀島「ロロの劇って、こうしないといけないという演技のメソッドがあるわけではないし、もっと言うと、いわゆる”上手さ”みたいなものだけが大事なわけでもないので、そんな中で、それぞれの個性を大切にし合う場所であろうとする姿勢がロロの魅力かもしれません。三浦くんも『絶対こうしなさい』って僕らに言ってくることはないので」

望月「外部の作品に出た時など、いつも『ロロってどういう劇団なの?』『どこが魅力?』って聞かれるのですが、言語化するのが難しいんですよね……。コメディが得意です、SF作品が多いです、といったような括りができる劇団ではないので。
 ただ、少し前にメンバーの何人かと、昔やった作品で何が良かったかを話す機会があった時に『あの作品、意味が分からなかったよね』『あれ何だったんだろうね』って笑う時間があって……。それが、私の好きなロロなんじゃないかなって。
 もちろん、自己満足じゃいけないし、これはいくらなんでもお客様が置いてきぼりになってしまうっていう時は三浦くんを含め、皆で話し合って変えていくこともあるのですが……パッと見て『これはこういうことなんだ』と分かられてしまうものにはなりたくないなと思うんです」

島田「ベタな展開や作品ではなくね」

望月「そう。『何か分からないけど楽しかったな、観て良かったな』と思われる作品を創り続けたいんです。お客様も、私たちも、三浦くんさえよく分からない、だけど『楽しかったな!』そう思える、言語化できない作品を創ることができるのがロロかなって」

亀島「『何か分からないけど楽しかった』って嬉しい感想ですよね」

島田「私も(望月さんに)同意で、だからこそSNSでお客様の感想を見ると、人によってフォーカスしている部分が違うんですよね。『あ、この人はこういう解釈をしたんだ』、『え、何でそう思ったんだろう』って思いながらそれを見るのも楽しくて。
 先ほども言った通り、ロロはベタな設定ではやっていなくて、作品によってテーマや価値観はあれど、それをお客様に押し付けるようにできていないので、きっと観る人によって関心を持つ部分や惹かれる部分が違うのかなと。そこが魅力だなと思って、いつも出演しています」

―――素敵なお話が聞けました。ありがとうございます。
 ではもう1問、今回の作品にちなんで、ご自身が移動中などに、まさに“BGM”としてよく聴く音楽は何ですか?

島田「私はクラブイベントに行くのが大好きだったんですが、このコロナ禍でなかなかそれができなくなってしまったので、車に乗っている時に大音量で好きなDJの2~3時間のセットリストを流して、クラブのような臨場感を楽しんでいます(笑)。特に『フレッド・アゲイン』と『フォー・テット』がオススメです! 2人ともイギリスのイケてるDJなんです!」

望月「私事なのですが、実は中耳炎になってしまって……イヤホンができないので、最近はなかなか聞けていないのですが、移動中はラジオを聴くのが好きです。深夜のお笑いラジオも好きですし、最近は叶姉妹のポットキャストを聴いています(笑)」

亀島「僕は『ゆるふわギャング』っていうラッパーが好きで。ドライブの時に結局いつもそれを流してしまうんですよね。気分に合わせて変えようとか、今日は違うアーティストにしようって思っても、やっぱりドライブには『ゆるふわギャング』が1番なんです!」

島田「それこそ『BGM』の初演の時から言ってたよ。『ゆるふわギャング』いいよって」

亀島「そうだった⁉ じゃあもうかれこれ6年くらいはファンなんだなぁ……」

―――時の流れを感じますね……。三者三様の回答をありがとうございました!
 それでは、最後に今回の舞台『BGM』を観に来てくださるお客様に改めて一言ずつお願いします。

亀島「きっと楽しい作品になると思います。KAATは中華街のすぐ近くなので、ぜひゴールデンウイークの楽しみの1つとして横浜に足を運んでいただけたら幸いです」

望月「ザ・スズナリのサイズ感に合わせて作られたこの『BGM』がKAATでどう生まれ変わるのか……。私たちもドキドキしているので、初めて観てくださる方は勿論、初演を見ている方にも違いを楽しんでもらえたら嬉しいです」

島田「この作品はいわばロードムービーなので、旅の疑似体験のような感覚を味わえる作品になっています。長いコロナ禍、思うように旅行ができなかった3年間だったと思うのですが、少しずつ元の生活に戻り始めた今、ぜひ横浜に足を伸ばしていただいて、私たちと一緒に旅をしていただけたらと思います」

(取材・文&撮影:通崎千穂(SrotaStage))

プロフィール

亀島一徳(かめしま・かずのり)
1986年9月17日生まれ、東京都出身。ロロには立ち上げと共に正式加入。近年の出演作品(外部)に、ヨーロッパ企画『あんなに優しかったゴーレム』、COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』ほか。

島田桃子(しまだ・ももこ)
1988年8月6日生まれ、鳥取県出身。ロロには『15 minutes made ボーイミーツガール』より出演、2015年正式加入。近年の出演作品(外部)に、贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』ほか。振付家としても活動中。

望月綾乃(もちづき・あやの)
1987年9月13日生まれ、北海道出身。ロロには立ち上げより出演、2009年正式加入。近年の出演作品(外部)に、ケムリ研究室『ベイジルタウンの女神』ほか。

公演情報

ロロ『BGM』

日:2023年5月5日(金・祝)~10日(水)
場:KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:一般5,000円 U-25[25歳以下]3,500円
  U-18[18歳以下・枚数限定]無料
  ※高校生以下は要学生証提示/
   当日券は各+1,000円(全席自由・税込)
HP:http://loloweb.jp/BGM/
問:合同会社ロロ
  mail:llo88oll.yoyaku@gmail.com

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事