アトエモがメッキの世界に送る心象冒険ファンタジー 突然訪れた母の死を受け入れることができない男 長い旅路の先に待つは結末か終末か

アトエモがメッキの世界に送る心象冒険ファンタジー 突然訪れた母の死を受け入れることができない男 長い旅路の先に待つは結末か終末か

 平成生まれが集まり、舞台・映像などオールジャンルの分野で波を立てる若手演劇集団「@emotion(アットエモーション)」による新年公演。突然母を亡くし、世間を受け入れることができないススムは、母を探す長い長い旅に出る。幻想の地・ネバーランドへと到達する旅路は果たしてどんな結末を迎えるのか?
 『仮面ライダーフォーゼ』のJK役として人気を博し、『ドゲンジャーズ メトロポリス』にてTVドラマ初主演を務める土屋シオンを主役に、笠原織人・梅田悠・星璃と魅力的なゲストキャストを迎えた心象冒険ファンタジー。彼らに公演への意気込みを聞いた。

―――脚本を読んだ印象についてお聞かせください。

土屋「最愛の母・月子を亡くした事を受け入れることができなかった主人公のススムが、ピーター・パンが暮らすネバーランドに到達してそこで物語が展開していくのですが、そこでの出会いにどんな意味があるのかが、日常とファンタジーが交錯する物語が進むにつれて分かっていきます。
 舞台のメインビジュアルが発表されたとき、ススムはスーツを着ていたがキャラクタービジュアルではファンタジーの衣装だったので、お客様からも『これはどういう意味なんだろう』と反響がありました。そういった謎も解き明かしながら楽しんでもらえたらと思います。
 自分が@emotion(以下、アトエモ)に入ってから1年経ちますが、流行り病だったり、世界情勢だったり、フィクションみたいな出来事が目立つようになってきたこの世の中に向けて、エンターテインメントを通してポジティブな刺激を発信していきたいなと思っていますし、それが十分に出来る劇団だと思っています」

梅田「主宰の門野翔さんとは何度も共演経験がありますが、今回、念願叶って初めてアトエモさんに出演させて頂きます。本作ではススムの母・月子を演じます。
 台本を途中まで読ませて頂いたのですが、『辛い!』と連呼するほど壮絶な物語が描かれていて、直球勝負といいましょうか、彼が伝えたいことが圧倒的な濃度で詰めこまれた作品だと圧倒されました。
 門野さんとは年齢も近くて、ススムの心情を通して描かれる人間の弱さや醜さといった部分はとても共感できる部分が多くて、ススムがこの先どうなっていくのかも含めて、是非多くのお客様に観て頂きたいなと思いました」

笠原「僕もアトエモさんの作品には初めての参加になりますが、アクションや衣装がすごいというイメージがあります。作品の内容だけでなく、ビジュアルにもかなり拘っていらっしゃるなと。
 台本を読んだ印象は、物語、世界観、キャラクター、衣装とかなり綿密に作り込まれていて、ここまで攻めたファンタジーはなかなか無いなと感じました。
 普段、ひょうきんなキャラクターか悪役かという立ち位置が多かったのですが、本作で光のイメージがあるピーターを演じることは、かなり新鮮で楽しみです。衣装も金髪のウィッグと緑色のタイツといった感じで、皆さんが想像するピーターですが、自分にとっては新たな発見があるはずです。
 一方で、ススムとピーター、2人の主人公の性格は対照的であり、ススムが陰であるならばピーターは光。この2人が出会うことでどう変化していくのか。2人の関係性にも是非注目して観てもらえたらと思います」

星璃「アトエモさんには3回目です。門野さんとは長いお付き合いさせてもらっていて、毎年、年末と正月は彼の実家で一緒に過ごすほどの仲です。息子よりも息子という感じですね(笑)」

一同「(笑)」

星璃「僕自身、劇団Patchの1期生で役者として10年活動し、最近は制作や劇団運営も担っています。アトエモさんは自分たちの団体であるからこそ全て自分達で準備し行う。とても勉強になると同時に、プライベートでも仲良くさせていただいてる方が多いため友人でもありライバルとも言える存在です。
 門野さんが描く作品は出演者全員が光ると言いましょうか、俺らはこの舞台で全力で生きているぞというパワーを存分に感じさせてくれます。世界を変えたい!といった偉そうなメッセージ性があるわけではありませんが、明日が少し楽しみになるような、真っすぐな言葉や言葉遊びなどにも印象に残ります。アトエモがあるからアトエモの劇団員8人が輝き、その相乗効果で周りも輝くイメージがあるので、毎回いい団体さんだなと思っていました。
 僕はロストボーイというネバーランドで大人になることに反発している子供を演じます。その子供達の代表格がピーターだというと悔しいので、ピーターを抜けば俺がリーダーだと言い張るようなキャラクターですね」

―――子供と大人という境界線が物語のキーワードとなりそうですね。

土屋「本作のキャッチフレーズには『知った気になるのが大人なら僕はまだ子供なんだ』という一節があります。僕も門野さんもそうですが、大人という言葉があまりカッコよく聞こえていなかった年頃があって、大人になるってどういうことなの?って反発していた時がありました。本作でも現実パートとネバーランドパートがそういう部分にかなりクロスオーバーしていくんじゃないかと思っているので、是非お客様にもこの言葉を頭の片隅に置いて観に来て頂ければ、色々と心に響く場面があると思います」

星璃「真面目な事を言うわけじゃないけども、そのキャッチフレーズを書いた門野さんも、演じる僕らも既に大人なんですよ。でもそこに抗えるのも僕達役者であり、役者だからできることってあると思うんです。再演できる作品が沢山ある中で、この新作を創ったということは、今、門野さんが伝えたいものが詰まっているのかなと思いました」

土屋「人気漫画『NARUTO -ナルト-』の主人公・ナルトが言った『賢いってのがそういうことなら、俺は一生バカでいい』という大好きな言葉があって、僕はそれをずっと胸に生きているんですけど、本作ではファンタジーという世界で包みながらも、大人が語る綺麗ごとみたいなものを一切取っ払って、門野さんなりの手法でお客さんの心を殴っていくんじゃないかと思います」

―――アトエモさんは、コロナ禍でも積極的に創作活動を続けられている印象です。

星璃「演劇って娯楽なので、社会が切羽詰まった状況になれば真っ先に切り捨てられる対象だと思うし、実際この2年間で切られた側でもありました。それでも劇場に何かを求めて足を運んでくださる方がいることは大きな励みになっていました。
 お返しできることは全力で演じることです。僕らが創った作品がお客様の心のどこかに響いて日常が少しでも明るく見えてくれたら嬉しいです」

笠原「演劇は古くから愛されてきましたが、2020年のコロナ禍を境に演じる側も観る側も大きく意識が変わりましたよね。やる側も公演が中止になってしまうかもしれないし、お客様も劇場に行くこと自体、ハードルが高くなってしまった。そんな時代でも演劇人が必死になって作品を創って、それを応援してくださるお客様がいる。なので作品に対してより一層高い意識を持って臨むようになりました」

梅田「私も去年初めて舞台をプロデュースしたのですが、1つ作品を世に送り出すのはこんなに大変なんだと痛感しました。アトエモに所属する皆さんは、ほぼ私よりも年下なのに最前線で奮闘してらっしゃる姿を見ると本当に凄いなと思います。
 本作は今後のアトエモの方向性を大きく示す大事な作品になると思うので、私の出来る全てを投じて頑張りたいですね。私以外にもアトエモの作品に何度も出られて劇団の事を良く分かっているキャストさんも多いので、新しい顔ぶれも含めてどんな化学反応が起きるか、今から楽しみです」

―――特別出演で和泉元彌さんもお出になるとか?

土屋「和泉元彌さんの出演は本当に劇的なきっかけだったんです。僕はコロナ禍になって芸術の必要性が無くなっていく世の中を見ていて、役者を引退しようと思った時がありました。僕は子役時代を含め、20年間役者しかしてこなかったので、自分の生きる意味が全く分からなくなってしまったんです。
 それからすでにオファーを頂いていた2本の作品で引退すると決めました。約1年の休業期間を経て、上演された1本目の作品に和泉元彌さんがオフレコで観に来てくださって、Twitterで『シオン君が復帰すると聞いて観に来ました』と長文の感想と共に投稿してくださったんです。それがとても嬉しかったんですね。ずっと親身に相談に乗ってくださっていた元彌さんがこんなに復帰を楽しみにして下さっていたんだと思って、本当に元気をもらえました。
 そこから引退するつもりだった2本目の作品がアトエモの『FLAGMAN』という作品に出たことで、役者を続けることを決めて、そのきっかけでアトエモに入団して、本作の主役を務めさせてもらうことになりました。そのタイミングで敵役となる大海賊の役を元彌さんにダメ元でオファーさせてもらったところ、快諾してくださったんです」

星璃「ホント、異色すぎて最初は同姓同名の別人か、声だけの出演かと思ったわ!」

一同「(笑)」

星璃「でもシオンは人に恵まれているよな。人との関わりを大事にする人間なので、アトエモに出会ったこととか、タイミングや人とのめぐり合わせはすごいよな。
 それに門野さんって、オファーする時に『お前じゃないと』と言ってくれる。『お前の為に書いた』と言ってくれるのは役者冥利に尽きるし、やりがいだよね。
 だからピーターの半ズボンもお前にしかできない!」

一同「(笑)」

―――この作品で5月に大阪公演もあるそうですね。是非読者の方にもアピールをお願いします。

星璃「そうなんです! アトエモ初の地方公演がついに! 勝負の年に勝負の作品で乗り込みますっ! 僕にとってもホームと言える大阪で公演が出来る事は感無量ですね。しかも会場は劇団Patchが生まれた大阪、福島にあるABCホール。僕が敢えて推薦させてもらいました。
 でもアトエモにとってはまだまだ通過点だと思うので、微力ですが全力で盛り上げたいと思います。演劇っていいんだぞ、わざわざ足を運ぶ意味があるぞと思ってもらえる作品にしますし、ここでしか観られないものを東京と大阪の両ホールでお見せします。是非、僕と一緒に応援してもらえたら嬉しいです!」

笠原「僕もずっと子役から役者をやらせてもらって、今年30歳になりました。最近、自分が業界やお客様からどう見られているんだろうと客観視するようになったタイミングで、今回ピーター役を頂きました。比較的若い世代の役を演じさせてもらうことが多いこともあって、今回はその集大成というか、こんな役者だよという姿をお見せできればと思っています。
 またこういう時代に地方公演をすることは挑戦だと思っていて、その一助となれるように全力で頑張ります!」

梅田「私も三重県出身なので、大阪公演があることはすごい嬉しいです! 地元の人達もコロナ禍になってなかなか遠出が出来なくなったので、比較的近い大阪でお芝居ができるのは有難いです。星璃君が言ってくれたように、門野さんから『この役だから梅田悠を使いたい』とオファーを頂いたので、月子という役を全力で愛して2023年の門出を飾りたいと思います! 皆さん、是非観に来てください」

土屋「これは常日頃から思っていることなのですが、人はなぜ、子供の頃に出来ていたことが大人になると出来なくなるんだろうと。あの素直な感情からくる喜怒哀楽をなぜ表現できなくなってしまったんだろうとずっと疑問に思っていました。それを門野さんが見抜いて僕をこのススムという役に抜擢してくれたと思います。
 心で思っていても口にできない思いや、無意識の中に押し込んでいる感情など、僕ら役者は台詞として表現できるので、是非感情を投影しながら観てもらえたらなと思います。これまでお世話になった方々への最大限の恩返しはこの公演を成功させること。さらに団体を大きくしていくことだと思っています。是非、劇場で皆様にお会いできることを楽しみにしております」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

星璃(しょうり)
1994年3月24日生まれ、京都府出身。2012年、劇団Patch 1期生として入団。武器・小道具制作の腕前に秀でており、劇団公演のほぼ全ての公演で制作を担当する。外部団体では演劇集団よろずや、企画演劇集団ボクラ団義、ENG、バンタムクラスステージ等多数の公演に出演。近年の出演舞台に、eeo Stage action 劇団MNOP #2『悪を以って愛と成す』仁 役、Bobjack Theater vol.27『幸福レコード2022』などがある。

梅田 悠(うめだ・はるか)
1988年3月15日生まれ、三重県出身。12歳で上京。TRFのバックダンサー、アメリカンフットボールW杯のオフィシャルサポーター“Ma-kiss”(マーキス)のメンバーを経て、2009年~2012年までアイドルグループ SDN48のメンバーとして活動。卒業後は舞台女優として活躍の場を広げ、2021年には松木わかはと演劇プロデュース団体「pa-pi-produce」(パピプロ)を立ち上げた。近年の主な出演舞台に、松本稽古企画公演『ココロ踊ル』supported by ENG vol.1『ダンスピアの消失』などがある。

笠原織人(かさはら・おりと)
1992年2月29日生まれ、埼玉県出身。2002年、蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸 ファイナル』でデビュー。TBSドラマ『GOOD LUCK!!』での木村拓哉演じる新海元の少年期を始め、多くのテレビドラマ・舞台・映画などで子役として活躍。『舞台 ヨルハver1.3a』で共演した田中宏輝・松原凛とともに「秘密の夜会」を結成。インスタライブやイベントを不定期で開催している他、YouTubeチャンネル「ちるサンダー」のメンバーとしても活動中。近年の主な出演作品に、映画『TELL ME〜hideと見た景色〜』KIYOSHI役、ゼロテラ/001『クラド』日ノ出モノザネ役などがある。

土屋シオン(つちや・しおん)
1992年8月7日生まれ、神奈川県出身。10歳の時に『忍風戦隊ハリケンジャー』霞一鍬(幼少期)役としてテレビドラマデビュー。『仮面ライダーフォーゼ』では、JK役として人気を博す。ワタナベエンターテインメントの若手俳優集団D2(のちにD-BOYS)のメンバーとして活躍したのちにフリーに。2021年から@emotionに入団。近年の主な出演舞台に、@emotion presents Minipression CASE5『8∞8』がある。また、TVドラマ初主演を務める『ドゲンジャーズ メトロポリス』が2023年春にKBC九州朝日・TOKYO MX系列にて放送予定。

公演情報

@emotion presents Expression Vol.9 銀
『NEVER EVER NEVER』

日:2023年1月25日(水)~29日(日)
場:六行会ホール
料:S席[最前列]7,000円
  A席[前方席]6,000円
  B席[後方席]5,500円(全席指定・税込)
HP:https://twitter.com/atemotion/
問:@emotion mail:info@emotion.tokyo

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事