観る者の背中をポンと押してくれる、35周年を迎えた音楽座ミュージカルの真骨頂! 等身大の人々がどう生きるのか?を感じられる『ラブ・レター』に

 日本のオリジナルミュージカルを発信し続ける音楽座ミュージカル。なかでも浅田次郎の短編を原作に2013年にミュージカル化された『ラブ・レター』は、東日本大震災をきっかけに生み出された“死者が生者を励ます物語”として、目には見えないけれど、大切なものを描き出す音楽座ミュージカルの真骨頂が刻まれた一作だった。その『ラブ・レター』が、初演から約10年の時を経た2022年の今を大きく反映して、7年ぶり3度目の上演を果たし、全国公演を経てさらに進化。11月、東京・草月ホールに戻ってくる。この物語の魅力を主人公のサトシを演じる小林啓也と、歌舞伎町で台湾料理店を営む婆ちゃんを演じる井田安寿に語ってもらった。


―――作品の魅力をどう感じていますか?

小林「とてもドラマチックに描いてはいるんですけれども、僕が演じるサトシを含めて、登場人物がごく普通の、どこにでもいる等身大の人間達なんです。しかも器用に生きている人がいないと言うか、むしろダメな人間ばっかりで、社会的にちょっとヤバイぞという人もいる。それを良い悪いで括るのではなく、一人ひとりがどう生きるのかをストレートに感じられるのが、この作品の魅力だと僕は思っています」

井田「浅田先生の原作をお好きな方、2013年、2015年の音楽座ミュージカルを観てくださった方、“ミュージカル”というものにイメージをお持ちの方、皆さんを良い意味で裏切れる作品です。すでにご覧いただいた方々からも『凄く変わった!』と言われるのですが、それは演じている私達が一番思っていることで」

小林「9割変わったからね(笑)」

井田「ポジティブな意味での裏切りができて、観る方の背中をポンと押してくれる作品だと思います」

―――演じる役柄については?

小林「劇中で流れる時間で、サトシには18歳と47歳の描写があって、47歳になった時のサトシの立ち位置がこれまでとは大きく変わったこともあり、年齢差をどう表現するかに最初は凄く格闘していたんです。でも、僕自身が35歳になって、代表からも『啓也がどう感じるかでいいよ。それさえしっかりしていれば18歳にも47歳にも見えるから』と言ってもらったので、自分を信じてストンと立っていよう、むしろ年齢差を表現しようという役者としての自意識に捉われないでいようと思っています」

井田「私はこれまで、房総半島・千倉にある店のママを演じていて、今回の稽古も同じ役を演じていたのに、急に婆ちゃんに変更になって! さすがに驚きましたが、役が変わることによって、長い付き合いの小林のダメなところ(笑)をサトシに重ねて心配したり、店で働いているナオミの森(彩香)が特別に大好きになった瞬間が重なったり、今までとは全く違う視点でそれぞれの役柄が見えてきたので、これをさらに深めていきたいです。

 何しろ恥ずかしながら台湾料理を食べに行くところから入ったんですよ。1回食べたから何がわかるのかっていう話なんだけど(笑)。ただやっぱりこの料理で息子を育ててきて、誇りを持っているのに、息子にだけは強く言えないんだなと。他人のサトシや吾郎にはズバッと言えることが、親子だからこそ言えない。そこには凄く共感しました。自分の親との関係性を考えても本当にそうなんですよね。『近ければ近いほど難しいものだ』という台詞があるんですけど、凄く感じるものがあるので大切にしたいです。でもまた変わるよね(笑)」

小林「もうすでに変わっているところもあるから!(笑)」

―――そういう、試行錯誤を重ねていく“オリジナルミュージカル”に取り組まれていてどうですか?

小林「正直変化させていくことって大変です。急に役が変わったという話も出ましたけれど、本当にびっくりすることもたくさんあるんです。でもそれはやっぱりひとつのカンパニーだからできることかなとも思っていて。しかも音楽座ミュージカルって、例えば代表に僕から『これってどうなんですか?』という話を皆がいる前でちゃんとするんです。で、『じゃあ、それでやってみようか』と実際やってみて、また議論する。『全然違う、やっぱりおかしいね』みたいなことも率直に言える場があるから、前向きに変化させることができるんだと思います。

 もちろん僕らがやりたいようにやるということではないし、ここは絶対に残しておかないといけない、一番大事なことだからというのは踏まえながら、その大事なことをより伝えるためにどうすればいいかを考えていく。今回のラストシーンでもサトシがスカジャンを持ってハケるのか、着てハケるのか等々の演出も、あそこだけで10パターン近くやって、音楽をつけようってなったのが劇場に入ってだったんです」

井田「草月ホールに入ってからよね。神戸公演から東京公演の間にそこは変えていったので、音楽は劇場に入ってから作曲の高田浩が作りました」

―――そんなにギリギリまで練り直すんですね!

小林「リハーサルをやった後で、どうしようかと迷ったんですけど、でももちろんそこに至る気持ちについては物凄く話し合いましたが、結局やってみたら自分でもあのかたちが腑に落ちたので」

井田「面白いよね。とは言え私は、こうやって変えていくことに最初はかなり拒絶反応を示した人間でした。決められたことを何度もやっていくことで上達していく、その積み重ねの成果に美学を感じていたので。でも発明家の方がおっしゃる『99回の失敗がひとつの成功を生む』という言葉の意味、あらゆる実験を重ねて、それが良いか悪いかを理解することでまた次のやり方も見つかる。そういうスタンスなんだなと思った時に、やっとこの作り方を受け入れられました。

 それでも自分の役のことだと変えることに抵抗があったりするんですが、今の小林のシーンなどを客観的に観ていると『絶対、今の方が良い』と思える。照らし合わせて作り変えることが、より良い変化を生むことを見てきているし、信じてもいますね。だから11月までにまた変わりますし、ご覧いただけたらきっと『なるほど』と感じてもらえると思っています」

―――この機会にお互いの魅力をどう感じているかを教えてくださいますか?

小林「えっ!? それはちょっと、面と向かっては(爆笑)」

井田「音楽座ミュージカルは、お互いを褒めることってほとんどないから!(笑)」

―――でしたら、なおのこと是非!

井田「先に言っていい? まとまってないけど」

小林「アイマスクとヘッドホン持ってきてください!」

井田「小林は凄く優しくて、凄くダメな人です(笑)。記事にしていただくとちょっと問題だろうというくらいダメなところがあるんですけど(笑)。それを凌駕するほどベースが優しい人だなというのを感じています。恥ずかしがり屋なんで優しいそぶりは全く出さないんですよ。小学生男子みたいな感じと言うと伝わるかな?と(笑)。

 そういう拗ねているところも含めて、サトシ役に繋がる可愛さもあります。あとは物凄く料理が上手くて、今はコロナで、皆で会食もできませんが、ローストビーフなどもちゃっちゃと作ってくれて、片付けもちゃんとやるのが凄いなと思います。本格的な料理を作るセンスのある人です」

小林「料理は趣味です。必要に駆られての趣味というか、人間食べないと生きていけないから」

井田「食べることが好きだから、美味しいものを食べると自分でも再現したくなるのよね?」

小林「お酒も飲めないので、楽しんで食べたいなって……まとまってないって言いながら、結構まとまっているのがズルいですよね」

井田「そう? やった!」

小林「安寿さんの魅力は……」

井田「いいよ、ないって言って(笑)」

小林「そんなこと言ってないじゃないですか!(笑)安寿さんは凄く気が付く人です。カンパニーの中でもとても気が付く人なので、あまり周りには見せないですが、割と傷ついていたりもしますから『僕は分かってるよ』って思いながらいつも見てます。

 でも、何しろ僕は安寿さんにはお世話になり過ぎていて……さっきダメなところがいっぱいあるって言っていましたけれど、僕、本当にヤバい時があって。このあと俳優として、それ以前に人としてどうやっていこうかに自分自身がとても悩んで、人にもずいぶん迷惑を掛けた時期があったんです。その時、やっぱり皆、僕をどう扱っていいかという状態だったと思いますし、どんどん周りの人が遠巻きになっていくのを感じていたんですが、そこで『啓也!』ってちゃんと言ってくれたのが安寿さんで。それがなければ僕自身、今ここにいられなかったなと凄く思うので、僕をちゃんと見てくれた人です」

井田「少しお話しすると、仕事なのに全く時間を守れない、凄い遅刻をしたりしていたんです。全然連絡もつかなくて。社会人として時間を守るなんて基本の“き”ですから、あっという間にクビになってしまっても不思議ではなかったと思うんですけど、彼の可能性を信じ続ける場があったから、私も真剣に言いましたし、今では全くそんなことはなくなりました」

小林「本当にすみませんでした!」

井田「いいえ!(笑) すみません、褒めてくださいって言われたのに、お恥ずかしい話で!」

―――いえいえ、お二方はもちろん、音楽座ミュージカルのカンパニーの結束力の一端をお伺いできた気がします。では改めて、そうした団結から生まれる『ラブ・レター』の11月公演を楽しみにされている方たちに、メッセージをいただけますか?

井田「音楽座ミュージカルは35周年を迎えていて、カンフェティを読んでくださっている方の中には『音楽座ミュージカル』という名前を聞いたことはある、と言ってくださる方は多いのではないかと思います。でも実際に舞台を観たことはないという方もきっとたくさんいらっしゃると思うので、そうした方々に足を運んでいただきたいです。

 今、この2022年の日本で生きている時に、心地よく背中を押してくれるような感覚になる作品じゃないかなと思いますので、是非『ラブ・レター』を観ていただきたいと思います」

小林「音楽座ミュージカルはこうやって常に変わり続け、進化し続けて35周年を迎えていて、ここからがまた新たなはじまり、新生音楽座ミュージカルのリスタートでもある公演なので、是非多くの方にご覧いただけたら嬉しいです!」

(取材・文:橘 涼香 撮影:間野真由美)

食欲の秋! オススメの秋の味覚はなんですか?

小林啓也さん
「まいたけの天ぷら。秋のまいたけは香りも味も最高。それを一番美味しく食べられるのが天ぷら。天ぷらにすることでいわゆる半レア状態になる。たまらないですね。あと、包丁で切るよりも手でさいた方が香りがでるんです。自宅で天ぷらをする時はまいたけは多めに作って好きなだけ食べています」

井田安寿さん
「柿が出てくると、秋を感じます。普通に固いままでも美味しいし、冷蔵庫にしまっておいてトロトロのゼリー状になった柿をスプーンで食べるのも最高。それから最近知った干し柿の食べ方で、“柿バター”というのがあるので、今年はそれも楽しみたいと思っています」

プロフィール

小林啓也(こばやし・けいや)
東京都出身。劇団青年座研究所卒業。2009年から音楽座ミュージカルに参加し、翌年入団。主な出演作に『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』、『とってもゴースト』、『メトロに乗って』、『リトルプリンス』、『SUNDAY(サンデイ)』、『7dolls』など。

井田安寿(いだ・あんじゅ)
神奈川県出身。関東国際高等学校演劇科卒業後、劇団四季を経て2006年入団。主な出演作に『メトロに乗って』、『泣かないで』、『リトルプリンス』、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』、『SUNDAY(サンデイ)』など。

公演情報

音楽座ミュージカル『ラブ・レター』

日:2022年11月3日(木・祝)~6日(日) 
場:草月ホール
料:SP席12,100円 SS席11,000円 A席8,800円(全席指定・税込)
HP:http://www.ongakuza-musical.com/
問:音楽座ミュージカル事務局 tel.0120-503-404(月~土12:00~18:00/日祝休)

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