コロナ禍の今だからこそ観たい 史実に基づいた2.26事件を描く

 「青春事情」の松本悠と、演劇プロデュース「螺旋階段」の緑慎一郎が新ユニット「M²(エムツー)」を立ち上げた。本来ならば2021年1月に旗揚げ公演を上演する予定だったが、コロナ禍で敢なく延期に。この度、リベンジ上演する『そして、死んでくれ』は、陸軍青年将校らが起こした「2.26事件」を真っ向から扱う。
 松本と緑に、新ユニット結成のエピソードと、本作に懸けた思いを聞いた。


―――M²を結成した経緯を教えてください。

松本「出会いは7~8年前。とある現場で、僕が制作、緑が演出部でした。地方の公演で、その移動の新幹線の車内が最初の出会いですかね。
 そのあと、『神奈川かもめ短編演劇祭』(※現・マグカル「短編演劇」フェスティバル)の立ち上げにお互い関わったりして、普通に飲み友達になりました。彼の企画に僕が何度か制作で入ることもありましたが、僕としては企画ごとにツイッターやホームページなどのインフラを整備するのが面倒なので、もう2人で団体を立ち上げようかという話になったわけです。
 お互いそれぞれ劇団は抱えているんですけど、それぞれ劇団の方向性は固まっている。劇団ではできないこともやれる場として、M²を立ち上げました。コロナ禍の前からそんな話をしていたんですけど、ちょうど旗揚げがコロナ禍に重なってしまいました」

―――緑さんが松本さんに声をかけられたのはなぜですか?

緑「僕はずっと小田原に住んでいて、僕が一緒に作品を作っている演劇プロデュース『螺旋階段』のメンバーも、小田原の人たちなんです。真剣にお芝居をしていますが、“プロ”というより、どちらかというと“趣味”でお芝居を楽しんでいる。一方、松本が抱えている「青春事情」は、劇団員がほぼ固定で、客演を呼んでハートフルな芝居を作っている。
 僕がいろいろ外部へ書くお仕事が増えてきたときに、『外部になると、尖った作品を書き出す』と松本に言われ続けて(笑)。僕の芝居もよく観てもらっていたので、松本を信頼していたんです」

―――M²(エムツー)という名称は、松本と緑の頭文字ということですよね?

緑「はい、それでいいと思います」

松本「それしかないですね(笑)。普通にMを足すより、掛け合わせた方がいいかなと思って。また“M”の人が加わることになったら、M³、M⁴になっていきます(笑)」

―――今回の『そして、死んでくれ』は本来ならば今年の1月に上演される予定でしたが、コロナ禍で延期になりました。2.26事件がベースということですが、どんなお話なのでしょうか?

緑「史実に基づいてはいるので、あまり大きく史実を変えてはいないんですけど、松本と僕が感じた2.26事件に、今の思いを乗せて、青年将校たちに語ってもらっている。そんな芝居です。あの当時の思いと、ちょうど僕らが今感じている思いとが重なるものが多い気がして」

―――2.26事件を題材にしようというのはいつ頃から?

松本「2021年1月に公演をすることが決まって、その時点ではどんな話にするか決まってなかったんです。……ちょうど去年の1回目の自粛を体験して、今、演劇にできることはなんだろうと考えたし、何を描けばいいんだと悩んだんですよね。
 僕のやっている「青春事情」はコメディ劇団。今の状況は、地震でいうと、揺れている最中じゃないですか。復興に向かう時だと、僕らみたいな団体は、皆さんの復興に向かう背中を後押しできたりするんですけど、揺れている最中は無力だなと感じて。
 その中で、今、人々に伝えられるような混沌とした時代はなかったのかなと。僕も詳しく調べる前だったんですけど、2.26事件の頃って、もしかしたら今と状況が似ているんじゃないかなと思いついたんです。で、青春事情では、まずやらないテイストなので、『みーくん(※緑のこと)どうよ?』と提案したんですよね。緑は特に取材を重ねて脚本を書くタイプなので」

緑「2.26の概要はなんとなく分かっていたんですけど、いざ言われると、誰も名前を思い出せなかった。そもそも誰が殺されたのかも忘れてしまって。これは相当、調べないといけないなと思いました。ありがたいことに、いろいろと2.26にまつわる本などが残っているので、文献は読込みましたね。今回は青年将校側からの目線で書くんですけど、書き終わった今もですね、正義と悪、一言で片づけけられるものではないんだなと思うんです。
 20代後半~30代前半で、いわばクーデターを起こすわけです。これはなかなかなことですよ。日本の歴史において、数々のヒーロー的存在はいますけど、この青年将校に関しては、きちんとしたヒーロー像が見えない。“青年将校”という名前で括られている珍しい事件なんじゃないかな。本作では、首謀者をピックアップして、彼らの思いが伝わればいいなと思います」

―――青年将校側の独白などで、事件を描くわけですね。

緑「そうですね。時系列を少し変えたりしながら、基本的には事件前日の2月25日から終わりぐらいまでを駆け足で描きます。あの当時のトップは昭和天皇。昭和天皇に対する想いは記録として残っているので、青年将校が昭和天皇のためにいかに動いたかという思いと、一方で、天皇陛下から『逆賊だ』と言われてしまった時の絶望感。そこが一番伝えたいところです。誰のために動いたのかが見えなくなる。そこが一番面白いところじゃないですかね」

松本「僕が緑に最初にお願いしたいのは、教科書をなぞるだけなら、ネットの記事や本を読めば分かるから、そうではなくて、そこで生きた登場人物たちの思いを描いてほしい、と。その思いが、今の時代に生きている人に何かしらつながると思うし、それで何か感じて帰ってもらえればいいなと思ったんですよ。確かに重い話ではあるんですけど、お芝居としては楽しめるようにしますので、安心してください(笑)」

緑「そうですね、見せ物としては、ちゃんとね、面白く、見応えがあるように作っていきたいですね」

―――タイトルが刺激的ですよね。これはどこから?

緑「主人公的な立ち位置にいるのが、河野壽(こうの・ひさし)という将校。2.26事件では、河野の別働隊だけ湯河原に向かうんです。湯河原の光風荘という旅館に、強い影響力を持った牧野伸顕・前内大臣が療養していて、河野は襲撃を試みる。しかし、結果としては失敗してしまうんですね。
 そのときに河野は上官から『お前がやったことは認める』と言われながらも『そして、死んでくれ』と言われる。そして弟たちからも『肉体の過ちは肉体をもって償うべし』と電報が届く。僕はこの史料を読んだ時に、自分は同じ言葉を言えるだろうかと考えてしまって。身内で何か事件を起こした人がいるとして、いろいろあっただろうけど、死んでくれと言えるだろうか、と。
 この言葉にこそ、その時代が集約されているような気がしたんですよね。文字通り読むと、いろいろな人に『死んでくれ』というメッセージに見えるかもしれないんですけど、実際はミスしたその男への向けたメッセージなんです」

―――今後もM²としては史実をベースにした演劇をつくっていかれる予定なのですか?

緑「そうですね。松本が飽きるまでは(笑)。僕が書きたいというと、偏りそうなんで、僕が知らないものを松本に見つけてもらって書く方が面白くなりそうだなと思うんです。僕は、戦国時代とか明治維新とかその辺りが好きなんですけど」

松本「僕もその辺りはやりたいんだけど、ほら衣装とかお金かかるじゃない(笑)。……でも、桜田門外の変とかいいかもね?」

緑「また天誅ものですか?(笑)」

松本「僕が世の中にすごく不満持っているのかもしれないね(笑)」

―――最後に、お客様へのメッセージをお願いします!

松本「みんなに観てほしいですね。タイトルも含めて一見重そうな感じではあるんですけど、難しいことではなく、2.26事件を生きた人たちの思いを僕らなりになんとか描こうとしているので、普通にお芝居として楽しんでいただけると思いますし、観ていただければ、何かきっと心に残ると思います」

緑「そうですね。一度延期になったので、また一からスタートを切る公演になるはずです。今の時代に必ず通ずるものがあるので、今だからこそ観てほしい作品。ぜひ劇場でお待ちしています」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

緑 慎一郎(みどり・しんいちろう)
1979年10月4日生まれ、神奈川県小田原市出身。
プログラマー、不動産屋、広告営業等のサラリーマンを経験。小田原を拠点とする演劇プロデュース「螺旋階段」主宰。全作品の作・演出を担当。近作に、ラゾーナ川崎プラザソル開館13周年記念公演『KEISOU』(2020年)、TAK IN KAAT PINKY『静的コンプレックス』(2019年)など。
2020年に「M²」を立ち上げ、本作が旗揚げ公演となる。
現在、神奈川県演劇連盟副理事長。

松本 悠(まつもと・ゆう)
1981年8月2日生まれ、兵庫県出身。
「青春事情」制作・代表。青春事情全公演のプロデュースの他、フリーの制作としても活動中。MCR・劇団夢幻・HIGHcolors・箱庭円舞曲・Mrs.fictionsなど小劇場の運営業務や、日本劇作家協会・神奈川県などの事業を担当する。
2020年に「M²」を立ち上げ、本作が旗揚げ公演となる。
最近ハマっているものは、薫製づくり。

公演情報

M² vol.1『そして、死んでくれ』

日:2021年10月13日(水)~17日(日)
場:ラゾーナ川崎プラザソル
料:一般3,800円
  学生2,800円 ※要学生証提示
  はなきん割[15日のみ]3,300円
  (全席自由・税込)
HP:https://sites.google.com/view/m2-theater
問:M² tel. 03-3260-1177

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