東京・千代田区隼町にある国立演芸場は、落語や講談、浪曲、漫才さらに太神楽(だいかぐら)などの多彩な演芸を楽しめる演芸場だ。頭に“国立”とつくと敷居が高く感じるかもしれないが、一級の空間に対して入場料金は意外と安く、チケットを持っていなくても無料で入れる展示エリアもある。思いのほか気軽に立ち寄れるのだ。
建て替えに伴い10月末に一度閉場する国立演芸場の特色や楽しみ方について話を聞いた。
―――――落語や寄席(よせ)に興味はあっても何となくよくわからない、敷居が高そうと思ってなかなか足を運べない方もいるかと思います。まずは寄席の魅力を教えてください。
「落語・講談・浪曲・漫才・奇術・太神楽といったバラエティ豊かな演芸をお楽しみいただける所が一番の魅力です。多くの方にとって寄席は落語のイメージが強いかと思いますが、実は落語だけということはなく様々なジャンルの出演者が代わる代わる登場します。国立演芸場はそんな寄席を楽しめる施設として、1979年(昭和54年)に開場しました」
―――――国立演芸場の公演の特色を教えてください。
「まず定席(じょうせき)公演として月の初めから10日ずつ上席(かみせき)・中席(なかせき)の公演を行っております。東京都内の他の寄席では昼夜公演を行っていますが、現在、国立演芸場は昼公演のみの上演です。落語や講談だけでなく浪曲・漫才・奇術・太神楽など多彩なジャンルが盛り込まれた、寄席そのままのスタイルでお楽しみいただけます。また、中堅から重鎮による「国立名人会」や入門から20年以内の若手による「花形演芸会」、そして様々な「特別企画公演」も実施しております。これらの企画は国立演芸場の特色ある公演としてご好評をいただいており、チケット発売日に即完売になる公演もございます。過去の「花形演芸会」には現在テレビで活躍している芸人さんや重鎮の噺家(はなしか)さんが若手時代に出演していらっしゃいました。現在も期待の若手が集う公演ですので、ぜひ、次世代のスターを観にご来場いただければと思います。そしてなによりどの公演も入場料金が非常にリーズナブルなのが大きな魅力です。一級の芸をお手頃な価格でお楽しみいただけます」
―――――公演内容以外に国立演芸場ならではの特徴はありますか。
「舞台や客席なども一級の空間をご用意しており、ゆったりと演芸をお楽しみいただけます。客席に入るとまず目に飛び込んでくるのが緞帳です。葛飾北斎の「赤富士」としても知られる冨嶽三十六景「凱風快晴」が描かれております。開演までのお時間、客席で緞帳を眺めながらゆったりとした時間をお過ごしいただけます。上演中以外はお写真撮影も可能ですので、ご来場の記念にぜひご撮影ください」
「舞台も同じく一級の設備を誇っております。舞台には伊勢神宮の遷宮でも使われる尾州檜が使われております。今ではなかなか手に入らない貴重な材料です。そして舞台正面奥に掛けられている「喜色是人生」の額は、昭和天皇に仕えた入江相政侍従長の揮毫によるものです。舞台の間口は五間二尺(10m)。客席数が300ですので、どこからでも舞台がよく見える丁度いいバランスです。照明については劇場並みの機材が揃っており、凝った照明の演出をすることもできます。音響もよく考えられていて、どこに座っても聴きやすい空間になっております。今では珍しくなったエレベーターマイク(床からせり上がってくるマイク)も現役です」
―――――ほかに国立演芸場の注目ポイントはありますか。
「正面玄関を入って奥に進むと演芸資料展示室がございます。ここでは収蔵資料の展示を行っており、実演家の方にも貴重と言っていただけるような資料がそろっております。この展示室はチケットがなくてもご入場いただけますので、ぜひ気軽にお立ち寄りください」
―――――展示だけを見ることもできるのですね。さらに国立演芸場の楽しみ方があれば教えてください。
「場内には先ほどご紹介した緞帳の他にもご来場いただいた皆様の撮影スポットになっている場所がございますので、ご来場の際にはぜひ記念写真をお撮りいただければと思います。正面玄関には紅白の提灯がかかっており、寄席の雰囲気を醸し出しております。提灯に書かれた紋章は奈良県の薬師寺東塔の水煙より考案したもので、国立演芸場と国立劇場共通の紋章です。また、国立演芸場の中は季節に応じた装飾が設えてありますのでそちらもお楽しみください」
―――――公演を見に来た方を対象とした企画も行っているんですよね。
「定席公演(上席・中席)ではスタンプラリーを行っております。定席公演のチケット1枚につきスタンプを1つカードに押印いたします。5つ貯まると緞帳をモチーフにしたオリジナル手拭いなど、国立演芸場オリジナルの景品と交換できるようになっております。景品は非売品ばかりでご好評をいただいており、たくさんの方にご参加いただいております。他にも期間限定の企画を行っており、国立演芸場のHPやTwitterでお知らせしていますので、ぜひご覧いただき、ご来場、ご参加ください」
―――――閉場まであと少し。お客様へのメッセージをお願いします。
「10月末の閉場まで、『さよなら公演』としてよりお客様にお楽しみいただける公演をお届けしてまいります。どなたでも気楽にお立ち寄りいただけますので、10月末の閉場までにぜひ一度足をお運びいただけますと嬉しいです」
(取材・文:渡部晋也 撮影:山下功晃/渡部晋也)
プロフィール
国立演芸場(こくりつえんげいじょう)
東京都千代田区隼町の国立劇場の敷地内に1979年(昭和54年)に開場した国立の演芸場。2023年10月末をもって一度閉場し、大規模リニューアルを控える。リニューアル後の運営開始は、2029年度末を予定している。
公演情報
4月上席/4月中席
『4月上席』
日:2023年4月1日(土)~10日(月)
『4月中席』
日:2023年4月11日(火)~20日(木)
場:国立演芸場
料:一般2,200円 学生1,500円 ※他、各種割引あり。詳細は公演HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.ntj.jac.go.jp/engei
問:国立演芸場 tel.0570-07-9900(10:00~18:00)