戦に敗れ、遠方に流された平家の将・景清の涙の別れを描いた大曲 能と文楽、ふたつの『景清』が宝生能楽堂の舞台に上がる

戦に敗れ、遠方に流された平家の将・景清の涙の別れを描いた大曲 能と文楽、ふたつの『景清』が宝生能楽堂の舞台に上がる

 能と文楽。どちらも我が国を代表する伝統芸能ではあるものの、普段なら同時に上演されることはない。それを同時に、しかも能舞台に上げてしまおうというユニークな試みが実現する。仕掛け人はシテ方宝生流能楽師の辰巳満次郎と、文楽人形遣いの吉田玉男。「異身傳心」と題されたこの大胆な企画がどういった経緯で生まれたのかをまず伺った。

満次郎「吉田玉男さんは能にも造詣が深くいらっしゃいますが、以前の共演をきっかけに親しくなり、お互いにかなり意気投合して何かやろうということになりました。話し合いの結果、能にも文楽にも共通している演目で、文楽を能舞台に上げようとなりました」

 そんな2人による会を炎之會(ほむらのかい)と名付け、記念すべき第一回目に選んだのは『景清』(文楽では『嬢景清八嶋日記』日向嶋の段)だ。

玉男「男同士の燃え立つ意気込みを現して炎之會としました。満次郎さんは体格が大きいですし、私も男性の大きな人形を遣っていますから、色々相談して『景清』を選びました。義太夫節も人形も難曲とされるお芝居なのでなかなか上演されないものですが、丁度今年の4 月に大阪の文楽劇場で上演され、私が景清の人形を遣いましたから、満次郎さんに観て頂きました」

満次郎「文楽劇場では2回拝見しましたが凄く面白くて。能を題材にして作られた文楽ですから、景清が冒頭で独り言を言う部分などは能から来ているのでしょう。拝見しながらこれを能舞台でどうやるかを考えていました。一日で同じ演目を違う表現で上演するのはかなりユニークな試みになるかと思っています」

 さて、能では面(おもて)、文楽では人形の首(かしら)を使うが、この『景清』ではそれぞれ専用の面と首を使うのだという。

満次郎「平家の大将であった景清は、平家が滅亡した後も生きて遠方に流されるのですが、あまりにも強いので、両目をくりぬかれたといいます。だから景清の面は他の盲人の面とは違い、眼球の膨らみがない特別なものを使います」

玉男「首も眼球がなく、まぶたを開けると赤い眼底が見える景清専用のものです。肌も海岸で暮らして潮風にさらされた様子を表現するため、ちりめんを貼ってあるんです」

 その他にも能舞台で文楽を上演するための工夫や仕掛が沢山盛り込まれるというこの公演。面白くなることは間違い無い。ぜひ能楽堂に足を運ばれたい。

(取材・文:渡部晋也 撮影:山本一人(平賀スクエア))

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プロフィール

辰巳満次郎(たつみ・まんじろう)
シテ方宝生流能楽師。兵庫県神戸市生まれ、4歳で初舞台。東京藝術大学音楽学部邦楽科入学と同時に上京し、東京で修行を開始。18世宗家 故・宝生英雄の内弟子となり、1986年に独立。全国で公演や実技指導、普及活動を行う。古典の公演だけでなく、伝統的な手法による違和感のない新作能も数多く手がける。2001年に重要文化財総合指定に認定される。2020年、一般社団法人日本芸術文化戦略機構(JACSO)を設立する。

吉田玉男(よしだ・たまお)
文楽人形遣い。大阪府八尾市生まれ。中学時代に文楽に興味を持ち、中学3年生の時、初代吉田玉男に入門。吉田玉女と名乗り、1969年、大阪・朝日座での『菅原伝授手習鑑』寺子屋の段で初舞台を踏む。2015年に師匠の名跡を襲名して二代目吉田玉男となり、『一谷嫰軍記・熊谷陣屋の段』(熊谷直実役)を演目として襲名披露公演を大阪・東京で挙行した。2020年には紫綬褒章を受章。

公演情報

炎之會 第1回 異身傳心 景清

日:2022年12月20日(火)14:00/18:30 ※開場は開演の30分前
場:宝生能楽堂
料:S指定席11,000円 A指定席9,000円 B指定席7,000円 C自由席5,000円(税込)
HP:https://www.facebook.com/TAMAOxMANJIRO
問:宝生能楽堂 tel.03-3811-4843

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