ニューヨーク、オフブロードウェイでロングランを記録した傑作戯曲 90年代のニューヨークで、ヘイトクライムを乗り越え、愛を求めた2人の女性の物語 気鋭の翻訳家・広田敦郎、演出・米倉リエナを迎えて再演決定

ニューヨーク、オフブロードウェイでロングランを記録した傑作戯曲 90年代のニューヨークで、ヘイトクライムを乗り越え、愛を求めた2人の女性の物語 気鋭の翻訳家・広田敦郎、演出・米倉リエナを迎えて再演決定

 ボビー中西が主宰する演技ワークショップのBNAWに集った俳優たちによるグループ・AWDL。メンバーによるオリジナル作品の他に優れた戯曲も採り上げているが、次回作は韓国系アメリカ人の劇作家 ダイアナ・ソンによる『STOP KISS』に挑む。
 本作は1998年11月に、オフ・ブロードウェイのパブリック・シアターで初演の幕が上がった。3度の延長を重ねて、ほぼ4ヶ月にわたり上演されるほど好評を博した。今回は多くの戯曲翻訳を手がけている広田敦郎の新訳で、演出にニューヨークのアクターズスタジオ生涯会員である米倉リエナを迎えて上演する。

―――『STOP KISS』は90年代のニューヨークを舞台に、ジェンダーやLGBT、人種の問題など色々な要素が内包された作品のようですね。

米倉「2人の女性によるラブストーリーなんです。そこにユーモアも交えつつ、2人が成長する過程を描いていく、そんな作品ですね。物語の背景は90年代のニューヨークですが、その当時私もニューヨークで暮らしていたので、私が知っている街の話でもあります。
 女性2人におこるヘイトクライムを取り上げていますが、それにとどまらず、性別にかかわらず愛する心の力と可能性が大きく、ラブストーリーであることが大事だとおもいます。人を愛すとはどういうことか?を問われるお話だと思います。そこに私達が得るものがあるのではないでしょうか」

―――AWDLでは数年前にもこの作品を取り上げているようですが、その時とは違って今回は新訳ですね。新たに翻訳する上で、それまでの訳と違うところや、苦労はありましたか。

広田「今まで訳されたものと比べることはしませんが、90年代というのは新しいといえば新しいし、古いといえば古い時代です。記憶の中ではそれほど古くないけれど、振り返れば長い道のりを経ている。だから言葉のデザインとしてものすごく今風な言葉にしていいものかは迷うことでした。原作も古くさくはないですし」

―――ニューヨークの90年代は大きく街が変わったイメージがあります。

広田「当時、市長だったジュリアーニがニューヨークの怪しげな部分を一掃したんですね。この作品でも採り上げられていますが、やたらとクリーンになる前後の時代でした」

米倉「90年代というのは次の世代へ行く前の10年間で、それ以前、70~80年代に吹き出したエネルギーが収まっていた時代。ある意味綺麗になっていく10年ですが、一方で、その下にはやはりエネルギーはあって、それをどこに向けていいのかがハッキリしなかった時代だと思います。主人公のキャリーが自分を見失うのにも重なりますね」

広田「90年代のニューヨークでは、ゲイ・コミュニティが80年代に始まったエイズの悲劇を必死で乗り越えつつあり、同性パートナーシップ制度の導入もありました。東京でここ10年くらいにあった動きがすでに存在したわけです。
 90年代にこの作品を上演しても単なる『紹介』に終わったかもしれないけど、いまの東京の現実にはこの物語と重なる部分が多いと思います」

米倉「そう。今まさに響く作品です。今でも自分の本当の気持ちを露わにすることを恐れてしまう。正直に表現できない。でもそれを乗り越えて果たす成長をみることに、観客も喜びを感じるのだとおもいます」

―――広田さんの新訳についての印象はいかがですか。

米倉「そもそも原作にある台詞のやりとりが凄くシンプルで、心に刺さるのですが、さらに広田さんの訳が素晴らしいので、聞いていて自然に気持ちが入るし、2人の変化が会話に現れますね。この素晴らしい台詞をどう活かすかが楽しみです」

広田「シンプルだけど深みがある台詞です。ちょっとした言葉の選び方や言いよどみに人物の葛藤や迷い、恐れ。一歩踏み出して、自分を愛してくれる人に正直な気持ちで応えることがなぜできないのか。それが見える部分が面白かったですね。
 僕は多分、女性が書いた戯曲や女性どうしの恋愛を描いた戯曲の翻訳上演に関わったことがないので、女性の台詞が変なステレオタイプになっていないかなど、気を遣いましたし、当事者のかたに意見を仰いだ部分もあります。」

―――今回はAWDLから徳留歌織さん、福永理未さんが出演し、その他オーディションも行われたそうですが、どんなメンバーが集まりましたか。

米倉「作品の魅力に惹かれて、リアルな作品でリアルなお芝居をやりたい。がっつりリアリズム演技をしながら舞台表現をして行きたい俳優が集まったという印象です。
 現在ニューヨークを拠点にされている、祐真キキさんは物語に共感されて、このために日本に戻ってきます。また、私や(プロデューサーの)ボビー中西さんとも以前からの知り合いで、同じ頃にニューヨークで芝居の勉強をされていた梶原涼晴さんは、劇団主宰でもあり演出家でもあるかたですが、今回は役者として参加します」

―――最後に劇場に足を運ばれる皆さんへのメッセージを頂けますか。

米倉「登場するキャラクターそれぞれが愛することに気づく瞬間がありますが、その中でも主人公の2人が紡ぐラブストーリーに2人の成長を観て欲しい。子供のように不器用ながらも成長する瞬間の旅を感じてほしいです」

広田「自由な意思を貫いて生きていけない人たちが、大きな悲劇を経験し、失敗を乗り越えた後、自分の人生を生きていこう、自分の心が求めるものに正直でいよう、愛していこうとする姿に注目してほしいと思います」

―――90年代のニューヨーク。でも現在の東京に投影されるような物語。楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

広田敦郎(ひろた・あつろう)
翻訳家。劇団四季、TPTを経て、フリーランスの戯曲翻訳者として活躍。英語圏演劇の古典・新作から非英語圏の作品まで、幅広く翻訳を手掛ける。2009年、トム・ストッパード作『コースト・オブ・ユートピア ―ユートピアの岸へ』の翻訳で、第2回小田島雄志翻訳戯曲賞を受賞。近年の翻訳上演作品に、トム・ストッパード作『レオポルトシュタット』、サイモン・スティーヴンス作『FORTUNE』、アレクシ・ケイ・キャンベル作『The Pride』、アーサー・ミラー作『セールスマンの死』『みんな我が子』、テネシー・ウィリアムズ作『地獄のオルフェウス』『西洋能 男が死ぬ日』などがある。

米倉リエナ(よねくら・りえな)
ニューヨーク大学演劇学科卒業。俳優として、ミュージカル『アニー』、舞台『二十日鼠と人間』、『テンペスト』、映画『ビューティフル・マインド』などに出演。2001年、日本人女性初のアクターズ・スタジオ 正式メンバーとなる。また、演出家として『Alchemist』、『Golden Tickets』、『MOMO』なども手掛ける。アップスアカデミーでは、演技講師として、母であり日本と海外を繋ぐキャスティングディレクター・奈良橋陽子と共に後進の育成に努めている。夢のオーディションバラエティー「Dreamer Z」(テレビ東京)の審査員を務めた。

公演情報

BNAW presents AWDL performance
『STOP KISS』

日:2023年3月30日(木)~4月9日(日)
場:ウエストエンドスタジオ
料:5,000円(全席指定・税込)
HP:https://awdl.stage.corich.jp/stage/182467
問:AWDL
  mail:stopkiss.awdl@gmail.com

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