ユニークな世界観と物語を持つイリ・ブベニチェク作品。7年振りの再演 積み重ねてきた経験を活かして、より深みのある素敵な作品に。

ユニークな世界観と物語を持つイリ・ブベニチェク作品。7年振りの再演 積み重ねてきた経験を活かして、より深みのある素敵な作品に。

 バレエ公演の中でも、個性的な三本の作品が楽しめるトリプル・ビル。東京シティ・バレエ団はこれまでも個性的かつ斬新な作品を取り上げてきたが、今回はウィリアム・フォーサイス振付で日本初演となる『ArtifactⅡ』。東京シティ・バレエ団では初めての上演となるジョージ・バランシン振付『Allegro Brillante』。そしてイリ・ブベニチェク振付の『L’heure bleue』を採り上げる。
 その中でも『L’heure bleue』は世界的に注目されているイリ・ブベニチェクが米国のノース・カロライナ・ダンス・シアターのために2013年に振り付けた作品をベースとして、2016年に東京シティ・バレエ団に向けて新たに作り込んだもの。つまりスペシャルバージョンというわけだが、今回7年振りの再演にあたり、初演メンバーでもある岡博美と沖田貴士が再び参加する。岡、沖田にこの作品についての話を聞いた。


―――――東京シティ・バレエ団での日本初演(2016年)から7年振りの再演になりますが、再びこの作品に取り組むに当たって、お2人の気持ちを聞かせてください。

沖田「前回この作品に取り組んだのは、僕がバレエ団に入団して間もない頃でした。それまでは海外で活動していたのが、帰国してまだ緊張している状態でしたので、ともかく必死でガムシャラに取り組んだことを憶えています。今回の再演では7年間で積み重ねた経験がありますから、それを活かしてさらに深みのある演技が出来ればいいなと思います」

岡「私は入団して7年目で、この時に初めて主演に抜擢していただいたんです。だからとても思い入れがある、私にとって宝物のような作品です。毎日のリハーサルがとても刺激的でした。しかもイリとオットーのブベニチェク兄弟が人間的にもとても素敵で、踊り方や呼吸の方法などのアプローチがそれまでやって来ていたこととは少し違っていてとても新鮮でした。そこからさらに7年経ちました。振付を思い出すと彼らから貰った物が蘇えるかのようです。今回はそれらをさらに膨らませていきたいと思います」

―――――初演の時の想い出を聞かせてください。

岡「イリさんはダンサー一人ひとりのキャラクターを観ながら構想を練って、振付している感じで、まさにその場で創り上げていた感じでしたね」

沖田「あの時の僕は必死で彼らを見つめ、ただ真似している感じでした。振り返ってみればあの2人から出てくるオーラのようなものをもっと感じれば良かったなと思います。今、振り起こしの為に当時の動画を見ていると、その動きに映像の向こうから彼らの香りがしてくるような感覚を覚えます」

―――――お2人はバレエ団の中でもベテランの域に入るかと思います。今回は若手メンバーを引っ張って行く立場かとも思いますが。

沖田「僕はまだまだ彼らに負けない気持ちが強くあります。確かに彼らのテクニックや体力は凄いモノがあると思うので、そこに海外での経験など自分の培ってきたものを加えたら、僕を越える存在になるだろうと思いとても楽しみです。負けない気持ちと同時に、俺を越えて行けという気持ちがあります。そして言葉よりも動きでそれを伝えたいです」

岡「私は確かに年上ではありますけれど、それは私がたまたま皆より早く生まれて、そして早く踊っているだけです。みんな一人ひとりが人間であり、ダンサーであり。そこに上下は無いと思っています。それぞれの個性を活かしつつ、それに負けずに自分も出していきたいです」

―――――振付のイリ・ブベニチェクさんとは7年振りの再会ですね。

沖田「7年前の自分は、イリさんを大勢いる振付家のひとりだと思っていた気がしますが、今は彼と同じ空間にいたいという欲求があります。やはり実際に同じ空間にいることは、ビデオや動画では得られないものがありますから」

岡「再会がすごく楽しみです。私自身も7年前から変わっていますし、同様に彼も変わっているはずですから、再会したときにお互いどんなコミュニケーションがとれるか楽しみです」

―――――今回の公演によって、お2人にとって『L’heure bleue』は代表作というべき作品になるかと思いますが。

沖田「この話をいただいて本当に嬉しくて心から躍りたいと思いましたが、そんな作品はなかなかありません。やはり自分のキャリアの中で特別な作品だと思います。前回の映像に映る自分を観ていても素敵だと思いました。それは本当にガムシャラに取り組んだからでしょう」

岡「同感です。作品に取り組むにあたって必ず行う身体作りも含め、毎日スタジオに行くのが楽しく、リハーサルがこんなに楽しいんだと思った記憶があります。先ほども申し上げましたが、私の宝物だし代表作です」

―――――素敵な舞台を期待しています。ありがとうございました。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

岡 博美(おか・ひろみ)
3才よりバレエを始め、川上恵子バレエスクールにて川上恵子、深川秀夫に師事。第2回Osaka Prixバレエコンクール ジュニア第1部第3位。兵庫県立宝塚北高等学校演劇科卒業。05年、ロシア国立ボリショイバレエ学校へ留学。08年、同学校卒業。09年4月、東京シティ・バレエ団入団。以降、『L’ Heure Bleue(イリ・ブベニチェク振付/日本初演/東京シティ・バレエ団スペシャルバージョン)』、『Octet(ウヴェ・ショルツ振付)』第二楽章、『死と乙女(レオ・ムジック振付)』、『眠れる森の美女』(リラの精)、『ジゼル』(ミルタ)、『白鳥の湖』(パドトロワ/三羽の白鳥/チャルダッシュ/王妃)、『くるみ割り人形』(アラブの踊り/スペインの踊り/クララの母)、『ロミオとジュリエット』(キャピュレット夫人)、『コッペリア』(曙/スワニルダの友人)、オーケストラwithバレエ『アルルの女』、その他、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト『こうもり』、新国立劇場オペラ『アイーダ』等のオペラ公演にも出演。12年、橘秋子記念財団奨学生。

沖田貴士(おきた・たかし)
3歳から母のもとでバレエを始め、その後に松山バレエ学校、金田こうのバレエアカデミーで学ぶ。YAGPに出場してスカラシップ賞を受賞。キーロフ・バレエ・アカデミー卒業後、サンフランシスコ・バレエ・スクールを経て、08年、ルーマニアSibiu Ballet Theaterにソリストとして入団。在籍中にSibiu International Ballet Competition シニア男性部門金賞を獲得。ブカレスト国立劇場にソリストとして移籍。12年には米国Tulsa Ballet Theaterに入団。14年に退団後、15年に東京シティ・バレエ団入団。21年4月、ソリストに就任。

公演情報

東京シティ・バレエ団 トリプル・ビル2023

日:2023年3月4日(土)・5日(日)
場:ティアラこうとう 大ホール
料:SS席10,000円 S席8,000円 A席5,000円
  U25席[25歳以下]3,000円 ※要年齢確認証持参(全席指定・税込)
HP:https://www.tokyocityballet.org/
問:東京シティ・バレエ団 mail:contact@tokyocityballet.org

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