男優が女性役も演じることで生まれる耽美な世界観と、演出家・倉田淳の独創的な脚色力、そして美しく繊細な舞台演出に高い評価を得ている劇団スタジオライフが、3月に『決闘』を上演する。
本作は、ジョン・ラザラス&ジョア・ラザラスの作品で、2007年に倉田淳の上演台本・演出で初演された。高校のフェンシング部に所属し、自分の中に渦巻く感情を持て余しては規則からはみ出してしまう少年・ジョエルは、同じフェンシング部員・エリックと剣を合わせる時間だけを生き甲斐にしていた。しかし、エリックは頬に大きな赤痣がある美少女・ルイーズに恋をしていて……という発端から、関わる人々の運命が動いていく物語だ。
2007年の初演でエリックを演じ、今回ジョエルとルイーズを演じる松本慎也と、松本とWキャストで交互に同じジョエルとルイーズを演じる曽世海司が、久々に取り組む作品への思いから、お互いの魅力までを語ってくれた。
『決闘』をやるのかな?という匂いは感じていた
───2007年に上演されて以来16年ぶりの再演とお聞きしていますが、初演に出演された松本さんから、まず思い出をお伺いできますか?
松本「初演の『決闘』は若手育成公演という形での上演で、育成対象者として僕たち同期全員で出演しました。まだまだ芝居のこともわかっていない時でしたから、ただただがむしゃらに一生懸命で、皆必死でしたね。いっぱいぶつかりもしましたが、その結果見えてくるものもあって、今思い返すとまさに『青春!』という感じだったなと。
フェンシングで闘う場面も多く、アクションもすごく激しかったので、大変だったことを話しだすとそればかりになってしまうのですが、それ以上にみんなで新しいものを作り出す達成感や、喜びも感じられた、同期のみんなにとって本当に思い出深い作品です」
───曽世さんはその公演をご覧になっていかがでしたか?
曽世「劇団で若手育成公演は色々な形で何度もやっているのですが、この時は東京芸術劇場を使い、劇団が再演を重ねてきたレパートリーではなく、初演ものの翻訳劇をやるという、かつてない贅沢さがありました。良い環境で勉強させてもらっているな、と劇団員として嬉しかったし、誇らしかったし、羨ましくもありました。
ただ、初演でしかも翻訳劇に臨む大変さもよくわかっていましたから、『頑張れ!』というお兄ちゃん目線で見守っていたものの、今松本が言ったように、心をぶつけ合っているのがすごく感じられましたし、フェンシングもこれはハードだろうと感じて。それ以上に、彼らにとってすごく大きな経験をしているなと、この時も2チーム制だったので、両チームを観て思いましたね」
───そんな作品を今回改めて上演されると聞かれた時にはいかがでした?
松本「びっくりしました。今『決闘』をやるのかもそうでしたし、僕は初演でエリックを演じているので、(曽世)海司さんとジョエルとルイーズを交互に演じるということにもすごく驚いて!」
曽世「その企画には僕も驚いたんだけど、劇団的にはね、なんとなく数年前から『決闘』をやるのかな?という匂いはしてたよ」
松本「本当ですか?」
曽世「うん、倉田(淳)の口から何度か『決闘』の話が出ていたんだよね。もちろん『またやりたいと思っています』みたいなことじゃないんだけど、あの作品は大変だったね、という色々な思い出話のなかに『決闘』が出てくる頻度が高くて。
そういう作品って劇団としてもう一度、になっていくことが多い。もちろん倉田はどんな作品を上演した時も、必ず『やり残したものがある、再チャレンジしたくなる部分が残っている』と言うけれども、その話しぶりのニュアンスのなかに『これは?』というものを俺は受けとめていて。だから、今回『決闘』をやると聞いた時には、『ついにやるのか!』と思った」
松本「そうだったんですね!」
曽世「ただまさか自分が出るとは思っていなかった。「『決闘』をやるんですか? あれは若々しくて元気でいいじゃないですか!」って作品名を聞いて言ったくらいで(笑)。
そこに自分が出るというのは後で聞いて『出るんだ、えっ出るんだ?』と思ったんだけど、まぁ先生の役もあるからそこだろうなと思いこんでいたから驚きました。久しぶりに驚いたな、というくらいのキャスティングで。だって、僕と松本で、ひと言でまとめてしまうなら、主人公とヒロインを交互にやる訳で。ありがたいことだけれど『それでいいんですか?』という感じでもありましたよね」
───松本さんはその点については?
松本「16年前は同期で作り上げていったということもあって、やっぱり『あの役は僕だったらどう演じるかな?』と色々考えましたし、みんなの芝居を見ながら『この役もやってみたい、あの役も』、という思いはあったんですね。なかでもジョエルとルイーズにはそういう思いがあったので、それはすごく楽しみです。
あとは16年という年月が経って、もちろんあの当時よりはできることが増えているかもしれないんですが、やっぱりなくしたものもきっとあると思うんですよね。若さとか青さって言うんでしょうか」
曽世「そうだね、青さだよね」
松本「ですよね。ただ、肉体的には当時より確実に鍛えているし、仕上がっていると思います。体力や筋力はついていると思うから」
曽世「それおかしくない(笑)? 普通16年経ったら体力は落ちるよ!」
松本「そうなんですけど、でも絶対上がっているって思うんです(笑)!」
曽世「すごいな(笑)」
松本「それはやっぱり、海司さんをはじめ、劇団のみんなや倉田さんと過ごした時間、たくさんのものを一緒に作ってこられたからこそ感じられることなので、そういう中でまたあの作品に挑戦できるというのはすごく楽しみです。今だったらもっともっと深いところまで、色々な思考ができると思うので、どのくらい深めていけるかなと思っています」
2人が入れ替わることによって、2×2=4が何倍にもなる
───劇団スタジオライフを長く拝見させていただいてる側からしますと、曽世さんと松本さんがご一緒の舞台というだけで贅沢感があるところに、おふたりがおっしゃったように主人公とヒロインを交互にというのは、ものすごく贅沢な企画だなと思います。
曽世「いやいや、そんな風に言ってもらってはただ赤面ものでございますが(笑)。ウエストエンドスタジオで『ドラキュラ』を久しぶりにやった時に、メインキャストのドラキュラとジョナサンを僕ら2人で、入れ替わりでやっていて」
───そうですね!
曽世「あれも大変だと言いながらも、実はすごく楽しんでいたところが僕らにもあったんですが、倉田も楽しかったみたいで、味を占めたんですよ(笑)!」
松本「それはきっとあると思いますが(笑)! もちろんただ面白いからというだけでなく、作品的にジョエルとルイーズが抱えているものには共通点があるというか。それを敢えて、Wキャストで同じ人間が交代して演じることによって、彼らが抱えている思いが強く浮上してくるんじゃないか、というのが今回の演出とキャスティングの面白さだと思います。そこに大先輩の海司さんがいてくれるのは心強いです」
曽世「足を引っ張って頑張ります(笑)! 僕も昨日改めて倉田と話したんですけど、『決闘』は5人芝居なんですが、そのうちのジョエルとルイーズの2人は、マイノリティーとしての重さを背負っている人たちなので、初演よりも更に深くそこにスポットを当てたいと言っていました。
ジョエルは内面に抱える奇抜さというのかな。内面の動きが非常に他の人たちとは違う考え方をするという意味で、マジョリティではなくマイノリティーの部類に入る人だろうし、ルイーズは表側から見て明らかなものを抱えていますよね。
その2つの役柄を2人でやってもらうことによって深めていきたいと聞いて、キャスティングの意味が腑に落ちました。登場人物が5人しかいないなかで、非常に深いものを抱えてる2人を僕らが交互にやる。当然それぞれのアプローチで松本なりのジョエルとルイーズ、僕なりのそれができるでしょうし、その2人が互いに入れ替わって演じることで、2×2=4ということではない、何倍もの面白みが出るかなという気はしています」
───松本さんはビジュアル撮影にも臨まれていますが、その辺りは?
松本「どうしたの? 誰かに殴られたの?に見えてしまってはダメだ、とすごく思っていたんですけど、扮装をした自分を鏡で見た時に、あぁルイーズが抱えているものの大きさはこういうことなんだ、とストレートに理解できたというか」
曽世「うん、これは感じるものが大きいだろうなぁ」
松本「そうなんです。すごく大きなものをもらえました。彼女は1人の人間として、このビジュアルでずっと生きてるということを、もっともっと稽古場から、更に稽古に入る前から考え続けていかなければと思いました」
「永遠の先輩」と「同じところにいるある意味のライバル」
───そんな2×2を何倍にもしていくおふたりですが、役者さんとしてお互いのここが素敵だなと思っているところを教えていただけますか?
曽世「(松本と目を合わせて)あ、今すごく見つめ合った(笑)!」
松本「是非僕から言わせてもらうと、海司さんは僕にとっては大先輩ですし、僕は本当に芝居なんてなにひとつできない状態で劇団に入りましたから、稽古場にいても全然役がないときがあって。ただずっと稽古を見ていた頃から、こんな風になれたらとずっと思っていた先輩です。芝居ができなくて、倉田さんに徹底的にダメ出しされたあと、深夜に泣きながら海司さんに電話したこともあります。
僕は2004年の入団なので、もう今年で19年目になりましたけれども、やっぱりずっと先輩なんですよ。もちろん親しくさせていただいていますから、とてもおちゃめな面ですとか、『それはないよ~』なところを仲良くいじらせてもらってもいますけど(笑)。やっぱり根底にあるのはずっと憧れの先輩なので、舞台上で、稽古場で、海司さんと役として会話をしているだけで嬉しいです。
海司さんのお芝居って嘘がないんです。今は別のことを考えているな、という瞬間が全くなくて、常にちゃんとその役としていてくれるので、僕も何のストレスもなく役としていられる。それってやっぱりすごく幸せな時間で。
今回こういう組み合わせなので、実は2人の直接の絡みって多くないんです。ジョエルとエリックだったらすごくいっぱいありますけれども、ジョエルとルイーズなのでそれはちょっと残念だなと思う気持ちもあるのですが、その分いっぱい海司さんを見て盗めたらいいなと思っています」
曽世「もうこれだけ褒めてもらったら、このまま気持ちよく帰って寝ていいですか?という感じですけれども(笑)。
今、聞いていて思ったのは、確かに彼が入ってきた時には僕はもう何年か劇団にいたので『後輩君だな』というイメージはあったんですが、不思議なもので今はもう、松本ももちろんですし、後輩の子たちに対してあんまり後輩だと思っていないかもしれません。
僕にとっての先輩方、例えば笠原浩夫さんなどは劇団に何年いようが、やっぱり『先輩』なので、松本が僕を見てそう思うんだな、というのはわかりますけれど、僕個人としては、松本は後輩ではなくもう同じところにいる。言い方を変えればライバルでもある、という感覚です。
僕のことをそういう風に見てくれていたというのは、これまでも色々なインタビューなどで聞かせてもらってきましたから、知ってはいましたし、だからこそ稽古でも本番でも信頼してぶつかってきてくれるんだなとは感じています。ですからなんの心配もないし、なんならさっき松本が言ってくれたことを、そのままコピー&ペーストして貼り付けてもらってもいいですよ!というくらい(笑)。
不純なものがないというのか、余計なことをいっさい考えないで普通に役として会話ができる人になっています。それは彼の努力と、役についての研究と構築力の高さが素晴らしいからこそで、僕も安心して臨めるので、自分の役や作品の深堀りができるんです。
だから一緒に演じていて全くストレスを感じませんし『先輩』と言われたたら『あ、そうなるんだ?』というくらいで(笑)もう10何年も一緒にやっていますから、僕にとっては同僚という感覚ですね。よく見てくれていて、ちゃんと叱ってもくれる良い同僚だと思っています」
───とても素敵なご関係ですね。そんなおふたりが、今回『決闘』に向かわれるにあたって、準備しておきたいことはありますか?
松本「今回の台本で倉田さんが目指す方向性で探っていきたいので、僕は前回もやっている分先入観を持ち過ぎずに、自分が演じる役も、周りも劇場も違う今回は新作を作るつもりで臨みたいです。ですから本ができあがるのを今か、今かと待っています」
曽世「なるほどね。ごめんね、それを否定しているってことじゃ全くないんだけど、昔は僕も台本をもらったら徹底的に読み込んで、ある程度自分なりのプランで作った役を稽古場に持ち込んで、それをジャッジしてもらうという感覚が強かったんです。でもだんだんそれがつまらなくなってきて、一度読んでみて湧いたイメージだけを持って稽古場に来て、相手役と演じていく中で生まれてくるものをピックアップしいくというスタンスになっています。
だから今回もその方向で臨むのは間違いないんですが、ただジョエルという役が本当に色っぽいなと思ってはいて、彼が抱えているものがどうしてこういう形で表に出てくるのか?というところはある程度考えて、そういう意味ではジョエル君に寄り添って稽古場に来ることをしないといけないかなと今回は思っています。
ルイーズに関しても、さっき松本が実際にメイクをしてみて感じたことを話してくれましたが、やっぱりその体験はとても大きいので、そこに思いを巡らせたいなとは考えていますね。彼女が生きている姿がけなげにも見えるし、美しくも思える。そこにたどり着くためには一体どういう子なんだろうと寄り添っていく作業が必要だなと思っています。
ただ演劇的にはやっぱり稽古場で実際に相手役の目を見て、言葉を聞いて、体を見ながらじゃないと生まれてこないものが絶対にあります。それは特に少人数の、2人や3人の会話がずっと続く少人数芝居では重視されると思っているし、難しいところではあるんですけれども、稽古場で生まれるものをピックアップできる、リラックスした体と心でいられることが1番大事なんですね。
その境地になりたくてどの役者ももがいてるみたいなところがあるので、今回もそれを大いに活用しなきゃいけない作品だなと思っています」
───松本さん、今のお話を伺っていかがですか?
松本「今回の稽古に関してフラットでいるということが、僕にとっても大きな課題だなと思います。
やっぱり僕は前回の稽古場でジョエルともルイーズとも一緒に、ずっと苦しみながらみんなで作っていった過程を全部知っていますから。やっぱりジョエルだったら、当時演じた荒木健太朗の解釈でこうなっていった、というところもいっぱいあるので、そこから僕だったらこうしたいと思っていた地点ではなくて、今回の稽古で今回のメンバーと一緒に、自分が役として生きた会話をした時に、どんな感情になるのか?を大切にしていきたいです」
───色々とお話を伺って、公演がますます楽しみになりました。16年ぶりの再演いうことで、初めてご覧になるお客様も多いかと思います。改めて公演を楽しみにされている方々にメッセージをいただけますか?
松本「16年ぶりの再演なんですけれども、僕は本当に新作のつもりで臨んでいます。
彼らは剣で会話をするんです。だからその彼らの思いがちゃんとお客様に伝わるように、今ならきっともっと細かいところまで粒立てて伝えられる気がしますし、それができるメンバーだと思います。
このウエストエンドスタジオの空間で『決闘』をやるというのはやっぱりすごく贅沢なことだと思うので、その熱量というか、演劇的な面白さもちゃんと体感していただけるように頑張ります!」
曽世「僕は演劇って非日常をお楽しみいただくエンターティメントだと思っているんですが、この『決闘』にはカナダ演劇が持つ独特の香りがするんです。
劇団スタジオライフではカナダ演劇にも多く取り組んできていて、その独特な香りを感じてきましたし、自分たちとしてはあまりにも普通のことで日頃意識していないのですが、やっぱり男優集団という劇団の個性があるので、非日常性の中にその強みを生かして盛り込んでいきたいなと思っています。お客様の心に残るものがいくつも散りばめられている作品なので、是非楽しみに観に来ていただけたら嬉しいです!」
(取材・文&撮影:橘 涼香)
プロフィール
松本慎也(まつもと・しんや)
愛媛県出身。2004年入団。入団当初から作品の中心となる役柄を演じ、劇団の中心メンバーの1人として活躍。劇団の主な出演作は、『トーマの心臓』、『なのはな』、『アドルフに告ぐ』、『死の泉』、『ヴェニスに死す』など。外部出演も多く、舞台『魔術士オーフェン』シリーズ、『信長の野望・大志 ~最終章~ 群雄割拠 関ヶ原』、『それぞれの為』、『スペーストラベロイド』など。
曽世海司(そぜ・かいじ)
宮城県出身。1996年入団。劇団の中心メンバーとして活躍する中、COMEDY TRAIN『サダオのサダメ』シリーズ 主演・サダオ役をはじめ、外部出演も精力的におこなう。主な出演作に、『トーマの心臓』、『訪問者』、『11人いる!』、『ヴェニスに死す』、『アドルフに告ぐ』、『ぷろぐれす』など。個人としてもカフェ落語とフリートークで構成されるトークライブ『ことのはドリップ』を毎年続けるなど活躍中。
公演情報
劇団スタジオライフ『決闘』
日:2023年3月18日(土)~26日(日)
場:ウエストエンドスタジオ
料:一般6,500円
学生3,000円
高校生以下2,500円
(全席自由・入場整理番号付・税込)
HP:https://studio-life.com/stage/ketto2023/
問:スタジオライフ
tel.03-5942-5067(平日12:00~18:00)