不思議な予言に導かれ、権力の頂点に上り詰めるために同僚を、そして主君までも手にかけた武将・鷲津武時。彼が破滅に至るまでを描いた『蜘蛛巣城』は、シェイクスピアの『マクベス』を戦国時代に置き換えた、巨匠・黒澤明の名作だ。シェイクスピアと黒澤、2人の巨匠が生んだ代表作をKAAT神奈川芸術劇場の舞台に移し、早乙女太一が挑む。
「お話をいただいてからもう心臓が痛いくらいの不安と嬉しさが同時にあります。僕はそもそもあまり心が大きく動くことがなく、それほどドキドキしないのですが、この作品については凄くドキドキしています。初のシェイクスピア作品ですから、僕なりのチャレンジが大きいです」
下準備として映画を観たのか尋ねると、意外にも観ていないと言う。その理由をこう語った。
「それ以外の黒澤映画は何本か観ていますが、みんな命そのもののエネルギーを感じます。でも『蜘蛛巣城』は影響されやすく、引っ張られると思うので観ていません」
物語には2つの大きなキーワードがある。それは人を変えてしまう“野望”と、それを後押しする“予言”。早乙女自身は野望を心に秘め、占いなどの予言を信じるタイプなのだろうか。
「僕自身は結構怠け者で(笑)。あまり周りと争いたくないんです。もちろん目標は高く持ちますが、野望家ではないです。占いも良い結果なら信じます(笑)。でもあまり惑わされないようにしています。例えば『来年が良い』なんて言われたら、何もしない気がします。怠けちゃいますね。験担ぎもないんです。そういった決めごとは作らないようにしていますから」
そして、武時に大きな影響を及ぼすのが、妻・浅茅。今回、浅茅を演じる倉科カナの印象はどうだろう。
「今回が初めての共演ですが、倉科さんは心を素直に表現される、嘘がないという印象です。純粋で心からしっかり気持ちが外に出ていて、明るくて包容力がありそうな感じもしています」
シェイクスピアとも黒澤とも違う、早乙女と倉科による『蜘蛛巣城』。どんな舞台になるか、今から楽しみだ。
「『マクベス』や『蜘蛛巣城』をご存知の方には、映画の舞台版と捉えずに楽しんでほしいです。舞台や演劇、時代劇に縁遠い人にとっては、難しそうで敷居が高いイメージかも知れませんが、作品には現代を生きる人たちに通じるものが一杯に詰まっていますので、ぜひご覧いただきたいです」
(取材・文:渡部晋也 撮影:山本一人(平賀スクエア) ヘアメイク:奥山信次(barrel) スタイリスト:八尾崇文)
プロフィール
早乙女太一(さおとめ・たいち)
1991年9月24日生まれ、福岡県出身。大衆演劇 劇団朱雀の舞台を4歳で踏み、2003年に北野武監督の映画『座頭市』に出演。“100年に1人の天才女形”として広く知られることとなる。2015年の劇団解散後は、舞台・ドラマ・映画出演など活躍の幅を広げ、数多くの人気作品に出演している。その傍らで2019年に2代目座長として5年振りに上演された舞台、大衆演劇『劇団朱雀復活公演』では総合プロデュース・脚本・振付・演出を手掛けた。
公演情報
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『蜘蛛巣城』
日:2023年2月25日(土)~3月12日(日) ※他、地方公演あり
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉
料:S席8,500円 S席平日夜割[3/2・8]6,500円 A席6,500円
※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.kaat.jp/d/kumonosujo
問:チケットかながわ tel.0570-015-415(10:00~18:00/年末年始を除く)