―――演劇集団キャラメルボックスが、2022年を締め括る作品として舞台『クロノス』を再々演する。今作はSF作家・梶尾真治の連作短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』シリーズ第1作『吹原和彦の軌跡』を舞台化したものだ。同劇団は“クロノス・シリーズ”と称して梶原作品『あしたあなたあいたい』、『ミス・ダンデライオン』、『きみがいた時間ぼくのいく時間』、『南十字星駅にて』の4作も舞台化。さらには原作のないオリジナル作品『パスファインダー』、『フォーゲット・ミー・ノット』までをも生み出している。代表の成井豊と、原作者の梶尾真治の絆は深い。
成井「梶尾先生の原作小説『クロノス・ジョウンターの伝説』とは、初演の2年ほど前に出会いました。私は大感動してしまって、どうしてもこの作品を舞台化させていただきたいとご連絡させていただきました。その後、偶然なのですが、熊本市で行われた日本劇作家協会の大会にお呼ばれしまして、その際に熊本在住の梶尾先生と初めてお会い出来たんですね。それから長いお付き合いが始まって、うちの家族で熊本旅行に行った際には梶尾先生の車で、梶尾先生のお孫さんも一緒に、阿蘇を一周したこともあります(笑)。もう家族ぐるみのお付き合いです」
―――コロナ禍による活動休止から公演を再開して丁度1年。今この時期に『クロノス』が再演される意味とは。
成井「昨年12月に活動を再開した時には、37年という劇団の長い歴史の中でも前期の代表作である『サンタクロースが歌ってくれた』を上演しました。その時に自分たち自身が自信を持ってお届けできる出来る作品をお客様にお届けしたいと改めて感じました。その後、今年の2月にはキャラメルボックスの役者たちが“アクターズ・プロデュース”と題して、1時間の芝居を2本上演したのですが、その片方がクロノス・シリーズ3作目の『ミス・ダンデライオン』だったんですね。それを観て『あぁ、またクロノス・シリーズをやりたいなぁ』と改めて思ったのもあり……今年の締めは、劇団後期の代表作である『クロノス』がいいと思ってこの作品を選びました」
―――原作の『吹原和彦の軌跡』は物質を過去に飛ばす機械“クロノス・ジョウンター”を開発中の研究員・吹原和彦が、片想いしていた高校時代の同級生・蕗来美子を事故で失い、彼女を救うために自分自身を過去に飛ばすという物語。主人公の吹原を演じるのは再演でも同役を務めた畑中智行だ。
畑中「23年ほど在籍している僕でも、同じ役をもう1度やらせていただけるという機会はとても貴重です。2015年の再演の時は、この役をやり切ったら役者を辞めてもいいかなと思ってしまうくらいの意気込みでした。というのも、僕はキャラメルボックスに憧れて入団したので、そこで主演をやらせていただけるというのは、自分が思い描いていたゴールに辿り着いた感覚だったんですね。充実した時間を与えていただいたなと思います。ただ、結果その後どんどん欲が出て『成井さんの新しい作品に出たいな、新しい役と出会いたいな』と思ってしまって今も在籍しているんですけども(笑)。1つのチェックポイントだった作品です」
―――今作では、再演では津久井役を演じた原田樹里が蕗来美子を演じるなど、畑中以外は初演、再演からのキャスト変更も多くある。
畑中「お芝居としての大事な根幹は変わらないものの、今回は役者がごそっと入れ替わるので、かなり違う印象のお芝居になるのではないかと思います。新しい配役やキャストは、このシーンはこうあるべき、みたいな先入観を崩してくれるので、凄くありがたくて嬉しいんです。成井さんも、僕自身も、それを楽しみにしています」
―――思いのほか、感染症の影響も残り続けた1年にはなったが、2022年を締め括る公演を前に2人は最後まで明るく語った。
畑中「未だ“コロナ禍”ではありますが、徐々に劇場にお客様が帰ってきてくれているのを感じていて、改めて生の演劇っていいなと言っていただけています。初演から数えると7年ぶりの上演で、最近の舞台はプロジェクションマッピングなどを使用した派手な公演も多くなっていますが、僕たちキャラメルボックスは人力ですべてを表現することを1つのポリシーにしていて、それはずっと変わりません。役者の身体から滲み出るエネルギーをお客様に感じ取っていただけるエンターテインメントを作ります。絶対に損はさせませんので、少し劇場から足が遠のいてしまっている方も含めて、ぜひ足を運んでいただきたいなと思います」
成井「だいぶ古い劇団のように思われる方もいるかもしれませんが、再演の度にキャストを一部入れ替えて、常にフレッシュな気持ちで公演をしています。今作では今年入団した新人3人がデビューします。20代前半から50代のベテランまで……私自身も61歳になりましたが、かなり年齢の幅があります。2022年の、最新のキャラメルボックスでしかできない『クロノス』をお見せしますので、ぜひ沢山の方に観ていただけたらと思います」
(取材・文:通崎千穂)
成井豊さん
「私の父は宝くじが好きで、いつも『夢を買ってるんだ』と言っています。が、夢はお金で買うものではないと思うので、私は一度も買ったことがありません。が、もしも年末ジャンボを買って、もしも当たったと仮定したら、成井家の幸せのために使いたいと思います」
畑中智行さん
「半分は親に渡し、残りの半分を使いヨーロッパ旅行へ行きたい! 実はこの歳になるまで海外旅行未経験……。『いつか行こう』と思いつつも、なかなか時間が取れず今日に至ります。ヨーロッパの街並みや文化、芸術に浸ってみたい。それでもまだ大金が残るので……、堅実に貯金ですね(笑)」
プロフィール
成井 豊(なるい・ゆたか)
1961年10月8日生まれ、埼玉県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、高校教師を経て1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立。劇団の脚本・演出を担当。現在は、劇団以外にも外部公演での脚本・演出、テレビドラマの脚本や演劇講師など、多方面で活躍中。
畑中智行(はたなか・ともゆき)
1978年4月13日生まれ、奈良県出身。2000年に演劇集団キャラメルボックスに入団。『光の帝国』、『また逢おうと竜馬は言った』、『夏への扉』、『鍵泥棒のメソッド』、『ゴールデンスランバー』など同劇団の作品に多数出演。クロノス・シリーズでは『南十字星駅で』にも出演している。また、客演としても多くの作品に出演している。
公演情報
演劇集団キャラメルボックス 2022 クリスマスツアー『クロノス』
日:2022年12月21日(水)~25日(日) ※他、神戸公演あり
場:サンシャイン劇場
料:8,000円(全席指定・税込)
HP:https://caramelbox.com/
問:演劇集団キャラメルボックス mail:support@caramelbox.com